旧姓
旧姓(きゅうせい)とは、結婚や養子縁組などにより、所属する家族が変更する以前の姓(氏)を指す。
概要
日本の民法では、夫か妻のいずれかの姓に統一しなければならないとされる。
ほとんどの女性は、結婚により姓が変わることになるが、同窓会など、姓が変更される以前からの知り合いからは、旧姓による呼称を続けられる場合が多い。女性芸能人などは結婚を機に戸籍上は夫の姓に変えても旧姓のままで活動している者も多い。また、研究者、弁護士、ジャーナリスト等、氏名の一貫性が強く求められる職業をはじめとして、働く女性の多くが旧姓を利用している。そのため、旧姓の通称利用拡大や、選択的夫婦別姓制度を望む声が強くなってきている。
未成年者の親が離婚等して子供が片親の籍に入る場合、それまでの姓は旧姓となる。かつては婚姻関係を終了した場合は旧姓に戻らなければならなかったが、1976年6月に民法が改正され、配偶者側の姓のままでいることが可能となった。
未成年者の母親が再婚した場合、多くが義父の姓を名乗ることになり、それまでの姓は旧姓となる。
養子縁組の場合、養子が養親の姓に改める決まりとなっているので、養子にとって縁組前の姓は旧姓となる。
戸籍の筆頭者が姓を変更する際において成年の子が同一戸籍の姓を変更したくない場合は分籍届を提出すれば、元の姓のままでいることが可能となる。
成人の姓の変更は、自分の意思でなされるのに対し、未成年者の姓の変更は自分の意思でなされないこと、言い換えれば親の都合でなされることには注意しなければならない。
旧姓の通称利用とその問題点
結婚時などでの氏名変更後も、仕事上の理由や、アイデンティティの喪失の回避などを目的として、旧姓を通称として用いる場合がある。しかしながら、その場合、様々な問題点が指摘されている[1][2][3]。たとえば、職場・職業によっては戸籍姓しか認められない[1][4][5][6][7]。国家資格が必要な職業でも、医師など約半数の資格では旧姓使用が認められない[8]。2015年の時点で、民間での旧姓通称利用を認めている企業は65%にとどまる[4][8]。また、 運転免許証、印鑑登録証、健康保険証、パスポート、銀行口座などは旧姓では作ることができない[1][注 1]。さらには、 クレジットカードやパスポートと旧姓の不一致のために、海外のホテルなどの予約ができないことなどもある[2]。また、役員登記もできない。2015年より役員登記で旧姓併記が可能となったが、併記は中途半端で、より一層不便である[10][11][12]。特許申請は旧姓ではできない[13]。公証役場でのサインは旧姓は認められない[14]。
また、旧姓の通称利用に関しては、そもそも二重の姓を持ち、使い分けるのは不便である、との指摘もある[15][16]。他にも、姓が2つある生活はアイデンティティが2つに分裂するような感覚がある[16]、といった意見も見られる。
さらに、通称の利用は二つの名前の管理が必要であり企業の負担が大きくなる[17][18][8][19]、戸籍上の姓と職場での姓が違うために混乱が生じる[20]、などの指摘もある。
また、これらの通称利用の不便を解消する方法として、戸籍に通称を記載し、免許証やパスポート等にも通称を使用できるようにする徹底した通称使用制度も観念上は考えられなくはないが、選択的夫婦別姓による解決が合理的[1]、といった議論がある。
その他、通称の利用によって夫婦同姓を規定する民法による不利益が緩和される、といった意見があるが、そのようなことはない[21][22][23]。旧姓を通称利用したとしても、法律上ではなく通称というものは本人にとって嬉しいものではない[24]、といった議論・指摘がある。
これらの問題点から、選択的夫婦別姓制度を求める声もある[1]。
注釈
参考文献
- ^ a b c d e 「選択的夫婦別姓・婚外子の相続分差別 Q&A」日本弁護士連合会
- ^ a b c 「結婚後も「旧姓」 海外では意外な不便も?」、AERA、2015年10月22日
- ^ 「どうなる 選択的夫婦別姓」(上)」、読売新聞、2008年3月21日
- ^ a b 「(教えて!結婚と法律:2)旧姓使用や事実婚、困ることは?」、朝日新聞、2015年11月26日。
- ^ 「夫婦が別々の姓を名乗っても、家族の一体感は損なわれない【選択的夫婦別姓訴訟、判決直前!ミニ講座①】」、messy、2015年12月7日
- ^ 「『通称使用に限界』 夫婦別姓の弁護士・中村多美子さん=大分市」、大分大同新聞、2015年12月17日朝刊、19ページ。
- ^ 松田澄子、「夫婦別姓論をめぐって 」、山形県立米沢女子短期大学紀要 28, 1-8, 1993-12-28
- ^ a b c 「<社説を読み解く>夫婦の姓」、毎日新聞、2016年1月6日。
- ^ 「パスポートに旧姓の記載可能だった それはどんな場合に許されるのか」、J-CAST、2015年11月5日
- ^ 「役員登記は妻の姓の『西端』、青野・サイボウズ社長 旧姓・新姓 規則改正で併記可能に」、日本経済新聞、2015年3月7日
- ^ 「家族と法(上)自分の名前で生きる道 夫婦別姓、事実婚広がる」、日本経済新聞、2015年12月10日朝刊。
- ^ 「結婚したら名前が変わるなんてヤダー! ― 小1生の本音を最高裁はどう聞く」、BLOGOS、2015年12月21日。
- ^ 「出願等の手続きの方式審査に関するQ & A」、特許庁
- ^ 「夫婦別姓訴訟 不合理是正を速やかに 」、信濃毎日新聞、2015年11月6日。
- ^ 「夫婦別姓 最高裁認めず=野口由紀(京都支局)」、毎日新聞、2015年12月29日。
- ^ a b 「同姓じゃないと家族じゃない?」AERA、2016年2月8日号、pp. 17-19。
- ^ 「アベノミクス政策がめざす社会に必要とされる選択的男女別姓制度」、BLOGOS、2015年12月17日。
- ^ 「通称使用、企業の理解に限界」、毎日新聞、2016年1月23日。
- ^ 「『二つの名前』への対応で管理部門の負担増」、日本の人事部、2016年2月15日。
- ^ 「『再婚』『別姓』最高裁判決 現実とのずれ解消急げ」、中国新聞、2015年12月17日。
- ^ 「その人らしさ、だれにも」、東京新聞、2015年12月21日。
- ^ 「『夫婦同姓強制は合憲』判決はなぜ『鈍感』か?」、HUFF POST SOCIETY、2015年12月24日。、
- ^ 「夫婦別姓 国会議論を」、しんぶん赤旗、2016年1月18日。
- ^ 「社会的規制と個人の自由」、日本経済新聞、2015年8月21日