式神

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『不動利益縁起絵巻』(部分)
本作は園城寺(三井寺)の縁起の一つである『不動利益縁起』を著した絵巻物祭壇を構えて2匹の式神(右下)を従えた陰陽師・安倍晴明(右中央)が、姿を現した物の怪ども(左上)と対峙しつつ病身身代わりの祈祷を行っている場面(物語の中盤)[1]である。14世紀南北朝時代)の作。東京国立博物館所蔵[2]
『泣不動縁起絵巻』(部分)
『不動利益縁起』と同じ内容である『泣不動縁起(なきふどうえんぎ)』の絵巻物。式神たちは右端に描かれている。室町時代の作。清浄華院所蔵[3]

式神 / 識神(しきがみ、しきじん)とは、陰陽師が使役する鬼神のことで、人心から起こる悪行善行を見定める役を務めるもの。式の神 / 識の神(しきのかみ)ともいい、文献によっては、式鬼(しき)、式鬼神ともいう。

概要

「式」とは「用いる」の意味であり、使役することをあらわす。

鬼神

  1. 荒ぶる神、または、妖怪変化のこと。
  2. 神霊のこと。
  3. 仏教用語としての、様々な不思議な現象を起こすとされる超人的存在のこと。

陰陽道

陰陽道神道古神道)に道教陰陽五行思想や、密教などの思想が執り入れられて習合したものであり、現在の神社神道にもその系譜としての思想や儀式が引き継がれている。神主巫女は、神降ろしによってを呼び出し憑依させることを「神楽」や「祈祷」というが、これは和御魂の神霊であり、式神は鬼神となっていることから、和御魂の神霊だけではなく、荒御魂の神霊、いわゆる「荒ぶる神」や「妖怪変化」の類であるの低い神を呼び出し、使役したと考えられる。また、善悪を監視するということは、人の霊魂)の和御魂と荒御魂の状態の変化でもあり、このことも式神という、2つの状態のどちらかの神霊を、使役したことと係わっていると思われる。

四国高知県に伝わる陰陽道の一派であるいざなぎ流では、式王子(しきおうじ)と呼ばれる。式王子という呼び名は明治頃から使われはじめ、それ以前はいざなぎ流でも職神と称していたことが文献から明らかになっている。

陰陽道の大家として知られる陰陽師安倍晴明が使役したという式神十二神将十二天将)がある。

陰陽師もしくはそれを下地にした物語の式神は、平時には式札(しきふだ)と呼ばれる和紙札の状態にあるものが、陰陽師の術法によって使用されるとき、使役意図に適った能力を具える鳥獣や異形の者へと自在に変身する、そのような存在として描かれることが多い。12世紀末(平安時代末期- 鎌倉時代初頭)頃を舞台とした[4]園城寺(三井寺)縁起である『不動利益縁起(ふどうりやくえんぎ)』に見られる式神は、室町時代から江戸時代にまでの、擬人化されたの器物(道具)の妖怪と同じものであり、これは荒ぶる神としての式神をあらわしている。

丑の刻参り

葛飾北斎の『北斎漫画』より、「丑の刻参り」の描き方を示した一図
神社の森にて丑の刻参りを行う女(中央)と、応えて姿を現した牛様の妖怪(中央)が描かれている。取り巻き(左右)は土着の天狗たち。1814年文化11年)刊行。

平安時代から続く「丑の刻参り」という呪詛は、神木神体)に五寸釘を打ち付け、自身が鬼となって恨む相手に復讐するというものである。の刻(午前1時から午前3時頃)に神木に釘を打って結界を破り、常夜(夜だけの神の国)から、禍をもたらす神(魔や妖怪)を呼び出し、神懸りとなって恨む相手を祟ると考えられていた。丑の刻参りもこのように、妖怪を呼び出し、祟るために使役する点においては同じといえる。

脚注・出典

  1. ^ ここには描かれていないが、師・智興の臨終に際してその病難を我が身で肩代わりすることになる園城寺の証空が物語の主人公である。その後、病難は不動明王が引き受け、証空は救済される。
  2. ^ 不動利益縁起絵巻”. e国宝(公式ウェブサイト). 独立行政法人 国立文化財機構[1]. 2011年12月16日閲覧。
  3. ^ 泣不動縁起”. (公式ウェブサイト). 清浄華院. 2011年12月16日閲覧。
  4. ^ 安倍晴明(921- 1005年)が登場するには時期が合わないが、物語である。

関連項目