山口連続殺人放火事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。JR East E231 (会話 | 投稿記録) による 2015年12月2日 (水) 14:14個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (文脈訂正)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

山口連続殺人放火事件
事件のあった山口県周南市
場所 日本の旗 日本山口県周南市金峰
日付 2013年7月21日 (2013-07-21)日曜日
21時00分頃 (UTC+9)
標的 民間人
攻撃手段 放火鈍器で殴る
武器 鈍器・火
死亡者 5人
犯人 63歳男性(当時)
動機 近隣住民との対立
テンプレートを表示

山口連続殺人放火事件(やまぐちれんぞくさつじんほうかじけん)とは、2013年7月21日に山口県周南市金峰(みたけ。旧鹿野町)で発生した、近隣に住む71歳から80歳までの高齢者5人が殺害された連続殺人放火事件

概要

2013年7月21日午後9時ごろ、山口県周南市金峰郷(ごう)地区[1]の住民から「近所の家が燃えている」と周南市消防本部に通報があった。約50メートル離れた農業の女性A(当時79歳)宅と無職男性A(当時71歳)宅の2軒が燃えており、消火活動にあたったが、2軒とも全焼した。女性宅から1人、無職男性宅から2人の遺体が見つかり、それぞれ住民の女性Aと男性A、その妻である女性B(当時72歳)と確認された。

捜査

周南警察署が放火の可能性もあるとみて捜査を開始したところ、[2]翌7月22日日中、近隣住民の男性が1人の遺体を発見した。さらに捜査員が別の住宅で1人の遺体を発見した。遺体はそれぞれいずれも外傷があり、遺体が発見された住宅に住む女性C(当時73歳)と男性B(当時80歳)だった。被害者は5人とも鈍器のようなもので殴打されたことによる頭蓋骨骨折や脳挫傷が死因だった[3]山口県警察は連続殺人放火事件と断定し、周南警察署内に捜査本部を設置した[4]

2人のうち女性Cは、火災発生直後から翌日午前1時過ぎまで近くの住民の家に避難し、県警も火災の約2時間後に本人の無事を確認していたことから、犯人は3人を殺害し放火した後も約5時間にわたり付近に潜伏したあと、2人の住宅に侵入して殺害した可能性があることが分かった[5]

焼失した女性A宅の隣家には、「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」と白い紙に毛筆のようなもので川柳が記された張り紙[6]があり、県警は7月22日午後、殺人と非現住建造物等放火の疑いでこの家を家宅捜索するとともに、姿を消した住民の男(当時63歳)を重要参考人として行方を捜索した。また事態の悪化を防ぐために、近隣住民5世帯9人に対して翌日朝まで現場近くの郷公民館に避難するよう呼びかけた[7]

その後、7月25日には事件現場付近の山中で、容疑者の携帯電話や衣類などが見つかり、翌7月26日朝から170人体勢で捜索を行った[4]

逮捕

火災発生から6日目の7月26日午前9時ごろ、男が郷公民館から約1キロ離れた山道に、下着姿・裸足で座っているのを捜索中の県警機動隊員が見つけ、氏名を確認したところ本人と認めたため、任意同行を求め周南警察署で事情聴取を行ったあと、殺人・非現住建造物等放火の容疑で逮捕した[8][9]。男は5人の殺害を認め、県警は翌7月27日午前、身柄を山口地方検察庁に送った[10]。担当弁護人は、山口県弁護士会所属の国選弁護人、山田貴之と沖本浩が当たっている[11]

裁判

2015年、山口地裁で行われた裁判員裁判において、男は供述を一転させて「4人の足と腰は殴ったが頭は殴っておらず、火もつけていない」と殺人・放火を否認して無罪を主張し、一方の検察側は「社会を震撼させた重大かつ凶悪な事件」として死刑を求刑した。検察は男が妄想性パーソナリティ障害であることを認めたものの責任能力はあったとし、弁護側は心神喪失もしくは心神耗弱の状態であると主張していた。7月28日、裁判長の大寄淳は「被告の罪責は重大。極刑は免れることは出来ない。」として求刑通りの死刑判決を言い渡した[12][13]。 7月28日、弁護側は判決を不服として広島高裁へ即日控訴した。

背景

介護による帰郷
郷地区出身である男は、農林業を営む両親の次男として産まれ[14]、中学卒業後上京し土建業に従事、30代のころからタイル職人として神奈川県川崎市で暮らしていたが[15]、「自分の生まれたところで死にたい」と1994年に44歳で帰郷し、実家で両親の介護にあたった[16]。川崎在住時は左官として働いており、帰郷した際には左官の技術を生かして自宅を建築し、地元のテレビ番組や新聞にも取り上げられるなどし[17][16]、近隣の家の修繕などもしていたが、本人の難しい性格も災いして、両親と死別した後、地区住民とのトラブルが相次ぐようになった[17][11]
地区住民との対立
40代の頃、男は地区の「村おこし」を提案したが、地区住民はそれに反対し、あつれきを深めた[17]回覧板を受け取ることもなく、自治会活動にもほとんど参加していなかった[4]。また自宅にマネキン人形や実際は作動しない監視カメラを設置したこともあった[14]。また男は2011年1月ごろ、「集落の中で孤立している」「近所の人に悪口を言われ、困っている」として、周南署に相談していたことがわかった[4]。近隣住民は男がそこまで追い詰められているとは思っていなかったという[11]。精神安定剤の服用を始め、薬を飲んでいるから人を殺しても罪にならないなどの発言もしていたという。
農薬散布のトラブル
男は農薬の散布を巡っても、近所の住民とトラブルを引き起こしていた[18]。家の裏で、勝手に農薬や除草剤をまいたという。被害に遭った73歳女性の夫は周囲に不安を漏らしていた[19]
草刈り作業のトラブル
男は地区のあぜの草刈り作業にあたって、地域で一番若いという理由から、機械や燃料の費用などをすべて1人で負担させられた上に、地区住民が男の機械を草と一緒に燃やし、さらに機械を焼失させたことについての謝罪もないなどの仕打ちを受けていると、知人に漏らしていた[20]。その話によると、男の抗議に対して、燃やした住民は「あれ? あんたのもんだったの?」と笑っていたという。
飼い犬をめぐるトラブル
男が飼い始めた犬(ラブラドール2匹[21])に対し、地区住民が「臭い」と苦情を言ってトラブルになり[17]、住民に「血を見るぞ」「殺してやる」と大声を上げたこともあったという。
本件加害者が過去に被害者から刺された事件など
2件の傷害事件と1件の火災が過去に発生している。1件の傷害事件については、今回の事件の被害者が男に危害を加えている。
この事件は2003年頃に発生。酒の席での口論がきっかけで、男が今回の事件の被害者から刺された。加害者(殺人放火事件の被害者)は傷害容疑で逮捕され、罰金刑を受けた。事件以降、2人は険悪な関係になったという[22]
もう1件の傷害事件は時期が不明だが、男が物を投げられて怪我を負っている。刑事事件にはなっていない[23]
火災は2003年6月9日に発生。女性C(今回の事件の被害者)の家の倉庫に積まれていた薪が燃えてぼやが起こった。今回の事件との因果関係は不明[24]

その他

  • 山口県出身の作家、城繁幸は「濃密な人間関係の中にいやでも引きずり出されたものと思われる。ひょっとすると、そういう関係で何らかのトラブルがあったのかもしれない」「無縁社会のリスクが孤独死だとすれば、“有縁社会”のリスクはこうした人間関係のトラブルと言える」と語っている[25]
  • また7月24日には周辺住民の心のケアと健康管理のため現地に保健師が派遣された[4]
  • 事件当時、金峰の郷地区は8世帯12人が住む限界集落だった[11]
  • 「つけびして」の川柳の貼り紙について、「〝つけびして〟は、集落内で自分の悪い噂を流すこと。〝田舎者〟は集落の人を指す。(紙を貼りだしたのは)周囲の人たちの反応を知りたかった。自分の中に抱え込んだ気持ちを知ってほしかった」と弁護士に語ったという[11]

出典

記事名タイトルに男の名前が使われている場合、この部分は省略。

  1. ^ 周南市内から北東約15キロの集落。事件前の人口は8世帯14人(2013年6月末現在)だった。
  2. ^ 民家2軒全焼、3人の遺体見つかる 山口県周南市 朝日新聞デジタル 2013年7月21日時点でのアーカイブ。 2013年7月22日
  3. ^ 【山口連続殺人】「悪口言われ孤立」 不明男、警察に2年前相談 MSN産経ニュース 2013年7月24日
  4. ^ a b c d e 中国新聞 1面
  5. ^ 「放火して潜伏、その後2人殺害か…山口連続殺人」 読売新聞 2013年7月23日[リンク切れ]
  6. ^ 事件の数年前から張られていたとされる(【山口連続殺人】「悪口言われ孤立」 不明男、警察に2年前相談 MSN産経ニュース 2013年7月24日)。張り紙には名前のような文字列が詠み人として記されていたが、男の氏名とは異なる。取調べに対して「相田みつををひねったもので、特に意味はない」と自供しているという
  7. ^ 山中に範囲広げ捜索 住民は施設で一夜 山口5人殺害 朝日新聞 2013年7月23日[リンク切れ]
  8. ^ 発生6日目で急転、容疑者逮捕 山口5人殺害事件 朝日新聞 2013年7月26日時点でのアーカイブ。 2013年7月26日
  9. ^ 周南・金峰 近所の63歳男逮捕 5人殺害認める 山口新聞 2013年7月27日
  10. ^ 容疑者を送検 MSN産経ニュース 2013年7月27日[リンク切れ]
  11. ^ a b c d e 特別ルポ 「連続放火殺人」の集落で見たものは…山口・八つ墓村あれから起きたこと週刊現代、 2013年09月02日
  12. ^ 周南5人殺害:被告に死刑判決 山口地裁 毎日新聞 2015年7月28日
  13. ^ 被告に死刑判決 山口・周南の5人殺害 朝日新聞 2015年7月28日
  14. ^ a b 日本経済新聞 2013年7月27日 39面
  15. ^ 山口5人殺人男 山男のような印象と神奈川時代の近隣住民談Newsポストセブン、2013.07.30
  16. ^ a b 「続・さくら色の夢(5) 離れても思い深く 去る人、戻る人…里心」 読売新聞 西部本社版朝刊、2003年4月19日付
  17. ^ a b c d 「両親死後に孤立と摩擦深める…山口周南市連続殺人放火事件」 スポーツ報知 2013年7月27日時点でのアーカイブ。 2013年7月27日付。
  18. ^ 2013年7月28日 中国新聞 29面「集落の調整役 姿消す」
  19. ^ 日本経済新聞 2013年7月28日 35面
  20. ^ 「周南市金峰連続殺人事件」 KRY山口放送『スクープアップやまぐち』 2013年7月25日放送。KRYの公式サイトにも公開されていたが、2013年7月29日現在は削除されている。
  21. ^ 山口殺人容疑者 町興し企画したが「生意気だ」陰口叩かれたNewsポストセブン、2013.07.31
  22. ^ 重要参考人、被害者に10年前刺される 山口5人殺害 朝日新聞 2013年7月25日時点でのアーカイブ。 2013年7月25日
  23. ^ 山口連続放火殺人事件まとめ(周南市金峰地区) 少年院.com 2013年7月29日
  24. ^ 日本経済新聞 2013年7月25日 39面
  25. ^ 周南市連続殺人事件の背景について出身者はこう見る J-CASTニュース 2013年7月24日

関連項目

外部リンク

座標: 北緯34度11分15.0秒 東経131度52分4.0秒 / 北緯34.187500度 東経131.867778度 / 34.187500; 131.867778