合法化された中絶が犯罪に及ぼす影響
この項目「合法化された中絶が犯罪に及ぼす影響」は翻訳されたばかりのものです。不自然あるいは曖昧な表現などが含まれる可能性があり、このままでは読みづらいかもしれません。(原文:en:Legalized abortion and crime effect) 修正、加筆に協力し、現在の表現をより自然な表現にして下さる方を求めています。ノートページや履歴も参照してください。(2021年8月) |
合法化された中絶が犯罪に及ぼす影響(ごうほうかされたちゅうぜつがはんざいにおよぼすえいきょう、Effect of legalized abortion on crime)ないし ドナヒュー・レヴィット仮説 (Donohue–Levitt hypothesis)は、人工妊娠中絶(以下、中絶)合法化後数十年間における犯罪減少についての仮説で、議論になっている。仮説の支持者は、中絶が合法化されると犯罪高リスク層の子供が減少すると主張している。そのような効果を示唆する研究は1966年のスウェーデンにおけるものが最初である。2001年にシカゴ大学のスティーヴン・レヴィットとイェール大学のジョン・ドナヒューは、独自に調査し、初期の研究を引用して、中絶出来ずに生まれた望まれざる子供あるいは両親がサポートできない子供は犯罪者になる可能性が平均より高いと主張した。この主張は、レヴィットと作家兼ジャーナリストのスティーヴン・ダブナーとの共著で人気を呼んだ『ヤバい経済学 悪ガキ教授が世の裏側を探検する』所収「第4章 犯罪者はみんなどこへ消えた?」[1]によって広く知られる所となった。
一方、批判者らは、ドナヒューとレヴィットの研究方法に欠陥があり、中絶とその後の犯罪率との間に統計的に有意な関係を証明することはできないと主張している。いくつかの批判はドナヒューとレヴィットの研究の前提となる仮定を問題にしている。すなわち1973年の合衆国最高裁判所の訴訟「ロー対ウェイド事件」がアメリカ合衆国の多くの制限を撤廃して以来、中絶率が大幅に増加したというドナヒューとレヴィットの主張に対して、批判者らは国勢調査データを使用して、全体的な中絶率の変化が、ドナヒューとレヴィットによって主張された犯罪の減少を説明し得ないことを示している。以前は多くの州で、限られた状況下で合法的な中絶が許可されていたのである。一部の批判者らは、ドナヒューとレヴィットによって主張された出生と犯罪との間の相関関係は、薬物使用の減少や人口統計と人口密度の変化、または他の現代の文化的変容など、犯罪率の増減に関係する諸要因を適切に説明していないと述べている。
1972年のロックフェラー委員会 12.16
1972年のロックフェラー「人口とアメリカの未来」(Population and the American Future) 委員会は、合法的な中絶が出来ないため出産した女性の子は、望まれて生まれたであろう子供たちと比較して「より頻繁に精神科サービスを利用し、より反社会的・犯罪的な行動に及び、より公的支援に依存していると判明している」ことを見いだした1966年の研究を引証している[2]。その研究は、スウェーデンのヨーテボリの病院で1939年から1941年に中絶を拒否された188人の女性の子供らを対象にしたもので、同病院で同時期に生まれた望まれざる子供たちと望まれて生まれたであろう子供たちを比較した。望まれざる子供たちは、両親が離婚したり、里親に育てられたりするような環境で成長する蓋然性が高かった上に、非行少年少女になり、犯罪にかかわる蓋然性が高かった[3]。
2001年のドナヒューとレヴィットの研究
シカゴ大学のスティーブン・レヴィットとイェール大学のジョン・ドナヒューは、2001年の論文「合法的妊娠中絶が犯罪に与える影響」(The Impact of Legalized Abortion on Crime) で、ロックフェラー委員会が引証した上記の主張の議論を復活させた[4]。ドナヒューとレヴィットは、平均と比較して18歳から24歳の男性の犯罪率が最も高いという事実を指摘している。データは、アメリカ合衆国における犯罪が1992年に減少し始めたことを示している。ドナヒューとレヴィットは、1973年の妊娠中絶合法化で中絶拒否による望まれざる出産がなくなったことが、その生まれた子供たちが18歳になる1992年から1995年にかけての犯罪の急減につながったと示唆している。[5][6]。
ドナヒューとレヴィットによると、妊娠中絶が合法化された諸州は中絶の合法化以降犯罪件数がより早く減る傾向がある。ドナヒューとレヴィットの研究はこれが実際に起こったことを示している。すなわち1973年の合衆国最高裁判所における「ロー対ウェイド事件」訴訟以前に中絶を合法化していたアラスカやカリフォルニア、ハワイ、ニューヨーク、オレゴン、ワシントンでは中絶の合法化以降に犯罪件数の急減を経験し、中絶率の高い州と低い州を平均所得のような要因を補正して比較すると、中絶率の高い州の方では犯罪件数が大幅に減少している[7]。また、カナダとオーストラリアでの研究は[要説明]、妊娠中絶の合法化と全体的な犯罪件数の減少との相関関係を明らかにしたと主張している[7]。
2001年のロットとホイットリーによる批判
ドナヒューとレヴィットの研究は、ジョン・ロットとジョン・ホイットリー(John Whitley)による2001年の記事を含む、さまざまな著者から批判された。ロットとホイットリーによれば、ドナヒューとレヴィットは中絶を完全に合法化した諸州は、特定の条件下でのみ中絶が合法であった諸州より中絶率が高いと想定している。多くの州では「ロー対ウェイド事件」訴訟以前は特定の条件下でのみ中絶を許可していた。しかしこの主張はCDC統計によれば立証されていない。その上、もし中絶率が犯罪率を低下させるならば、犯罪率は最初に最年少者層で低下し始め、その後徐々により年齢が高い層の犯罪率を低下させるはずだが、CDC統計によれば、実際の殺人率は、最初に最年長者層で低下し始め、その後徐々により年齢が低い層の犯罪率が低下し、最後に最年少者層で犯罪率が低下している。もしドナヒューとレヴィットが言うように1990年代の殺人率の低下の80%は中絶の合法化のみによるということが正しいならば、それらの結果は何も制御されていないグラフに反映するはずだが、実際はその逆であると、ロットとホイットリーは主張している。さらにロットとホイットリーは、殺人犯の逮捕は犯罪が発生してから数か月または数年後になる蓋然性があるために、データとして逮捕率を犯罪率の代わりに使うことには欠陥があると指摘した。ロットとホイットリーは、犯罪が発生したときの殺人データを後の逮捕率データとリンクする補足殺人レポートを使用すると、ドナヒューとレヴィットの結論が逆転すると主張している[8]。2004年にテッド・ジョイス(Ted Joyce)は、ドナヒューとレヴィットの研究で報告された合法的な中絶と犯罪率との間の負の相関は、実際には他の要因すなわちクラック・コカインの使用の変化による測定されていない期間の影響によるものであると結論付けた研究を発表した[9]。2009年に、ジョイスは、合衆国の諸州およびコホート全体での妊娠中絶の合法化に関連して、年齢別の殺人および殺人の逮捕率を分析した後、同様にドナヒューとレヴィットの研究に否定的な結果を報告した[10]。
2005年に、レヴィットはこれらの批判に対する反論をインターネット上のウェブサイト『Freakanomics』(ヤバい経済学)に発表した。その中で彼は元の研究の欠点と変数に対処するために、再検討を実行した。レヴィットによれば、新しい結果は、元の研究の結果とほぼ同じである。レヴィットは、入手可能なデータを合理的に使用することで、2001年の元の論文の結果が補強されると考えている[11]。
2005年のフットとゲッツによる批判
その後2005年にクリストファー・フット(Christopher Foote)とクリストファー・ゲッツ(Christopher Goetz) が、レヴィットとドナヒューの統計的分析のコンピュータプログラムに間違いがあり、そのため中絶の合法化と犯罪減少との関係について誇張する結果になっていると指摘し、中絶の合法化以外の犯罪減少関連要因を適切に考慮すれば、補足されている中絶の影響は約半分に減少すると主張した。さらにフットとゲッツは、レヴィットとドナヒューが逮捕率ではなく逮捕数で分析したことを批判した。フットとゲッツは国勢調査の人口推計によって逮捕数の代わりに逮捕率を使って分析し、中絶合法化と犯罪減少との関係性を否定した[12]。
その後ドナヒューとレヴィットはフットとゲッツの指摘に対して回答を発表し[13]間違いを認めたが、異なるやり方で再分析して中絶の合法化が犯罪率に及ぼす影響があることを示した。するとフットとゲッツはすぐに反論し、レヴィットとドナヒューが新たに推奨した方法で再分析しても、中絶率と犯罪率との間の相関関係は確固としたものではないと主張した[14]。
2007年のレイエスの鉛ガソリン説
アメリカ合衆国における暴力犯罪率の減少の原因は、有害な有鉛ガソリンを規制して無鉛ガソリンにしたことが大きいという研究が2007年にアマースト大学でのジェシカ・レイエス (Jessica Reyes) によって発表された[15]。これは中絶の合法化によって暴力犯罪率が減少したという仮説を否定するものではなく、「全体として、鉛の段階的廃止と中絶の合法化が、暴力犯罪率の大幅な減少の原因であるように思われる。」と、レイエスは述べている。
2009年のShahとAhmanによる報告
中絶を禁止する法律は中絶の発生率を低下させないと、世界保健機関からの著者らによる2009年の報告は結論付けている[16]。もしこの結論が正しいならば、これはドナヒュー・レヴィット仮説の前提が誤っていることを示唆している。
2014年のFrancoisによる元の仮説の検証
2014年、Abel Francoisによる研究がInternational Review of Law andEconomicsに掲載された。これは、1990年-2007年の西ヨーロッパの16か国のパネルデータ分析を通じて、この主題に関する証拠を提供している[17]。これは中絶が犯罪率の大幅な低下を引き起こしたことを見いだしている。
2019年のドナヒューとレヴィットによる更新された論文
更新された論文が、元の2001年の論文の予測をレビューするために、2019年に公開された[18]。
全体として、著者らは、予測は強力な効果を維持したと結論付けた[19]。「われわれは、合法的な中絶により、1997年から2014年の間に犯罪は約20%減少したと推定している。合法化された中絶が犯罪に及ぼす累積的な影響は約45%であり、1990年代初頭の犯罪のピークからの全体的な減少の約50〜55%のかなりの部分を占めている。」
レヴィットは、Freakonomicsポッドキャストのあるエピソードで、この論文と元の論文の背景と歴史(批判を含む)について議論している[20]。
脚注
- ^ スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー『ヤバい経済学 悪ガキ教授が世の裏側を探検する』および『ヤバい経済学 悪ガキ教授が世の裏側を探検する[増補改訂版]』望月衛 訳、東洋経済新報社。2006年、2007年。ISBN 978-4492313657、ISBN 978-4492313787。
- ^ “Rockefeller Commission on Population and the American Future” (英語). The Center for Research on Population and Security. 2021年8月21日閲覧。
- ^ Forssman, Hans; Thuwe, Inga (1966). “ONE HUNDRED AND TWENTY CHILDREN BORN AFTER APPLICATION FOR THERAPEUTIC ABORTION REFUSED: Their mental health, social adjustment and educational level up to the age of 21”. Acta Psychiatrica Scandinavica 42 (1): 71–88. doi:10.1111/j.1600-0447.1966.tb01915.x. PMID 5959642.
- ^ “The Impact of Legalized Abortion on Crime”. Price Theory Initiative. Becker Friedman Institute (2001年5月). 2018年4月23日閲覧。
- ^ Donohue, J. J.; Levitt, S. D. (1 May 2001). “The Impact of Legalized Abortion on Crime”. The Quarterly Journal of Economics 116 (2): 379–420. doi:10.1162/00335530151144050 .
- ^ “Oops-onomics”. The Economist. (2005年12月1日) 2018年4月23日閲覧。
- ^ a b Levitt, Steven D., Freakonomics, Chapter 4 (excerpt) Archived 2010-08-23 at the Wayback Machine., Where Did All the Criminals Go?
- ^ John R. Lott Jr. and John E. Whitley, "Abortion and Crime: Unwanted Children and Out-of-Wedlock Births", (2001) SSRN Yale Law & Economics Research Paper No. 254 working paper and Economic Inquiry, Vol. 45, No. 2, pp. 304-324, April 2007 published article.
- ^ Joyce, Ted (2004). “Did Legalized Abortion Lower Crime?”. Journal of Human Resources XXXIX (1): 1–28. doi:10.3368/jhr.XXXIX.1.1 .
- ^ Joyce, Ted (February 2009). “A Simple Test of Abortion and Crime”. Review of Economics and Statistics 91 (1): 112–123. doi:10.1162/rest.91.1.112.
- ^ Levitt, Steven D., "Abortion and crime: who should you believe?" Freakanomics Weblog, 2005
- ^ Oops-onomics, The Economist, Dec 1st 2005
- ^ Donohue and Levitt, "Measurement Error, Legalized Abortion, the Decline in Crime: A Response to Foote and Goetz (2005)", 2006
- ^ Christopher L. Foote & Christopher F. Goetz (2008年1月31日). “The Impact of Legalized Abortion on Crime: Comment”. Federal Reserve Bank of Boston. 2008年5月12日閲覧。
- ^ Reyes, Jessica, "The Impact of Childhood Lead Exposure on Crime", The B.E. Journal of Economic Analysis & Policy, Volume 7, Issue 1 2007 Article 51
- ^ Shah and Ahman, "Unsafe Abortion:Global and Regional Incidence, Trends, Consequences, and Challenges", Journal of Obstetrics and Gynaecology Canada, December 2009, pp. 1149-58.
- ^ François, Abel; Magni-Berton, Raul; Weill, Laurent (2014-10-01). “Abortion and crime: Cross-country evidence from Europe” (英語). International Review of Law and Economics 40: 24–35. doi:10.1016/j.irle.2014.08.001. ISSN 0144-8188 .
- ^ Donohue, John J.; Levitt, Steven D. (2019-05-20) (英語). The Impact of Legalized Abortion on Crime over the Last Two Decades. doi:10.3386/w25863 .
- ^ Law (2019年5月20日). “New paper by Donohue and Levitt on abortion and crime” (英語). Marginal REVOLUTION. 2021年4月2日閲覧。
- ^ Lapinski, Zack. “Abortion and Crime, Revisited (Ep. 384)” (英語). Freakonomics. 2021年4月2日閲覧。
関連文献
- Barro, Robert J. "Does Abortion Lower the Crime Rate?" (Archive). BusinessWeek. September 27, 1999.
- Charles, Kerwin Ko; Stephens, Melvin, Jr. (2002). “Abortion Legalization and Adolescent Substance Abuse”. NBER. doi:10.3386/w9193. "Working paper No. 9193."
- Leigh, Andrew; Wolfers, Justin (2000年). “Abortion and Crime”. AQ: Journal of Contemporary Analysis 72 (4): p. 28–30
- Mueller, John D. (Spring 2006). “Dismal Science”. Claremont Review of Books. 2021年8月19日閲覧。
- Pop-Eleches, Cristian (2003). The Impact of an Abortion Ban on Socio-Economic Outcomes of Children: Evidence from Romania. Harvard University Department of Economics .
- Sen, Anindya (2007). “Does Increased Abortion Lead to Lower Crime? Evaluating the Relationship between Crime, Abortion, and Fertility”. The B.e. Journal of Economic Analysis & Policy 7. doi:10.2202/1935-1682.1537.
- Sorenson, Susan; Wiebe, Douglas; Berk, Richard (2002). “Legalized Abortion and the Homicide of Young Children: An Empirical Investigation”. Analyses of Social Issues and Public Policy 2 (1): 239–56. doi:10.1111/j.1530-2415.2002.00040.x .
- Steel, Daniel (2013). “Mechanisms and Extrapolation in the Abortion-Crime Controversy”. In Chao, Hsiang-Ke. Mechanism and Causality in Biology and Economics. Springer Science & Business Media. pp. 185–206. ISBN 978-9-40-072454-9