ワッサーマン・ボクシング
ワッサーマン・ボクシング(Wasserman Boxing) は、イングランドのボクシングプロモーション会社。前身のザウアーラント・イベント(Sauerland Event) の時はベルリンに本部があったが（ワッサーマン・ボクシングに改名後はベルリンにオフィスを置いている）2021年3月、アメリカの代理業大手ワッサーマン・メディア・グループに買収されてからはロンドンに本部を置いている[1]。1978年にウィルフリード・ザウアーラントによって設立された[2]。ウィルフリードの息子であるカッレ・ザウアーラントが代表兼社長で元ザウアーラント・イベントの北欧部門「SPAG」の責任者を務めプロモーター兼副社長をしているニッセ・ザウアーラントが務めている[3]。
概要
1978年ザンビアの有力者の支援を受けて1978年9月30日にルサカでプロモーターとして初めてのイベントを開催し成功を収める[4]。
その後1980年にケルンでドイツ国内の初興行を開催しこつこつと小規模な興行を重ね、オリンピックのメダリストとして初めて獲得したジョン・ムガビを海外でのプロモートを展開しつつグラシアノ・ロッシジャーニを初の世界王者に導く等成長をつづけていった[5]。
1990年にザウアーラント・イベントに転機が訪れ、ヘンリー・マスケを国内のライバルプロモーターでもあるウニヴェルズム・ボックス・プロモーションとの争奪戦を制し獲得すると[6]、アクセル・シュルツ等の若手を発掘しロッシジャーニがウニヴェルズムに引き抜かれた穴埋めと若手の補充に成功する[7]。
上述のマスケの獲得に成功すると1990年にドイツの大手公共放送局RTLと放映権契約に成功し定期的に放送するようになり[8]、マスケの世界王座獲得を機にザウアーラントの全盛期を迎えた[9]。
1996年に開催されたアトランタオリンピックのボクシングドイツ代表のトレーナーを勤めドイツ代表を銀メダル1、銅メダル3の計4人のメダリストに導いたウリ・ウェグナーがザウアーラントに加入するとジョー・カルザゲが対抗王者として最多防衛記録を作る中スベン・オットケ(スーパーミドル級最多防衛タイ記録を樹立し無敗で引退するまで王者であり続けた)、マルクス・バイエル(WBCを3度獲得)の2人で3団体を独占した他にオットケの引退後に台頭したアルツール・アブラハムをミドル級で10度防衛し絶対王者の実績を作り更にはスーパーミドル級でも2階級制覇を達成し、ドイツのプロボクサーがスーパーミドル級での実績を多数残した事で御家芸の地位を確立させるとマルコ・フックをクルーザー級で最多タイの防衛数を作り対抗王者にヨアン・パブロ・エルナンデス等を育て上げザウアーラントを一大帝国を作り上げ[10]、2005年にニコライ・ワルーエフをヘビー級で世界王者に導く等多くの世界王者を輩出し名将として地位を確立させた[11] 。
一方で2001年に長らく契約していたRTLとの放送を終了するとARDと契約し2014年にはSat.1と契約の更新を繰り返すようになり始め放映権料の収入が減り苦しくなって行く事となり、更にはザウアーラントとライバルプロモーターであったウニヴェルズムの破産で主力選手を引き継ぎ混乱を収めると2013年にウィルフリードがカッレとニッセの2人の息子に社長と代表権を譲り勇退した[12]。
2人の息子に経営を譲った結果父が一代で帝国を築いたように中々成果が上がらず、2015年にはアメリカ進出を模索していたフックが自身のプロモーション会社を兄弟で共同成立する形で独立し(フックは独立後に王座から陥落[13])離脱[14]。2016年4月には入札で勝利はしたものの[15]、アメリカ開催になった中で[16]アブラハムがヒルベルト・ラミレスに敗れて王座から陥落し父が築いた帝国の地位がどんどん音を立てて崩れ始めた[17]。
2017年3月、カッレが代表としてWorld Boxing Super Seriesを旗揚げし父がSuper Six World Boxing Classicを設立したように世界一のボクシングトーナメントを複数の会社でComosa社を共同設立し世界展開を見据えた動きを見せた[18]。
しかし肝心のドイツ国内での世界王者獲得の成果は2015年にWBA世界スーパーミドル級暫定王者になったビンセント・フェイゲンブッツと[19][20]、フェイゲンブッツとのレギュラー王座決定戦でジョバンニ・デ・カロリスに敗れた事でザウアーラント・イベントが興行オプションを行使し2016年11月にタイトルを取り戻したタイロン・ツォイゲの若手2人だけに留まり[21][22]、成果は著しく減少した。
2018年7月14日にツォイゲがロッキー・フィールディングに敗れドイツから世界王者が不在になる王座から陥落[23][24]。イギリスを始めとする海外進出に力を入れ過ぎドイツの世界王者不在になった事態を見かねたウィルフリードが組織内部を再編し80歳の誕生日を迎える2020年2月末までの期間限定での現場復帰を表明した[25]。Sat.1との放送を打ち切られたザウアーラントは新たにSport1と放映権契約を結び以前放映契約を結んでいたRTLと同様結び付きを強くする成果を出した[26]。
しかし2019年11月ベルリン・オリンピアシュタディオンにあったトレーニング施設とザウアーラントの本社を閉鎖し売却を余儀なくされ[27]、選手の整理解雇と並行で年末の同年12月31日には名将として名を馳せた専属トレーナーのウリ・ウェグナーを解雇した[28]。
しかし2020年2月末までに世界王者を1人でも復活させたかったウィルフリードだったがその期限が2週間後と迫った同月15日、テネシー州ナッシュビルのブリヂストン・アリーナで頼みの綱だったフェイゲンブッツがIBF世界スーパーミドル級王者カレブ・プラントに10回2分23秒TKO負けを喫し王座を獲得出来ず敗戦[29][30]。1人の世界王者を出せずウィルフリードは再度勇退する事となり、アッバス・バラオウとフィリップ・フルゴビッチの2人の世界ランカー輩出に留まった。
その後単独で大きな興行を打てずかつてザウアーラントに所属していたジャック・クルカイを擁した新興のアルゴ・スポーツ主催で同年8月28日のベルリンでの共同興行に留まり力の差は逆転し[31]、同年9月26日にミュンヘンのプラザメディア・ブロードキャスティング・センターにて無観客試合でのWorld Boxing Super Seriesクルーザー級第2シーズン決勝戦マイリス・ブリエディスVSユニエル・ドルティコスの開催がザウアーラント・イベントの最後の単独興行となった[32]。
2021年1月10日のクリス・ユーバンク・ジュニア獲得が最後の動きとなり[33]、2ヶ月後に2021年3月、ザウアーラント・イベントがワッサーマン・メディア・グループに買収され、ワッサーマン・ボクシングを設立した[34]。
同年6月、イギリス人の人気YouTuberであるKSIとパートナーシップ契約を結んで新たにボクシングプロモーション会社「Misfits Boxing」を設立した[35]。
主な契約ボクサー
現契約ボクサー
※ザウアーラント時代の契約選手はザウアーラント・イベントの主な契約選手を参照。ザウアーラント時代からの契約継続選手とワッサーマン・ボクシング改名後に加入した選手を記載する。
- クリス・ユーバンク・ジュニア(BOXXERと共同プロモート[36])
- フィリップ・フルゴビッチ(マッチルーム・スポーツと共同プロモート[37])
- マイリス・ブリエディス
- アッバス・バラオウ
- カタリーナ・タンデルズ
- デニス・ラドバン
- レオン・バウアー
- レオン・ブン
- パトリック・ウォイチツキ
- ソフィー・アリスチ
元契約ボクサー
- ビンセント・フェイゲンブッツ(2022年4月離脱、ペトコ・ボックス・プロモーションに移籍[38])
脚注
- ^ “Wasserman and Team Sauerland team up to create Wasserman Boxing”. ESPN.com (2021年3月30日). 2021年9月14日閲覧。
- ^ "Wilfried Sauerland". 2019年9月26日閲覧。
- ^ Davis, Gareth A. (2019年4月20日). “Eddie Hearn interview: 'I grew up thinking I was a hard nut, but I was a pansy'”. The Telegraph. 2019年11月25日閲覧。
- ^ "Wilfried Sauerland". 2019年9月26日閲覧。
- ^ https://www.abendblatt.de/archive/1983/pdf/19830711.pdf/ASV_HAB_19830711_HA_010.pdf
- ^ Henry Maske im Gespräch: „Jeder verkauft sich auf irgendeine Weise“ ISSN 0174-4909 – abgerufen am 26. September 2019
- ^ "Axel Schulz". 9 December 1995. 2019年9月26日閲覧。
- ^ "Prügeln im privaten Kreis". 2019年9月26日閲覧。
- ^ Lutz Frühbrodt: Von der Nische ins Rampenlicht. 13. Mai 2008 – abgerufen am 26. September 2019
- ^ "ULI WEGNER ÜBER SEINE ANFÄNGE ALS TRAINER, SAUERLAND, SVEN OTTKE, MARKUS BEYER,ARTHUR ABRAHAM UVM". 2019年9月26日閲覧。
- ^ WM im Schwergewicht: Walujew nimmt Ruiz den Gürtel ab In: Spiegel Online. 18. Dezember 2005 - abgerufen am 27. September 2019
- ^ "Trainer Wegner: „Für Mittelmaß stehe ich nicht zur Verfügung"". 28 June 2018. 2019年9月26日閲覧。
- ^ フック11回KO負けでV14失敗 WBOクルーザー級戦 Boxing News（ボクシングニュース） 2015年8月15日土曜日
- ^ “Cruiserweight titlist Huck teams with trainer House”. ESPN.com (2015年6月10日). 2015年6月14日閲覧。
- ^ アブラハムvsラミレス ザウアラントが興行権獲得 Boxing News（ボクシングニュース） 2016年1月23日
- ^ 河村真吾タイで敗れる、IBFアジアSB級王座戦 Boxing News（ボクシングニュース）2016年1月23日
- ^ ラミレスがアブラハム下し戴冠、バルデス11連勝 Boxing News（ボクシングニュース） 2016年4月10日
- ^ World Boxing Super Series: New $50m event to 'change boxing world' - organisersBBCスポーツ 2017年3月9日
- ^ アブラハム“決着戦”制す、スティグリッツを6回撃沈 Boxing News（ボクシングニュース） 2015年7月19日
- ^ Super Middleweight Feigenbutz Wins Interim WBA Title WBA公式サイト 2015年7月20日
- ^ Zeuge TKOs De Carolis in twelfth to win WBA super middleweight world title Fightnews.com 2016年11月5日
- ^ Zeuge Stops De Carolis to Win WBA World Title WBA公式サイト 2016年11月7日
- ^ Rocky Fielding stops Tyron Zeuge for WBA super middleweight belt ESPN.com 2018年7月15日閲覧。
- ^ フィールディングが番狂わせ WBA･S･ミドル級獲得 Boxing News（ボクシングニュース） 2018年7月15日
- ^ "Wilfried Sauerland kehrt zurück und führt Box-Geschäfte". 11 July 2018. 2019年9月26日閲覧。
- ^ Benedikt Warmbrunn. "Boxen: Wilfried Sauerland kämpft um sein Lebenswerk". 2019年9月26日閲覧。
- ^ "„Sauerland ist noch immer die Nummer eins"". 13 November 2019. 2019年11月22日閲覧。
- ^ "Coach kassiert Kündigung: Sauerland kündigt Kult-Trainer Wegner". 2019年10月21日閲覧。
- ^ “Caleb Plant Beats Down Overmatched Feigenbutz, TKO in Ten”. BoxingScene.com (2020年2月15日). 2020年2月16日閲覧。
- ^ プラント故郷で凱旋防衛 IBF･S･ミドル級V2 Boxing News（ボクシングニュース） 2020年2月16日
- ^ Jack Culcay Edges Abass Baraou With Split Nod Decision Over Twelve Boxing Scene.com 2020年8月28日閲覧。
- ^ WBSSクルーザー級 シーズン2はブリーディスV Boxing News（ボクシングニュース） 2020年9月27日
- ^ “Chris Eubank Jr. Confirms Promotional Deal With Team Sauerland”. Boxing Scene.com (2021年1月10日). 2021年1月28日閲覧。
- ^ "Wilfried Sauerland (81) verkauft Box-Stall nach Hollywood". 2021年7月12日閲覧。
- ^ “世界的人気のYouTuber・KSIがボクシング・プロモーション会社を設立”. SJN (2021年7月5日). 2021年10月21日閲覧。
- ^ “BOXXER announce their new signings: Chris Eubank Jr, Lewis Ritson, Caroline Dubois and more”. British Boxing News (2021年9月1日). 2021年9月14日閲覧。
- ^ Filip Hrgovic, Sauerland Ink Co-Promotional Pact With Hearn BoxingScene.com 2019年2月14日
- ^ “Euro News: Tom Schwarz, Vincent Feigenbutz, Scull vs. Shvedenko, More”. Boxing Scene.com (2022年4月11日). 2022年9月9日閲覧。