ルベーグ測度
ルベーグ測度(ルベーグそくど、英: Lebesgue measure)とは、数学において、ユークリッド空間上の長さ、面積、体積の概念を拡張したものである。この呼び名はフランスの数学者アンリ・ルベーグにちなむ。体積には「直和集合の体積は元の体積の和」という性質(加法性)がある。この性質を保ちながらより複雑な集合に対しても「体積」を定めることができるよう体積の概念を拡張できる。このような拡張は一意である。実解析、特にルベーグ積分で用いられる。体積と同様ルベーグ測度は値として ∞ をとりうる。解析学で普通に考えられるような集合に対してはルベーグ測度が与えられるものと考えてよいが、選択公理によって Rn の部分集合でルベーグ測度を与えることができない(無理に与えると加法性が成り立たない)ものが存在することを証明できる。ルベーグ測度が与えられる集合はルベーグ可測であるという。以下の説明ではルベーグ可測な集合 A の測度を λ(A) で表す。
例
- 閉区間 [a, b] の一次元ルベーグ測度は b − a である。開区間 (a, b) の一次元ルベーグ測度も閉区間との差集合(つまり両端点のみからなる二元から成る集合 {a, b} )の測度が 0 であることから、同じく b − a である。
- 集合 A が、[a, b] と [c, d] の 直積 (デカルト積) であれば、Aの二次元ルベーグ測度は、一次元ルベーグ測度の積 (b − a)(d − c) に等しい。
- 可算集合のルベーグ測度は必ず 0 である。カントール集合は、測度 0 の非可算集合の例である。
性質
n 次元ユークリッド空間 R n の n 次元ルベーグ測度は次のような性質を持つ。
- Aを区間の直積: I 1 × I2 × ... × I n とする。このとき A はルベーグ可測で である。ただしここで、 | J | は区間 J の長さを意味している。
- Aを互いに素なルベーグ可測集合の無限を含む高々可算個の和集合とするとき、A はルベーグ可測で λ(A) は、各集合の測度の和(もしくは、無限級数)に等しい。
- Aがルベーグ可測ならば、Aの補集合も可測である。
- 任意のルベーグ可測集合 A について λ(A) ≥ 0 である。
- ルベーグ可測集合 A、B について、A ⊆ B ⇒ λ(A) ≤ λ(B)である。
- 可算個のルベーグ可測集合の和集合や共通部分は、ルベーグ可測である。
- Rn の開集合や閉集合(参考:距離空間)はルベーグ可測である。
- λ(A) = 0 となるルベーグ可測集合 A (零集合)について、A の部分集合はすべて零集合である。
- A をルベーグ可測集合、x を Rn の要素とする。x による A の平行移動を A + x = {a + x : a ∈ A} と定義するとき、A + x はルベーグ可測で A と測度が同じである。
ルベーグ測度の構成
ルベーグ測度の現代的構成はカラテオドリの拡張定理を利用する、以下のようなものである。
自然数 n を固定して、Rn 内の(n-次元)区間あるいは超矩形 (box) とは、(一次元)区間の直積
の形(但し、bi ≥ ai であるものとする)に書ける Rn の部分集合の総称である。この区間 B の容積 (volume) vol(B) は
で与えられる。Rn の(高々)可算個の区間からなる区間族を総称して、Rn の区間塊という。
Rn の任意の部分集合 A に対して、Rn の区間塊をBとするとき、A の外測度 λ∗(A) を
で定める。ただしここでの下限は、その和が A を被覆するような区間塊 B 全体に亘ってとるものとする。さらに、Rn の部分集合 A がルベーグ可測であるとは、Rn の任意の部分集合 S に対して、カラテオドリの条件が成り立つこと:
を満たすこととする。ルベーグ可測な集合全体は完全加法族を成し、そのうえのルベーグ測度 λ が、任意のルベーグ可測集合 A に対して λ(A) = λ∗(A) とおくことによって与えられる。
ヴィタリの定理によれば、実数全体 R の部分集合でルベーグ可測でないものが存在する。もっと一般に、Rn の任意の部分集合 A に対し、A はルベーグ非可測な部分集合を必ず含む。
他の測度との関係
- ボレル測度が定義される集合については、ルベーグ測度と一致する。しかし、ボレル可測でないがルベーグ可測な集合も多く存在する。ボレル測度は平行移動不変だが、完備ではない。
- 局所コンパクト群で定義されるハール測度はルベーグ測度の一般化である。
- ハウスドルフ測度(参考:ハウスドルフ次元)は、Rn上のn次元以下の集合の測度を決めるのに役立つルベーグ測度の一般化である。
その他
ルベーグ可測でない集合の "奇妙な" ふるまいとしては、選択公理の結果であるバナッハ=タルスキーのパラドックスがあげられる。
歴史
アンリ・ルベーグが1899年から1901年にかけてフランスの科学誌「コント・ランデュ」(en) に投稿した 6 報の論文のうち、最初のものを除く 5 報が測度に関するものであった。その内容は、続く1902年に、彼の博士論文「積分・長さ・面積」[1][2]の一部として発表された。
参考文献
- ^ Henri Lebesgue (1902). Intégrale, longueur, aire. Université de Paris.
- ^ Henri Lebesgue; Intégrale, longueur, aire(ルベーグ『積分・長さおよび面積』吉田耕作・松原稔訳・解説、共立出版、1969年。ISBN 4-320-01156-2 。)