ヒメイワカガミ

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ヒメイワカガミ
栃木県那須岳 2017年6月
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : キク上類 Superasterids
階級なし : キク類 Asterids
: ツツジ目 Ericales
: イワウメ科 Diapensiaceae
: イワカガミ属 Schizocodon
: ヒメイワカガミ S. ilicifolius
学名
Schizocodon ilicifolius Maxim.[1]
シノニム
  • Shortia soldanelloides (Siebold et Zucc.) Makino var. ilicifolia (Maxim.) Makino[2]
  • Schizocodon soldanelloides Siebold et Zucc. var. illicifolius (Maxim.) Makino[3]
和名
ヒメイワカガミ(姫岩鏡)[4]

ヒメイワカガミ(姫岩鏡、学名Schizocodon ilicifolius)は、イワウメ科イワカガミ属常緑多年草[4][5][6]

特徴[編集]

地上茎は細く地を這い、の先端に数枚のが束生する。葉に長い葉柄があり、葉質は革質で光沢があり、葉身は小型で卵円形、長さ1-5cm、幅0.7-4cmになり、縁に1-5対の広三角形で先がとがった鋸歯がある[4][5][6]

花期は4-5月。束生した葉の中央から細長い花茎を出して総状花序をつくり、先端に2-7個のをつけ、横向きに咲く。花は淡紅紫色または白色のものがある。片は5個あり、裂片は長楕円形になる。花冠は径1.5-2cmの漏斗形で5裂し、裂片の縁はさらに多数の細かい裂片に裂ける。雄蕊は5個あり、花冠裂片と互生する位置にあって、花冠筒部に合着する。仮雄蕊は5個あり、花冠基部近くにあって花托をおおって内部の蜜を蓄える。子房は3室に分かれ、各室の中軸胎座に多数の胚珠があり、雌蕊は1個で花柱は細く、先端は浅く3裂する。果実は3室に分かれた球形の蒴果で、径3-4mmになり、多数の種子を含み、胞背裂開して種子を散らす。種子は長楕円形で、両端に突起状の翼がある[4][5][6]

分布と生育環境[編集]

日本固有種。関東地方、中部地方、紀伊半島のおもに太平洋側に分布し、山地の岩場に生育する[6]

その一方、としては、東北地方から紀伊半島の太平洋側に分布するが、東北地方から関東地方北部に分布し、葉が卵状楕円形で鋸歯は上半分に1-3対あり下半分が全縁、花序に1-4個の白色の花をつけるのが基準型であり、例として尾瀬日光谷川岳などに分布するのが[7]狭義のヒメイワカガミとする見解がある[5]

秩父山地赤石山脈の高山帯に分布し、花が赤色のものを「タカネヒメイワカガミ」f. akaishialpinus[7]奥多摩から箱根静岡県東部の山地に分布し、花が紅紫色のものを「アカバナヒメイワカガミ」var. australis とする見解がある[5][7]

さらに、山梨県、静岡県、愛知県の山地に分布し、基本種より葉が大きく、鋸歯が8-18対ある、変種の「ヤマイワカガミ」var. intercedens があり[5][6]、静岡県西部から愛知県、紀伊半島に分布し、葉が小さく鋸歯の数が少ないものを「ナンカイヒメイワカガミ」var. nankaiensis とする見解がある[5][7]

ギャラリー[編集]

下位分類[編集]

  • ヤマイワカガミ Schizocodon ilicifolius Maxim. var. intercedens (Ohwi) T.Yamaz.[8] - 基本種より葉が大きく、鋸歯の数も多い。葉身ほどの長さの葉柄をもつ。花は白色で、ときにわずかに紅色をおびる。本州の東海地方の山地に分布し、山地の岩場や渓流沿いの崖の上部に生育する[5][7]。詳細は次節で述べる。

この他、節「分布と生育環境」で述べたとおり、変種、品種として細分化する見解があり、それによるものを次に示す。

  • タカネヒメイワカガミ Schizocodon ilicifolius Maxim. f. akaishialpinus T.Yamaz.[9] - 基本種より葉は小さく、縁の鋸歯は1-2対、花序に1-2個の花がつき、花は赤色。秩父山地、赤石山脈の高山帯に分布する[7]
  • アカバナヒメイワカガミ Schizocodon ilicifolius Maxim. var. australis T.Yamaz.[10] - 葉が大きく、葉身は卵円形または円形で、長さ2-5cm、幅1.5-4cmになり、葉の上部3分の2に鋸歯が3-6対ある。花序に2-4個の花をつけ、花は紅紫色。奥多摩から箱根、静岡県東部の山地に分布する[5][7]
  • ナンカイヒメイワカガミ Schizocodon ilicifolius Maxim. var. nankaiensis T.Yamaz.[11] - ヤマイワカガミに似るが、葉がやや小さく、葉身は卵円形または円形で、長さ2-6cm、幅1.5-5cmになり、鋸歯が3-6対と少ない。花は白色であるが、ときに赤色をおびるものもある。静岡県西部から愛知県、紀伊半島に分布する[5][7]

ヤマイワカガミ[編集]

ヤマイワカガミ(山岩鏡、S. ilicifolius var. intercedens)は、ヒメイワカガミを基本種とする変種で、本州の東海地方を中心とした地域(山梨県、静岡県および愛知県など)に分布し、山地の岩場や渓畔に面した崖などに生育する。葉身は卵円形で、長さ3.5-7cm、幅3-6cm、先端は三角状に伸びて頂部は円く、基部は心形、縁には8-18対の細かな三角状の鋸歯があり、鋸歯の先端は刺状にとがる。葉の表面は光沢があり、裏面はやや白色をおびる。また、葉は基本種より薄く、乾燥時には葉を内側に湾曲させる[5][6][12]

花期は4-5月。束生した葉の中央から細長い花茎を出し、総状花序をつくり、5-10個の花をつける。花冠は白色、まれに紅色をおび、径1-1.5cmになる。花冠は5裂し、裂片がさらに細かく裂けるようすは基本種と同様である[5][6][12]

脚注[編集]

  1. ^ ヒメイワカガミ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  2. ^ ヒメイワカガミ(シノニム) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  3. ^ ヒメイワカガミ(シノニム) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b c d 『山溪ハンディ図鑑8 高山に咲く花』p.185
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 『新牧野日本植物圖鑑』p.524
  6. ^ a b c d e f g 『改訂新版 日本の野生植物 4』p.214
  7. ^ a b c d e f g h 山崎敬「イワカガミ・イワウチワ属の追記」『植物研究雑誌』Vol.65, No.10, pp.309-319, 1990年
  8. ^ ヤマイワカガミ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  9. ^ タカネヒメイワカガミ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  10. ^ アカバナヒメイワカガミ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  11. ^ ナンカイヒメイワカガミ 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  12. ^ a b 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』

参考文献[編集]