モーテル
モーテル(英:motel)とは、幹線道路沿いにある、自動車旅行者のための簡素なホテル。アメリカ合衆国では日本のビジネスホテルのような存在である。
概要
この語は「自動車」(motor)と「ホテル」(hotel)のかばん語、あるいは「自動車運転者のホテル」(motorists' hotel)の略であり、英語辞書に載ったのは第二次世界大戦の後である。客用の駐車場(および、場合によってはそれに続くフロントなどの共用施設)に面して一続きの宿泊棟が建ち、客室のドアが駐車場に向かって並んでいるようなタイプのホテルを指す。また、駐車場に向かって客室のあるキャビンやコテージなどが並ぶタイプのものもある。荷物を客室まで運ぶポーターはいないかわり、宿泊客は自分の客室のドアの前に自動車を停めて荷物を運び入れることができる。価格は手ごろで荷物運びはセルフサービスとなっており、アメリカ合衆国では日本のビジネスホテルのような存在であるが、部屋はセミダブルベッドのツインルームなど広々としている。
アメリカ合衆国では全国的な高速道路網が1920年代から建設され始めたが、同時に庶民の間でも長距離の自動車旅行が一般的になり始めた。このため、道中で泊まるための安くて幹線道路から車を乗り付けやすい宿泊施設が求められるようになり、モーテルというタイプの宿泊施設が急速に成長することになった。
歴史
モーテルというコンセプトのホテルは、1925年にアーサー・ハイネマン(Arthur Heineman)によりロサンゼルス北方のサン・ルイス・オビスポに建設されたモーテル・イン(Motel Inn)が始まりであった。当時のアメリカは道路事情も悪く現在以上に自動車旅行に時間がかかり、ホテルや駐車場を見つけられないドライバーは路肩やキャンプ場でテントを張るか車内で寝ることもあった。ハイネマンがサンフランシスコとロサンゼルスの間に作ったホテルはこうしたドライバーの需要を見込んだもので、「モーターホテル」を略してモーテルと名付けた。
モーテル以前のオートキャンプ場や旅人宿とは異なり、モーテルは全米各地で均一で均質な外観を呈するに至った。宿泊棟はI字型、あるいはL字型かU字型の間取りで、駐車場に面して客室のドアが一列に並ぶ。駐車場の入口付近に管理人のオフィスと受付、場合によっては小さな食堂(ダイナー)が配置された。第二次大戦後には、モーテルは走行中の客の目に止まりやすいようなきらびやかで大きなネオンサインを出すようになった。多くはカウボーイやインディアンなど西部らしいモチーフや、宇宙船や原子力など当時流行のモチーフが使われている。夫婦で経営する小規模経営のモーテルは全米の都市郊外の道路沿いに立ち並び、真新しい車でアメリカ横断旅行に出る自動車愛好家らが泊まっていった。
モーテルと普通のホテルの相違点は、ホテルは町の中心部に建つ傾向がある一方、モーテルは郊外などの幹線道路沿いに建つ傾向があることである。またモーテルは客室のドアが駐車場など屋外に面していることも、ホテルとの大きな相違点である(ホテルの場合、客室のドアは屋内の廊下に面している)。モータリゼーション以前の古いホテルは自動車の客を想定せず駐車場をもたないこともあるが、モーテルは駐車場がつきものである。
1952年にテネシー州メンフィスにケモンズ・ウィルソンが家族旅行向けの安くてサービスのいいモーテル「ホリデイ・イン」を開業し全米に展開させるようになり、個人経営のモーテルは衰退し始めた。さらに州間高速道路の整備などで高速道路沿いにもホテルが進出し、モーテルとホテルの境界は次第に曖昧になった。しかし現在でも、古い国道沿いには5部屋程度の規模の小さな家族経営のモーテルが見られる。
長期滞在と時間単位の滞在
モーテルの中には、長期滞在者のために客室に小さなキッチンを設けるものもある。アメリカではアパートに住む余裕のない人や家を追い出されたような人の中には、家賃の安いモーテルで生活する人もいる。
またラテンアメリカや東アジアでは一泊のほかに時間単位でも部屋を貸すモーテルもあり、デート中やドライブ中のカップルの性的交渉のために貸し出されている。日本では郊外の道路やインターチェンジ付近に立地し自動車での来客の多いラブホテルが多数ある。メキシコでは「Motel de paso」、アルゼンチンでは「albergue transitorio」、チリでは「moteles parejeros」などと呼ばれ、ブラジルやコロンビアではモーテルを使うのはほぼすべてこうしたカップルである。フランスやベルギーにも「hôtels de passe」という短時間用のモーテルがある。フィリピンでは保守的カトリック団体がモーテルに対し時間単位の滞在をやめさせる運動を行い、マニラでは運動を成功させた。
モーテルと高速道路網は、犯罪容疑者にとっては逃避行を容易にするものであり、離れた土地を転々として簡単な手続きのモーテルで泊まりながら潜伏する者もいる。かつてはクレジットカードの決済に日数がかかりモーテルで容疑者が支払いをしたという情報を警察が得た頃には容疑者はチェックアウト後であったが、1993年以降連邦捜査局(FBI)はクレジットカードの支払と同時に容疑者データベースと照合するシステムを稼働させている。その他、現金払いの客に対しては合衆国発行のIDカードを見せるようモーテルに指導したり、地元警察がモーテルを巡回するような活動も行われている。
日本におけるモーテル
日本ではかつて、街道沿いにあり駐車場を備え、自動車利用が可能な「連れ込み宿」を指してモーテルと呼ばれることが多かった。近年では、このような意味のモーテルという用法は廃れた感があるが、現在でもタウンページ(業種別電話帳)では「モーテル・ラブホテル」でひとつの業種とされるなど、一部に名残がみられる。なお、ラブホテル運営企業の業界団体である「(一社)日本レジャーホテル協会」 は、2015年5月までは「(一社)日本自動車旅行ホテル協会」という名称であった。
日本においてアメリカ式のモーテルに類似した形態のホテルを展開するチェーンとして、ファミリーロッジ旅籠屋が存在する。また幹線道路沿いに駐車場を備えたビジネスホテルが建てられていることもある。
韓国におけるモーテル
韓国では、部屋にトイレやシャワーあるいは浴室の設備がある韓国式旅館は従来「○○荘旅館」と名乗っていたのが、近年「○○モーテル」への改称が進んでいる。一般の観光客を中心とする宿泊者が主な宿泊層のモーテルもあれば、外観も内装も主な宿泊層も日本のラブホテルと同様のモーテルもあるが、後者の場合も家族連れやシングル客などの一般宿泊者の宿泊を拒むことはなく、実際に設備が整っていて安価な宿泊施設として一般客の宿泊も多い。
また、駐車場のない元「○○荘旅館」も一律に「○○モーテル」に改称する例も多いため、これらはモーテルの語源に反することになる。
ギャラリー
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オーストラリアの食堂兼モーテル
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ハリウッドのユニバーサル・スタジオにあるベイツ・モーテルのセット。『サイコ』劇中でノーマン・ベイツが経営していたもの
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幌馬車が描かれたモーテルのネオンサイン
外部リンク
- Motel Americana - a page devoted to history, narratives, and design of postwar motels
- "Motel Memories" - from the Oct. 9 - Oct. 15, 1997 issue of Tucson Weekly
- Motel Signs - A collection of motel signs from around the US
- Motel Directory - A directory of motels from around the US
- チョイスホテルズ・インターナショナル - コンフォートイン、クオリティインなどを全世界に運営する企業。日本人専用の電話予約センターもある。
- ファミリーロッジ旅籠屋 - 日本で唯一の、アメリカンスタイルのロードサイドモーテルを展開するチェーン。