パラリーガル

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パラリーガル(paralegal)は、弁護士の監督の下で定型的・限定的な法律業務を遂行することによって弁護士の業務を補助する者である。

元はアメリカにおいて生じた、弁護士の資格は有さないが単なる事務作業を超える専門的業務[注釈 1]に携わる法律事務所のスタッフである。アメリカにおける大規模法律事務所の専門化、細分化の進展に伴い、補助スタッフにも高度な専門性が求められるようになったことで発達した[1]

その仕事が誕生した米国では、今や大学等が養成課程を用意する[2]ほどメジャーな職業になっている。

欧米の中規模以上の法律事務所では一般的な存在であり、日本の法律事務所においても、大規模法律事務所を中心に一般的な存在となりつつある。

各国

アメリカ

概要

アメリカにおけるパラリーガルの発生は1960年代ごろとされる。そのころ、補助的な事務はロースクール生のアルバイトであるロー・クラークか、または若手のアソシエイト弁護士が担当していたが、ロー・クラークは短期で交代してしまうため継続性に欠ける一方、アソシエイトは有資格者である以上相応のタイムチャージが発生してしまうという難点があったため、専門的に高度な補助作業を行う者としてパラリーガルが登場した[3]

パラリーガルの資格は連邦法では定められておらず、必要な資格は州によって異なり、多くの場合パラリーガルの養成は大学教育によっている。教育プログラムにおいては、弁護士の教育においては実体法の内容が中心になるのに対し、パラリーガルの教育では具体的な手続にどのような様式を用いるのかなど、手続的な内容が中心となっている[2]

アメリカでも、まずはパラリーガルとして実務経験を積んだ上で、正規の法律資格の取得を目指してロースクールなどに進学する例が多い[4]

アメリカでは、パラリーガルに手続的な作業を委ねることで行政手続代理業務などの定型性の高い業務のリーガルフィーを抑制でき、低所得層へもリーガルサービスが提供しやすくなるという効果も生じている。前述のようにパラリーガルの養成課程において手続的なカリキュラムが中心となっているのは、このような目的に対応するためでもある[3]

業務

具体的な規制は州により異なるが、アメリカ法曹協会のガイドラインによれば、弁護士がその仕事に対し責任を負う限りにおいて、弁護士資格がない者には許されていない業務を除き、弁護士とほぼ同等の業務を担当できるとする。具体的には、法律文書の起案、期日管理、法律調査、事件記録の管理などである[5]。他方、単独で依頼者に法的助言を行うこと、報酬を決定すること、裁判所で依頼者を代理することなどはできず、非弁活動非弁提携(Unauthorized Practice of Law, UPL)への関与も厳格に禁じられている[6]

分類

伝統的パラリーガル(Traditional Paralegal)
弁護士の監督下で弁護士の責任において勤務する最も基本的なパラリーガルで、大半がこの形態である。大部分が法律事務所に勤務するが、裁判所や公的機関、または企業法務部に勤務する者もいる[7]
契約パラリーガル(Freelance / Contract Paralegal)
弁護士の監督下で弁護士の責任において勤務する点は伝統的パラリーガルと同様であるが、契約形態が常勤ではなくフリーランスである者をいう[7]
独立パラリーガル(Independent Paralegal)
消費者に直接サービスを提供するパラリーガル。裁判所規則や州当局の特別の立法などで許可された場合にのみ存在でき、全米でもその数は極めて少ない[7]

課題

パラリーガルの統一的な資格化を図るべきという議論はあるが、規制が立ち遅れている。また、非弁行為(UPL)規制を踏み越えてしまうパラリーガルがまれに現れるなど、倫理面での課題も指摘されている[8]

日本

歴史

日本においても弁護士を補助する職種を体系化しようという動きはあり、日本弁護士連合会は、1983年に「法律補助職」制度を、1987年に「弁護士事務職」制度を提唱したが、いずれも頓挫していた[9]

そのような動きが一段落した1990年ごろ、日本においてパラリーガルは、渉外事件入管法関連案件の扱いが多い法律事務所において生じた。事務員または秘書として働いていた者が、弁護士の指導の元実務経験を蓄積して専門性を高めた結果、アメリカの法曹界で市民権を得ていた「パラリーガル」と同等の職業人としての自己認識を獲得していったとされる[10]

2021年時点においても日本においてはパラリーガルの資格は公的に制度化されておらず、個々の法律事務所の内部的職制上の概念に留まっている。

業務

弁護士の菊地幸夫は、パラリーガルは事務職員と弁護士の中間であり、弁護士的な専門的な知識を備えながら弁護士を補助する役割を果たすと解説し[11]弁護士ドットコムは、国家資格は必要ないが法律に関する専門的な知識が要求されると解説している[12]

日本では制度上、依然としてその資格が認められておらず、現在は法律事務のアシスタントに過ぎない(顧客とのカウンセリングなど、監督者である弁護士が承認したとしても、弁護士法では認められていない)。

弁護士でないがゆえに職務が限定された法律事務員の仕事として働く傍ら、やがては自身も弁護士や司法書士行政書士などになるために資格取得を目指す人もいる。

法律業務に付随する翻訳・書類作成・文献調査・資料収集・資料分析などに従事することが多い。

古典的な法律事務所においては、依然として一般的な事務員がこれに相当する業務をしている。しかし、ある程度以上の規模のある大手渉外事務所などの法律事務所では、業務の効率化と精緻化を両立するため、単なる秘書と、ある程度の専門的な資質・技量を持ったパラリーガルとに業務内容を完全に分離する例がある。

隣接法律専門職との関係

日本においては、司法書士行政書士等の隣接法律専門職がアメリカにおけるパラリーガルの業務を一部果たしており、日本におけるパラリーガルの発生が遅れたことにも一部影響していると指摘されている。しかし、隣接法律専門職は独立した権限のもと活動しうる専門職であるのに対し、パラリーガルはあくまで弁護士を補助する専門性を持った秘書職であるという点で明確に異なるとされる[13]

関連項目 

テレビドラマ

脚注

注釈

  1. ^ 「パラ」の意味は「副次的(な)」「補助的(な)」「(…に)准ずる」「(能力の)劣るもの」などあるが、実務面においてその分野での熟練した経験や、中程度ないし高レベルの専門教育を受けている者のことを示す場合もある。パラリーガルのほかにも「パラプロフェッサー」「パラ・メディカル」など、熟達した現場のアシスタントという意味合いが非常に強い(paraの接頭辞の意味解説)。

出典

  1. ^ 森本敦司 1999, p. 103
  2. ^ a b 森本敦司 1999, pp. 110–111
  3. ^ a b 森本敦司 1999, pp. 104–105
  4. ^ 週刊ダイヤモンド』(2010年11月27日号)「仕事&資格大図鑑」p40より
  5. ^ 森本敦司 1999, p. 109
  6. ^ 森本敦司 1999, pp. 109–110
  7. ^ a b c 森本敦司 1999, p. 107
  8. ^ 森本敦司 1999, pp. 112–113
  9. ^ 藤本ますみ 2002, pp. 13–14
  10. ^ 藤本ますみ 2002, p. 13
  11. ^ Kさんで注目「パラリーガル」とは?菊地弁護士が「スッキリ!」で説明 デイリースポーツ 2017年5月18日
  12. ^ 「眞子さま」ご婚約予定のKさんの法律事務所での仕事「パラリーガル」って? 弁護士ドットコム 2017年05月17日
  13. ^ 藤本ますみ 2002, pp. 18

参考文献

  • 森本敦司「アメリカのパラリーガル」『法政論叢』第35巻第2号、日本法政学会、1999年、103-116頁、doi:10.20816/jalps.35.2_103ISSN 0386-5266NAID 110002803494 
  • 藤本ますみ「法律専門秘書の研究(その2)法律専門秘書(パラリーガル)の養成教育について〔含 参考資料〕」『聖泉論叢』第10号、聖泉大学、2002年、1-52頁、doi:10.34359/00000861ISSN 13434365NAID 110004678773 
  • 藤本ますみ「法律専門秘書の研究(その3) : 日弁連公認パラリーガル構想と養成教育」『聖泉論叢』第11号、聖泉大学、2003年、79-97頁、doi:10.34359/00000882ISSN 13434365NAID 110004497202 

関連書籍

  • ベルナルド, バーバラ 著、田中克郎 訳『パラリーガル─急成長する法律専門職』信山社、1998年2月8日。ISBN 9784797221183 

関連項目

外部リンク