ソタロール

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{{Drugbox | verifiedrevid = 420038718 | IUPAC_name = (RS)-N-{4-[1-hydroxy-2-(propan-2-ylamino)ethyl]phenyl}methanesulfonamide | image = Sotalol.svg | imagename = 1 : 1 mixture (racemate) | image2 = Sotalol ball-and-stick.png | drug_name = Sotalol

| tradename = Betapace | Drugs.com = monograph | MedlinePlus = a693010 | pregnancy_AU = C | pregnancy_US = B | pregnancy_category = | legal_AU = S4 | legal_CA = Rx-only | legal_UK = POM | legal_US = Rx-only | routes_of_administration = oral

| bioavailability = 90–100%[1] | metabolism = Not metabolized[1] | elimination_half-life = 12 hours[1] | excretion = Renal
Lactic (In lactating females)[1]

| IUPHAR_ligand = 7297 | CAS_number_Ref =  チェック | CAS_number = 3930-20-9 | ATC_prefix = C07 | ATC_suffix = AA07 | PubChem = 5253 | DrugBank_Ref =  チェック | DrugBank = DB00489 | ChemSpiderID_Ref =  チェック | ChemSpiderID = 5063 | UNII_Ref =  チェック | UNII = A6D97U294I | KEGG_Ref =  チェック | KEGG = D08525 | ChEMBL_Ref =  チェック

| ChEMBL = 471

| C=12 | H=20 | N=2 | O=3 | S=1 | molecular_weight = 272.3624 g/mol | smiles = O=S(=O)(Nc1ccc(cc1)C(O)CNC(C)C)C | InChI = 1/C12H20N2O3S/c1-9(2)13-8-12(15)10-4-6-11(7-5-10)14-18(3,16)17/h4-7,9,12-15H,8H2,1-3H3 | InChIKey = ZBMZVLHSJCTVON-UHFFFAOYAR | StdInChI_Ref =  チェック | StdInChI = 1S/C12H20N2O3S/c1-9(2)13-8-12(15)10-4-6-11(7-5-10)14-18(3,16)17/h4-7,9,12-15H,8H2,1-3H3 | StdInChIKey_Ref =  チェック | StdInChIKey = ZBMZVLHSJCTVON-UHFFFAOYSA-N }} ソタロール(Sotalol、商品名:ソタコール)はK+チャネル遮断薬に分類される不整脈治療薬の一つである。交感神経β受容体非選択的遮断作用ヴォーン・ウィリアムズ分類III群抗不整脈作用を併せ持つ[2][3]。最初に発見されたのは1960年で、1980年代にβ遮断薬として広く用いられる様になり、その後直ぐに抗不整脈薬として再発見された[4]。これら2つの機能を持つ事から、心室細動及び心室頻拍治療薬として他のβ-遮断薬よりも優先して使用される[2][5]

米国FDAは、ソタロールがQT時間を延長してトルサード・ド・ポワントを起こす危険性が若干有るとの理由で、重篤な不整脈にのみ使用する様に呼び掛けている[6]

効能・効果

米国FDAに拠ると、ソタロールは致死性心室性不整脈、高症候性心房細動(Afib)、心房粗動(AFL)の患者の心リズム英語版正常化について使用承認英語版されている[6]。重篤な副作用が有るので、通常は死の危険の有る心室性不整脈又はバルサルバ法等の単純操作で除去出来ない細動/粗動にのみ使用すべきであるとしている[6]

日本での効能・効果は、「生命に危険の有る再発性心室頻拍心室細動で他の抗不整脈薬が無効か又は使用できない場合」である[7]

禁忌

FDAに拠ると、ソタロールは起床時の心拍数が50拍/分以下の患者には用いるべきではない[6]洞不全症候群QT延長症候群心原性ショック、未管理の心不全気管支喘息又は関連気管支攣縮症状、血中カリウム値 < 4mEq/L の患者には使うべきでない[6]。2度又は3度の房室ブロック心臓ペースメーカーを装着している患者にのみ投与すべきである[6]

ソタロールは腎臓から排泄されるので、CCr < 40 mL/分 の患者には用いるべきではない[6]乳汁中に分泌されるので、ソタロールを服用中の患者は授乳すべきでない[6]

ソタロールはQT時間を延長するので、QT延長作用を持つ他の薬剤と併用しない様にFDAは推奨している[6]ジゴキシンを服用中の患者では重篤に副作用が多く、心不全の存在に因ると思われるとの研究結果が有る[6]。他のβ-遮断薬と同様に、カルシウム拮抗剤カテコールアミンを枯渇させる薬剤、インスリン抗糖尿病薬β2-作動薬クロニジン薬物相互作用を起こす[6]

ソタロールは駆出率が低下している患者では死亡の危険を増加させるので避けるべきであるとの証拠が幾つか報告されている[8]

日本で禁忌とされている患者は、下記の通りである[7]

  • 心原性ショックの患者
  • 重度の鬱血性心不全の患者
  • 重篤な腎障害(クレアチニン・クリアランス < 10mL/分)の有る患者
  • 高度の洞性徐脈(50拍/分未満、高度の洞不全)の有る患者
  • 高度の刺激伝導障害(II~III度の房室ブロック、高度の洞房ブロック等)の有る患者
  • 気管支喘息、気管支痙攣の虞れのある患者
  • 先天性又は後天性のQT延長症候群の患者
  • 心筋抑制のある麻酔薬(シクロプロパン等)を投与中の患者
  • アミオダロン(注射)、バルデナフィルモキシフロキサシントレミフェンフィンゴリモドを投与中の患者
  • 製剤成分に対する重篤な過敏症の既往歴の有る患者

副作用

日本で重大な副作用とされているものは、ソタロールの催不整脈作用に因る心室細動(0.2%)、心室頻拍(1.0%)、トルサード・ド・ポアント(0.2%)、洞停止(0.3%)、完全房室ブロック(0.1%)、心不全(1.3%)、心拡大(0.2%)である[7]

日本の添付文書では発現率3%を超える副作用は無いとされている[7]が、米国の添付文書では発現率10%を超える副作用として、疲労眩暈立ち眩み英語版頭痛無力症英語版嘔気呼吸困難徐脈動悸胸痛が挙げられている。これらの副作用は、用量依存的に増加する[1]

稀に、ソタロールが誘発するQT延長症候群が生命を脅かすトルサード・ド・ポワント(TdP)に繋がる事が有る。幾つかの臨床試験を纏めると、ソタロールを服用した上室性不整脈(心房細動等)患者の0.6%でTdPが発生している[1]心室頻拍(30秒以上の不整脈)の既往が有る患者では、TdPの発生率は4%である。発生率は、高用量、女性、心肥大又は心不全の履歴の有る患者 で高かった[1]。TdPの発生率は、持続性心室性頻拍の患者で見ると、80mg/日で0%、160mg/日で0.5%、320mg/日で1.6%、640mg/日で5.8%であった[1][※ 1]。このリスクの為、米国FDAはソタロールの投与開始時又は投与再開時に最低でも3日間入院させて継続的心電図モニタリングを実施し、且つ蘇生に備える様に求めている[1]

  1. ^ 日本で認められている最高投与量は320mg/日迄。

作用機序

β-遮断作用

ソタロールはβ1-受容体とβ2-受容体を非選択的に両方ブロックし、刺激リガンドに因る受容体の活性化を阻害する[2]。リガンドが受容体に結合出来ない事で、受容体に関係するG蛋白質複合体が活性化されず、cAMPが産生されず、カルシウム流入チャネルが開かれない[9]カルシウムチャネルの活性化が減少すると、細胞内カルシウム濃度が低下する。心筋細胞ではカルシウムは、収縮の電気信号並びに心筋収縮力を生成する上で重要な役割を果たす<[10]。カルシウムのこの重要性を鑑みるに、2つの結論が導かれる。1つ目は、細胞内カルシウムが少ない事で収縮の為の電気信号が弱くなり、心臓の自然のペースメーカー機能が働いて不整な収縮を改善する事[4]、2つ目は、カルシウム濃度が低い事で心筋収縮の長さと頻度が減弱し、異常な頻脈を是正する事である[4]

III群抗不整脈作用

ソタロールはカリウムチャネルにも作用し、心室の弛緩を遅延させる[3]。カリウムチャネルのブロックに因り、ソタロールは細胞外へのK+の流出を妨げ、心室筋細胞が収縮する為の次の電気刺激を発生させる事が出来る迄の時間を延長する[10]。この間隔延長は、心室の早発性又は異常な収縮の可能性を低下させることで不整脈を修正する為に役立つだけでなく、心室収縮の間隔を長くして頻脈の治療をサポートする。

開発の経緯

ソタロールが最初に化学合成されたのは1960年であった[11]。当初は高血圧治療薬及び狭心症治療薬として認識されていた[12]。英国及びフランスで1974年に、ドイツで1975年に、スウェーデンで1979年に発売された[12]。日本では1999年1月である[7]。1980年代に抗不整脈作用が発見され[12]、米国で1992年に承認された[13]

参考資料

  1. ^ a b c d e f g h i U.S. Food and Drug Administration (2009年7月). “Sotalol: Full Prescribing Information”. 2015年4月23日閲覧。
  2. ^ a b c Bertrix L, Timour-Chah Q, Lang J, et al. (1986-05). “Protection against ventricular and atrial fibrillation by sotalol.”. Cardiovasc Res. 20 (5): 358-63. PMID 3756977. 
  3. ^ a b Edvardsson N, Hirsch I, Emanuelsson H, et al. (1980-10). “Sotalol-induced delayed ventricular repolarization in man.”. Eur Heart J. 1 (5): 335-43. PMID 7274246. 
  4. ^ a b c Antonaccio M, Gomoll A (1993-08-12). “Pharmacologic basis of the antiarrhythmic and hemodynamic effects of sotalol.”. Am J Cardiol. 72 (4): 27A-37A. PMID 8346723. 
  5. ^ Dorian P, Newman D (1993-08-12). “Effect of sotalol on ventricular fibrillation and defibrillation in humans.”. Am J Cardiol. 72 (4): 72A-79A. PMID 8346730. 
  6. ^ a b c d e f g h i j k Sotylize: Full Prescribing Information”. Drugs@FDA. U.S. Food and Drug Administration (2014年10月). 2015年10月16日閲覧。
  7. ^ a b c d e ソタコール錠40mg/ソタコール錠80mg 添付文書” (2012年3月). 2015年10月16日閲覧。
  8. ^ Waldo A, Camm A, deRuyter H, Friedman P, MacNeil D, Pauls J, Pitt B, Pratt C, Schwartz P, Veltri E (1996). “Effect of d-sotalol on mortality in patients with left ventricular dysfunction after recent and remote myocardial infarction. The SWORD Investigators. Survival With Oral d-Sotalol”. Lancet 348 (9019): 7–12. doi:10.1016/S0140-6736(96)02149-6. PMID 8691967. 
  9. ^ Charnet P, Lory P, Bourinet E, et al. (1995). “cAMP-dependent phosphorylation of the cardiac L-type Ca channel: A missing link?”. Biochimie. 77 (12): 957-62. PMID 8834778. 
  10. ^ a b Kassotis J, Sauberman RB, Cabo C, et al. (2003-11). “Beta receptor blockade potentiates the antiarryhthmic actions of d-sotalol on re-entrant ventricular tachycardia in a canine model of myocardial infarction.”. J Cardiovasc Electrophysiol. 14 (11): 1233-44. PMID 14678141. 
  11. ^ Hara, Takuji (2003). Innovation in the Pharmaceutical Industry: The Process of Drug Discovery and Development. Edward Elgar Publishing. p. 47. https://books.google.com/books?id=aYP-AQAAQBAJ&pg=PA47 
  12. ^ a b c Anderson, J. L., Askins, J. C., Gilbert, E. M. (1986). “Multicenter trial of sotalol for suppression of frequent, complex ventricular arrhythmias: a double-blind, randomized, placebo-controlled evaluation of two doses”. Journal of the American College of Cardiology 8 (4): 752–762. doi:10.1016/S0735-1097(86)80414-4. 
  13. ^ Fernandes, C. M., & Daya, M. R. (1995). “Sotalol-induced bradycardia reversed by glucagon”. Canadian Family Physician 41: 659–60, 663–5. PMC 2146520. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2146520/pdf/canfamphys00086-0125.pdf.