ガメラ対大悪獣ギロン

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ガメラ対大悪獣ギロン
Gamera vs. Guiron
監督 湯浅憲明
脚本 高橋二三
製作 永田秀雅
出演者 加島信博
クリストファ・マーフィー
笠原玲子
イーデス・ハンソン
甲斐弘子
船越英二
大村崑
音楽 菊池俊輔
主題歌ガメラマーチ
大映児童合唱団
撮影 喜多崎晃(本編)
藤井和文(特撮)
編集 宮崎善行
製作会社 大映
公開 日本の旗 日本 1969年3月21日
上映時間 82分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
前作 ガメラ対宇宙怪獣バイラス
次作 ガメラ対大魔獣ジャイガー
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ガメラ対大悪獣ギロン』(ガメラたいだいあくじゅうギロン)は、大映東京撮影所が製作し、1969年(昭和44年)3月21日に公開された日本の特撮映画作品。「ガメラシリーズ」の第5作。

カラー、大映スコープ、82分。同時上映は『東海道お化け道中』。


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


あらすじ

世界各地の天文台で、宇宙からの規則性のある電波が観測されていたが、天文学者の志賀博士は記者会見で他天体からのものかどうかという記者たちの質問を否定した。ある夜、明夫とトムは天体望遠鏡で星を見ていると、円盤のようなものを目撃する。翌日、裏山[1]に円盤を探しにいった明夫とトムは円盤を見つけたが、乗り込んだと同時に円盤が飛び立ち、宇宙へと連れ去られてしまう。それをガメラが追ってきたが、円盤は徐々に速度を増し、成層圏を超えて、ついにガメラを振り切ってしまう。

円盤が到着したのは、地球よりも文明が発達した惑星であった。明夫とトムは人を探すが、目の前に宇宙ギャオスが現れる。ギロンによってギャオスは倒されたが、ギロンは明夫たちにも迫る。何とか建物の中に逃げ込んだ明夫たちの前に、バーベラとフローベラと名乗る宇宙人が現れた。彼女達は明夫たちを地球に行く間の保存食にしようと企んでいた。そこへ子供の味方であるガメラが現れた。

概要

湯浅憲明監督の「子供を主役にした冒険映画」志向がさらに進んだ、ガメラが初めて宇宙の他天体を舞台に活躍する作品。前作『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』(1968年)より、新作ガメラ映画のアメリカでの公開は、土曜日の子供向けテレビ番組放送枠内での放映を前提とした契約となった。本作はそのアメリカテレフィーチャー用ガメラ映画第2弾である。「宇宙映画ブーム」となっていた当時のアメリカ興行側の要望に沿い、AIP映画が1950年代に量産した「怪獣惑星もの」、「キャンプ映画」の趣向が採り入れられた作劇となっている。脚本題名は『ガメラ対大悪獣X』。

前年の『メキシコシティオリンピック』にちなんで(予告編では「宇宙の果ての怪獣オリンピック!」と煽り文句が入る)、ガメラも鉄棒競技よろしく「月面飛び」などのウルトラC技を披露する(予告編では「あっと驚くウルトラG!」と表記)。ホリゾント前でのこのミニチュア撮影は、尺を伸ばすための工夫だった。ガメラがギロンの手裏剣を、岩で受け止めてかわすシーンは、同社の人気シリーズ『座頭市』そっくりである[2]

湯浅は前年の『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』で、本社の経営不振から予算を1/3に減額され、スタッフ一同「これが最後のガメラ映画だ」と、工夫と苦労を重ねてこれを完成させた。「まさか次回作があるとは誰も考えていなかった」という。しかし『対バイラス』は大ヒット。はたして湯浅の「またこの予算で、次回作を作らされるのではないか」との心配は的中し、翌年、この『ガメラ対大悪獣ギロン』が制作されることとなった。湯浅は「映画がヒットして困ったなと思ったのは、これが初めてだった」と語っている。また本社からは年2作のシリーズ制作を持ちかけられたが、さすがに準備進行に無理があり、湯浅監督はこれを断っている。

冒頭に使われる天体写真は、アメリカでのセールスの際の権利関係を考慮して、ソ連で撮られた写真を購入して使用している。日本では角川映画が版権を継承したが、米国では大映の倒産に伴う正当な版権継承者と認められなかったことからパブリックドメインとされた(他のいくつかの大映作品も同様)。英語版を参照。

登場キャラクター

ガメラ

本作用に、エキスプロによって新造されたもので、『大怪獣ガメラ』、『対バルゴン』に引き続く、3代目に当たる[3]。甲羅や頭が先代までより平たく、それまであった「肩」がタイル状の甲羅で覆われて無くなったのが一番の特徴である。

映画のクライマックスでは大車輪を披露し、ラストでは宇宙円盤を口からの火炎で溶接して修理するという芸当を見せる。

大悪獣ギロン

  • 身長:85メートル
  • 体重:110トン

フローベラとバーベラに制御されていた出刃包丁に似た巨大な頭部を持つ四足歩行生物。刃物状の部分は絶大な硬度と鋭い切れ味を誇り、ガメラの甲羅に斬りつけ出血させ、宇宙ギャオスの超音波メスを跳ね返す。惑星テラの住人が、宇宙ギャオス対策のために生み出した一種の生物兵器である。有事の際には、人工の川の水が逆流して干上がり、川床に有るハッチが開いて解き放たれ外敵を迎撃する。

頭部両脇の孔が開いて、自分の意思でコントロール可能な十字手裏剣を射出する。この十字手裏剣の武器は湯浅監督のアイディアで生まれたもの。ただしこの発射孔はその部分だけ皮膚が弱く、弱点でもある。跳躍力にも秀でており、背面跳びで後方のガメラを返り討ちにしている。前足の掌部分には強力な吸盤があり、物を吸い寄せることが出来る。

初戦では宇宙ギャオスを倒し、頭部の刃物で四肢を解体した後[4]、捕食しようとするがその肉が臭かったらしく、手を出さずに死体を放置した。その後彼女らに殺されそうになった子供達を助けに来たガメラと戦闘。手裏剣攻撃でガメラの頭部を傷つけ昏倒させた。しかし、復活したガメラと再戦するも、ひっくり返されて頭が地面に刺さって動けなくなったところに事前に放たれていたミサイルが手裏剣発射孔に突き刺さり、そこにガメラの火焔を受けて爆散した。

四つ足怪獣としては珍しく尻尾を持たず、公開当時の雑誌掲載イラストなどには誤って尻尾が描かれたものがあった。劇中では刃物状の頭部を強調する演出が多用され、下半身は意図的に画面に映さないよう工夫されている。また、デザイン画では二足直立の怪獣として描かれており、映画の製作発表会での写真でも二足直立して、宇宙ギャオスを踏んでポーズをとっている。

ギロンの美術・造形

ギロンのデザインは前作まで担当した井上章が大阪万博の仕事で腰を痛めたため、矢野友久が代わって行い、井上がまとめる形となっている。矢野は演技者が横向きに入る、湯浅監督によると「ヒラメのような怪獣」を考えていたが、演技の際の支障があって実現しなかった。井上章はそれまで敵怪獣のデザインは「生物的にと念頭に置いてきた」とコメントしていて、これと相反したような「生物」からかけ離れたギロンのデザインについては、「とにかく凄い怪獣にしようとスタッフで話し合い、全身を武器にとの発想が出てきて、刃物の頭に身体を着けたらギロンが出来た。もう生物じゃありませんよ、発想が武器から入っているから。だから目に見える武器を持っているのもギロンだけなんです」と語っている。井上はシリーズを振り返って、「一番好きな作品」として本作を挙げている。

ぬいぐるみは、シリーズで特殊造形を担当してきたエキスプロが韓国映画『大怪獣ヨンガリ』の怪獣造形にかかりっきりだったため、開米プロによって造型された。小型の精巧な操演用ミニチュアも造られた。

名前は前作のバイラスに引き続き、講談社の『少年マガジン』、『週刊ぼくらマガジン』誌で公募された。ギロンが宇宙ギャオスを切り刻むシーンで、湯浅監督はギロンに、切り刻んだギャオスの肉をかいで「くせえ、くせえ」という鳴き声[5]を、エフェクトをかけた音声で吐かせている。強敵ギャオスがあっさりとギロンに負けたこのシーンは、「観客の子供達の不評を買った」と監督が述懐していて、残虐描写に関しては「いまだに気が引ける」とも語っている。鳴き声は、1973年に大映スタジオで撮影されたテレビ特撮ドラマ『ファイヤーマン』(円谷プロ、日本テレビ)に登場した怪獣「スコラドン」に流用されている。『ガメラ対大魔獣ジャイガー』、『宇宙怪獣ガメラ』にライブフィルムで登場。

宇宙ギャオス

氷河期に入りつつある第十番惑星テラで繁殖し、勢力を伸ばしている。1匹はギロンに始末されたが、『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年)で作られた操演用ミニチュアを使い、このあとも画面に多数登場している。

ぬいぐるみは『ガメラ対ギャオス』で羽根を拡げたタイプと畳んだタイプの二体作られたもののうち、前者を流用している。湯浅監督によると、「倉庫にギャオスのぬいぐるみが残っていたので、銀色に塗り直して使った」そうである。小型の操演用ミニチュアも塗り直されて使用されている。

第十番惑星

太陽を介して地球と正反対の位置を公転軌道している「反地球」であり、バーベラ、フローベラは「テラ」と呼んでいる。コンピューターによって気候を調節して、地球よりも高度な文明を築いたが、コンピューターの不調により宇宙ギャオスなどの怪獣が出現し、さらに気候変動による食糧不足に見舞われたため、バーベラとフローベラを残して全滅してしまった。

ドーム状の大型の建造物が散在し、それらを電送ユニットが中継ポイントをつないでいて、一瞬でこれらを経由しながら移動することが出来る。バーベラやフローベラのいたコントロールセンターでは、人工の川の水を逆流させたり、そこからギロンを出動させることもできる。大気の成分は地球と似たようなものらしく、規模は分からないが海もあり、ガメラとギロンはこの海中でも激しい戦いを交わしている。

湯浅監督によると、コントロールセンターのセットは低予算を受け、ビニールチューブや安い素材のものを探してきて作ったもので、本編だけでなくこういったセットにも低予算ならではの趣向や工夫を凝らしたという。

バーベラ、フローベラ

「第十番惑星テラ」の住民である宇宙人女性。翻訳機を使い、日本語で明夫らと会話し、それぞれの名は「鳥のように可愛い」、「花のように美しい」という意味であると説明する。テラが電子頭脳の狂いによって氷河期に陥り始めたため、他の星に移住するために、電波を飛ばした上に唯一残った円盤を飛して明夫とトムをテラへと運んだ。

2人がテラに到着した際、優しく振舞っていたが、実際は明夫らとトムの脳を食べ、地球の知識を得て円盤で地球に移住しようと計画していた。しかし、ガメラの介入と明夫らに計画がばれてしまったため、失敗に終わる。

その後バーベラは、ギロンが円盤を両断した際に負傷して動けなくなり、フローベラに「私達の星では役に立たなくなった時は死ぬことになっている」という理由で射殺され、地上に戻ったフローベラも明夫らが発射したミサイルがギロンの刃によって真っ二つになり、そのミサイルの一方がフローべラのいた建物に命中したために爆発に巻き込まれ死亡する。両者とも死ぬと身体が消滅する。

宇宙円盤

惑星テラから地球人捕獲のために送り込まれた宇宙円盤。大きさはガメラより少し小さいほどで、上部に回転ギミックがついている。無人操縦され、地球とテラを数時間で往復する能力を持っている。

ガメラとギロンの戦いで両断されるが、ガメラはこれを火炎放射で溶接して補修してみせ、ラストでは無事少年たちを地球に送り届けた。

キャスト

当初、主演の明夫役には金子吉延が予定されていたが、多忙で中学校を留年しかけていたため、学業を優先して見送りとなった。金子は「泣く泣く断った」と語っている[6]。『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』で純真な娘役だった笠原玲子が、一転して目張りの濃いメイクを施して、残酷な悪役宇宙人を演じている。

コメディリリーフの巡査役の大村昆は、役名が「近藤」なので、劇中でも「コンちゃん」と呼ばれている。湯浅監督によると、大村は子供好きで、ガメラを観に来た子供たちの印象に残る演技をしようと一生懸命だったという。トムの母親役のイーデス・ハンソンは、アメリカ輸出用に湯浅監督が「英語でしゃべってください」と指示を出すと、「間違った英語はしゃべれないから」と、監督を待たせて台詞を熟考していたという。

湯浅監督は大村昆もイーデス・ハンソンも、「怪獣映画に出る場合は、よっぽど頑張らないとただの怪獣の説明役、引き立て役に終わってしまうということがよくわかっていたのだろう」と語っている。湯浅監督はガメラ映画を撮るときは必ず特撮部分から撮入したといい、「特撮部分でどうしても説明しきれない部分を人間ドラマで補う」というつもりで作っていたと語っている。

スタッフ

この作品から若手の仲野和正がメインプロデューサーとなり、「第十番惑星」のアイディアなどが盛り込まれ、宇宙的指向が強い作品となった。宇宙を舞台にした話作りに関しては、高橋二三は「物語として間口を広げようと思った」とコメントしている。

《特殊技術》

主題歌

映像ソフト化

  • レーザーディスク
    1986年発売。
  • ビデオ
    1991年発売。
  • DVD
    2001年10月11日発売の「ガメラTHE BOX(1969-1980)」に収録されており、単品版は2007年10月26日発売。2006年8月31日発売の「ガメラ 生誕40周年記念Z計画 DVD-BOX」に収録されている。
  • Blu-ray
    2009年7月24日発売の「昭和ガメラ ブルーレイBOXII」に収録されており、単品版も同時発売。

脚注

  1. ^ 多摩川の土手で撮影された。
  2. ^ 『ガメラ画報』(竹書房)
  3. ^ 『強いぞ! ガメラ』(徳間書店)
  4. ^ この宇宙ギャオスを切り刻むシーンは、海外では「残酷だ」という理由でカットされている。
  5. ^ 録音部のスタッフが台詞を入れた
  6. ^ 『赤影大辞典』(たちばな出版)

関連項目

  • 『ともだち 小さき勇者たち 〜ガメラ〜』
蕪木版ノベライズ本。「Gギロン」が登場する。
本編にギロンの姿を模した包丁が出てくる。

参考文献

  • 『ファンタスティックコレクションNO13 世紀の大怪獣ガメラ』(朝日ソノラマ)
  • 『ガメラ大怪獣図鑑』(徳間書店)
  • 『ガメラクロニクル』(ソニーマガジン)
  • 『ガメラを創った男―評伝 映画監督・湯浅憲明』(アスペクト)
  • 『ガメラ画報』(竹書房)
  • 『ガメラから大魔神まで 大映特撮映画のすべて』(近代映画社)