エノコログサ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。110.66.31.212 (会話) による 2012年5月18日 (金) 11:37個人設定で未設定ならUTC)時点の版であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

エノコログサ
Setaria viridis
Setaria viridis
千葉県2008年7月13日
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
階級なし : ツユクサ類 Commelinids
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
亜科 : キビ亜科 Panicoideae
: キビ連 Paniceae
: エノコログサ属 Setaria
: エノコログサ S. viridis
学名
Setaria viridis
L.P.Beauv
シノニム

Setaria viridisL.P.Beauv. subsp. minorThunb.T.Koyama
Setaria viridisL.P.Beauv. var. minorThunb.Ohwi
Panicum italicum
Panicum flavum
Chaetochloa italica

和名
エノコログサ(狗尾草)、ネコジャラシ
英名
green bristlegrass
亜種変種品種

エノコログサ(狗尾草、学名Setaria viridis[1])は、イネ科エノコログサ属植物で、1年生草本である。ブラシのようにの長いの形が独特な雑草である。

からにかけてつける花穂が、に似ていることから、犬っころ草(いぬっころくさ)が転じてエノコログサという呼称になったとされ、漢字でも「狗(犬)の尾の草」と表記する。ネコジャラシ(猫じゃらし)の俗称は、花穂を視界で振ると、猫がじゃれつくことから。

分布

日本全土に分布する。

特徴

草丈は40-70cmになる。は細く、基部は少し地表を這い、節からを下ろす。夏にはが立ち上がって伸び、先端に穂をつける。

匍匐茎にも花茎にも多数ついており、最大20cm位、イネ科としてはやや幅広く、細長い楕円形、薄く、緑色つやがない。茎を包む葉鞘と、葉身の境目につく葉舌は退化して、その部分に毛だけが残る。また、よく葉が裏表逆になっている。葉の付け根でねじれて、裏側が上を向くもので、そのような葉では、上を向いた裏側の方が濃い緑でつやがあり、下を向いた表側の方が、裏のような様子になる。

花序円柱形で、一面にがつき、多数の毛が突き出すので、外見はブラシ状になる。イヌビエなどの穂から出る毛は、小穂を包む鱗片()の先端から伸びるであるが、エノコログサの場合、この毛は芒ではなく、小穂の柄から生じる長い突起である。

小穂の構造

エノコログサの小穂は、果実が熟すると、一個の種子(実際には果実)を鱗片が包んだものに見える。小穂の中には花は1つしかない。しかし、本来は2つの小花があるべきもので、そのうち1つが退化したものと解釈されている。

穂の軸から出る、短い柄の先に、普通は1個の小穂がつく。第一包穎は背が低くて横長で、表側の基部を包む。第二包穎第三穎と共向き合って小花を包んでいる。その内側には護穎内穎に包まれた花がある。本来は、第三は消失した小花の護穎であったもので、小花の消失とともに内穎もなくなったものである。

利用

現在は、一般的に食用としては認識されていないが、原種であるので食用に使える。若い葉と花穂は軽く火であぶり、醤油などで味付けしたり(風味ポップコーンに酷似)、天ぷらにしたりして食べられる。ただし、終戦直後大量に食べて中毒を起こした学者がいる。近代以前の農村では、酷い飢饉の際にカラスムギなどと共にこれを食用としたこともあった。オオエノコロは粟の遺伝子が流入しているので食用に供しやすい。

また、猫じゃらしの名の通り、これを用いて猫をじゃらすことができる。

変異

エノコログサはさまざまな所に生え、そのためもあってか種内変異が多い。

ハマエノコロ S. v. var. pachystachys (Fr. et Sav.)
海岸に生える型。違いとしては、背が低く、比較的よく地表を這うこと、茎や葉が短く硬いこと、それに、穂が短くほとんど楕円形で、小穂が密で毛が長く、そのために穂の外見がかなり異なる点が挙げられる。ただし、内陸に入ると次第に普通の型に移行する。
ムラサキエノコロ S. v. f. purpurascens Maxim.
これは特に穂の剛毛に染まるものである。

エノコログサ属

エノコログサ属学名Setaria)の特徴は、先に述べたような小穂円錐花序につけるものである。また、小穂のつく枝に刺状の突起をもつ。世界に約100が知られる。日本にある同属の種は7種ばかりある。

エノコログサ Setaria viridis P. Beauv.
アワ Setaria italica Beauv.
エノコログサ最大の変異である。別種として扱われているが、エノコログサを元に作り出されたものと考えられている。エノコログサに比べると、高さは1mを越え、花序の長さは20cmにもなる。また、熟しても果実が簡単にはこぼれず、これは収穫をたやすくしている。かつては日本でも広く栽培された。
オオエノコロ Setariapycnocoma (Steud.) Henrard ex Nakai
アワとエノコログサとの雑種。エノコログサに似るが、穂が一回り大きく、また、エノコログサでは穂の軸の枝に小穂が一つずつつくのに対して、その枝に複数の小穂がついて、円錐花序になる点が異なる。畑地に時折見かけられる。
アキノエノコログサ Setaria faberi Herrm.
エノコログサに最もよく似ているが、やや毛が多く、穂が細長くて垂れることなどが外見上の相違点である。小穂を見れば、エノコログサでは第二穎が小穂の長さと同じで、小花が隠れるのに対して、この種では第二穎が短く、小花が半分顔を出す。そのため、この両者は別種とされている。
ザラツキエノコロ Setaria. verticillata (L.) Beauv.
穂の剛毛に細かい逆棘があって、さわると非常にざらつくのが特徴である。群生しているところでは、穂が互いに絡み合っているのが見られる。
キンエノコロ Setaria glauca L.
やや細い穂を出す。穂は長さ3-10cmで直立し、茎や葉には毛がない。穂からでるブラシ状の毛が金色をしているのが名前の由来である。北半球温帯に広く分布し、日本でもほとんど全土に普通に見られる。
コツブキンエノコロ Setaria pallide-fusca (Schumch.) Stapf et C. E. Hubb.
キンエノコロに似て、小穂が一回り小さい。北半球の温帯に広く分布し、日本でもほとんど全土に普通に見られる。
イヌアワ Setaria chondrachne (Steud.) Honda
日本の本州から九州木陰にはえる多年草で、夏から秋にかけてまばらな円錐花序をつける。
ササキビ Setaria palmifolia (Koenig) Stapf
木陰にはえる多年草で、葉が幅広く、多数の縦じわがあって、ちょっとシュロの葉を思わせる。九州以南にあり、広くアジアの熱帯域に分布する。やはりまばらな円錐花序をつける。

参考文献

  • 平野隆久写真『野に咲く花』林弥栄監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、1989年、568頁。ISBN 4-635-07001-8 
  • 木場英久・茨木靖・勝山輝男『イネ科ハンドブック』文一総合出版、2011年、110頁。ISBN 978-4-8299-1078-8 

脚注

  1. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). “「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)”. 2011年8月22日閲覧。

関連項目

外部リンク