あくび

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あくび中の新生児

あくび英語: yawn、欠伸、呿呻、呿)は、眠たいときなどに不随意に(反射的に)起こる、大きくを開けて深く息を吸う呼吸動作である。

概要

あくびが出やすいのは、覚醒と睡眠の境界から覚醒に向かうときである[1]。具体的には以下のようなときに起こる。

  • 眠いとき。過度に疲れているとき
  • 退屈なとき
  • 極度の緊張状態
  • 寝起き

また、偏頭痛発作の予兆期ならびに頭痛期の症状のひとつでもある[2]

あくびは哺乳類以外にも爬虫類鳥類などにも起こることが知られている。このことや、室傍核という脳の中でも原始的な部分の働きによるため、発生学的に古い行動だと考えられている[1]

出かかったあくびを無理に止めること、転じて退屈であるのを我慢することを「あくびを噛み殺す」という。いくつかの文化においては、人前であくびをするのは無礼なこと、又は失礼なことと考えられ[3][4]、あくびをするときに口の前に手をかざしてそれを隠そうとする。

あくびを止めるには上唇を舌で舐める、舌で前歯の裏側を押しつける[5]などの方法がある。

またあくびをするとき口を大きくあけ過ぎるとを外す危険がある[6]

原理

あくびをする人を描いた絵画。

室傍核オキシトシン神経からあくび指令シグナルは発せられる[1]。あくびの際に、顔面、四肢や体幹の伸展、分泌を伴うことが多い。

あくびの生物学

あくびをするネコ
あくびをするイヌ

あくびが発生する原因や生物学的意義は、現時点では未解明である。従来、肺での酸素-二酸化炭素交換を高める、顔面のストレッチ、内耳の圧力を外気と調整する、などの仮説が提案されてきた。より最近の学説としては、あくびは体温の調節に使われるという説もある。オルバニー大学ゴードン・G・ギャラップ英語版らによれば、あくびは脳の温度を調節する働きがあるかもしれないという[7]

あくびは、感情の調節などにも関与する神経伝達物質によって引き起こされることもある。例えば、ドーパミンセロトニンアセチルコリン受容体などの刺激によりあくびが引き起こされる[8]。セロトニン系の働きを促進する抗うつ薬の一種であるパロキセチンを服用した患者は、異常に多い回数のあくびをする場合がある。 反対に、エンドルフィンのような脳内麻薬(オピオイド)の働きによって、あくびの発生が抑えられるという研究がある。

あくびは「うつる (伝染する)」ことが知られている。英語ではこの特徴は「共鳴的 (sympathetic)」あるいは「伝染性 (contagious)」と呼ばれているが、この原因もよくわかっていない。最近の研究では、これは集団的な直感 (herd instinct) であるという説[9]や、群居性の動物のあいだで眠る時間を互いに知らせるためのシグナルになっているという説[10]がある。また、あくびは違う種のあいだでも伝染する[11] (イヌの前であくびをしてみるとよい)[12]。2007年に行われた研究によれば、自閉的傾向をもつ子供は通常の子供とは違って、他人があくびをするビデオを見せてもあくびをしないという[13]

古代ギリシャでは、あくびは人間の魂が天に向かって逃げようとしているときに起こるのだと信じられていた。 あくびをするとき、口に手をあてるのは、『魂を逃がさないようにする為だった』と言われている[14]

語源

日本語の「あくび」はあくびをする意の古語動詞「あくぶ」の連用形が名詞に転じたものであるが、その語源は諸説あって不明である。

また、という漢字は本来、口を大きく開ける動きを文字化した象形文字である[注釈 1]。あくびを「欠伸」とも書くが、これは口を開けて伸びる、つまりあくびをする際の伸び(pandiculation)をする動作にも着目した語である。

脚注

注釈

  1. ^ 「あくび」という意味を持つ「欠」(ケン)と「不足する、かける」という意味を持つ「欠」(ケツ、「缺」の新字体)は本来まったく別の字である。新字体#既存の字との衝突も参照。

出典

  1. ^ a b c 北村昌陽 (2012/12/2 6:30). “性のメカニズムと関係も? 「あくび」のヒミツ : 働きもののカラダの仕組み”. NIKKEI STYLE. 日本経済新聞: p. 2. https://style.nikkei.com/article/DGXNASFK2702Y_X21C12A1000000 
  2. ^ 片頭痛発作の経過”. スッきりんのバイバイ頭痛講座. 片頭痛って?. ファイザー製薬. 2018年5月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年5月17日18:45閲覧。
  3. ^ 小野地健「身体音と声の体系的分析への予備考察:クシャミ・咳・あくび・屁」『年報非文字資料研究』第6号、神奈川大学日本常民文化研究所 非文字資料研究センター、2010年3月、142-143頁、ISSN 18839169NAID 120006603637 
  4. ^ LEIT. “マナーの悪い観光客は中国人だけ?ヨーロッパで失礼に当たる行為5選”. Compathy Magazine. Wanderlust Inc.. 2018年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月2日閲覧。
  5. ^ 山本常朝葉隠』1716年。 
  6. ^ 授業中にあくびをして開いた口がふさがらなくなった女子高生、友人の手を借りても口を閉じられず病院へ”. GIGAZINE (2011年4月11日). 2016年4月30日閲覧。
  7. ^ Gordon G. Gallup (2007年8月18日). “Good Morning America - The Science of Yawning”. ABC News (USA: ABC). 2007-07-30. オリジナルの2008年4月15日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080415100420/https://abcnews.go.com/GMA/Story?id=3425960&page=1 
  8. ^ Argiolas, Antonio; Melis, Maria Rosaria (1998-02-05). “The neuropharmacology of yawning” (英語). European Journal of Pharmacology 343 (1): 1–16. doi:10.1016/S0014-2999(97)01538-0. ISSN 0014-2999. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0014299997015380. 
  9. ^ Schürmann, Martin; Hesse, Maike D.; Stephan, Klaas E.; Saarela, Miiamaaria; Zilles, Karl; Hari, Riitta; Fink, Gereon R. (2005-02-15). “Yearning to yawn: the neural basis of contagious yawning” (英語). NeuroImage 24 (4): 1260–1264. doi:10.1016/j.neuroimage.2004.10.022. ISSN 1053-8119. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811904006287. 
  10. ^ Anderson, James R.; Myowa–Yamakoshi, Masako; Matsuzawa, Tetsuro (2004-12-07). “Contagious yawning in chimpanzees”. Proceedings of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences 271 (suppl_6): S468–S470. doi:10.1098/rsbl.2004.0224. PMC PMC1810104. PMID 15801606. https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2004.0224. 
  11. ^ ライオンのあくびの伝染、「集団の強化」がその理由 最新研究”. ナショナルジオグラフィック日本版. p. 3 (2021年4月7日). 2021年4月10日閲覧。
  12. ^ Vilayanur Ramachandran. “Mirror Neurons and imitation learning as the driving force behind "the great leap forward" in human evolution”. 2006年11月16日閲覧。
  13. ^ Senju A, Maeda M, Kikuchi Y, Hasegawa T, Tojo Y, Osanai H (2007). “Absence of contagious yawning in children with autism spectrum disorder”. Biol Lett. doi:10.1098/rsbl.2007.0337. PMID 17698452. 
  14. ^ 藤高邦宏「英米文化の背景「英米人の迷信・俗信」考(1)」『岡山理科大学紀要. B, 人文・社会科学』第28号、1992年、73頁、NAID 120005356567 

関連項目

外部リンク