自己同一性

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自己同一性(じこどういつせい、セルフ・アイデンティティ、: self identity)とは、自分は何者であり、何をなすべきかという個人の心の中に保持される概念。自我同一性(じがどういつせい、: Ego Identity)と最初は言われ、後に自己同一性とも言われるようになった。時にはアイデンティティもしくは同一性とだけ言われる事もある。エリク・エリクソンによる言葉で、青年期発達課題である。

概要[編集]

青年期は、「自分とは何か」「これからどう生きていくのか」「どんな職業についたらよいのか」「社会の中で自分なりに生きるにはどうしたらよいのか」といった問いを通して、自分自身を形成していく時期である。そして、「これこそが本当の自分だ」といった実感のことを自我同一性と呼ぶ。

エリクソンによる正確な定義は様々に存在しているが、アイデンティティ獲得の正反対の状態として、役割拡散や排除性が挙げられている。アイデンティティが正常に発達した場合に獲得される人間の根本的な性質としてエリクソンは「忠誠性」を挙げている。この忠誠性は様々な社会的価値やイデオロギーに自分の能力を捧げたりする事の出来る性質である。これが正常に獲得されないと、自分のやるべき事が分からないまま日々を過ごしたり、時には熱狂的なイデオロギー(カルト宗教や非行など)に傾いてしまうと考えられている。

自我同一性を獲得するために社会的な義務や責任を猶予されている準備期間をモラトリアムと言うが、これはアイデンティティが確立するまでの猶予と言う意味を表しているに過ぎず、エリクソン自身は青年が様々に葛藤したりする戦いの時期として捉えていた。そのためモラトリアムと言っても当事者自身はアイデンティティ獲得のために心の中で戦っているような様を思い浮かべるのが正しいであろう。この時期に青年はそれまでに獲得してきた様々な自己の部分を整理しなおす。その結果、青年には適切に選ばれた忠誠を誓えるような対象と自己の活動が残り、また否定的な部分は捨てられてアイデンティティとして確立する。

エリクソン自身の問題[編集]

この概念は、エリクソン自身が、その生涯を通して自らのアイデンティティーに悩んだことから、生み出されたとされている。ローレンス・J・フリードマン著『エリクソンの人生』によると、エリクソンはユダヤ系の母親の初婚の相手との間の子で金髪碧眼であり、再婚相手のドイツ人医師の風貌とは似ても似つかない容姿であった。そのために自らインポテンツに悩んだという。実は、母の初婚の相手との結婚生活はごく短期間で、エリクソンはその間の母親の不倫相手との間の子どもであったらしい。実の父は写真家であったらしいが、エリクソンの晩年に至るまで存命だった母親は、終生ことの真相を明らかにしなかったという。自分は誰で、どこにその存在の根を持っているのかという疑問が、彼の自らの心の探求の原点になった。

同一性拡散の問題[編集]

自我同一性がうまく達成されないと、「自分が何者なのか、何をしたいのかわからない」という同一性拡散の危機に陥る。同一性拡散のあらわれとして、エリクソンは、対人的かかわりの失調(対人不安)、否定的同一性の選択(非行)、選択の回避と麻痺(アパシー)などをあげている。またこの時期は精神病神経症が発症する頃として知られており、同一性拡散の結果として、これらの病理が表面に出てくる事もある。

自我同一性は青年期だけの問題ではなく、中年期老年期において何度も繰り返して再構築されるものなので、上手く行けばアイデンティティは構築されたまま人は過ごす事が出来るが、上手く行かない人は人生において何度もこの同一性拡散を経験して、二次的に精神病理にまで落ち込んだり、人生の停滞を経験する事となる。

参考文献[編集]

  • E.H.エリクソン 『自我同一性―アイデンティティとライフサイクル』 誠信書房 1973年
  • E.H.エリクソン 『アイデンティティ 改訂―青年と危機』 金沢文庫 1982年
  • E.H.エリクソン 『老年期―生き生きしたかかわりあい』 みすず書房 1997年
  • リチャード・I・エヴァンス 『エリクソンは語る―アイデンティティの心理学』新曜社 1981年
  • ローレンス・J・フリードマン 『エリクソンの人生』新曜社 2003年
  • 長谷川寿一ほか 『はじめて出会う心理学』有斐閣 2000年

関連項目[編集]