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[[ファイル:Coloured, textured craft card.jpg|thumb|right|色画用紙(工作用紙)]]
'''画用紙'''(がようし)とは、おもに学童が[[絵画|絵]]を書いたり[[工作]]の材料とする[[紙]]。[[白]]無地が一般的であるが、全面に彩色されたものは'''色画用紙'''(いろがようし)または'''カラー画用紙'''と呼ばれ、[[POP広告]]などにも用いられる。
'''画用紙'''(がようし、{{lang-en-short|drawing paper}})とは、[[図画]]の[[支持体]]に用いられる厚手の[[洋紙]]である。[[白]]無地が一般的であるが、着色紙で作られた'''色画用紙'''(いろがようし、{{lang-en-short|construction paper}})もある。[[カード]]類や[[ペーパークラフト]]などの[[工作]]・[[手芸]]の材料にも使われる。


== 紙としての特徴 ==
== 歴史 ==
文献上ヨーロッパにおいて画用紙({{en|drawing paper}})の語が現れるのは18世紀末であるが<ref>Burns, et al. 1990, p. 46.([[#参考文献]])</ref>、それ以前から図画に紙は使われていた。[[麻 (繊維)|麻]]ぼろなどを原料とする製紙技術が中国から西周りにヨーロッパへ伝わるのは11世紀頃であるが、それ以前から存在する[[羊皮紙]]と比べ水分との相性が良く、[[淡彩]]のような絵画技法も紙によって成立する<ref>荒木豊, [https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/75/9/75_450/_article/-char/ja/ 絵具講座(第VII講)水彩絵具], ''J. Jpn. Soc. Colour Mater. (色材)'', '''75'''(9), pp. 450-454, 2002.</ref>。画用紙を含む洋紙の製法は、イタリアの[[ファブリアーノ]]における膠[[製紙用薬品#抄紙工程用薬品|サイズ]]の発明(13世紀)、イギリスの{{仮リンク|ジェームス・ワットマン|en|James Whatman (papermaker)}}による均質な地合の{{仮リンク|網目紙|en|Wove paper}}の発明(1757年頃)、[[抄紙機]]や木材[[パルプ]]、[[ロジン]][[製紙用薬品#抄紙工程用薬品|サイズ]]による量産化(19世紀)、中性サイズによる[[中性紙]]化(1950年代-)といった技術的変遷を経て現代の形になる<ref>Karen Garlick, [http://cool.conservation-us.org/coolaic/sg/bpg/annual/v05/bp05-11.html A Brief Review of the History of Sizing and Resizing Practices], ''Book and Paper Group Annual'', Volume 5 1986, American Institute for Conservation.</ref><ref name="RobertsAndEtherington1982">Roberts & Etherington 1982.([[#参考文献]])</ref><ref>小宮英俊, [http://www.jfpi.or.jp/printpia/part3_03.html 紙のはなし], ''ぷりんとぴあ'', 日本印刷産業連合会, pp. 21-23, 2015年11月7日閲覧.</ref>が、高級品では現代も伝統的な製法がとられることがある。日本における洋紙の国産化は[[明治]]以降になるが、それ以前にも[[和紙]]が輸出され[[レンブラント・ファン・レイン|レンブラント]]らが[[版画]]用紙として用いていた<ref>Burns, et al. 1990, p. 52.([[#参考文献]])</ref>。
* 工作や[[消しゴム]]への耐性から、紙面の強度が求められる。
* 白いものの場合は、筆記用具の発色が良く、水彩[[絵具]]や[[墨]]などの水溶性の筆記具に対して適度に滲むよう加工が施されている。また水分を含んだ場合の膨張が押さえられており、書き上げて乾燥した場合のしわも生じにくい。


着色紙は15世紀頃には図画に使われており、原料ぼろの残留[[インディゴ]]色素を含んだ{{en|Venetian blue paper}}({{lang-it-short|carta azzurra}})と呼ばれる青い紙が[[ヴェネツィア]]で製造され、[[ヴェネツィア派]]の画家や影響を受けた[[アルブレヒト・デューラー]]らが[[キアロスクーロ]]素描に用いた<ref>Irene Brückle, [http://cool.conservation-us.org/coolaic/sg/bpg/annual/v12/bp12-02.html Historical Manufacture and Use of Blue Paper], ''Book and Paper Group Annual'', Volume 12 1993, American Institute for Conservation.</ref>。青の他にも夾雑物により黄色や灰色がかった紙が存在し、これらは[[パステル]]画家や[[ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー|ターナー]]のような水彩画家に使われている<ref>Joan Irving, [http://cool.conservation-us.org/coolaic/sg/bpg/annual/v16/bp16-07.html Construction Paper: A Brief History of Impermanence], ''Book and Paper Group Annual'', Volume 16 1997, American Institute for Conservation.</ref>。現代の華やかな色画用紙に近いものが作られるのは、[[合成染料]]が発明される19世紀以後であり、折しも[[フリードリッヒ・フレーベル]]によって提唱された[[幼稚園]]創設の世界的波及を契機に、そこで使われる[[教材]]([[恩物]]とその発展形)として安価な機械パルプ製の学童用色画用紙が作られるようになった。
== サイズ規格 ==
[[四六判]]を全判(788mm×1091mm)といい、全判を四つに切断した四つ切(392mm×542mm)、全判を八つに切断した八つ切(392mm×271mm)などのサイズがある。


== 特徴 ==
== 画用紙のいろいろ ==
[[ファイル:Thomas Girtin - Warkworth Castle, Northumberland - Google Art Project.jpg|thumb|right|カートリッジ紙に描かれた水彩画({{仮リンク|トマス・ガーティン|en|Thomas Girtin}}、''{{en|Warkworth Castle, Northumberland}}''、1798年頃、41.6 cm × 55.2 cm、{{仮リンク|イェール・ ブリティッシュ・アート・センター|en|Yale Center for British Art}})]]
*ラシャ紙
良質なものほど化学[[パルプ]]([[セルロース]]純度が高い)の比率が高く、[[中性紙]]として、経年保存性に配慮して作られる。印刷用紙では平滑性が求められるが、画用紙では(ケント紙など一部の紙種を除いて)逆に適度な紙肌の凹凸が施される。また[[消しゴム]]修正や水性画材への耐性のため、表面の強度、消しやすさ、毛羽立ちにくさが求められる。[[鉛筆]][[素描|デッサン]]などに適する一般的な画用紙は'''画学紙'''(ががくし)とも呼ばれる。海外での類似紙種には{{仮リンク|カートリッジ紙|en|Cartridge paper}}がある。
*ケント紙


'''{{Anchor|ケント紙}}'''は平滑な画用紙で、[[製図]]や[[イラストレーション]]、[[名刺]]等に使用される。[[硬筆]]や[[インク]]との相性が良く、にじみにくさと吸収性を持つ。ケント紙の名はかつてイギリスの[[ケント州]]から輸入されていたことに由来するが、日本でのみ通用する呼称である<ref>[http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000115834 明治から昭和初期の製図用紙について その頃土木製図用紙として使用された洋紙(ワットマン紙他)を製造していた場所。輸入であれば輸入量、国内であればその工場の場所について。], ''レファレンス協同データベース'', 国立国会図書館, 2015年11月7日閲覧.</ref>。国産品は1918年に[[日本海軍]]用の[[海図]]用紙として[[三菱製紙]]で製造されたものを始まりとする。海外での類似紙種には{{仮リンク|ブリストルボード|en|Bristol board}}がある。
== 適する筆記用具 ==

* 絵具
[[水彩]]画に適した'''水彩紙'''は特に厚さがあり、にじみ止めである[[製紙用薬品#抄紙工程用薬品|サイズ]]処理が強く施される。様々な細目・中目・荒目の紙肌を持ち、荒い紙肌ほど吸収性が強い<ref name="Burns1990-p47">Burns, et al. 1990, p. 47.([[#参考文献]])</ref>。高級品では伝統的な製法に倣い、セルロース純度が元来高く繊維が強靭な[[コットン]]繊維(現代では稀であるがコットンぼろも)が用いられ、手漉きに近いモールドメイド(円網[[抄紙機]]を低速に用いるが詳細は企業秘密による)と呼ばれる抄紙法がとられ、膠([[ゼラチン]])による表面サイズが施される。現代の水彩紙の特徴は18世紀後半にイギリスの{{仮リンク|ジェームス・ワットマン|en|James Whatman (papermaker)}}によって製造されたものを始まりとする<ref name="Burns1990-p47" />。
* 墨

* [[鉛筆]]、[[色鉛筆]]
{{See also|水彩#紙}}
* [[クレヨン]]、[[パステル]]

[[ファイル:Paul Gauguin - Reclining Nude - NGA 1990.77.1.a.jpg|thumb|right|簀の目紙に描かれた木炭・パステル画([[ポール・ゴーギャン]]、''{{en|Reclining Nude}}''、1894-1895年、30.6 cm × 62.1 cm、[[ナショナル・ギャラリー (ワシントン)|ナショナル・ギャラリー]])]]
木炭画に適した'''[[木炭紙]]'''は[[簀の子|簀の目]]の[[透かし]]地合を持ち、表面が粗く強靭でやや軽量に作られる。木炭紙としても使われるポピュラーな{{仮リンク|簀の目紙|en|Laid paper}}の紙種には{{仮リンク|アングル紙|en|Ingres paper}}があり、フランスの製紙所{{仮リンク|アルシュ (製紙所)|label=アルシュ|en|Arches paper}}が[[ドミニク・アングル]]と共同開発し、1869年に製造された『{{fr|Ingres d'ARCHES MBM}}』を始まりとする<ref>[http://www.arches-papers.com/the-brand/history/ History], Munksjö Arches, 2015年11月7日閲覧.</ref><ref>[http://www.arjowiggins.com/index.php?option=com_content&view=article&id=50%3Ahistoire&catid=64%3Ahistoire&Itemid=59&lang=en Prestigious historical origins], Arjowiggins, 2015年11月7日閲覧.</ref>。

[[パステル]]画に適した'''パステル紙'''には布目状の紙肌を持つものや、砂などで研磨性の表面加工を施した専用紙があるほか、木炭紙も利用される<ref>Getty Research Institute.([[#参考文献]])</ref><ref>鈴木司, [http://www.amcac.ac.jp/~suzuki/00jiten00aiueo/26ha.html 絵画辞典・は], 秋田公立美術工芸短期大学 鈴木司研究室ウェブサイト, 2004年, 2015年11月7日閲覧.</ref>。パステル画では着色紙がよく使われ、織物の[[ラシャ]]に似た風合いを持つ色画用紙である[[ラシャ紙]]も古くから使われる<ref>[{{NDLDC|851920/37}} 洋画材料品日本画用品明細目録], 大日本絵画講習会, 1909年.</ref>。

== 形状 ==
画用紙は冊子状の[[スケッチブック]]や板状の[[シート]]、筒状に巻いた[[ロール]]などの形状で市販される。スケッチブックにはスパイラル・[[リング綴じ]]のものと[[天糊製本|天糊綴じ]]のものがあり、特に水彩画向けのものでは水分による変形を抑えるよう四方を糊で固めたものがある。また図画用の紙を丈夫な[[板紙]]に張り込んだイラストレーションボードがある。

紙のサイズは[[四六判]]やA列・B列など印刷用紙と共通するものや、F0号など[[キャンバス]]準拠のもの、[[はがき]]サイズなどがある。「四つ切」や「八つ切」はふつう全判をその枚数に断裁したサイズであり、全判のサイズによって異なる。慣習的に海外製の水彩紙には22 × 30 [[インチ|in]](欧米でのインペリアル判相当、時に四捨五入されて560 × 760 mm)<ref>[http://www.strathmoreartist.com/blog-reader/items/determining-paper-weight.html Determining Paper Weight], Strathmore Artist Papers, 2014年11月14日, 2015年11月11日閲覧.</ref><ref>[http://www.stcuthbertsmill.com/advice-centre/?id=5 Paper weights explained], St Cuthberts Mill, 2015年11月11日閲覧.</ref>がよく使われ、木炭紙には日本で木炭紙判とも呼ばれる500 × 650 [[ミリメートル|mm]](フランスでの{{仮リンク|レザン (紙の寸法)|label=レザン|fr|Raisin (format de papier)}}判相当)がよく使われる。

{{Main|紙の寸法|キャンバス#主な寸法}}

紙の厚さはふつう重量で示され、1[[平方メートル]]あたりの重さである[[米坪|メートル坪量]]([[グラム|g]]/m<sup>2</sup>またはgsm)、または全判1000枚(1連)の重さである[[紙#連量|連量]]([[キログラム|kg]])で表される。例えば四六全判は約0.86m<sup>2</sup>であるので、四六判の連量100kgは坪量約116g/m<sup>2</sup>に相当する。

== 適する画材 ==
* [[鉛筆]]、[[色鉛筆]]、[[木炭]]、[[コンテ]]、[[パステル]]、[[クレヨン]]など固形描画材
* [[ペン]]、[[墨]]などインク類
* [[水彩絵具]]、[[アクリル絵具]]など水性絵具

一般の画用紙は専用の水彩紙より水分に弱く、変形を抑えるために[[水張り]]もおこなわれる。

{{Commonscat|Oil on paper|紙に油彩で描かれた絵画}}
[[油絵具]]は含まれる[[脂肪酸]]が紙繊維を劣化させたり、硬化に追従できず紙が割れてしまうことがあり、直接の使用には適さないが、特に厚手で良質な紙に絶縁・[[地塗り]]を施すことで適切に使用できるとされる<ref>[http://www.holbein-works.co.jp/technical_info/2008/10/ha.html ホルベイン 技術情報 Q&A: 油彩用の紙はありますか?], ホルベイン工業, 2015年11月7日閲覧.</ref><ref>[http://www.winsornewton.com/na/discover/tips-and-techniques/oil-colour/choosing-a-surface-for-oil-painting-us Choosing a surface for oil painting], Winsor & Newton, 2015年11月7日閲覧.</ref>。下地処理済みの油彩用紙や紙製のキャンバスボードも存在する。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

== 参考文献 ==
* [http://cc.musabi.ac.jp/zoukei_file/03/sobyo/sozai_shijitai.html 支持体], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年2月14日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E7%94%BB%E7%94%A8%E7%B4%99/ 画用紙], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年2月14日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%83%88%E7%B4%99/ ケント紙], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年11月7日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E6%B0%B4%E5%BD%A9%E7%B4%99/ 水彩紙], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年11月7日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E6%9C%A8%E7%82%AD%E7%B4%99/ 木炭紙], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年11月7日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%81%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF/ スケッチブック], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年11月7日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%89/ イラストレーションボード], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年11月7日閲覧.
* [http://zokeifile.musabi.ac.jp/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%90%E3%82%B9%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%89/ キャンバスボード], 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年11月7日閲覧.
* [http://www.eokaku.com/aid/b01/ 画材の救急箱 基底材の種類 01.水彩画の紙], ''絵を描く.com'', 全日本画材協議会, 2015年11月7日閲覧.
* 王子製紙株式会社販売部, 成田潔英編, [{{NDLDC|1875628}} 紙業提要], 丸善, 1938年.
* Thea Burns, et al., 4. Support Problems, [http://cool.conservation-us.org/coolaic/sg/bpg/pcc/ ''Paper Conservation Catalog''], American Institute for Conservation Book and Paper Group, 1990.
* Matt T. Roberts, Don Etherington, [http://cool.conservation-us.org/don/don.html Bookbinding and the Conservation of books; A Dictionary of Descriptive Terminology], Library of Congress, 1982.
* [http://www.getty.edu/research/tools/vocabularies/aat/ Art & Architecture Thesaurus], Getty Research Institute.


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[模造紙]]、[[自由帳]]
* [[文房具]]
* [[工作用紙]]
* [[原稿用紙#漫画における原稿用紙]]
* [[スケッチブック]]
* [[色紙]]

== 外部リンク ==
* {{YouTube|tKrUMVgyQDI|Mould Made Paper Production - Produzione carta macchina in tondo}} - 水彩紙の抄紙工程の解説映像(約4分、イタリア ファブリアーノ社){{en icon}}


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2015年11月11日 (水) 09:25時点における版

スケッチブック形の画用紙
色画用紙(工作用紙)

画用紙(がようし、: drawing paper)とは、図画支持体に用いられる厚手の洋紙である。無地が一般的であるが、着色紙で作られた色画用紙(いろがようし、: construction paper)もある。カード類やペーパークラフトなどの工作手芸の材料にも使われる。

歴史

文献上ヨーロッパにおいて画用紙(drawing paper)の語が現れるのは18世紀末であるが[1]、それ以前から図画に紙は使われていた。ぼろなどを原料とする製紙技術が中国から西周りにヨーロッパへ伝わるのは11世紀頃であるが、それ以前から存在する羊皮紙と比べ水分との相性が良く、淡彩のような絵画技法も紙によって成立する[2]。画用紙を含む洋紙の製法は、イタリアのファブリアーノにおける膠サイズの発明(13世紀)、イギリスのジェームス・ワットマン英語版による均質な地合の網目紙英語版の発明(1757年頃)、抄紙機や木材パルプロジンサイズによる量産化(19世紀)、中性サイズによる中性紙化(1950年代-)といった技術的変遷を経て現代の形になる[3][4][5]が、高級品では現代も伝統的な製法がとられることがある。日本における洋紙の国産化は明治以降になるが、それ以前にも和紙が輸出されレンブラントらが版画用紙として用いていた[6]

着色紙は15世紀頃には図画に使われており、原料ぼろの残留インディゴ色素を含んだVenetian blue paper: carta azzurra)と呼ばれる青い紙がヴェネツィアで製造され、ヴェネツィア派の画家や影響を受けたアルブレヒト・デューラーらがキアロスクーロ素描に用いた[7]。青の他にも夾雑物により黄色や灰色がかった紙が存在し、これらはパステル画家やターナーのような水彩画家に使われている[8]。現代の華やかな色画用紙に近いものが作られるのは、合成染料が発明される19世紀以後であり、折しもフリードリッヒ・フレーベルによって提唱された幼稚園創設の世界的波及を契機に、そこで使われる教材恩物とその発展形)として安価な機械パルプ製の学童用色画用紙が作られるようになった。

特徴

カートリッジ紙に描かれた水彩画(トマス・ガーティンWarkworth Castle, Northumberland、1798年頃、41.6 cm × 55.2 cm、イェール・ ブリティッシュ・アート・センター英語版

良質なものほど化学パルプセルロース純度が高い)の比率が高く、中性紙として、経年保存性に配慮して作られる。印刷用紙では平滑性が求められるが、画用紙では(ケント紙など一部の紙種を除いて)逆に適度な紙肌の凹凸が施される。また消しゴム修正や水性画材への耐性のため、表面の強度、消しやすさ、毛羽立ちにくさが求められる。鉛筆デッサンなどに適する一般的な画用紙は画学紙(ががくし)とも呼ばれる。海外での類似紙種にはカートリッジ紙英語版がある。

ケント紙は平滑な画用紙で、製図イラストレーション名刺等に使用される。硬筆インクとの相性が良く、にじみにくさと吸収性を持つ。ケント紙の名はかつてイギリスのケント州から輸入されていたことに由来するが、日本でのみ通用する呼称である[9]。国産品は1918年に日本海軍用の海図用紙として三菱製紙で製造されたものを始まりとする。海外での類似紙種にはブリストルボード英語版がある。

水彩画に適した水彩紙は特に厚さがあり、にじみ止めであるサイズ処理が強く施される。様々な細目・中目・荒目の紙肌を持ち、荒い紙肌ほど吸収性が強い[10]。高級品では伝統的な製法に倣い、セルロース純度が元来高く繊維が強靭なコットン繊維(現代では稀であるがコットンぼろも)が用いられ、手漉きに近いモールドメイド(円網抄紙機を低速に用いるが詳細は企業秘密による)と呼ばれる抄紙法がとられ、膠(ゼラチン)による表面サイズが施される。現代の水彩紙の特徴は18世紀後半にイギリスのジェームス・ワットマン英語版によって製造されたものを始まりとする[10]

簀の目紙に描かれた木炭・パステル画(ポール・ゴーギャンReclining Nude、1894-1895年、30.6 cm × 62.1 cm、ナショナル・ギャラリー

木炭画に適した木炭紙簀の目透かし地合を持ち、表面が粗く強靭でやや軽量に作られる。木炭紙としても使われるポピュラーな簀の目紙英語版の紙種にはアングル紙英語版があり、フランスの製紙所アルシュ英語版ドミニク・アングルと共同開発し、1869年に製造された『Ingres d'ARCHES MBM』を始まりとする[11][12]

パステル画に適したパステル紙には布目状の紙肌を持つものや、砂などで研磨性の表面加工を施した専用紙があるほか、木炭紙も利用される[13][14]。パステル画では着色紙がよく使われ、織物のラシャに似た風合いを持つ色画用紙であるラシャ紙も古くから使われる[15]

形状

画用紙は冊子状のスケッチブックや板状のシート、筒状に巻いたロールなどの形状で市販される。スケッチブックにはスパイラル・リング綴じのものと天糊綴じのものがあり、特に水彩画向けのものでは水分による変形を抑えるよう四方を糊で固めたものがある。また図画用の紙を丈夫な板紙に張り込んだイラストレーションボードがある。

紙のサイズは四六判やA列・B列など印刷用紙と共通するものや、F0号などキャンバス準拠のもの、はがきサイズなどがある。「四つ切」や「八つ切」はふつう全判をその枚数に断裁したサイズであり、全判のサイズによって異なる。慣習的に海外製の水彩紙には22 × 30 in(欧米でのインペリアル判相当、時に四捨五入されて560 × 760 mm)[16][17]がよく使われ、木炭紙には日本で木炭紙判とも呼ばれる500 × 650 mm(フランスでのレザンフランス語版判相当)がよく使われる。

紙の厚さはふつう重量で示され、1平方メートルあたりの重さであるメートル坪量g/m2またはgsm)、または全判1000枚(1連)の重さである連量kg)で表される。例えば四六全判は約0.86m2であるので、四六判の連量100kgは坪量約116g/m2に相当する。

適する画材

一般の画用紙は専用の水彩紙より水分に弱く、変形を抑えるために水張りもおこなわれる。

油絵具は含まれる脂肪酸が紙繊維を劣化させたり、硬化に追従できず紙が割れてしまうことがあり、直接の使用には適さないが、特に厚手で良質な紙に絶縁・地塗りを施すことで適切に使用できるとされる[18][19]。下地処理済みの油彩用紙や紙製のキャンバスボードも存在する。

脚注

  1. ^ Burns, et al. 1990, p. 46.(#参考文献
  2. ^ 荒木豊, 絵具講座(第VII講)水彩絵具, J. Jpn. Soc. Colour Mater. (色材), 75(9), pp. 450-454, 2002.
  3. ^ Karen Garlick, A Brief Review of the History of Sizing and Resizing Practices, Book and Paper Group Annual, Volume 5 1986, American Institute for Conservation.
  4. ^ Roberts & Etherington 1982.(#参考文献
  5. ^ 小宮英俊, 紙のはなし, ぷりんとぴあ, 日本印刷産業連合会, pp. 21-23, 2015年11月7日閲覧.
  6. ^ Burns, et al. 1990, p. 52.(#参考文献
  7. ^ Irene Brückle, Historical Manufacture and Use of Blue Paper, Book and Paper Group Annual, Volume 12 1993, American Institute for Conservation.
  8. ^ Joan Irving, Construction Paper: A Brief History of Impermanence, Book and Paper Group Annual, Volume 16 1997, American Institute for Conservation.
  9. ^ 明治から昭和初期の製図用紙について その頃土木製図用紙として使用された洋紙(ワットマン紙他)を製造していた場所。輸入であれば輸入量、国内であればその工場の場所について。, レファレンス協同データベース, 国立国会図書館, 2015年11月7日閲覧.
  10. ^ a b Burns, et al. 1990, p. 47.(#参考文献
  11. ^ History, Munksjö Arches, 2015年11月7日閲覧.
  12. ^ Prestigious historical origins, Arjowiggins, 2015年11月7日閲覧.
  13. ^ Getty Research Institute.(#参考文献
  14. ^ 鈴木司, 絵画辞典・は, 秋田公立美術工芸短期大学 鈴木司研究室ウェブサイト, 2004年, 2015年11月7日閲覧.
  15. ^ 洋画材料品日本画用品明細目録, 大日本絵画講習会, 1909年.
  16. ^ Determining Paper Weight, Strathmore Artist Papers, 2014年11月14日, 2015年11月11日閲覧.
  17. ^ Paper weights explained, St Cuthberts Mill, 2015年11月11日閲覧.
  18. ^ ホルベイン 技術情報 Q&A: 油彩用の紙はありますか?, ホルベイン工業, 2015年11月7日閲覧.
  19. ^ Choosing a surface for oil painting, Winsor & Newton, 2015年11月7日閲覧.

参考文献

関連項目

外部リンク