小石丸

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小石丸(こいしまる)は、蚕の日本在来種の一つ[1]宮中の御養蚕所における皇后御親蚕に用いられる品種で、非常に細く上質のを産する。近似種に小石丸と海外種を掛け合わせて作られた「新小石丸」がある。

特徴[編集]

奈良時代より飼育が開始された品種。からとれる糸が、絹糸として著名なカイコ(家蚕)とは大きく異なる点がいくつかある。

  • 糸が極細かつ太さが不均一だが、強さがあり引っ張っても切れにくい。けば立ちが少なく染めなどが艶やかに映え[1]、とても良質(カイコとはほぼ逆)。
  • 1つの繭から取れる糸は普通のカイコの繭の半分以下、多くて400 - 500メートル前後。
  • 産卵数が少ない、病気に弱いなど、繭をつくる時期が個体による異なるなどの理由で飼育が難しい。

明治時代までは日本における養蚕の主流であったものの、その後は飼育・生産効率が良い交雑種のカイコに切り替わった。現代において民間での飼育数は極めて少なく、宮崎県綾町など数カ所に留まる[1]。このため、普通のカイコの繭よりも高値で取引される。

生産状況と皇后御親蚕[編集]

宮中では、近代以降、産業振興の意味も込めて、歴代皇后が養蚕を行っている(皇后御親蚕)。昭和天皇の后である香淳皇后は、昭和天皇が即位の礼を行った1928年(昭和3年)より養蚕を行っており、1947年(昭和22年)6月3日の記者会見で「古い日本種を保存したいと思って、小石丸も飼っています」と、当品種を紹介した[2]

明治から大正にかけて珍重された品種であったが、生産性が低いため衰退し、昭和末期には宮中に残るものも廃棄が避けられない状況だった[3]。しかし、1989年(昭和64年/平成元年)に平成の践祚を迎え、新たに皇后美智子(当時、現:上皇后)が養蚕を引き継いだ際に、皇后の意向で小石丸の飼育がわずかながら継続された[3]

1994年(平成6年)に、小石丸が正倉院にて保存されていた絹織物(古代裂)の復元に必要であることが判明し、増産を経て、16年間、正倉院に対し小石丸の繭を提供した[3]。復元は2010年(平成22年)に終了した[3]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ a b c 純日本の繭 輝き絶やさぬ「小石丸」染色作家が養蚕『日本経済新聞』朝刊2019年6月16日19面(NIKKEI The STYLE / Life)。
  2. ^ 高橋紘『陛下、お尋ね申し上げます 記者会見全記録と人間天皇の軌跡』文藝春秋文春文庫〉、1988年3月、45頁。ISBN 4-16-747201-5、ISBN-13:978-4-16-747201-6。 
  3. ^ a b c d 宮内庁 (2014年). “「蚕-皇室のご養蚕と古代裂,日仏絹の交流」展の開催について”. 2019年4月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年4月30日閲覧。

関連項目[編集]