マトフェイ受難曲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハリストス(キリストのギリシャ語読み)の磔刑を描いたイコン17世紀頃のもの)

マトフェイ受難曲ロシア語: Страсти по Матфею, 英語: St Matthew Passion)とは、ロシア正教会イラリオン・アルフェエフ府主教[1]Архиепископ Иларио́н Алфе́ев, Archbishop Hilarion Alfeyev)によって2006年に作曲されたマタイによる福音書に題材をとる受難曲マトフェイとは、ロシア語教会スラヴ語によるマタイの表記"Матфей"を転写したものである。従って本作品はマタイ受難曲とも表記され得る[2]

原曲の歌唱は教会スラヴ語によるが、英語翻訳版が2008年トロントで演奏された[3]

日本での初演は、2016年1月30日、東京・朝日浜離宮ホールにて、渡辺新指揮オーケストラ・ナデージダ、合唱団ナデージダ、ソプラノ:中村初惠、メゾソプラノ:ヴァレンチナ・パンチェンコ、テノール:黒田大介、バリトン:アレクセイ・トカレフ、福音史家(朗読):ユーリ・イリンによって行われた。 初演は第2稿を使用し、一部の曲順を入れ替えるなど渡辺氏による多少の変更が加えられた。[4]


正教会西方教会とは異なる伝統を保ってきたため、聖歌・音楽伝統にも著しい違いがある。本作品も西方教会のマタイ受難曲J.S.バッハによるものが有名)とは異なる構成をとっている。

正教会奉神礼に用いられる聖歌無伴奏声楽が原則であるが、19世紀以降に正教徒作曲家によって作曲された、正教会に題材をとったオラトリオ受難曲カンタータなどの宗教曲には器楽による伴奏がついているものも少なくない。但しこれらの作品は奉神礼に使用はされず、専ら演奏会での使用が前提となっている。

本作品もオーケストラによる伴奏がついており、あくまで演奏会などにおける使用を前提とした楽曲であって、実際の奉神礼で使用される聖歌ではない。ただし本作品のうち一部の曲(真福九端)については、伴奏を外した声楽部分がイラリオン府主教[1]が作曲した聖金口イオアン聖体礼儀の一部の曲と同一のものとなっている。

合唱ソリスト福音記者役が歌い交わし、弦楽器によるフーガが各所に挿入される構成となっている。

脚注[編集]

  1. ^ a b (他教派でも同様の習慣を有するものがあるが)正教会においてヴァルソロメオス1世 (コンスタンディヌーポリ総主教)キリル1世 (モスクワ総主教)にも見られる通り、主教の名は修道名で呼ばれる事が原則であり、は同名の人物の区別の為などに初出箇所等において用いられるのみである。従って「アルフェエフ府主教」「アルフェエフ」という表記はあまり適切ではない。フルネームを用いない場合には「イラリオン府主教 (英語: Metropolitan Hilarion)」が標準的な表記となる。
  2. ^ 日本正教会では教会スラヴ語再建音であるマトフェイが、福音記者マタイについての一般的な表記・呼称である。日本正教会でもイイスス・ハリストス(イエス・キリストの現代ギリシャ語読み)以外の人名の転写については、文脈によっては比較的緩やかな運用がなされており、「マタイ受難曲」と呼んでも誤りではないが(日本ハリストス正教会#聖書・祈祷書等にみられる独自の翻訳・用語体系を参照)、本項では日本正教会では「マトフェイ」が標準的な表記である事と、教会スラヴ語を用いる楽曲である事により、教会スラヴ語再建音を元に記事名を構成した。
  3. ^ 出典:The English version of ‘St Matthew Passion’ by Bishop Hilarion Alfeyev premiered in Toronto - ロシア正教会欧州代表部ホームページ
  4. ^ 初演についての記事(2016年2月2日「CHRISTIAN TODAY」) http://www.christiantoday.co.jp/articles/18843/20160202/alfeyev-passion-matthe-oratorio-concert-hamarikyuhall.htm

外部リンク[編集]