サマルスキー石

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サマルスキー石
サマルスキー石の結晶。ノースカロライナ州ヤンシー郡産 (3.3 x 2.8 x 1.7 cm)
分類 酸化物鉱物
シュツルンツ分類 04.DB.25
化学式 (YFe3+Fe2+U,Th,Ca)2(Nb,Ta)2O8
結晶系 斜方晶
対称 Orthorhombic dipyramidal (2/m 2/m 2/m)
単位格子 a = 5.687 Å, b = 4.925 Å, c = 5.21 Å; Z = 2
晶癖 細長く、末端が錐状となった結晶。一般にバルクは粒状
へき開 {010}、不明瞭
断口 貝殻状
粘靱性 脆い
モース硬度 5 - 6
光沢 ガラス光沢 - 樹脂光沢
黒色、もしくは透過光によって明褐色から暗褐色を呈することによる茶から黄褐色がかった黒色。
条痕 赤褐色
透明度 不透明。細い断片では透明。
密度 5.6 - 5.8, 平均 = 5.69
光学性 等方性
屈折率 n = 2.1–2.2
変質 メタミクト
その他の特性 放射性 (70 ベクレル / グラム 以上)
文献 [1][2][3]
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
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サマルスキー石(サマルスキーせき、学名:Samarskite)は放射性を有する希土類鉱石英語版のひとつであり、(YFe3+Fe2+U,Th,Ca)2(Nb,Ta)2O8(またはYFe3+Nb2O8 )の組成を有するイットリウムサマルスキー石(Samarskite-(Y))[1](YbFe3+)2(Nb,Ta)2O8の組成を有するイッテルビウムサマルスキー石(Samarskite-(Yb))[4]が含まれる(ただし、イッテルビウムサマルスキー石については化学量論的に疑問視する声もある)。イットリウムサマルスキー石はまた、(Y,Fe3+,U)(Nb,Ta)O4という組成のものも存在する[3]。このうちイッテルビウムサマルスキー石は希産であり、イットリウムサマルスキー石が最も普通であるため、通常こちらを指してサマルスキー石と呼ぶ。またサマルスカイトとも呼ばれる。

成分・種類[編集]

サマルスキー石の標本。新しい断面を露出させるために割られている。

サマルスキー石はずんぐりとした角柱状の黒から黄褐色を呈する斜方晶、双錐型の結晶として結晶化するが、通常は他形の塊として発見される。高濃度にウランを含有した試料は典型的なメタミクト鉱物英語版[注釈 1]であり、黄褐色の土皮に覆われて現れる。

サマルスキー石は希土類を含んだペグマタイト(巨晶花崗岩)中でコルンブ石ジルコンモナズ石閃ウラン鉱エシキン石英語版磁鉄鉱曹長石トパーズベリルガーネット白雲母および黒雲母のような他の希少鉱物と共に存在する[3]

産出地[編集]

サマルスキー石はロシアウラル山脈南部に位置するイリメニ山脈のミアスで産出され、1847年に初めて記述された[2]元素サマリウムは、1879年にサマルスキー石から初めて単離された。サマルスキー石という名称は、ロシアの鉱山役人であったワシーリー・サマルスキー=ビホヴェッツ大佐 (1803–1870)に由来しており、サマリウムの元素名はサマルスキー石に由来する[2]

イッテルビウムサマルスキー石はアメリカのジェファーソン郡 (コロラド州)に流れる南プラット川英語版のペグマタイト地帯で産出され、2004年に初めて記述された[4][5]

サマルスキー石グループ[編集]

サマルスキー石及び類縁種については、メタミクトのため結晶構造が不明であり、複雑な元素組成のため理想化学組成も不明な点が多かった。

鉱石を加熱して結晶状態を復元したり、類似物質を合成し、X線結晶構造解析電子線マイクロアナライザにかけるなどの実験が長年にわたって行われ、2019年になってようやくサマルスキー石グループの理想科学式がAMB2O8(A = Y, Ln, Th, U4+, Ca、M = Fe3+, Mn2+、B = Nb, Ta, Ti)であると判明した[6]。この分析では、鉄がサマルスキー石においては必須成分とされている。

サマルスキー石グループに含まれる鉱物としては、イットリウムサマルスキー石、イッテルビウムサマルスキー石の他に、石川石灰サマルスキー石イットロタンタル石などが挙げられる[7]

2023年国際鉱物学連合により[8]コルンブ石スーパーグループ」[9]が定義され、「サマルスキー石グループ」はその中に組み入れられた。ただし、これらのうち石川石、灰サマルスキー石、イッテルビウムサマルスキー石は構造上のデータが不足しているとして暫定的メンバーに位置付けられ、ステータスがQuestionable(疑義あり)に変更された[10][11]ため、今後さらなる検証が必要とされている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ メタミクトとは、放射線によって結晶構造が破壊されアモルファス化すること

出典[編集]

  1. ^ a b Mindat Samarskite-(Y)
  2. ^ a b c http://webmineral.com/data/Samarskite-(Y).shtml Webminerals
  3. ^ a b c Handbook of Mineralogy
  4. ^ a b Mindat Samarskite-(Yb)
  5. ^ Samarskite-(Yb) on Webmineral
  6. ^ Redefinition and crystal chemistry of samarskite-(Y), YFe3+Nb2O8: cation-ordered niobate structurally related to layered double tungstates, Physics and Chemistry of Minerals, 46, 727-741.
  7. ^ Samarskite Group, mindat.org
  8. ^ Chukanov, N., Pasero, M., Aksenov, S., Britvin, S., Zubkova, N., Yike, L., & Witzke, T. (2023). Columbite supergroup of minerals: Nomenclature and classification. Mineralogical Magazine, 87(1), 18-33. doi:10.1180/mgm.2022.105
  9. ^ Columbite Supergroup, mindat.org
  10. ^ The New IMA List of Minerals – A Work in Progress – Updated: January 2024”. 2024年3月1日閲覧。
  11. ^ 石川石/Ishikawaite、浜根大輔、東京大学物性研究所電子顕微鏡室

関連項目[編集]