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{{基礎情報 書籍
[[Image:Disqvisitiones-800.jpg|thumb|初版の表紙。原著はラテン語で書かれている。]]
|title = 『ガウス整数論』
'''Disquisitiones Arithmeticae'''(ディスクィジティオネス・アリトメティカエ、[[ラテン語]]で'''算術研究'''の意、以下 '''D. A.''' と略す)は、[[カール・フリードリヒ・ガウス]]唯一の著書にして、後年の[[数論]]の研究に多大な影響を与えた書物である。1801年、ガウス24歳のときに公刊された。その研究の端緒はガウス17歳の1795年にまでさかのぼり、1797年にはほぼ原稿は完成していた<ref>河田、p. 12</ref>。
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|author = [[カール・フリードリヒ・ガウス]]
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|genre = [[整数論]]
|country = <!-- 国 -->
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|type = <!-- 形態 -->
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'''Disquisitiones Arithmeticae'''(ディスクィジティオネス・アリトメティカエ、[[ラテン語]]で'''算術研究'''の意、以下 '''D. A.''' と略す)は、[[カール・フリードリヒ・ガウス]]唯一の著書にして、後年の[[数論]]の研究に多大な影響を与えた書物である。1801年、ガウス24歳のときに公刊された。その研究の端緒はガウス17歳の1795年にまでさかのぼり、1797年にはほぼ原稿は完成していた<ref>[[#河田1992|河田 1992]]、p. 12.</ref>。


ラテン語の arithmetica(アリトメティカ)は通常「算術」と訳される<ref>[[田中秀央]]編『[[羅和辞典 (研究社)|羅和辞典]]』[[研究社]]。arithmeticae は形容詞形。</ref>が、ガウスの意図したものは、今日「数論」もしくは「整数論」と呼ばれる学術的領域である<ref name="takase">高瀬、訳者後記</ref>。D. A. を『数論研究』と訳している書物もある<ref>『楕円曲線論入門』p. 144</ref>し、[[高瀬正仁]]による最初の D. A. の完全な日本語訳の書名は『'''ガウス整数論'''』である。
ラテン語の arithmetica(アリトメティカ)は通常「算術」と訳される<ref>[[田中秀央]]編『[[羅和辞典 (研究社)|羅和辞典]]』[[研究社]]。arithmeticae は形容詞形。</ref>が、ガウスの意図したものは、今日「数論」もしくは「整数論」と呼ばれる学術的領域である<ref name="takase">[[#高瀬1995|高瀬 1995]]pp. 511-517.</ref>。D. A. を『数論研究』と訳している書物もある<ref>[[#足立ほか1995|足立ほか 1995]]、p. 144</ref>し、[[高瀬正仁]]による最初の D. A. の完全な日本語訳の書名は『'''ガウス整数論'''』である。


== 書の概要 ==
== 書の概要 ==
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第4章より先は、ガウス自身の研究成果を多く含む。第4章の中心的な話題は[[平方剰余の相互法則]](第131条)である。第5章は、D. A. の半分以上のページを占めており、二変数二次形式について幅広く議論している。第6章では、様々な応用について論じており、例えば[[素数判定]]および[[素因数分解]]の方法を2通り与えている。最後の第7章は、[[円 (数学)|円周]]の等分に関する理論であり、[[1の冪根]]や[[円分多項式]]について議論している。特に、[[正多角形]]が[[定規とコンパスによる作図]]で構成可能であるための条件を与えている(最終第365条、366条)。
第4章より先は、ガウス自身の研究成果を多く含む。第4章の中心的な話題は[[平方剰余の相互法則]](第131条)である。第5章は、D. A. の半分以上のページを占めており、二変数二次形式について幅広く議論している。第6章では、様々な応用について論じており、例えば[[素数判定]]および[[素因数分解]]の方法を2通り与えている。最後の第7章は、[[円 (数学)|円周]]の等分に関する理論であり、[[1の冪根]]や[[円分多項式]]について議論している。特に、[[正多角形]]が[[定規とコンパスによる作図]]で構成可能であるための条件を与えている(最終第365条、366条)。


ガウスは、高次の合同式に関する、第8章に相当するものを書いていたが、完成することなく、死後に部分的に公表された<ref>河田、p. 24</ref>。
ガウスは、高次の合同式に関する、第8章に相当するものを書いていたが、完成することなく、死後に部分的に公表された<ref>[[#河田1992|河田 1992]]、p. 24.</ref>。


== 意義と影響 ==
== 意義と影響 ==
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D. A. の論理的な構成、定理の主張の後に数学的な証明、その後に定理の[[定理|系]]、という流れは、後の数学の著作の標準となった。数学的な証明の重要性を認識する一方で、ガウスは定理の多くに数値的な例も与えている。
D. A. の論理的な構成、定理の主張の後に数学的な証明、その後に定理の[[定理|系]]、という流れは、後の数学の著作の標準となった。数学的な証明の重要性を認識する一方で、ガウスは定理の多くに数値的な例も与えている。


D. A. は、19世紀のヨーロッパの数学研究の出発点と位置付けられ、[[カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ|ヤコビ]]、[[ペーター・グスタフ・ディリクレ|ディリクレ]]、[[エルンスト・クンマー|クンマー]]、[[リヒャルト・デーデキント|デデキント]]らがその内容の発展に努めた。特にディリクレは、D. A. を常に携帯していたという<ref>『ガウス整数論』序文、[[足立恒雄]]</ref>。
D. A. は、19世紀のヨーロッパの数学研究の出発点と位置付けられ、[[カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ|ヤコビ]]、[[ペーター・グスタフ・ディリクレ|ディリクレ]]、[[エルンスト・クンマー|クンマー]]、[[リヒャルト・デーデキント|デデキント]]らがその内容の発展に努めた。特にディリクレは、D. A. を常に携帯していたという<ref>[[#高瀬1995|高瀬 1995]]、pp. i f.</ref>。


ガウスは D. A. に多くの付記を残し、彼自身のさらなる研究の一助とした。同世代の者には謎めいているものもあったが、一部は例えば、今日では[[L関数]]や{{仮リンク|虚数乗法|en|Complex multiplication}}と呼ばれるものの萌芽であったと解釈される。
ガウスは D. A. に多くの付記を残し、彼自身のさらなる研究の一助とした。同世代の者には謎めいているものもあったが、一部は例えば、今日では[[L関数]]や{{仮リンク|虚数乗法|en|Complex multiplication}}と呼ばれるものの萌芽であったと解釈される。


D. A. の内容は、20世紀以降の数学研究においても新鮮さを失っていない。例えば、第5章第303条は虚[[二次体]]の類数の具体的な計算についての要約である。ガウスは、任意の正整数 ''n'' に対して類数が ''n'' である虚二次体は有限個しか存在しないであろうと予想し、類数の小さな虚二次体は全て決定したと信じた。この予想は、1934年に{{仮リンク|ハンス・ハイルブロン|en|Hans Heilbronn}}が解決した<ref>Goldfeld, p. 29.</ref>。類数1の虚二次体を全て決定する問題は、1966年の[[アラン・ベイカー]]と1967年の{{仮リンク|ハロルド・ミード・スターク|en|Harold Stark}}によって独立に解かれた<ref>Goldfeld, p. 32.</ref>。2004年までに、類数が100以下の虚二次体は全て決定されている<ref>{{MathWorld|title=Gauss's Class Number Problem|urlname=GausssClassNumberProblem}}</ref>。
D. A. の内容は、20世紀以降の数学研究においても新鮮さを失っていない。例えば、第5章第303条は虚[[二次体]]の類数の具体的な計算についての要約である。ガウスは、任意の正整数 ''n'' に対して類数が ''n'' である虚二次体は有限個しか存在しないであろうと予想し、類数の小さな虚二次体は全て決定したと信じた。この予想は、1934年に{{仮リンク|ハンス・ハイルブロン|en|Hans Heilbronn}}が解決した<ref>[[#Goldfeld1985|Goldfeld 1985]], p. 29.</ref>。類数1の虚二次体を全て決定する問題は、1966年の[[アラン・ベイカー]]と1967年の{{仮リンク|ハロルド・ミード・スターク|en|Harold Stark}}によって独立に解かれた<ref>[[#Goldfeld1985|Goldfeld 1985]], p. 32.</ref>。2004年までに、類数が100以下の虚二次体は全て決定されている<ref>{{MathWorld|title=Gauss's Class Number Problem|urlname=GausssClassNumberProblem}}</ref>。


また、第7章第358条は、[[有限体]]上の[[楕円曲線]]の点の個数に関する、{{仮リンク|ハッセの定理|en|Hasse's theorem on elliptic curves}}の評価が非自明に成り立つ(歴史的に)最初の例を与えている<ref>Silverman and Tate, 4.2節</ref>。この定理は、[[ヘルムート・ハッセ]]が1933年に証明し、[[アンドレ・ヴェイユ]]らによって一般化されるが、適切に言い換えることによって、[[リーマン予想]]の類似と見なせることが知られている<ref>Silverman and Tate, 4.1節</ref>。
また、第7章第358条は、[[有限体]]上の[[楕円曲線]]の点の個数に関する、{{仮リンク|ハッセの定理|en|Hasse's theorem on elliptic curves}}の評価が非自明に成り立つ(歴史的に)最初の例を与えている<ref>[[#足立ほか1995|足立ほか 1995]]、4.2節</ref>。この定理は、[[ヘルムート・ハッセ]]が1933年に証明し、[[アンドレ・ヴェイユ]]らによって一般化されるが、適切に言い換えることによって、[[リーマン予想]]の類似と見なせることが知られている<ref>[[#足立ほか1995|足立ほか 1995]]、4.1節</ref>。


== 各言語訳 ==
== 各言語訳 ==
D. A. の原著はラテン語である。数学の著作物でラテン語で書かれたものとしては、最後期のものである。原著公刊6年後の1807年に[[フランス語]]訳が出版され、[[ドイツ語]]には1889年に、[[英語]]には1966年に、[[日本語]]には1995年に翻訳された。それぞれに特色があり、各言語版を参考にして日本語に訳した高瀬によると、ドイツ語版の翻訳はしっかりしているが、英語版は数学的な理解不足が原因と思われる誤訳が非常に多い。フランス語版や日本語版には数学的な内容の訳注があり、英語版には記号と述語のリストや充実した参考文献のリストがある<ref name="takase" />。
D. A. の原著はラテン語である。数学の著作物でラテン語で書かれたものとしては、最後期のものである。原著公刊6年後の1807年に[[フランス語]]訳が出版され、[[ドイツ語]]には1889年に、[[英語]]には1965年に、[[日本語]]には1995年に翻訳された。それぞれに特色があり、各言語版を参考にして日本語に訳した高瀬によると、ドイツ語版の翻訳はしっかりしているが、英語版は数学的な理解不足が原因と思われる誤訳が非常に多い。フランス語版や日本語版には数学的な内容の訳注があり、英語版には記号と述語のリストや充実した参考文献のリストがある<ref name="takase" />。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 書誌情報 ==
*{{Cite book|author=Carl Friedrich Gauss|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|year=1801|title=Disquisitiones Arithmeticae|publisher=Gerhard Fleischer|location=Lipsiae (Leipzig)|isbn=3-487-12845-4|url=http://visualiseur.bnf.fr/Visualiseur?Destination=Gallica&O=NUMM-003356|ref=Gauss1801}} - ラテン語版の原典。2006年にOlms社から複写版が復刻された。
*{{Cite book|author=Carl Friedrich Gauss|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|origyear=1801|year=1863|title=Disquisitiones Arithmeticae|series=Carl Friedrich Gauß: Werke. Band 1|publisher=Dieterich|location=Göttingen|url=http://gdz.sub.uni-goettingen.de/dms/load/img/?PPN=PPN235993352&IDDOC=137206|ref=Gauss1863}} - 『ガウス全集』第1巻に収録されたラテン語版。
*{{Cite book|author=Carl Friedrich Gauss|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|others=A.-C.-M. Poullet-Deslisle|origyear=1801|year=1807|title=Recherches arithmétiques|publisher=Courcier|location=Paris|url=http://visualiseur.bnf.fr/CadresFenetre?O=NUMM-29060&M=pagination|ref=Poullet-Deslisle1807}} - 仏語訳。{{PDFLink|[http://www.archive.org/download/recherchesarithm00gaus/recherchesarithm00gaus.pdf archive.org]}}にもPDF版が収録されている。
*{{Cite book|author=Carl Friedrich Gauss|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|others=Hermann Maser|origyear=1801|year=1889|title=Untersuchungen über Höhere Arithmetik|publisher=Springer|location=Berlin|isbn=0-8218-4213-7|url=http://gdz.sub.uni-goettingen.de/dms/load/img/?PPN=PPN373456743&IDDOC=232699|ref=Maser1889}} - 独語訳。2006年にAMS Chelsea社から複写版が復刻された。(ISBN 0-8218-4213-7) 2009年にKessel社から複写版が復刻された。(ISBN 978-3-941300-09-5)
*{{Cite book|author=Carl Friedrich Gauss|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|others=Arthur A. Clarke|origyear=1965|year=2001|title=Disquisitiones Arithmeticae|publisher=Yale University Press|isbn=0-300-09473-6|ref=Clarke2001}} - 英語訳。2001年に改訂された。
*{{Cite book|和書|author=カール・フリードリヒ・ガウス|authorlink=カール・フリードリヒ・ガウス|others=[[高瀬正仁]]訳|origyear=1801|date=1995-06-20|title=ガウス整数論|series=数学史叢書|publisher=[[朝倉書店]]|isbn=4-254-11457-5|url=http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11457-7/|ref=高瀬1995}} - ラテン語原典からの日本語訳。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=河田敬義|authorlink=河田敬義|date=1992-03-10|title=整数論 19世紀の数学|series=数学の歴史 現代数学はどのようにつくられたか 7a|publisher=[[共立出版]]|isbn=4-320-01277-1|ref=河田1992}}
* 日本語訳 - [[高瀬正仁]]訳『ガウス整数論』[[朝倉書店]]、1995年 ISBN 978-4254114577
*{{Anchor|Goldfeld1985|}}{{Cite journal|author=Dorian Goldfeld|year=1985|month=July|title=Gauss' Class Number Problem For Imaginary Quadratic Fields|journal=Bulletin of the American Mathematical Society|volume=13|issue=1|pages=pp. 23-37|url=http://www.ams.org/bull/1985-13-01/S0273-0979-1985-15352-2/S0273-0979-1985-15352-2.pdf|format=PDF|publisher=[[アメリカ数学会|AMS]]}}
* 英語訳 - Arthur A. Clarke, "Disquisitiones Aritmeticae", Yale University Press, 1965 ISBN 978-0300094732
*{{Cite book|author=Joseph H. Silverman|coauthors=John Tate|origyear=1992|year=2010|title=Rational Points on Elliptic Curves|series=Undergraduate Texts in Mathematics|edition=Paperback|publisher=Springer|isbn=978-1-4419-3101-6|url=http://www.springer.com/mathematics/algebra/book/978-0-387-97825-3?otherVersion=978-1-4419-3101-6|ref=Silverman&Tate2010}}
*
**{{Cite book|和書|author=J・H・シルヴァーマン|authorlink=J・テイト|others=[[足立恒雄]]ほか|year=1995|month=11|title=楕円曲線論入門|publisher=[[シュプリンガー・ジャパン|シュプリンガー・フェアラーク東京]]|isbn=4-431-70683-6|ref=足立ほか1995}}
* D. Goldfeld, "[http://www.ams.org/bull/1985-13-01/S0273-0979-1985-15352-2/S0273-0979-1985-15352-2.pdf Gauss' Class Number Problem For Imaginary Quadratic Fields]" (PDF), Bulletin of the American Mathematical Society '''13''' (1985) 23-37.

* J. H. Silverman and J. Tate, "Rational Points on Elliptic Curves", Springer, 1992 ISBN 978-0387978253
== 関連文献 ==
** [[足立恒雄]]楕円曲線論入門[[シュプリンガー・ジャパン|シュプリンガー・フェアラーク東京]]、1995年 ISBN 978-4431706830
*{{Cite book|和書|author=倉田令二朗|authorlink=倉田令二朗|date=1988-09-20|title=ガウス初等整数論|publisher=河合文化研究所|series=河合ブックレット 数学シリーズ5|isbn=4-87999-954-7|url=http://www.kawai-juku.ac.jp/bunkyo/7-2-a.html|ref=倉田1988a}}
* [[河田敬義]]『19世紀の数学 整数論』[[共立出版]]、1992年 ISBN 4320012771
*{{Cite book|和書|author=倉田令二朗|authorlink=倉田令二朗|date=1987-05-25|title=ガウス2次形式論(1)|publisher=河合文化研究所|series=河合ブックレット 数学シリーズ3|isbn=4-87999-952-0|url=http://www.kawai-juku.ac.jp/bunkyo/7-2-a.html|ref=倉田1987}}
*{{Cite book|和書|author=倉田令二朗|authorlink=倉田令二朗|date=1988-11-30|title=ガウス2次形式論(2)|publisher=河合文化研究所|series=河合ブックレット 数学シリーズ7|isbn=4-87999-956-3|url=http://www.kawai-juku.ac.jp/bunkyo/7-2-a.html|ref=倉田1988c}}
*{{Cite book|和書|author=倉田令二朗|authorlink=倉田令二朗|date=1988-11-30|title=ガウス円分方程式論|publisher=河合文化研究所|series=河合ブックレット 数学シリーズ6|isbn=4-87999-955-5|url=http://www.kawai-juku.ac.jp/bunkyo/7-2-a.html|ref=倉田1988b}}

== 関連項目 ==
*[[二次体|虚二次体]]
*[[十七角形|正17角形]]
*[[二百五十七角形|正257角形]]
*[[六万五千五百三十七角形|正65537角形]]
*[[二次形式]]
*[[平方剰余の相互法則]]

== 外部リンク ==
*[http://visualiseur.bnf.fr/Visualiseur?Destination=Gallica&O=NUMM-003356 Disquisitiones Arithmeticae] {{La icon}}
*[http://gdz.sub.uni-goettingen.de/dms/load/img/?PPN=PPN235993352&IDDOC=137206 『ガウス全集』第1巻] {{La icon}}
*[http://visualiseur.bnf.fr/CadresFenetre?O=NUMM-29060&M=pagination Recherches arithmétiques] {{Fr icon}}
*{{PDFLink|[http://www.archive.org/download/recherchesarithm00gaus/recherchesarithm00gaus.pdf Recherches arithmétiques]}} {{Fr icon}}
*[http://gdz.sub.uni-goettingen.de/dms/load/img/?PPN=PPN373456743&IDDOC=232699 Untersuchungen über Höhere Arithmetik] {{De icon}}


[[Category:数学書]]
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2012年4月29日 (日) 19:53時点における版

『ガウス整数論』
Disquisitiones Arithmeticae
初版の表紙。原著はラテン語で書かれている。
初版の表紙。原著はラテン語で書かれている。
著者 カール・フリードリヒ・ガウス
訳者 高瀬正仁
発行日 1995年6月20日
発行元 朝倉書店
ジャンル 整数論
コード ISBN 4-254-11457-5
ウィキポータル 数学
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Disquisitiones Arithmeticae(ディスクィジティオネス・アリトメティカエ、ラテン語算術研究の意、以下 D. A. と略す)は、カール・フリードリヒ・ガウス唯一の著書にして、後年の数論の研究に多大な影響を与えた書物である。1801年、ガウス24歳のときに公刊された。その研究の端緒はガウス17歳の1795年にまでさかのぼり、1797年にはほぼ原稿は完成していた[1]

ラテン語の arithmetica(アリトメティカ)は通常「算術」と訳される[2]が、ガウスの意図したものは、今日「数論」もしくは「整数論」と呼ばれる学術的領域である[3]。D. A. を『数論研究』と訳している書物もある[4]し、高瀬正仁による最初の D. A. の完全な日本語訳の書名は『ガウス整数論』である。

書の概要

この書の扱う数学の分野は、今日でいう初等整数論および代数的整数論の一部である。ガウス自身は、緒言において「整数を考察の対象とする」「整数の一般的研究は高等的アリトメティカによるべき」などと述べている。ここで「高等的アリトメティカ」とは、数の記法や四則計算などの算術を意味する「初等的アリトメティカ」に対する語である。

D. A. は、ガウス以前の数学者であるフェルマーオイラーラグランジュルジャンドルらの研究成果および、ガウス自身による数々の顕著な研究成果を含む。ガウスは、現代抽象代数学の中心たるの概念についてはっきりとは認識していなかったため、群論の用語を用いずに議論が進む。

各章の内容

D. A. は次の7章から成る(各章の題は高瀬訳のもの)。また、章より細かな単位で通し番号が付けられており、366条から成る。

  • 第1章: 数の合同に関する一般的な事柄(第1条 - 12条)
  • 第2章: 一次合同式(第13条 - 44条)
  • 第3章: 冪剰余(第45条 - 93条)
  • 第4章: 二次合同式(第94条 - 152条)
  • 第5章: 二次形式と二次不定方程式(第153条 - 307条)
  • 第6章: これまでの研究のさまざまな応用(第308条 - 334条)
  • 第7章: 円の分割を定める方程式(第335条 - 366条)

第1章から第3章は、ガウス以前の研究をまとめたものであり、フェルマーの小定理(第3章第50条)、ウィルソンの定理(第3章第76条)、素数を法とした原始根の存在定理(第3章第54条、55条)などの内容を含む。ここにガウス自身の研究成果は少ないが、これらを系統的に論じたことには価値がある。算術の基本定理、すなわち整数が一意に素因数分解されるという性質の重要性に初めて気付いたのはガウスであり、第2章第16条で証明が与えられている。第2章第42条では、多項式に関するガウスの補題が証明されている。この補題は第7章で用いられる。

第4章より先は、ガウス自身の研究成果を多く含む。第4章の中心的な話題は平方剰余の相互法則(第131条)である。第5章は、D. A. の半分以上のページを占めており、二変数二次形式について幅広く議論している。第6章では、様々な応用について論じており、例えば素数判定および素因数分解の方法を2通り与えている。最後の第7章は、円周の等分に関する理論であり、1の冪根円分多項式について議論している。特に、正多角形定規とコンパスによる作図で構成可能であるための条件を与えている(最終第365条、366条)。

ガウスは、高次の合同式に関する、第8章に相当するものを書いていたが、完成することなく、死後に部分的に公表された[5]

意義と影響

D. A. 以前は、数論に値する分野では個々の定理予想がばらばらに存在していた。ガウスは、個々の定理の証明を完全なものにしたり、理論のギャップを埋めたり、主題の範囲を拡大したりすることによって、先達の成果と自身の成果をひとつにまとめ上げ、系統的な骨組みを与えたのである。

D. A. の論理的な構成、定理の主張の後に数学的な証明、その後に定理の、という流れは、後の数学の著作の標準となった。数学的な証明の重要性を認識する一方で、ガウスは定理の多くに数値的な例も与えている。

D. A. は、19世紀のヨーロッパの数学研究の出発点と位置付けられ、ヤコビディリクレクンマーデデキントらがその内容の発展に努めた。特にディリクレは、D. A. を常に携帯していたという[6]

ガウスは D. A. に多くの付記を残し、彼自身のさらなる研究の一助とした。同世代の者には謎めいているものもあったが、一部は例えば、今日ではL関数虚数乗法と呼ばれるものの萌芽であったと解釈される。

D. A. の内容は、20世紀以降の数学研究においても新鮮さを失っていない。例えば、第5章第303条は虚二次体の類数の具体的な計算についての要約である。ガウスは、任意の正整数 n に対して類数が n である虚二次体は有限個しか存在しないであろうと予想し、類数の小さな虚二次体は全て決定したと信じた。この予想は、1934年にハンス・ハイルブロン英語版が解決した[7]。類数1の虚二次体を全て決定する問題は、1966年のアラン・ベイカーと1967年のハロルド・ミード・スターク英語版によって独立に解かれた[8]。2004年までに、類数が100以下の虚二次体は全て決定されている[9]

また、第7章第358条は、有限体上の楕円曲線の点の個数に関する、ハッセの定理の評価が非自明に成り立つ(歴史的に)最初の例を与えている[10]。この定理は、ヘルムート・ハッセが1933年に証明し、アンドレ・ヴェイユらによって一般化されるが、適切に言い換えることによって、リーマン予想の類似と見なせることが知られている[11]

各言語訳

D. A. の原著はラテン語である。数学の著作物でラテン語で書かれたものとしては、最後期のものである。原著公刊6年後の1807年にフランス語訳が出版され、ドイツ語には1889年に、英語には1965年に、日本語には1995年に翻訳された。それぞれに特色があり、各言語版を参考にして日本語に訳した高瀬によると、ドイツ語版の翻訳はしっかりしているが、英語版は数学的な理解不足が原因と思われる誤訳が非常に多い。フランス語版や日本語版には数学的な内容の訳注があり、英語版には記号と述語のリストや充実した参考文献のリストがある[3]

脚注

  1. ^ 河田 1992、p. 12.
  2. ^ 田中秀央編『羅和辞典研究社。arithmeticae は形容詞形。
  3. ^ a b 高瀬 1995、pp. 511-517.
  4. ^ 足立ほか 1995、p. 144
  5. ^ 河田 1992、p. 24.
  6. ^ 高瀬 1995、pp. i f.
  7. ^ Goldfeld 1985, p. 29.
  8. ^ Goldfeld 1985, p. 32.
  9. ^ Weisstein, Eric W. "Gauss's Class Number Problem". mathworld.wolfram.com (英語).
  10. ^ 足立ほか 1995、4.2節
  11. ^ 足立ほか 1995、4.1節

書誌情報

参考文献

関連文献

関連項目

外部リンク