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半陰陽は、[[遺伝子]]、[[染色体]]、[[性腺]]、[[内性器]]、[[外性器]]などの一部または全てが非典型的であり、身体的な[[性別]]を[[男性]]や[[女性]]として単純には分類できない状態である。
半陰陽は、[[遺伝子]]、[[染色体]]、[[性腺]]、[[内性器]]、[[外性器]]などの一部または全てが非典型的であり、身体的な[[性別]]を[[男性]]や[[女性]]として単純には分類できない状態である。


一部のジェンダー論やクィア論などでは単純には分類できない多様な性別のあり方があるとし、この半陰陽を男女のどちらにも属さない「第三の性」と位置づけるとする考えもあるが、実際のところ、当事者の大多数は通常の男性もしくは女性の自認を持っており、このような主張は当事者団体からは批判さることが多い。<ref>{{Cite web |date=|url=http://www.isna.org/faq/third-gender |title=Does ISNA think children with intersex should be raised without a gender, or in a third gender?|publisher=ISNA |language=英語 |accessdate=2010-12-07 }}</ref> <ref>{{Cite web |date=|url=http://www.intersexinitiative.org/japan/faq.html#gender |title=インターセックスについてのよくある質問 (FAQ)|publisher=日本インターセックスイニシアティブ |language=日本語 |accessdate=2010-12-07 }}</ref>
一部のジェンダー論やクィア論などでは単純には分類できない多様な性別のあり方があるとし、この半陰陽を男女のどちらにも属さない「第三の性」と位置づけるとする考えもあるが、実際のところ、'''インターセックスの状態を持つ人々の大多数が、典型的な男性女性として自認を持っており'''(たとえば2004年から2005年にかけてドイツで行わた大規模調査<ref name="Clinical evaluation study of DSD
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陽と陰、男と女といった対立的にして補完的なものの調和を重視する[[陰陽思想]]などに基づいて、半陰陽を理想的な性別のあり方とする考え方もあった。
陽と陰、男と女といった対立的にして補完的なものの調和を重視する[[陰陽思想]]などに基づいて、半陰陽を理想的な性別のあり方とする考え方もあった。

2011年5月23日 (月) 15:34時点における版

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快淫水好傳 第三編

半陰陽(はんいんよう、Intersexuality,hermaphroditism)は第一次性徴における性別の判別が難しい状態である。インターセックス (intersex)ともいう。また、この性質を持つ人を半陰陽者インターセクシュアルintersexualISと略すことも)と呼称する場合もある。

概要

医学的には性分化疾患 (Disorders of Sex Development:DSDs) に分類される。ただし、呼称についてはインターセックス(Intersexuality)なども含めて当事者の間では賛否両論があり、まとまっていない(詳細は「性分化疾患」の項目参照)。

半陰陽は、遺伝子染色体性腺内性器外性器などの一部または全てが非典型的であり、身体的な性別男性女性として単純には分類できない状態である。

一部のジェンダー論やクィア論などでは単純には分類できない多様な性別のあり方があるとし、この半陰陽を男女のどちらにも属さない「第三の性」と位置づけるとする考えもあるが、実際のところ、インターセックスの状態を持つ人々の大多数が、典型的な男性/女性としての性自認を持っており(たとえば、2004年から2005年にかけてドイツで行われた大規模調査[1]では、性分化疾患当事者439人のうち、自らを「男でも女でもない」とした人は9人で、残りの430人は通常の男性か女性の性自認を報告している)、むしろ「インターセックス」とのステレオタイプ的なラベリングは拒絶されることが多い[2][3] [4]

陽と陰、男と女といった対立的にして補完的なものの調和を重視する陰陽思想などに基づいて、半陰陽を理想的な性別のあり方とする考え方もあった。

生物学的位置づけ

半陰陽の原因としては、性染色体に稀なものが見られる場合や、胎児の発達途中における母体のホルモン異常が引き起こす場合などがある。また、モザイク体と呼ばれる、性染色体の構成の異なる細胞を併せ持つ場合もある。

男女両性の特質を中途半端に兼ね備える場合や、遺伝子上の性別と肉体的それが通常の組み合わせとは反対の場合もある。両性の性腺を兼ね備えたものを真性半陰陽、遺伝子と外見とで性別の異なるものを、仮性半陰陽と呼び、後者は性腺上の性別によって、男性仮性半陰陽女性仮性半陰陽として区別される[5]

身体的には、女性仮性半陰陽の場合、が塞がっている場合が多く、また陰核が通常よりも肥大し、これが男性器(ペニス)と間違われることがある。男性仮性半陰陽では、尿道下裂[6]停留睾丸を併せ持った状態のこともある。

性染色体異常

  • クラインフェルター症候群:外性器・内性器など通常の男性形をとる。精子の減少、乳房発達や男性更年期障害、骨粗鬆症、二次性徴の欠如などが見られることがある。
  • ターナー症候群:外陰部は女性型
  • XX男性:外陰部は正常男性を示すが、尿道下裂
  • XYY男性:外陰部は正常男性

真性半陰陽

真性半陰陽では、その性器の状態は人それぞれであり、またその要因は未だ解明されていない。人体に2つある性腺のどちらか一方が精巣、もう一方が卵巣である場合と、精巣または卵巣が左右揃い、染色体構造は46, XXに次いで46, XYが多く、46、XX/46、XYモザイクも多い。男性型では尿道下裂、女性型では陰核肥大、陰唇癒合。

  • 性腺異形成症:外陰部は女性型となる。
  • 混合性性腺異形成症:染色体分析で45、XO/46、XYなどのモザイクを示す外性器が男女中間型を示す。

仮性半陰陽

  • 男性仮性半陰陽
    • テストステロン生合成障害:外性器の男性化異常
    • アンドロゲン不応症:外性器は完全型の場合女性型
    • 5α-還元酵素欠損症:尿道下裂
    • ミュラー管遺存症候群:外性器は完全に男性型
  • 女性仮性半陰陽
    • 先天性副腎過形成
    • 水酸化酵素欠損症
    • 男性ホルモン産生腫瘍
    • 非進行性女性仮性半陰陽

仮性半陰陽の発生要因

仮性半陰陽の発生は、その根本的な原因は様々であるが、少なくとも男性ホルモンが関係しているとされる。

胎児における外性器の分化は、染色体や遺伝子ではなく男性ホルモンの働きに因る。外性器の発生する時期にこれが働くことで外性器は男性化を起こし、それがなければ未分化、すなわち女性的な外性器の状態を示す。

遺伝子上は男性であっても、睾丸が男性ホルモンを分泌しない、細胞が男性ホルモンに反応しないなどで外性器が完全には男性化しない、あるいは、遺伝子上は女性であっても母体などからの男性ホルモンの影響で外性器の男性化が起こるといわれている。

二次性徴

その根本的な原因により、二次性徴の表れ方は様々である。性腺の働きが正常で遺伝子的な異常の無い、単純な外性器の発達不全の場合には、二次性徴期に通常に性ホルモンが分泌され、(外見とは逆の)本来の二次性徴が発現するといわれ、この場合にはこの肉体的変化で気付くことが多い。また、男性仮性半陰陽の中で、睾丸が女性ホルモンのみを分泌する場合には、女性としては十分とはいえないまでも乳房の発達が起こるとされ、この様な場合には男性ホルモンが働かないために陰毛などが発生しないともいわれる。

自己・周囲の認知

仮性半陰陽の場合、外見的には表に出ている男性または女性そのものであることも少なくないため、周囲はおろか当人も全くそれに気づかない場合もある。精巣卵巣も形成され、外見通りの性別に(たとえ遺伝子情報のそれと反していても)成人する。

たとえば男性仮性半陰陽(遺伝子は男性だが女性の形態をとる)の場合、本人もそれと知らずに結婚、一生を女性として過ごすこともある。ただしこの場合、はあるものの子宮が痕跡的で少なくとも機能しないため、自然な妊娠はできない。少なくとも現在のところ、男性仮性半陰陽の女性が出産にまで至った事例は知られていない。クラインフェルター症候群などの男性は極端に精子が少ないため、自然的に受精させることはほぼ不可能だが人工授精での受精は可能である。不妊治療の過程で自分が半陰陽であることを知り精神的な打撃を受けることもある。

精神状態

女性学などで用いられるジェンダー論においては、「男と女」という概念は、実際には精神的にも肉体的にもはっきりと二分できるものではなく、男性的、女性的というのは社会の中で形成されるため、逆に言えば、必ずしも肉体の性別と精神面の性別は一致しない、とする考え方もある。

しかし、「男性的女性的というものが社会の中で形成される」とすることについて、この説は必ずしも通説とは限らない。「ジェンダーアイデンティティ」を定式化したジョン=マネーの研究に関しては、ハワイ大学のミルトン=ダイアモンドによって、その定式化を支持する実験の大きな不備が指摘されており、現在のところ性自認が社会的に形成されるものか生得的なものであるかについては「分からない」とするのが科学的に最も良心的であると考えられる。

また、半陰陽の状態を持つ人々について、どちらの性自認を持つか、特に日本において信頼できる調査はされておらず、これに関しても「分からない」とするのが良心的であろう。そもそも、半陰陽の状態を持つ人々に関して問題になるとしても、それは社会的性差(ジェンダー)の問題ではなく、性自認(ジェンダーアイデンティティ)の問題であると思われる。

半陰陽の場合、その性がどちらにあるかはその成り立ちや環境によりまさに千差万別である。どちらかの性別での生活に精神的苦痛を憶え、裁判により戸籍上の性別、続柄、名称の変更を求める事例は少ないながら存在し、決して多くはないが医学的な証明のもとに本人の主張が認められ、戸籍の訂正が認められた例は現実に存在する。ちなみに身体的に正常な性別に属していないので、概念的に性同一性障害にはならない。

社会認知

社会的には現在、半陰陽の状態を持つ人々は差別以前に日本ではほとんど認知されていない。明治以前には少なくとも「ふたなり」という単語が存在する程度にはそれを認知していた。

しかし、明治になって西洋式の考えが導入された時点で、生殖能力に欠ける事が多く「産めよ増やせよ地に満ちよ」のできない、あるいは難しい半陰陽の状態を持つ人々は社会から無視され、単純に先天的疾患と分類するようになってしまったとも指摘される。

またごく最近では、性的ファンタジーとしての両性具有ではない、半陰陽の状態を持つ人の現実的な問題を描いた漫画『IS』(著:六花チヨ講談社刊)や、半陰陽当事者である漫画家新井祥の作品などが話題となり、以前より少しは半陰陽の状態を持つ人々(インターセクシャル)の存在が認知されるようになった。が、これらの作品でも半陰陽について分かりやすい解説を加えているにもかかわらず、その概念が理解できず、未だに「性同一性障害」と混同している人は少なくない。

日本での法的な対応

出生直後に外見上の性別が不明瞭である場合、出生届等で性別留保という手続きをすれば戸籍には性別は記載されない。

手術

現在、日本において半陰陽の状態を持つ子が生まれた場合、整形手術が行われることが多い。特に生まれてすぐに手術を行うことで生殖能力の保持に関わるケースなどもあり、医師と親の判断に任されることが多々ある。しかし、本人の身体についての説明が十分でない場合、後に本人のアイデンティティを揺るがすことがある。手術をすることによって初めて自分の体に満足する人もいるが、インターセックスの当事者団体では、半陰陽の状態を持つ子供が生まれた場合、即座の整形手術は、健康的な問題を含まない限り避けられるべきで、かつ、男性女性どちらかで養育するように推奨している。モントリオール宣言ジョグジャカルタ原則第18原則は特にこうした十分なインフォームド・コンセントの伴わない医療介入から児童が保護される必要性を訴えている。

手術の問題点としては、説明が十分になされないゆえのアイデンティティの危機、性感帯の切除による満足の減少、また、ホルモンの減少によって骨粗鬆症になりやすくなる、精神が不安定になる場合がある(骨粗鬆症に関しては、生来的なホルモン不足により起こることがほとんどで、その上ではホルモン投与などの治療はむしろ推奨される)。

俗語・その他の呼称など

半陰陽はふたなり(二成・双成)、両性具有(りょうせいぐゆう)、アンドロジニー (androgyny) と呼ばれることもある。また、半陰陽者のことをハーマフロダイトヘルマプロディトス (Hermaphroditus) 、アンドロギュノス (Androgynous) と呼ぶこともある。

関連項目

脚注

  1. ^ Clinical evaluation study of the German network of disorders of sex development (DSD)/intersexuality: study design, description of the study population, and data quality” (英語). BMC Public Health (2009年4月21日). 2010年6月25日閲覧。
  2. ^ 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「IPDX-toDSD」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  3. ^ Does ISNA think children with intersex should be raised without a gender, or in a third gender?” (英語). ISNA. 2010年12月7日閲覧。
  4. ^ インターセックスについてのよくある質問 (FAQ)”. 日本インターセックスイニシアティブ. 2010年12月7日閲覧。
  5. ^ 横田 & 迫間 1935, pp. 785–786
  6. ^ 横田 & 迫間 1935, p. 788

参考文献

外部リンク