遭難自動通報局
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遭難自動通報局(そうなんじどうつうほうきょく)は、無線局の種別の一つである。
定義[編集]
総務省令電波法施行規則第4条第1項第10号に「遭難自動通報設備のみを使用して無線通信業務を行なう無線局」と定義している。 この遭難自動通報設備とは、第2条第1項において
- 「携帯用位置指示無線標識」を第37号の7に「人工衛星局の中継により、及び航空機局に対して、電波の送信の地点を探知させるための信号を送信する遭難自動通報設備であつて、携帯して使用するもの」
- 「衛星非常用位置指示無線標識」を第38号に「遭難自動通報設備であつて、船舶が遭難した場合に、人工衛星局の中継により、及び航空機局に対して、当該遭難自動通報設備の送信の地点を探知させるための信号を送信するもの」
- 「捜索救助用レーダートランスポンダ 」を第39号に「遭難自動通報設備であつて、船舶が遭難した場合に、レーダーから発射された電波を受信したとき、それに応答して電波を発射し、当該レーダーの指示器上にその位置を表示させるもの」
- 「捜索救助用位置指示送信装置」を第39号の2に「遭難自動通報設備であつて、船舶が遭難した場合に、船舶自動識別装置又は簡易型船舶自動識別装置の指示器上にその位置を表示させるための情報を送信するもの」
と定義している。
引用の送り仮名、促音の表記は原文ママ
概要[編集]
従前は船舶に搭載する遭難自動通報設備、すなわち非常用位置指示無線標識装置(EPIRB)及び捜索救助用レーダートランスポンダ(SART)として免許されてきた。 個人用の携帯用位置指示無線標識(PLB)のニーズが高まったことにより、遭難自動通報設備に追加された。 移動局の一種でもある。
定義に見るとおり、EPIRB又はSARTのいずれか又は両者は、これらを搭載する船舶に免許される。 その他の無線設備をあわせて搭載する船舶は船舶局又は無線航行移動局として免許されることになる。 搭載するのは小形の内航船舶が主である。 変わったものとしては、陸上に常備する津波救命艇 [1] [2] がある。 これに対しPLBは個人に免許される。免許申請にあたっては申請者以外の連絡先を2ヶ所以上要する。
免許[編集]
無線局の免許人として外国籍の者が原則として排除されることは、電波法第5条第1項に欠格事由として規定されているが、例外として第2項に
- 第3号 船舶の無線局(船舶に開設する無線局のうち、電気通信業務(電気通信事業法 (昭和59年法律第86号)第2条第6号の電気通信業務をいう。以下同じ。)を行うことを目的とするもの以外のもの(実験等無線局及びアマチュア無線局を除く。)をいう。以下同じ。)であつて、船舶安全法 (昭和8年法律第11号)第29条の7に規定する船舶に開設するもの
- 引用の促音の表記は原文ママ
があり、遭難自動通報設備は電気通信業務用ではないので外国人や外国の会社・団体でも遭難自動通報局を開設できる。
種別コードはDS。免許の有効期間は5年間。 EPIRB及びSARTは無線機器型式検定規則による「検定機器」、PLBは特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則による適合表示無線設備でなければならない。 無線局免許手続規則に基づく告示 [3] による簡易な免許手続により予備免許や落成検査も無く免許される。
- 用途
用途は、救難用である。
EPIRB、PLBは、406.025MHz、406.028MHz、406.037MHz及び406.04MHzのいずれか [4] が必須で航空機ホーミング用の121.5MHz [5] を付加したものもある。
SARTは9350MHz [6] である。
- 無線局免許状の備付け
電波法施行規則第38条第1項により無線局免許状は無線局に備え付けるものとされるが、同条第3項により携帯用位置指示無線標識のみのものについては常置場所に備え付ければよい。
- 表示
検定機器には検定マークとEPIRB及びSARTを表す記号の表示を要する。 EPIRB及びSARTを表す記号は、検定番号および機器の型式名の1-2字目にあり、種別毎に次のとおり[7]である。
種類 | 記号 |
---|---|
EPIRB | SE又はSS |
SART | LT |
適合表示無線設備には技適マークと技術基準適合証明番号又は工事設計認証番号の表示を要する。 PLBを表す記号は、技術基準適合証明番号の4-5字目のTI[8]である。 従前は工事設計認証番号にも表示を要した。
技適マーク#沿革を参照。
旧技術基準の機器の使用[編集]
無線設備規則のスプリアス発射等の強度の許容値に関する技術基準改正 [9] により、旧技術基準に基づく無線設備が免許されるのは「平成29年11月30日」まで [10]、 使用は「平成34年11月30日」まで [11] とされた。 但し、検定機器は設置が継続される限り検定合格の効力は有効[12]である。
対象となるのは、EPIRB又はSARTで、
したものである。
新規免許は「平成29年12月1日」以降できないが、使用期限はコロナ禍により「当分の間」延期[15][16]された。
無線局#旧技術基準の機器の使用も参照。
- 遭難自動通報局で対象となるのは検定機器のみなので、既設局では合格の効力が有効であることは変わらず設置され続ける限り再免許できる。
運用[編集]
無線局運用規則第3章 海上移動業務、海上移動衛星業務及び海上無線航行業務の無線局の運用による。
- 機能試験
無線局運用規則第8条の2および電波法施行規則第38条の4により、EPIRB及びSARTについては1年以内の期間ごとに、告示 [17] に規定する方法により機能試験をして、結果を2年間保存することが義務付けられている。 これは、他の種別の局にあっても同様である。
操作[編集]
電波法施行規則第33条の無線従事者を要しない「簡易な操作」の第8号に「その他に別に告示するもの」があり、これに基づく告示 [18] に遭難自動通報設備があり、無資格で使用できる。
検査[編集]
- 落成検査は、上述の通り簡易な免許手続が適用され行われない。
- 定期検査は、電波法施行規則第41条の2の6第9号により、PLBのみのものを除き行われる。周期は別表第5号第11号により次の通り。
- (1) 船舶安全法により遭難自動通報設備の備付けを要する船舶に開設するもの 2年
- (2) (1)に該当しないもの 船舶安全法により遭難自動通報設備の備付けを要する船舶に開設するもの 5年
- 一部を除き登録検査等事業者等による検査が可能で、この結果に基づき検査が省略される。
- 変更検査は、落成検査と同様である。
- 自衛隊の艦船については、自衛隊法第112条第1項により電波法の検査に関する規定が除外される。
沿革[編集]
1960年(昭和35年)
- 電波法施行規則に定義された。遭難自動通報設備も「A1電波2,091kcを使用し、船舶が重大且つ急迫な危険に陥つた場合に即時の救助を求める通報を自動的に送信する無線設備」と定義された。[19]
- 以後、周波数の追加や表記変更があった。
- 検定機器を使用すれば簡易な免許手続の対象とされた。[20]
1964年(昭和39年)- 遭難自動通報設備のみの局は無線業務日誌の備付けが不要とされた。 [21]
- 以後、遭難自動通報設備の変更があっても同様とされた。
1983年(昭和58年)- 遭難自動通報設備は「A1A電波2,091kHz又はA2A電波若しくはH2A電波2,182kHzを使用し、船舶が重大且つ急迫な危険に陥つた場合に即時の救助を求める通報を自動的に送信する無線設備」と定義された。 [22]
1991年(平成3年)- 遭難自動通報設備にかえて「非常用位置指示無線標識」が「遭難自動通報設備であって、A1A電波2,091kHz又はA2A電波若しくはH2A電波2,182kHzを使用し、船舶が遭難した場合に、遭難自動通報設備の送信の地点を探知させるための信号を送信させる無線設備」と定義された。 また、「衛星非常用位置指示無線標識」が「遭難自動通報設備であつて、船舶が遭難した場合に、人工衛星局の中継により、当該遭難自動通報設備の送信の地点を探知させるための信号を送信するもの」として、「捜索救助用レーダートランスポンダ」の定義が追加された。 [23]
1993年(平成5年)- 電波利用料制度化、料額の変遷は下表参照
1999年(平成11年)- 非常用位置指示無線標識が削除された。 [24]
2006年(平成18年)- 衛星非常用位置指示無線標識の定義が現行のものとなった。 [25]
2010年(平成22年)- 捜索救助用位置指示送信装置が定義された。 [26]
2017年(平成29年)- 携帯用位置指示無線標識が定義された。 [27]
2018年(平成30年)- 携帯用位置指示無線標識のみのものの無線局免許状は常置場所に備え付ければよいとされた。 [28]
2022年(令和4年)- 外国籍の者が遭難自動通報局を開設できることとなった。 [29]
引用の促音の表記は原文ママ
年度 | 昭和35年度末 | 昭和36年度末 | 昭和37年度末 | 昭和38年度末 | 昭和39年度末 | 昭和40年度末 |
---|---|---|---|---|---|---|
局数 | - | - | - | 3 | 3 | 110 |
年度 | 昭和41年度末 | 昭和42年度末 | 昭和43年度末 | 昭和44年度末 | 昭和45年度末 | 昭和46年度末 |
局数 | 4,242 | 4,316 | 4071 | 7,547 | 7,528 | 6,506 |
年度 | 昭和47年度末 | 昭和48年度末 | 昭和49年度末 | 昭和50年度末 | 昭和51年度末 | 昭和52年度末 |
局数 | 4,999 | 6,945 | 7,343 | 3,613 | 3,063 | 2,482 |
年度 | 昭和53年度末 | 昭和54年度末 | 昭和55年度末 | 昭和56年度末 | 昭和57年度末 | 昭和58年度末 |
局数 | 2,296 | 2,172 | 1,891 | 1,691 | 1,486 | 1,305 |
年度 | 昭和59年度末 | 昭和60年度末 | 昭和61年度末 | 昭和62年度末 | 昭和63年度末 | 平成元年度末 |
局数 | 1,120 | 996 | 815 | 686 | 557 | 477 |
年度 | 平成2年度末 | 平成3年度末 | 平成4年度末 | 平成5年度末 | 平成6年度末 | 平成7年度末 |
局数 | 406 | 352 | 325 | 262 | 167 | 147 |
年度 | 平成8年度末 | 平成9年度末 | 平成10年度末 | 平成11年度末 | 平成12年度末 | 平成13年度末 |
局数 | 144 | 146 | 119 | 132 | 127 | 122 |
年度 | 平成14年度末 | 平成15年度末 | 平成16年度末 | 平成17年度末 | 平成18年度末 | 平成19年度末 |
局数 | 115 | 110 | 101 | 102 | 91 | 95 |
年度 | 平成20年度末 | 平成21年度末 | 平成22年度末 | 平成23年度末 | 平成24年度末 | 平成25年度末 |
局数 | 84 | 75 | 65 | 58 | 48 | 46 |
年度 | 平成26年度末 | 平成27年度末 | 平成28年度末 | 平成29年度末 | 平成30年度末 | 令和元年度末 |
局数 | 47 | 74 | 384 | 623 | 765 | 1,218 |
年度 | 令和2年度末 | 令和3年度末 | ||||
局数 | 1,417 | 1,300 | ||||
総務省情報通信統計データベース
による。 |
- 電波利用料額
電波法別表第6第1項の「移動する無線局」が適用される。
年月 | 料額 | |
---|---|---|
1993年(平成5年)4月[33] | 600円 | |
1997年(平成9年)10月[34] | ||
2006年(平成18年)4月[35] | ||
2008年(平成20年)10月[36] | 400円 | |
2011年(平成23年)10月[37] | 500円 | |
2014年(平成26年)10月[38] | 600円 | |
2017年(平成29年)10月[39] | ||
2019年(令和元年)10月[40] | 400円 | |
2022年(令和4年)10月[29] | ||
注 料額は減免措置を考慮していない。 |
その他[編集]
非常時のみ使用する為、再免許を怠ることがあるが、これは不法無線局となるので注意を要する。
脚注[編集]
- ^ 高知県に配備される津波救命艇に対し全国で初めて無線局の免許 ≪衛星を使用して津波救命艇の位置情報を伝達≫ 四国総合通信局 報道資料 平成26年7月15日(2014年8月5日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 焼津市の津波救命艇に管内初の無線局免許 東海総合通信局 報道資料一覧 平成27年1月23日(2015年2月13日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 昭和36年郵政省告示第199号 無線局免許手続規則第15条の5第1項第2号の規定による簡易な免許手続を行うことのできる無線局第4項第1号及び第2号(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
- ^ 電波法関係審査基準 地域周波数利用計画策定基準一覧表 第3号海岸局、船舶局等 4.遭難自動通報局及び船上通信局 (1)遭難自動通報局 イ極超短波帯(衛星非常用位置指示無線標識用)
- ^ 同上 ア超短波帯(衛星非常用位置指示無線標識用)
- ^ 同上 ウ9GHz帯(捜索救助用レーダートランスポンダ用)
- ^ 無線機器型式検定規則別表第8号
- ^ 特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則様式7
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第2項および平成19年総務省令第99号による同附則同条同項改正
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第3条第1項
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第4条第1項ただし書き
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正の施行日の前日
- ^ 平成17年総務省令第119号による無線設備規則改正附則第4条第2項
- ^ 無線設備規則の一部を改正する省令の一部改正等に係る意見募集 −新スプリアス規格への移行期限の延長−(総務省報道資料 令和3年3月26日)(2021年4月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 令和3年総務省令第75号による無線設備規則改正の令和3年8月3日施行
- ^ 平成4年郵政省告示第142号 無線局運用規則第8条の2第1項の規定に基づく遭難自動通報局の無線設備の機能試験の方法(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
- ^ 平成2年郵政省告示第240号 電波法施行規則第33条の規定に基づく無線従事者の資格を要しない簡易な操作 第3項第1号(4)(総務省電波利用ホームページ - 総務省電波関係法令集)
- ^ 昭和35年郵政省令第18号による電波法施行規則改正
- ^ 昭和50年郵政省令第19号による無線局免許手続規則改正
- ^ 昭和39年郵政省告示第800号による昭和35年郵政省告示第1017号改正
- ^ 昭和58年郵政省令第9号による電波法施行規則改正
- ^ 平成2年郵政省令第45号による電波法施行規則改正の施行
- ^ 平成10年郵政省令第105号による電波法施行規則改正の施行
- ^ 平成18年総務省令第132号による電波法施行規則改正
- ^ 平成21年総務省令第118号による電波法施行規則改正の施行
- ^ 平成28年総務省令第101号による電波法施行規則改正の施行
- ^ 平成30年総務省令第4号による電波法施行規則改正
- ^ a b 令和4年法律第63号による電波法改正
- ^ 通信白書 総務省情報通信統計データベース
- ^ 平成12年度以前の分野別データ(総務省情報通信統計データベース - 分野別データ)(2007年8月8日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 用途別無線局数 総務省情報通信統計データベース
- ^ 平成4年法律第74号による電波法改正の施行
- ^ 平成9年法律第47号による電波法改正
- ^ 平成17年法律第107号による電波法改正の施行
- ^ 平成20年法律第50号による電波法改正
- ^ 平成23年法律第60号による電波法改正
- ^ 平成26年法律第26号による電波法改正
- ^ 平成29年法律第27号による電波法改正
- ^ 令和元年法律第6号による電波法改正
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
総務省電波利用ホームページ
- 船舶又は航空機に開設する無線局の外資規制の廃止のお知らせ(2022年7月1日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- 携帯用位置指示無線標識(PLB)に係る省令改正について - ウェイバックマシン(2017年1月10日アーカイブ分)