「電磁気量の単位系」の版間の差分

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aimai ヘンドリック・ローレンツ
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=== ヘヴィサイド・ローレンツ単位系 ===
=== ヘヴィサイド・ローレンツ単位系 ===
ヘヴィサイド・ローレンツ単位系は、[[オリヴァー・ヘヴィサイド|ヘヴィサイド]]が1883年に提唱し、[[ローレンツ]]が再編成した単位系である。単にヘヴィサイド単位系とも呼ばれる。
ヘヴィサイド・ローレンツ単位系は、[[オリヴァー・ヘヴィサイド|ヘヴィサイド]]が1883年に提唱し、[[ヘンドリック・ローレンツ]]が再編成した単位系である。単にヘヴィサイド単位系とも呼ばれる。


上記3つの単位系では、[[マクスウェル方程式]]など電磁気学で多用される微積分の式では係数<math>4\pi</math>が表れてしまう。そこでヘヴィサイド・ローレンツ単位系では、ガウス単位系において<math>\alpha = 1</math>とし、電磁気量と力学量との関係を表す関係式の分母に<math>4\pi</math>を入れることで、微積分の式に<math>4\pi</math>が表れないようにしている。<math>\alpha = 1</math>とすることを「有理化」といい、ヘヴィサイドによって初めて提唱されたものである。有理化によりマクスウェル方程式などは簡単な形式で記述するようになったが、その代償として従来の単位系との換算の際に<math>\sqrt{4\pi}</math>が大量に表れることになり、実用的な単位系とは言えなかった。
上記3つの単位系では、[[マクスウェル方程式]]など電磁気学で多用される微積分の式では係数<math>4\pi</math>が表れてしまう。そこでヘヴィサイド・ローレンツ単位系では、ガウス単位系において<math>\alpha = 1</math>とし、電磁気量と力学量との関係を表す関係式の分母に<math>4\pi</math>を入れることで、微積分の式に<math>4\pi</math>が表れないようにしている。<math>\alpha = 1</math>とすることを「有理化」といい、ヘヴィサイドによって初めて提唱されたものである。有理化によりマクスウェル方程式などは簡単な形式で記述するようになったが、その代償として従来の単位系との換算の際に<math>\sqrt{4\pi}</math>が大量に表れることになり、実用的な単位系とは言えなかった。

2009年1月16日 (金) 13:14時点における版

電磁気の単位(でんじきのたんい)を単位系に組み込もうとするとき、電磁気に関係する物理量は、長さ質量時間だけでは表すことができないため、もうひとつ別の物理量を単位系に加える必要がある。

各種の単位系

国際単位系(SI)では電磁気関連の基本単位として電流を採用しており、電流の流れる物体間に作用するによって定義している。SI単位系では電荷電流時間として定義される組立単位となる。このような形になるまでには、様々な変遷があった。

電磁気に関する研究が始められ、その単位が作られ出したころ、広く使用されていた単位系はCGS単位系であった。初期の電磁気の単位はCGS単位系の上で構築された。

電磁気の単位の構築は、電磁気量と力学量との関係を表す以下の3つの基本方程式から始めることになる。

各種の電磁気に関する単位系の違いは、上記の各式に表れる係数 , , (真空の誘電率), (真空の透磁率)の値をどう置くかの違いによるものである。

CGS電磁単位系

最初に電磁気の単位系を構築したのはウェーバーであった。ウェーバーは、ビオ・サバールの法則が一つも係数を含まなくなるように(すなわち、, )して電流の単位(電磁単位 (emu))を決定し、電流連続の法則のとして電荷の単位を導いた。これをクーロンの法則に適用し、1 cmの間隔で置かれた単位電荷を持つ物体間に働く力を1ダインとするために、とした。ここで、はセンチメートル単位の光速度である。この単位系はCGS電磁単位系(CGS-emu)と呼ばれる。

CGS静電単位系

電磁単位系と対になるものとして、マクスウェルが提案したのがCGS静電単位系(CGS-esu)である。これは、クーロンの法則が一つも係数を含まなくなるように(すなわち、, )して電荷の単位(静電単位 (esu))を決定し、電流連続の法則のとして電流の単位を導いたものである。これをビオ・サバールの法則に適用し、1 cmの間隔で流れる単位電流の間に働く力を1ダインとするために、とした。

ガウス単位系

ヘルムホルツヘルツは、磁気に関する単位には電磁単位系、電気に関する単位には静電単位系を用いた単位系を提唱した。この単位系はガウス単位系と呼ばれる。この結果、となるが、その代わりにとなる。磁気系の単位と電流系の単位が対称的となり、SI単位系と比べて利点が多いため、現在でも理論物理学などでは用いられることがある。

ヘヴィサイド・ローレンツ単位系

ヘヴィサイド・ローレンツ単位系は、ヘヴィサイドが1883年に提唱し、ヘンドリック・ローレンツが再編成した単位系である。単にヘヴィサイド単位系とも呼ばれる。

上記3つの単位系では、マクスウェル方程式など電磁気学で多用される微積分の式では係数が表れてしまう。そこでヘヴィサイド・ローレンツ単位系では、ガウス単位系においてとし、電磁気量と力学量との関係を表す関係式の分母にを入れることで、微積分の式にが表れないようにしている。とすることを「有理化」といい、ヘヴィサイドによって初めて提唱されたものである。有理化によりマクスウェル方程式などは簡単な形式で記述するようになったが、その代償として従来の単位系との換算の際にが大量に表れることになり、実用的な単位系とは言えなかった。

MKSA単位系

工業の発展により、それまでのCGS単位系では小さすぎるため、より実用的なMKS単位系への移行が行われるようになった。これにあわせて、電磁気の単位もMKS単位系を基本としたものに移行する必要が出てきた。

ジオルジ(G.Giorgi)は、電磁単位系を元にした、電流をもう1つの基本単位とするMKSA単位系を標準とすることを提案した。ジオルジが提案したMKSA単位系は、ヘヴィサイド・ローレンツ単位系で導入された有理化を採用()し、が大量に表れる弊害を避けるために、を含めることとした。

MKSA単位系を基礎としたのが、現行の国際単位系(SI)である。

一般化CGS単位系

CGS単位系の4つの単位系では、電磁気の単位を決定するために導入したもう1つの値は基本単位ではない。基本単位は3つであるので、これを「3元」という。MKSA単位系は電流を基本単位(新たな次元)として取り扱っており、これを「4元」という。3元のCGS単位系から4元のMKSA単位系への移行の際の過渡的措置として、電磁単位系の電磁単位(emu)、静電単位系の静電単位(esu)を基本単位として4元にした「一般化CGS電磁単位系」「一般化CGS静電単位系」が導入された。

まとめ

これらをまとめると、以下のようになる(cは光速度の値。MKSA単位系のみメートル単位で、他はセンチメートル単位)。

単位系
(有理化)

(対称性)

(透磁率)

(誘電率)
CGS電磁単位系 1 1 1/c2
CGS静電単位系 1 1/c2 1
ガウス単位系 c 1 1
ヘヴィサイド単位系 1 c 1 1
MKSA単位系 1 1 4π×10-7 1/(4π×10-7)c2

単位

CGS電磁単位系・CGS静電単位系では単位名称は定められておらず、単位系の名称をそのまま使って「電磁単位(emu)」「静電単位(esu)」と呼んでいた。今日では、同じ物理量のSIの単位の前に、電磁単位系についてはアブ(ab; absoluteの略)、静電単位系についてはスタット(stat; staticの略)をつけて表すこともある。これによれば、電磁単位系の電流の単位(電磁単位(emu))はアブアンペア(abA)、静電単位系の電荷の単位(静電単位(esu))はスタットクーロン(statC)、静電単位系の電圧の単位はスタットボルト(statV)となる。

一般化CGS単位系を導入する際、電磁単位(アブアンペア)、静電単位(スタットクーロン)に固有の名称がつけられ、電磁単位はビオ(Bi)、静電単位はフランクリン(Fr)となった。

他にCGS単位系の単位には、磁束のマクスウェル(Mx)、磁場のエルステッド(Oe)、磁束密度のガウス(G)などがある。

国際単位系では、電流はアンペア(A)、磁束はウェーバ(Wb)、電荷はクーロン(C)、電圧はボルト(V)である。

各単位系を相互に変換するには、簡単な計算で求められる係数を乗算すればよい。しかし、CGS単位系の基準単位となる物理量は実験的に決定するのが難しいものが多いという欠点がある。一方、SI単位系で基本単位に採用している電流(アンペア)は実験的に決定しやすいが、代わりに各物理法則には様々な係数・定数が含まれるようになる。

各単位系の単位の換算は以下のようになる(CGS電磁単位系の単位を1とした場合。cはセンチメートル単位の光速度の値)。

単位系 電流 磁束 電荷 電圧
CGS電磁単位系 1 1 1 1
CGS静電単位系 c 1/c c 1/c
ガウス単位系 1 1 c 1/c
ヘヴィサイド単位系
MKSA単位系 10 10-8 10 10-8
国際単位系(SI)の電磁気の単位
名称 記号 次元 組立 物理量
アンペアSI基本単位 A I A 電流
クーロン C T I A·s 電荷(電気量)
ボルト V L2 T−3 M I−1 J/C = kg·m2·s−3·A−1 電圧電位
オーム Ω L2 T−3 M I−2 V/A = kg·m2·s−3·A−2 電気抵抗インピーダンスリアクタンス
オーム・メートル Ω·m L3 T−3 M I−2 kg·m3·s−3·A−2 電気抵抗率
ワット W L2 T−3 M V·A = kg·m2·s−3 電力放射束
ファラド F L−2 T4 M−1 I2 C/V = kg−1·m−2·A2·s4 静電容量
ファラド毎メートル F/m L−3 T4 I2 M−1 kg−1·m−3·A2·s4 誘電率
毎ファラド(ダラフ) F−1 L2 T−4 M I−2 V/C = kg1·m2·A−2·s−4 エラスタンス
ボルト毎メートル V/m L T−3 M I−1 kg·m·s−3·A−1 電場(電界)の強さ
クーロン毎平方メートル C/m2 L−2 T I C/m2= m−2·A·s 電束密度
ジーメンス S L−2 T3 M−1 I2 Ω−1 = kg−1·m−2·s3·A2 コンダクタンスアドミタンスサセプタンス
ジーメンス毎メートル S/m L−3 T3 M−1 I2 kg−1·m−3·s3·A2 電気伝導率(電気伝導度・導電率)
ウェーバ Wb L2 T−2 M I−1 V·s = J/A = kg·m2·s−2·A−1 磁束
テスラ T T−2 M I−1 Wb/m2 = kg·s−2·A−1 磁束密度
アンペア回数 A I A 起磁力
アンペア毎メートル A/m L−1 I m−1·A 磁場(磁界)の強さ
アンペアウェーバ A/Wb L−2 T2 M−1 I2 kg−1·m−2·s2·A2 磁気抵抗(リラクタンス、: reluctance
ヘンリー H L2 T−2 M I−2 Wb/A = V·s/A = kg·m2·s−2·A−2 インダクタンスパーミアンス
ヘンリー毎メートル H/m L T−2 M I−2 kg·m·s−2·A−2 透磁率