広義の記数法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

この項では基本的な位取り記数法を除く、負の数や虚数を含む記数法等について述べる。 ここでは仮数とは、その位に記された数のこと[要出典]とし、 底(てい)とは、その位の一つ上の位の値が持つ、その位に対する重みの倍率とする。

標準的な記数法[編集]

この節では、底が一定で冗長でない記数法について説明する。

書き方は位取り記数法と同じく、底が K であれば、数

のように仮数を書き並べることで表記できる。この記法では、n自然数とすると

が成り立つ。一般的に位取り記数法と呼ばれるものは、0 から N − 1 までの N 個の整数を仮数にもつ底が N の表記法のことである。これは任意の 0 以上の実数を無限に近似できるが、その他の数を表記するには演算子が必要となる。

中には底が自然数でないものも考えられている。コンピュータでは二進法を用いている場合がほとんどだが、符号の扱いが難しい。そこで、底を −2 とした記法が考えられた。この方法では、0 と 1 を用いてすべての整数を表すことが出来る。その他に複素数を表記するため、−1 + i を底としたものも考えられている(i虚数単位)。これらはドナルド・クヌースにより考案されたが、演算が複雑なため実際に用いられることは稀である。

自然数を表記するもの[編集]

仮数が N 通りであるものの、0 を含まずに 1 から N までを使用するのがBijective numeration[定訳なし]である。この表記法で整数の 0 を表そうとすると空文字列になってしまう。また、途中の桁を 0 にすることはできない。N=26 である A, B, ..., Z, AA, AB, ... のような形式が、表計算ソフトの列名などで用いられている。N=1 とすると一進法となる。

実数を表記するもの[編集]

仮数が N 通りであれば、底は ±N となる。

任意の実数を表記できるものとして、次の例が考えられる。

名前 仮数 一桁の演算で繰り上がる確率 除算
加算 乗算
マイナス二進法 (en:Negabinary 0, 1 −2 1/4 0/4
なし[B] −2, −1, 0, 1 4 4/16 3/16
平衡三進法 (balanced ternary) [C] −1, 0, 1 3 2/9 0/9
マイナス三進法 (en:Negatrinary [D] 0, 1, 2 −3 3/9 1/9
なし[E] −3, −1, 0, 1, 3 5 12/25 4/25 不可

複素数を表記するもの[編集]

i虚数単位とする。仮数が n 通りであれば、底の絶対値はとなる。

任意の複素数を表記できるものとして、次の例が考えられる。

名前 仮数 一桁の演算で繰り上がる確率 除算
加算 乗算
なし 0, 1 −1+i 1/4 0/4 不可
なし 0, 1 1/4 0/4
なし[* 1] 0, 1, , −2 9/16 0/16 不可
なし[* 2] −1+i, i, 1+i, −1, 0, 1, −1−i, −i, 1−i 3 32/81 16/81
2i進法英語: Quater-imaginary base 0, 1, 2, 3 2i 6/16 4/16
なし i, −1, 0, 1, −i 2+i 12/25 0/25 不可

注釈

  1. ^ 実数を表記した場合、マイナス二進法と同じ表記となる。
  2. ^ 実数を表記した場合、平衡三進法と同じ表記となる。

冗長な記数法[編集]

ここでは、小数点から上に数えて n番目の位を n-1番位と呼ぶことにする。 例えば二進法では、n番位の重みは 2n である。

次に例を挙げる。

  • 冗長二進法 (redundant binary representation, RB) とは、符号付二進法 (signed-digit, SD) の一種で、 -1, 0, 1 を仮数に持ち、底を 2 とした記数法である。任意の実数はこの表現を無限に持つ。
  • 非隣接形式 (non-adjacent form, NAF) [F] とは、冗長二進法において隣接する二つの位の少なくとも一方の仮数を 0 としたものであり、符号付二進法の一種である。この記法による表現は任意の整数に対して一つだけ存在する。この表記方法は通常の二進法と比較して、仮数が 0 の位が多く乗法や指数演算の処理速度が速い。応用例としては、楕円曲線上のスカラー倍算を効率的に計算する方法が知られている。
  • 相互交代形式 (mutual opposite form, MOF) [G] とは、冗長二進法において、0 を除くと 1 と -1 が交互に並び最上位が 1 で最下位が -1 としたものであり、符号付二進法の一種である。この記法による表現は任意の自然数に対して一つだけ存在する。 2004 年 8 月 23 日に、日立製作所により発表された[1]
  • 0, 1 を仮数に持ち、底を黄金比 φ とし、隣り合う二つの位の少なくとも一方の仮数を 0 とした記数法 (golden ratio base, 黄金進法) [K] がある。この記法では各位で、11 = 100 および 1 + 1 = 10.01 が成り立つ。また十進法で表記された数は、この記法では 10.1 と表記できることにも注意したい。

複数の底の混在[編集]

表記法の内部で底 N が一定であれば各桁の重みは N冪乗となるが、ここではそれに限定しない表記法を述べる。

  • 桁数が制限された二進法の、最上位の一つ下の位の底を -2 とした表記法 [H] による表記は2の補数表記と一致する。
  • 二五進法 [I] とは、偶数番位は仮数が 0, 1, 2, 3, 4 で底が 5 、奇数番位は仮数が 0, 1 で底が 2 である記数法である。これは十進法の一つの位を二つに分割した形となっており、そろばんではこれが使用されている。
  • 階乗進法 (factoradic) [J] とは、0番位は仮数が 0 で底が 1 、 1番位は仮数が 0, 1 で底が 2 、 2番位は仮数が 0, 1, 2 で底が 3 、 3番位は仮数が 0, 1, 2, 3 で底が 4 、…とした記数法である。また、この記法の拡張として、 -1番位は仮数が 0, 1 で底が 2 、 -2番位は仮数が 0, 1, 2 で底が 3 、…とした記数法があり、これには任意の有理数を有限小数で表記できるという特徴がある。なお n番位の重みは、 n≧0 ならば n の階乗、 n<0 ならば -n+1 の階乗の逆数となる。
  • 時間の表記法の各単位を桁とみなすと、例えば32週5日7時間45分の各桁の重みは、週: 10080 分、日: 1440 分、時間: 60 分と言うことができる。

対応表[編集]

ここでは -n をと表記する。 他には、WWW との適合性のため -n を n と書いたり、 を単に T と書く手法もある。

十進法 [A] [B] [C] [D] [E] [F] [G] [H] [I] [J] [K]
-16 110000 00 11 1102 0000 10000
-15 110001 01 110 1220 0 0001 10001
-14 110110 1 111 1221 1 0010 10010
-13 110111 1 1222 3 010 10011
-12 110100 10 0 1210 3 0100 10100
-11 110101 11 1 1211 3 0101 10101
-10 1010 0 1212 30 00 10110
-9 1011 00 1200 31 00 10111
-8 1000 0 01 1201 000 11000
-7 1001 1 1 1202 33 001 11001
-6 1110 10 20 010 11010
-5 1111 11 21 0 0 11011
-4 1100 0 22 1 00 11100
-3 1101 1 0 10 01 11101
-2 10 1 11 3 0 11110
-1 11 12 11111
0 0 0 0 0 0 0 00000 0 0 0
1 1 1 1 1 1 1 1 00001 1 10 1
2 110 1 1 2 1 10 10 00010 2 100 10.01
3 111 1 10 120 3 10 10 00011 3 110 100.01
4 100 10 11 121 1 100 100 00100 4 200 101.01
5 101 11 1 122 10 101 11 00101 10 210 1000.1001
6 11010 1 10 110 11 100 100 00110 11 1000 1010.0001
7 11011 1 11 111 1 100 100 00111 12 1010 10000.0001
8 11000 10 10 112 13 1000 1000 01000 13 1100 10001.0001
9 11001 11 100 100 1 1001 101 01001 14 1110 10010.0101
10 11110 1 101 101 10 1010 110 01010 100 1200 10100.0101
11 11111 1 11 102 11 100 110 01011 101 1210 10101.0101
12 11100 10 110 220 3 1000 1000 01100 102 2000 100000.101001
13 11101 11 111 221 13 1001 101 01101 103 2010 100010.001001
14 10010 10 1 222 3 1000 1000 01110 104 2100 100100.001001
15 10011 10 10 210 30 1000 1000 01111 110 2110 100101.001001

演算[編集]

標準的な記数法の上での、加法減法乗法除法算法について説明する。

加法、減法、乗法[編集]

加法と乗法については、あらかじめ各仮数同士の計算結果を表にしておき、それを見ながら計算すればよい。 加算時の繰り上がりは上の位にさらに足すことや、二桁以上の乗算については、 が成り立つことに注意して計算を実行していく。 減法については表を作ってもよいが、 引く数に -1 を掛けてから引かれる数に足すという方法も考えられる。

例として、底が 4 で仮数に -2, -1, 0, 1 を持つ記数法の、加算と減算と乗算の表を次に示す。

加算
+ 0 1
0 1
1 0
0 0 1
1 0 1 1
減算 (左-上)
0 1
0 1
1 0
0 1 1 0
1 1 1 1 0
乗算
× 0 1
10 1 0
1 1 0
0 0 0 0 0
1 0 1

除法[編集]

底を K とした K進法の上で R を D で割る手順を説明する。 記数法によって決まる、一桁の商を示す二変数関数 QK が分かっているとし、 十分に大きな整数 n をとり、次の計算を行う。

                          rn=R
  cn=QK(rn  , DKn )   rn-1=  rn-cnDKn
cn-1=QK(rn-1, DKn-1)   rn-2=rn-1-cn-1DKn-1
cn-2=QK(rn-2, DKn-2)   rn-3=rn-2-cn-2DKn-2

......

  c0=QK(r0  , D   )    r-1=  r0-c0D
底が -1+i で 0, 1 を仮数に持つ記数法により 0.XXX... の形で表記できる範囲。ツインドラゴン曲線と酷似する。

商は K進法で cncn-1…c0 となり、 余りは r-1 となる。 ただし記数法によっては、 0.XXX... の形で表記できる範囲がフラクタルを描くため QK が作れなくなり、除算が不可能となる。 またこの操作をさらに続けると、循環小数が商として得られる。

Q(r, d) の例を次に示す。

  • 十進法

d≦0 または r<0 または 10d≦r は禁止で、
0≦r<d ならば Q(r, d)=0
d≦r<2d ならば Q(r, d)=1
2d≦r<3d ならば Q(r, d)=2
......
8d≦r<9d ならば Q(r, d)=8
9d≦r<10d ならば Q(r, d)=9 となる。

  • 底が -2 で仮数に 0, 1 を持つ記数法

d=0 または (r<-2d/3 かつ r<4d/3) または (-2d/3<r かつ 4d/3<r) は禁止で、
d/3<r≦4d/3 または 4d/3≦r<d/3 ならば Q(r, d)=1
-2d/3≦r≦d/3 または d/3≦r≦-2d/3 ならば Q(r, d)=0 となる。

  • 平衡三進法

d=0 または (r<-3d/2 かつ r<3d/2) または (-3d/2<r かつ 3d/2<r) は禁止で、
d/2<r≦3d/2 または 3d/2≦r<d/2 ならば Q(r, d)=1
-d/2≦r≦d/2 または d/2≦r≦-d/2 ならば Q(r, d)=0
-3d/2≦r<-d/2 または -d/2<r≦-3d/2 ならば Q(r, d)=-1 となる。

記法の変換方法[編集]

標準的な記数法に対しての、数の表記法を変換する方法を説明する。

十進法からの変換(整数部分)[編集]

余りが仮数に含まれるように底で割っていく方法がある。この方法では下位の仮数から求まる。

例えば十進法で表記された数3620を平衡三進法に変換すると、

3620 ÷ 3 = 1207 . . . -1
1207 ÷ 3 =  402 . . .  1
 402 ÷ 3 =  134 . . .  0
 134 ÷ 3 =   45 . . . -1
  45 ÷ 3 =   15 . . .  0
  15 ÷ 3 =    5 . . .  0
   5 ÷ 3 =    2 . . . -1
   2 ÷ 3 =    1 . . . -1
   1 ÷ 3 =    0 . . .  1

から平衡三進法では 10001 と表記できる。

また、基本的には複素数を表記する記数法ではこの変換は難しいが、 底が -1+i で仮数に 0, 1 を持つ記数法では、比較的簡単に計算できる。 ある複素数 x+yi に対して (x, y は整数) 、

(x + yi) ÷ (-1 + i) = p + qi . . . c

となる整数 p, q と仮数 c を求める。この式を変形すると、

の 2 式が得られる。 x+y が奇数なら -x+y, -x-y も奇数なので p, q が整数であることに注意すると、 x+y が奇数のとき c=1 、偶数のとき c=0 がわかる。

十進法からの変換(小数部分)[編集]

上にある除法の節の QK を利用し、次の計算を行う。 変換前の十進数を R とする。

                r0=R
c0=QK(r0, 1)   r1=K×(r0-c0)
c1=QK(r1, 1)   r2=K×(r1-c1)
c2=QK(r2, 1)   r3=K×(r2-c2)
......

これにより、 R は K進法で c0.c1c2c3... と表記できる。

十進法への変換(整数部分)[編集]

上位より仮数を足してから底を掛けていく方法がある。

例えば 0, 1 を仮数に持ち、底を -2 とした記数法で表記された数 1101101 を十進法に変換すると、

  0+1=  1    1×(-2)= -2
 -2+1= -1   -1×(-2)=  2
  2+0=  2    2×(-2)= -4
 -4+1= -3   -3×(-2)=  6
  6+1=  7    7×(-2)=-14
-14+0=-14  -14×(-2)= 28
 28+1= 29

から十進法では 29 と表記できる。

十進法への変換(有限小数部分)[編集]

上位より仮数を足してから底を掛けていき、最下位の仮数を足したら、 それに最下位の重みを掛けるという方法がある。

十進法への変換(循環小数部分)[編集]

次の式を利用して変換できる。      (|e|>1)

位の統合と分割[編集]

二つの記数法があるとし、それぞれの底が n, nk となっており、 底が n の方で k桁で表される全ての数が、底が nk の方では 1桁で表される時、 その対応により、各位を変換するだけで任意の数を変換することができる。 例えば、0, 1 を仮数に持つ底が -2 の記数法 [A] と、 -2, -1, 0, 1 を仮数に持つ底が 4 の記数法 [B] は、 10 と 、11と 、00 と 0 、01 と 1 が対応しているので、 例えば [A] で表記された 100011011 の二つの位を一つに統合すると、 101 となり [B] での表記が得られる。

詳しい定義[編集]

各用語の詳しい定義を紹介する。

0 を含む連続した整数の集合 z をとり、その元を(あるいは桁)と呼ぶ。 特定の位をさしたいときには、0番位や 1番位と単位をつけることにする。 そして、任意の n∈z に対して空でない実数の有限集合 mn をとり、 その元を n番位の仮数と呼ぶ。そして、任意の n∈z に対して実数 Kn を定め、 この Kn を n番位の重み(あるいは意味)と呼び、 Kn+1/Kn を n番位の(あるいは基数)と呼ぶ。 これらをもとに数を表す方法を記数法(あるいは位取り記数法)という ( mn の元や Kn複素数でもよい)。 この z, mn, Kn による記数法をK進法(あるいは K進記数法)とする。

集合 MK={|Ci∈mi, i∈z} をとったとき、任意の ε>0 に対して |X-Y|<ε となる Y∈MK が存在することを、 K進法で X を表記できるという。

ε を 0 に近づけたときの、 MK の元の極限 を X の K進展開 と呼び、これを ...C2C1C0.C-1C-2... と書いたものを X の K進表記(あるいは X の K進表現、あるいは X を意味する K進数)と呼ぶ。 このとき、0番位以外で仮数が 0 の位が無限に続く部分は省略するが、 省略されずに残った位の個数を桁数と呼ぶ(助数詞は桁)。

ある記数法において、ある(あるいは、全ての)整数について[2]表記法が複数あるような場合を、冗長であるという。

関連項目[編集]

注・参考文献[編集]

  1. ^ MOF page”. 日立製作所 システム開発研究所 (2004年9月16日). 2004年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。
  2. ^ 実数の場合、1.0 = 0.999... であるように、記数法ではなく数そのものの性質に由来する、表記の冗長性がある。
  • 伊東規之『マイクロコンピュータの基礎』日本理工出版会 ISBN 9784890194322