シマスズメノヒエ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ダリスグラスから転送)
シマスズメノヒエ
Paspalum dilatatum
Paspalum dilatatum
(2013年8月24日、和歌山県田辺市
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
階級なし : ツユクサ類 commelinids
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
亜科 : キビ亜科 Panicoideae
: Paspaleae
亜連 : Paspalinae
: スズメノヒエ属 Paspalum
: シマスズメノヒエ
P. dilatatum
学名
Paspalum dilatatum
Poir.[1]
英名
dallisgrass
亜種
  • P. d. subsp. dilatatum
  • P. d. subsp. flavescens

シマスズメノヒエ(島雀の稗[2]学名: Paspalum dilatatum)は、イネ科スズメノヒエ属多年生草本南アメリカ原産であるが、現在の日本ではごく広く普通に見られる雑草アルゼンチンではパンパ多年草として広く見られる。踏みつけに強く、生地にもよく侵入する。牧草としてもよく利用される。この類では大きくなる方で、も大きくてよく目立つ。穂にが多いのが特徴となっている。

和名は、日本では小笠原諸島で最初に発見されたためとの説と、果実があるためとの説が流布している[3]ダリスグラスともいう[1]

形態・生態[編集]

株立ちになり、匍匐枝は持たない。草丈は50〜150cm(〜180cm[4])になる。茎は直立、またや斜めに伸びる。

葉身は長さ10〜30cm、幅は3〜12mm、緑色で草質。葉身は無毛だが、葉鞘の口部には毛があり、また、基部の葉鞘には開出した毛がある。葉舌は淡褐色を帯び、高さ2〜4mm。

長い花茎の先の方に太い穂を少数つける。花期は7〜11月[5]。茎の先端近くから間をおいて3-6(7)個の総(小穂のついた花軸)をつける。総は長さ5〜9cmで、花茎に対して大きく角度をつけて開出、またはやや垂れる。小穂は2〜3列に並ぶ。小穂は卵形で先端がとがり、長さは3〜3.5mm、緑色で縁に絹糸状の長い毛が多数出る。第1包穎は退化して無くなっており、第2包穎は小穂と同大、花軸側にあって背面にややふくらみ、3脈があり、縁には長毛がある。第1小花は不稔で、護穎は第2包穎と同大だが扁平、縁にはやはり長毛がある。稔性のある第2小花は小穂よりやや小さく、護穎は平滑で革質、縁が巻き込んで果実を包む。柱頭はどちらも黒紫色でよく目立つ。

類似種との区別[編集]

日本産の種ではスズメノヒエにやや似るが、葉に毛が多いこと(本種はほぼ無毛)、小穂に細かい毛しかないこと(本種では長い毛が多い)などで区別できる。小穂に長い毛が多い点ではタチスズメノヒエがよく似ており、小穂の形も似ているが、長さ2〜2.7mmと本種より小さく、また総の数が10〜20本とずっと多く、また開出しないで束状になって立つ傾向が強いことではっきり区別できる[6]

性質[編集]

雑草としては、この種は特に踏みつけに対する耐性が強く、典型的な踏み跡植物と見ることができる。レクリエーションなどに利用される芝生においてもその出現頻度が高く、そのような場所に出現するものの中でも踏みつけ耐性の高いものの一つと考えられている。その程度はミチヤナギカゼクサには及ばないものの、ギョウギシバスズメノカタビラと同程度である[7]。実験的には踏みつけにより、草丈は抑制されるが、翌年に再発生する率が上昇し、むしろ踏みつけにより寿命が延びるのではないかとされる[8]

この種の花粉は一般的な風媒花のそれに比べてやや大きく、あまり遠くまで飛散しない。また花粉が固まりを作る傾向もこれに関わる。また、孤独性のハナバチであるコハナバチ科英語版のハチがこの花から花粉を集めるという観察などもあり、この種が風媒花であるとともに虫媒花の性質を持つのではないかとの説がある[9]。なお、アポミクシス繁殖することも知られる[8]

この種はパンパにおいて、氾濫の起きないところから定期的に数か月にわたって冠水する場所にわたる幅広い条件で生育している。それらの条件に対して、この植物は解剖学的構造を変えることで対応している。冠水に対してはや葉鞘の通気組織を増加させ、干ばつに対しては後生木部の道管の径を減少させる。また、根毛については、冠水に対してはそれを減少させ、干ばつに対してはそれを増加させる[10]

分布[編集]

原産は南アメリカ(ブラジルおよびアルゼンチン[4])で、北アメリカ南部をはじめ、世界の暖地に広く帰化している[5]。日本では帰化植物。日本では最初の発見が1915年、小笠原であったが、第二次大戦後に急速に広がり初め[11]、現在では関東以西[12]本州から琉球列島にまで生育している。本州では緑化用に利用されたことで急速に広がった[13]

原産地の南アメリカの草原ではごく普通な種の一つであり、原産地のアルゼンチンでは氾濫の起きるパンパにおいては広い範囲で優占している[14]。日本では草地路傍などによく出現し、ごく普通に見られる。

人間との関わり[編集]

芝生に生える様子

日本においては普通に見られる雑草である。沖縄ではパイナップル畑の雑草として注目される[15]。また、上記のように芝生に侵入しがちな雑草である。この点は日本では問題にされることは多くないが、西洋では芝生を荒れさせる雑草としてとても重視されている。それによると、この種は芝生の雑草ではもっとも管理の難しいものの一つであり、場合によっては芝生そのものを張り直すのがもっとも効果的である[16]

他方、牧草として用いられ、その方面での呼称は「ダリスグラス」である[12]。よく似たタチスズメノヒエより家畜に好まれるとのこと[17]

脚注[編集]

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Paspalum dilatatum Poir.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2014年8月9日閲覧。
  2. ^ 平野隆久写真『野に咲く花 : 写真検索』林弥栄監修、門田裕一改訂版監修(増補改訂新版)、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2013年、202頁。ISBN 978-4-635-07019-5 
  3. ^ いずれもネット上。書籍の出典未発見につき、加筆を求む。ただし、前者の方が本当らしい。発見は1915年とか。
  4. ^ a b 初島住彦『琉球植物誌』(追加・訂正版)沖縄生物教育研究会、1975年、688頁。OCLC 22796260全国書誌番号:69004111 
  5. ^ a b 木場英久・茨木靖・勝山輝男『イネ科ハンドブック』文一総合出版、2011年、108頁。ISBN 978-4-8299-1078-8 
  6. ^ 長田 (1993) 592頁。
  7. ^ 前中久行、大窪久美子「都市公園芝生地における利用密度調査と植生解析(昭和61年度日本造園学会研究発表論文集(4))」『造園雑誌』第49巻第5号、日本造園学会、1986年、143-148頁、doi:10.5632/jila1934.49.5_143ISSN 0387-7248NAID 110004660968 
  8. ^ a b 森島啓子「ダリスグラスにおける雑草性の機構」『育種學雜誌』第25巻第5号、日本育種学会、1975年、265-274頁、ISSN 0536-3683NAID 110001812307 
  9. ^ Dwight E. Adams; W. Ethen Perkins and James R. Estes (1981). “Pollination Systems in Paspalum dilatatum Poir. (Poaceae): An Example of Insect Pollination in a Temperate Grass”. American Journal of Botany (Botanical Society of America) 68 (3): 389-394. doi:10.2307/2442775. 
  10. ^ Vasellati et al. (2001), p.358.
  11. ^ 長田武正『原色日本帰化植物図鑑』保育社〈保育社の原色図鑑〉、1976年、380頁。OCLC 54638670全国書誌番号:69002928 
  12. ^ a b 佐竹義輔ほか編 編『日本の野生植物 草本 1 (単子葉類)』平凡社、1982年、98頁。ISBN 978-4-582-53501-3全国書誌番号:82015991 
  13. ^ 清水建美編 編『日本の帰化植物』平凡社、2003年、285頁。ISBN 4-582-53508-9 
  14. ^ Vasellati et al. (2001), p.356.
  15. ^ 高江洲賢文「60 タチスズメノヒエとシマスズメノヒエの乾物生産からみた生育特性」『雑草研究. 別号, 講演会講演要旨』第30号、日本雑草学会、1991年、138-139頁、ISSN 0372-798XNAID 110003888321 
  16. ^ Greg Breeden, Dallisgrass (Paspalum dilatatum);Turfgrass Science at the University of Tennessee,
  17. ^ 長田 (1993) 588頁。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]