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キツネアザミ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
キツネアザミ
Hemisteptia lyrata
Hemisteptia lyrata
(韓国、2009年5月4日)
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : キク類 Asterids
階級なし : 真正キク類II Euasterids II
: キク目 Asterales
: キク科 Asteraceae
亜科 : アザミ亜科 Carduoideae
: アザミ連 Cardueae, Centaureinae
: キツネアザミ属 Hemisteptia
: キツネアザミ H. lyrata
学名
Hemisteptia lyrata
Bunge[1]
シノニム

Hemisteptia lyrata (Bunge) Bunge
Saussurea lyrata (Bunge) Franch.
Saussurea affinis Spreng. ex DC.

和名
キツネアザミ(狐薊)
品種
  • シロバナキツネアザミ H. l. f. nivea

キツネアザミ(狐薊、学名: Hemisteptia lyrata)は、キク科キツネアザミ属2年草道ばた空き地などに生える雑草

和名は、アザミに似ているが、アザミではないことから[2]

形態・生態

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越年性の草本[3]。茎は真っ直ぐに立ち、往々にして上部で多く枝を出して高さ60-80cmに達する。葉は長さ10-20cmで柔らかく、葉の裏面には白い綿毛が密生している。植物体には棘はなく、下部の葉は長楕円形で羽状に深裂する[4]は裏側には白いがある[5]。アザミのようなはない。

頭花は紅紫色の筒状花からなる。総苞片に突起がある[2]。花期は4月 - 6月頃。枝の先端に多数の頭花をつける。花の径は2.5cmほどで、上向きに咲く[4]。総苞は球形で長さ12-14mm、総苞片は8列あり、その背面の上部には竜骨状の突起がある。突起は紅紫色に色づく[4]。花床には剛毛が密に並ぶ。冠毛は2列で、内側は羽毛状で長く、脱落しやすい。外側のものはごく少なくて、やや幅広くて長く残る。

花冠は細くて長さ13-14mm、狭筒部はそうでない部分より5倍ほど長い[6]。痩果は長楕円形で長さ2.5mm。無毛で斜めに花床についており、側面には15本の鋭い肋が走る。

和名について

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和名は、アザミに似ているが、アザミではないことから[2]ともされる。これは牧野富太郎によるらしく、牧野(1962)は『アザミに似るがよく見るとそうでな』くて『狐に騙されたよう』に感じるからと書いている[7]。他方で八尋編(1997)は花の形が眉刷毛に似るのでキツネノマユハケという別名があり、また眉刷毛に似たアザミのような花と言うことでマユハケアザミの別名があり、この両者が入り交じってこの和名になったとの説をあげている[8]。この説はどうやら中村浩によるものと思われ、中村(1980)にはその詳しい解説がある。それによると本種は江戸時代には眉捌けに関わる上記2つの名で呼ばれていた。従ってこの2つが混同して今の和名になったと判断すべきだ、とのことである。彼は牧野の説明を「全く珍妙で、少しも納得がいかない」と切り捨て、ついでに明治以降の学者のこの手の判断はいささか「慎重さに欠け、皮相的な見方や思いつき」に頼っている嫌いがあると批判している[9]


分布・生育地

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日本本州 - 沖縄)、朝鮮半島中国インドオーストラリアなどに分布する[5]。日本には古い時代に渡来したと考えられている[5]

生態など

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田畑に雑草として生じる。道ばたや田畑にごく普通に見られる[10]。日本には中国か朝鮮から古い時代に農耕と共に渡来したと考えられている[11]

1対ある子葉は楕円形から卵形で毛がない。1枚目の葉は楕円形から広卵形で先端が尖り、縁に鋸歯があり、表面には毛がある。成長に連れて出る葉が大きくなると同時に次第に鋸歯が荒くなり、ロゼットを形成して越冬する。越冬の際の根出葉は羽状複葉のように深く裂ける[12]

分類

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アザミ属とは痩果の先端から出る冠毛のうち外側の列のものが短くて羽毛状にならない点で区別される[13]。本属には本種のみしかない単形属である[4]

名前の似たものに本州北部から北海道にエゾノキツネアザミ Breea setosa がある。別属ではあるが立ち上がった枝分かれした茎の先にアザミ風の花を上向きにつけるなど、全体に似ている。ただしこの種は多年草で、また葉の縁には小さな棘がある[14]

利害

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雑草ではあるが、さほど繁茂するものではない。

若葉を茹でて水にさらして餅に加えることがある。また中国では全草を消炎、解毒に用いる[8]

出典

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  1. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). “「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)”. 2012年5月16日閲覧。
  2. ^ a b c 野に咲く花』、92頁。 
  3. ^ 以下、主として北村他(1990),p.23
  4. ^ a b c d 佐竹他(1981),p.224
  5. ^ a b c 花と葉で見わける野草』、40頁。 
  6. ^ 以下の下りは佐竹他(1981),p.224
  7. ^ 牧野(1962),p.675
  8. ^ a b 八尋編(1997),p.47
  9. ^ 中村(1980),p.77,78。引用はp.77から。
  10. ^ 北村他(1990),p.23
  11. ^ 門田(1997),p.46-47
  12. ^ 浅井(2015),p.156
  13. ^ 門田(1997),p.46
  14. ^ 佐竹他(1981),p.212

脚注

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参考文献

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  • 平野隆久写真『野に咲く花』林弥栄監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、1989年、92頁。ISBN 4-635-07001-8 
  • 亀田龍吉、有沢重雄『花と葉で見わける野草』近田文弘監修、小学館、2010年、40頁。ISBN 978-4-09-208303-5 
  • 八尋洲東、『朝日百科 植物の世界 1』、(1997)、朝日新聞社:p.47
  • 門田裕一、「ヒレアザミ」:『朝日百科 植物の世界 1』、(1997)、朝日新聞社:p.46-47
  • 浅井元朗、『植調雑草大鑑』、(2015)、全国農村教育協会
  • 中村浩、『植物名の由来』、(1980)、東京書籍

関連項目

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外部リンク

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