WiTricity

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WiTricity
設立 2007年 ウィキデータを編集
創業者

マリン・ソーリャチッチ

Marin Soljačić(英語)
本社
マサチューセッツ州ウォータータウン
主要人物
CEO Alex Gruzen(英語)
ウェブサイト www.witricity.com

WiTricity(ワイトリシティ) は、2006年11月マサチューセッツ工科大学 (MIT)発のベンチャー企業で、同学のマリン・ソーリャチッチ (Marin Soljačić) が発表した磁界共振技術によるワイヤレス給電技術[1]に基づき、研究メンバーがスピンアウトして設立した。

トヨタ自動車IHI新電元工業[2]他、多くの企業に技術をライセンス提供している[3][4]

概要[編集]

共振誘導無線電力システムの実証構成図(2007年)。M・ソーリャチッチ研究班はこれを非放射の電磁的共鳴エネルギートンネル (non-radiative electromagnetic energy resonant tunneling) であると称した[注釈 1]

WiTricity磁界共振技術はMITにおける2 mの送電実験の実現(2006年)を『サイエンス』誌に論文を載せると、それをきっかけに多くの報道にセンセーショナルに取り上げられ、MITの磁界共振技術が大ギャップワイヤレス電力伝送の成功として広く話題となった。開発者であるマリン・ソーリャチッチはこの技術を無線 (wireless) と電気 (electricity) を合わせた造語「WiTricity」と名付けた[7][1]。数十 cmから数 m離れた距離で、数十 W~数百 Wの電力を比較的高い伝送効率を保ちながら、しかも理論的には人体に安全に伝送できるとされる[1]。磁界共振は「電磁界共鳴方式」や「共振結合方式」とも呼ばれている。

WiTricityの特許技術[編集]

WiTricityの磁界共振技術は、非放射型のエネルギー転送には一次側の第一共鳴場エバネッセントテールと二次側の第二共鳴場エバネセントテールの結合が介在するという理論を特徴としている[注釈 2][注釈 3][注釈 4][疑問点]一次側と二次側に構成された2組のコイルとコンデンサによる共振器同士が共鳴(共振)し、エバネッセントテールの結合の介在により電力伝送が行われるという理論であり、この磁界共振はWiTricity[疑問点]の提唱する結合モード理論: Coupled Mode Theory)に基づくものである。しかしながらこの理論は難解なため、WiTricityのWEBサイトでは音叉の共鳴(: Tuning fork)に例えて説明しており、多くの日本語サイトもそれを引用して音叉の共鳴を例にした記述を試みた。

引用の特許明細書1[8]、特許明細書2[9]によれば、第1共振構造と第2共振構造それぞれの共鳴場エバネセント・テール(簡単に言えば一次側共振器と二次側共振器それぞれの磁界)が特許請求項のエレメント(構成要件)となっており、特許解釈の一般論の「オールエレメントルール[注釈 5]」に基づけば、一次側の第一共鳴場と二次側の第二共鳴場との介在が欠くことがでない必須なものとなる。つまりいずれかのエレメントが欠如すれば当該特許には該当(侵害)しない。

WiTricityの当該特許出願以前に一次側の第一共鳴場を欠く、すなわち二次側の共振構造のみで電力伝送を成立させる特許出願が多くあり、また具体的には最も早くは1993年から実用化が始まっており[12]、これらの実例はWiTricityの特許技術範囲ではないのは明らかである。

また一次側と二次側それぞれの共振構造という構成を有する磁界共振は、1989年にエイト電子より出願[13]されているために、少なくともこの技術範囲はWiTricityの磁界共振技術の特許技術範囲から外れる。

1994年にも磁界共振がふたたび開発されており、村田製作所の開発者が『磁界共鳴技術』を発表していたが当時は普及に至らなかった[注釈 6][17][18]

1990年代に実用化が始まった第一共鳴場のない磁界共振[19]の原理に基づいて改良された超電導リニアの誘導集電においては既に500km/hの走行中給電が実用化の域に達しており、2017年にはさらに多くの第一共鳴場のない磁界共振[注釈 7][リンク切れ]が実用化され始めている。これらの実用化例はいずれも第一共鳴場は必要としていないために、WiTricityの磁界共振技術の特許技術範囲からは外れる。

2016年12月にWiTricityはTMN (Tunable Matching Network) を発表すると、一方で大きな成果として日産自動車と共同で送電効率の向上と、異なるコイルシステム間の相互運用性の確保の向上を図った[21]。だが他方で第一共鳴場の構成が必要十分条件ではないとWiTricity自ら示し、それまで述べてきた結合モード理論との整合性を失う結果になった[22]

Qualcomm Halo との技術統合[編集]

WiTricityは開発資金として2017年現在までに6800万ドルを調達したが、電気自動車のワイヤレス給電においてクアルコム開発のHaloが標準となりつつあり、競争に直面した同社は従業員数を80人から55人に減らし、テキサス州オースティンの事業所を閉鎖した[23][リンク切れ]。WiTricityはIntelやフォックスコンなどから新たに4000万ドル近くを調達すると研究開発の推進に充てて、2019年2月にはクアルコムより現物出資を受け入れてEVワイヤレス充電部門のQualcomm Haloの知的財産権を得ると、少数株主に加えた。これについてクアルコム側のスティーブ・ペイゾル[注釈 8]は、「クアルコムとWiTricityの技術を組み合わせ、エキサイティングなテクノロジーにユーザーがアクセスできる可能性と需要を生み出すと確信」すると述べた[24]。これは自社技術とオークランド大学発の技術[25]の統合にいたった。

用途[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 共振器は銅線のコイルとコイル間に発生する寄生容量により10 MHzで自己共振する。電力は送信側共振器に与えられ、受信器共振器経由で取り出しコイルと整流器を介し直流に変換する。MITの研究者らは無線で電力を転送する新しい方法を発見したと考えており、これを非放射の電磁的共鳴エネルギートンネル (non-radiative electromagnetic energy resonant tunneling) であると称した(共振誘導無線電力システムの実証構成図(2007年M・ソーリャチッチ研究班より [5] [6])。
  2. ^ 【発明の名称】無線エネルギー伝達装置(特表2012-502602)[8]
  3. ^ 【発明の名称】無線非放射型エネルギー転送(特表2009-501510)[9]
  4. ^ Kumarらの論文より、International Journal of Engineering Trends and Technology 掲載[10]
  5. ^ 特許請求の範囲の把握 ~ 構成要件 ~[11]
  6. ^ 『直流共鳴』方式とは[14](同関連記事はこちら[15]、同参考資料はこちら[16]
  7. ^ 新エネルギー新聞【展示会レポート】テクノ・フロンティア2017[20]
    2nd-resonance」技術では、コイルの軸が十数cmずれても、効率が急落することなく、90%程度を維持していた。
    ポイントは、共振回路を二次側にのみ搭載すること。一次側二次側双方に搭載すれば、距離には強いがコイルの軸がずれると極端に効率低下するという。
  8. ^ Steve Pazolは、クアルコムのワイヤレス充電担当アドバイザー(2019年2月当時)。

出典[編集]

  1. ^ a b c ワイヤレス電源—家電から電源コードが消える”. 日経BP (2009年5月21日). 2016年10月26日閲覧。
  2. ^ (モーニングスター): “新電元が急騰、米ワイトリシティ社と電動車両における非接触電力伝送技術でライセンス契約締結”. web.archive.org. ニュース・コラム - Yahoo!ファイナンス. 2017年10月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年6月8日閲覧。
  3. ^ トヨタ自動車、電気自動車の無線充電に取り組む”. 2016年10月26日閲覧。
  4. ^ 広がる非接触充電、三菱自動車が開発始める”. 2016年10月26日閲覧。
  5. ^ Er. Manish Kumar; Dr. Umesh Kumar (13 December 2016). WIRELESS POWER TRANSMISSION : A REVIEW (pdf) (英語). Global Journal of Engineering Science and Researches. p. 120. ISSN 2348-8034
  6. ^ Pragati S. Chawardol; Deepali R. Badre; Mithul S. There (December 2014). Wireless Power Transmission (pdf) (英語). International Journal of Engineering Sciences & Research Technology. p. 150. ISSN 2277-9655
  7. ^ ワイヤレス充電で世界最先端を走るWiTricity、その実像に迫る”. 2016年10月26日閲覧。
  8. ^ a b 特表2012-502602”. www.j-platpat.inpit.go.jp. 特許庁. 2017年6月8日閲覧。 “【要約】 無線エネルギー伝達用の装置を開示し、この装置は、第2共振構造との間でエネルギーを無放射で、第2共振構造の特徴的サイズより大きい距離越しに伝達するように構成された第1共振構造を含む。この無放射のエネルギー伝達には第1共振構造の共鳴場エバネセント・テール第2共振構造の共鳴場エバネセント・テールとの結合介在する
  9. ^ a b 特表2009-501510”. www.j-platpat.inpit.go.jp. 特許庁. 2017年6月8日閲覧。 “【要約】 電磁エネルギー転送装置には、外部電源からエネルギーを受け取る第1の共振器構造が含まれる。第1の共振器構造は第1のQ因子を有する。第2の共振器構造は、第1の共振器構造から遠位に位置し、有用な動作電力を外部負荷に供給する。第2の共振器構造は第2のQ因子を有する。2つの共振器間の距離は、各共振器の特徴的なサイズよりも大きくすることができる。第1の共振器構造と第2の共振器構造との間の非放射型エネルギー転送は、それらの共振場エバネッセント・テールの結合を通して成立する
  10. ^ Kumar, Ajey; Gayathri, H. R; Gowda, Bette R; Yashwanth, B (2014-05). “WiTricity: Wireless Power Transfer By Non-radiative Method” (英語) (pdf). International Journal of Engineering Trends and Technology (Thanjavour Seventh Sense Research Group) 11 (6): 291. ISSN 2231-5381. http://www.ijettjournal.org/volume-11/number-6/IJETT-V11P255.pdf. "b) Resonance Coupling: The idea of such mid-range induction was given by Marin Soljacic for efficient wireless transfer. The reason behind it is that, if two such resonant objects are brought in mid-range proximity, their near fields (consisting of so-called 'evanescent waves') and can allow the energy to transfer from one object to the other within times much shorter than all loss times, which were designed to be long, and thus with the maximum possible energy-transfer efficiency. Electromagnetic resonance induction works on the principle of a primary coil generating a predominantly magnetic field and a secondary coil being within that field so a current is induced within its coils, when both of these are made to resonate at same frequency they become much efficient.
    Fig. 3. Resonant Magnetic Coupled system" 
  11. ^ 2.特許請求の範囲の把握 ~ 構成要件 ~”. www.nexpat.jp. 2017年6月8日閲覧。 “請求項に係る発明は、請求項の記載をばらばらに分解して、構成要件として把握されます。
    侵害・非侵害などは、原則として、イ号物件(侵害が疑われている製品)などに、この構成要件がすべて含まれているか否かで判断されます(オール・エレメント・ルール)”
  12. ^ 非接触給電搬送システムの技術”. 株式会社ダイフク. 技術情報ライブラリ | ソリューション. 2017年6月8日閲覧。
  13. ^ 「電磁誘導による電力供給特願平01-235399work=特許情報プラットフォーム j-platpat”. platpat.inpit.go.jp. 特許庁. 2017年6月8日閲覧。
  14. ^ ■『直流共鳴』方式とは”. テクノロジー. WPM-c. 2017年6月8日閲覧。 “村田製作所は2013年3月、ワイヤレス給電の新しい技術として「直流共鳴(Direct Current Resonance)方式」を開発したと発表した。”
  15. ^ 直流電圧から直接電力を無線給電、村田製作所が「直流共鳴方式」で効率を向上”. EE Times Japan. 2017年6月8日閲覧。
  16. ^ YRP(編)「直流共鳴方式ワイヤレス給電システム(村田製作所)| ワイヤレス・テクノロジー・パーク2014」(pdf)、NICT 
  17. ^ 新たな物理現象を応用! 直流共鳴方式ワイヤレス電力伝送システムの開発について”. 2017年6月8日閲覧。
  18. ^ Peterson, Gary (英語) (pdf). MIT WiTricity Not So Original After All.. pp. 9: 1-3 (Feed Line). http://lynx.sibserver.ru/lynx/mirror/192.211.49.220/-%20Electronics/Radio/www_tfcbooks_com_articles_witricity_htm.pdf. 
  19. ^ 非接触給電搬送システムの技術 | 技術情報ライブラリ | ソリューション | ダイフク”. 株式会社ダイフク. 2017年6月8日閲覧。
  20. ^ 【展示会レポート】テクノ・フロンティア2017(上)”. 新エネルギー新聞 |2017年(平成29年)05月15日付. 総合 (2017年5月17日). 2017年6月8日閲覧。
  21. ^ 日産自動車が無線充電でタッグ、効率最大94%」『スマートジャパン』、2017年2月17日。2017年6月8日閲覧。
  22. ^ "WiTricity Enables Interoperable Electric Vehicle Wireless Charging With TMN™ Technology" (Press release) (英語). WiTricity Corporation. 2016年12月5日. 2017年6月8日閲覧
  23. ^ Scott Kirsner (2017年12月15日). “WiTricity takes a turn toward electric-car charging”. Comments. ボストン・グローブ. 2018年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月24日閲覧。
  24. ^ WiTricity acquires Qualcomm Halo to accelerate wireless charging for electric vehicles” (英語). VentureBeat (2019年2月11日). 2019年2月24日閲覧。
  25. ^ Qualcomm Acquires HaloIPT Team and its Wireless Electric Vehicle Charging Technology” (英語). www.qualcomm.com. 2019年2月24日閲覧。

関連文献[編集]

本文記述の典拠ではない資料。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]