エピブラスト幹細胞
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エピブラスト幹細胞[1][2][3](えぴぶらすとかんさいぼう、エピ幹細胞、epiblast stem cell、epi-stem cell[2]、EpiSC[3][4])は、マウス胚のエピブラストを単離培養して樹立される幹細胞。マウスES細胞よりもヒトES細胞に近い性質を持つ[1][2][4]。幹細胞研究の新たなツールとして期待され[4]、様々な研究が行われている[5][6][7][8][9]。
概要
[編集]エピブラスト幹細胞に関する初めての論文は、2007年7月12日に英国科学雑誌ネイチャーで2本同時に掲載された[10][11]。ES細胞と異なり、マウスとラットの着床後胚の後期エピブラストから樹立した細胞株である。なお、エピブラストは、胚盤葉上層[12]、胚体外胚葉[13]、原始外胚葉[5]などと呼ばれる。
ES細胞とエピブラスト幹細胞を比較すると、
という共通点がある。しかし、エピブラスト幹細胞は
- 通常はキメラ形成がない[3][15]
- ジャームライン・トランスミッション[16]がない
- LIFに反応しない
- X染色体不活性化
- 主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラス1陽性
- ES細胞より分化が進んでおり、培養や遺伝子操作が難しい
という特徴を持ち、その性質はナイーブ型のマウスES細胞よりもプライム型のヒトES細胞に近い[1][2][4][17]。
エピブラスト幹細胞からの分化誘導[5]やエピブラスト様細胞(EpiLC)についての研究開発も行われ[7]、2013年には九州大学の研究チームが大量培養法を発表している[1][8]。また、エピブラスト幹細胞由来の神経板細胞を発生させ、その転写制御ネットワークを解明しようという研究も進められている[18][19]。
研究論文
[編集]最初の論文
[編集]- I. Gabrielle M. Brons, Lucy E. Smithers, Matthew W. B. Trotter, Peter Rugg-Gunn, Bowen Sun, Susana M. Chuva de Sousa Lopes, Sarah K. Howlett, Amanda Clarkson, Lars Ahrlund-Richter, Roger A. Pedersen1 and Ludovic Vallier (2007-07-12). “Derivation of pluripotent epiblast stem cells from mammalian embryos”. Nature 448: 191-195 .
- Paul J. Tesar, Josh G. Chenoweth1, Frances A. Brook, Timothy J. Davies, Edward P. Evans, David L. Mack, Richard L. Gardner and Ronald D. G. McKay (2007-07-12). “New cell lines from mouse epiblast share defining features with human embryonic stem cells”. Nature 448: 196-199 .
その後の論文
[編集]- Guo G, Yang J, Nichols J, Hall JS, Eyres I, Mansfield W, Smith A. (2009-02-18). “Klf4 reverts developmentally programmed restriction of ground state pluripotency”. Development 136 (7): 1063-1069 .
- Josh G. Chenoweth; Ronald D. G. McKay; Paul J. Tesar. “Epiblast stem cells contribute new insight into pluripotency and gastrulation”. Development, growth & differentiation 52 (3): 293-301 .
- Han DW, Greber B, Wu G, Tapia N, Araúzo-Bravo MJ, Ko K, Bernemann C, Stehling M, Schöler HR. (2011-01). “Direct reprogramming of fibroblasts into epiblast stem cells”. Nature Cell Biology 13 (1): 66-71 .
- 福永直人、荒田隆志、大野真奈、岸上哲士、細井美彦「マウスエピブラスト幹細胞からの生殖細胞の分化誘導」『近畿大学先端技術総合研究所紀要』第16巻、2011年3月、19-25頁、2014年8月17日閲覧。
- Huang Y, Osorno R, Tsakiridis A, Wilson V. (2012-11-29). “In Vivo Differentiation Potential of Epiblast Stem Cells Revealed by Chimeric Embryo Formation”. Cell Reports .
- Iwafuchi-Doi M, Matsuda K, Murakami K, Niwa H, Tesar PJ, Aruga J, Matsuo l, Kondoh H. (2012). “Transcriptional regulatory networks in epiblast cells and during anterior neural plate development as modeled in epiblast stem cells”. Development 139: 3926-3937 .
- T. Sumi, S. Oki, K. Kitajima and C. Meno (2013-05-14). “Epiblast ground state is controlled by canonical Wnt/beta-catenin signaling in the postimplantation mouse embryo and epiblast stem cells”. PLoS One: 8:5 e63378 .
- Hyo Jin Janga, Jong Soo Kima, Hyun Woo Choia, Iksoo Jeonb, Sol Choia, Min Jung Kima, Jihwan Songb, Jeong Tae Doa (2014-03). “Neural stem cells derived from epiblast stem cells display distinctive properties”. Stem Cell Research 12 (2): 506–516 .
- 松田一成『Regulation of anterior neural plate development studied using an epiblast stem cell model』大阪大学〈博士論文(甲17085号)〉、2014年3月25日 。日本語題名「エピブラスト幹細胞(EpiSC)を利用した前部神経板の発生機構の研究」
脚注
[編集]- ^ a b c d “研究内容(マウス初期発生の概略、エピブラスト幹細胞、他)”. 九州大学大学院医学研究院 発生再生医学分野. 2014年8月17日閲覧。
- ^ a b c d 花園,生化学誌 2011, p. 1060.
- ^ a b c 丹羽仁史 2012, p. 5.
- ^ a b c d 慶応義塾G-COE論文紹介 2011.
- ^ a b c 福永直人、他 2011.
- ^ Han, et.al. 2011.
- ^ a b 特許公表2013-538038「多能性幹細胞から生殖細胞への分化誘導方法」(発明者:斎藤通紀、林克彦、出願人:京都大学、出願日:2011年7月28日)
- ^ a b Sumi, et.al. 2013.
- ^ 丹羽仁史 2014.
- ^ I. Gabrielle M Brons, et.al. 2007.
- ^ Paul J. Tesar, et.al. 2007.
- ^ “エピブラスト”. バイオキーワード集. 実験医学Online. 2014年8月17日閲覧。(実験医学増刊 Vol.30 No.10より)
- ^ 斎藤通紀. “多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研究:現状と展望” (PDF). ライフサイエンスの広場. 文部科学省. 2014年8月17日閲覧。
- ^ 丹羽仁史 2012, p. 6.
- ^ ただし、丹羽仁史らのグループにより、「Eカドヘリン」を発現させたエピブラスト幹細胞がキメラ形成に寄与することを確認している[14]。
- ^ “用語説明”. もっと知るiPS細胞. 京都大学iPS細胞研究所. 2014年8月26日閲覧。
- ^ 花園,実施報告 2012, p. 1-2.
- ^ 松田一成科研費報告 2014.
- ^ 松田一成博士論文 2014.
参考文献
[編集]- 丹羽仁史「分化多能性を規定する転写因子ネットワーク」『臨床血液』第50巻第10号、2009年、1524-1530頁。
- 花園豊「高品質iPS細胞の作製のために」(PDF)『生化学』第83巻第11号、2011年、1060-1063頁、2014年8月17日閲覧。
- 花園豊『H23年度実施報告 ヒトiPS細胞の高品質化とその検証・応用 (PDF)』(レポート)、科学技術振興機構。2014年8月17日閲覧。
- 松田一成「EpiSC由来の幹細胞群を用いた、神経板の領域特異的な形成機構の研究」『特別研究員奨励費11J04416』科研費データベース。2014年8月26日閲覧。
- 丹羽仁史「幹細胞の多能性を規定する分子機構」『領域融合レビュー』第1巻e008、2012年12月11日。
- 丹羽仁史『戦略的創造研究推進事業 CREST 研究領域「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究課題「分化細胞に多能性を誘導する転写因子ネットワークの構造解析」研究終了報告書 (PDF)』(レポート)、JST、2014年3月。2015年1月12日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集](公的機関の解説ページ)
- 小坂威雄. “線維芽細胞からの直接的なエピブラストステムセルの誘導”. グローバルCOEプログラム「幹細胞医学のための教育研究拠点」. 慶応義塾大学. 2014年8月17日閲覧。
- “Epiblast stem cells generate authentic cell types in the body”. Centre for Regenerative Medicine (the University of Edinburgh). (2012年11月29日) 2014年8月18日閲覧。
(専門家のブログ)
- “エピブラストステムセルとヒトES細胞”. 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞- (2009年3月13日). 2014年8月18日閲覧。(2009年10月10日まで追記あり)
- “エピブラストステムセルとヒトES細胞(その2)”. 再生医療が描く未来 -iPS細胞とES細胞- (2010年7月5日). 2014年8月18日閲覧。(2011年3月14日まで追記あり)