ミューズ細胞

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多能性のミューズ幹細胞のクラスター

ミューズ細胞(ミューズさいぼう、: Muse cell; Multi-lineage differentiating Stress Enduring cell)は、東北大学の出澤真理らの研究チームにより発見された間葉系組織などに存在する未分化細胞の一種であり、非腫瘍形成性の多能性成体幹細胞である[1]骨髄真皮脂肪組織のような間葉系幹細胞、ならびに商用的に入手可能な間葉細胞(ヒトの線維芽細胞および骨髄)に存在する[2]。ミューズ細胞は自発的またはサイトカインの誘導により、単一の細胞から三胚葉すべての細胞に分化することができる。ミューズ細胞はin vivoでホスト環境に移植したとき奇形腫形成を受けない。これは、抑制の無い細胞増殖を通じた腫瘍形成のリスクの根絶を内在する低テロメラーゼ活性によって、部分的に説明がつく。

由来[編集]

ミューズ細胞は、骨髄穿刺により採集することができる[2]。また、皮膚生検から得られる線維芽細胞[3]脂肪吸引により得られる脂肪組織[4]からも得られる。ミューズ細胞は市販されている間葉系細胞からも単離できる[要出典]。いずれも発生学的な起源の詳細は研究途上にある[1]

特徴[編集]

基本的な特徴[編集]

  • 三胚葉から発生するのすべての各種細胞を生成できるミューズ細胞は、自己複製能力を有する
  • 非腫瘍形成性
  • 血流に供給されると組織修復効果を発揮する
  • 骨髄、真皮、脂肪組織並びに市販の線維芽細胞から得られる
  • 骨髄移植の0.03%、間葉系幹細胞移植の〜1%に含まれている
  • ヒト胚性幹細胞マーカーとしてよく知られているSSEA-3に対し陽性の細胞として単離することができる
  • ミューズ細胞は、遺伝子導入などの人工的操作を用いずに、通常のヒト間葉系組織から得ることができる

生体中での分布[編集]

ミューズ細胞はサイトカインによる誘導や、遺伝子導入により作成されるものではない。骨髄[2]、真皮[5]、および脂肪組織[4]などの間葉系組織に元から存在する多能性細胞である。骨髄においては単核細胞3,000個あたり一つの割合で存在する。間葉系組織の他にも、あらゆる臓器の結合組織中に存在する[5]

二重性[編集]

ミューズ細胞は結合組織中や接着培養などの接着性環境では間葉系細胞として振る舞うが、血中や浮遊培養などの懸濁状態とすると多能性を発現する。

懸濁状態でのES細胞胚様体様集塊の形成[編集]

細胞懸濁液においてミューズ細胞は増殖を開始し、懸濁状態でES細胞が形成する胚様体に酷似した集塊を形成する。ミューズ細胞集塊はアルカリホスファターゼNanogOct3/4Sox2、およびPAR4などの多能性マーカー陽性である。ミューズ細胞の特筆すべき特徴の一つは、懸濁状態で単独の細胞から細胞塊を形成できることである。単一のミューズ細胞由来の細胞塊がゼラチンコートされた培養皿上で自発的に三胚葉性の細胞を生成することが、ミューズ細胞の多能性の証拠のひとつである[6]

増殖速度[編集]

ミューズ細胞は接着環境においておよそ1.3日の倍加時間を持つ[3]。これはヒト線維芽細胞 (約1日)よりやや遅い。

マーカー[編集]

ミューズ細胞は未分化のヒトES細胞のマーカーとして知られるSSEA-3+で陽性を示す細胞として確認される[7]。また、CD105CD90およびCD29のような一般的な間葉系細胞マーカーに対しても陽性であり[2]、多能性と間葉幹細胞マーカーの二重陽性である。SSEA-3細胞選別による単離ではSSEA-3抗体を用いる。ミューズ細胞はCD34造血脂肪幹細胞マーカー)、CD117(造血幹細胞マーカー)、Snai1とSlug(皮膚由来前駆体マーカー)、CD271とSox10(神経堤由来幹細胞マーカー)、NG2とCD146(血管周囲細胞)または、CD31ヴォン・ヴィレブランド因子内皮前駆マーカー)を発現しない。これは、ミューズ細胞がこれまでの幹細胞とは異なることを示している。

分化能[編集]

In vitro[編集]

ミューズ細胞は

  1. 外胚葉ネスチン、NeuroD, Musashiニューロフィラメント、MAP-2[5], メラノサイトマーカー (チロシナーゼ、MITF, gf100, TRP-1, DCT)[8] 陽性)
  2. 中胚葉ブラキウリ、Nkx2-5, smooth muscle actin, デスミン[2]オステオカルシン、oil red-(+) lipid droplet[5] 陽性)
  3. 内胚葉(GATA-6, α-fetoprotein, サイトケラチン-7[5]アルブミン陽性)

系の細胞に、自発的、ないしサイトカインによる誘導下で分化することができる。 土山ら[8]により、ヒト皮膚線維芽細胞由来ミューズ細胞がメラニン産生能を有するメラノサイトへと複数のサイトカインにより効率的に分化誘導されることが示され、これらの細胞は皮膚への移植後もメラニン産生能を維持した。

In vivo[編集]

ミューズ細胞は経血管的に投与されると損傷部位へのホーミング能を有し、微小環境に応じた組織特異的な細胞へと自発的に分化して組織再生を扶ける。これはヒトミューズ細胞を用いて、急性肝炎、筋変性、創傷[2]、または脊髄損傷[3]などのモデルで免疫不全マウスへの投与により示された。

非腫瘍形成性[編集]

低テロメラーゼ活性[編集]

ミューズ細胞は、腫瘍形成性の明らかな指標となるテロメラーゼ活性が低いことを特徴とする。HeLa細胞やヒト線維芽細胞由来のiPS細胞が高いテロメラーゼ活性を示す一方、ミューズ細胞は線維芽細胞のような体細胞と同程度の活性しか示さず、このことはミューズ細胞の低腫瘍形成性を示すものである[5]

多能性および細胞周期に係る遺伝子の発現[編集]

ミューズ細胞における多能性に関する遺伝子の発現様式はES細胞やiPS細胞とほぼ同一であるが、発現量はそれらに比べて非常に低い[5]。一方、ミューズ細胞における細胞周期や腫瘍形成に関わる遺伝子の発現は体細胞と同程度であり、それらの発現が非常に高いES細胞やiPS細胞と異なる[9]

マウス精巣への移植試験[編集]

ES細胞やiPS細胞と異なり、腫瘍形成性の一般的な試験である免疫不全マウスの精巣への移植試験において、移植後6ヶ月を経過しても奇形腫形成が見られなかった[2]

組織再生[編集]

ミューズ細胞は生体中で組織修復の機能を持つ。急性期創傷モデルの末梢血中に投与すると、ミューズ細胞は損傷部位に移行し、自発的に組織特異的な細胞へと分化して失われた細胞を補う。この現象はGFP標識されたヒトミューズ細胞を、急性肝炎、骨格筋変性、皮膚創傷[2]、および脊髄損傷[3]などの免疫不全マウスに投与することにより示された。投与されたミューズ細胞は各組織と結合して、各々、ヒトアルブミン、抗トリプシン肝細胞、ヒトディストロフィン発現細胞、サイトケラチン14発現細胞[2]、およびニューロフィラメント発現細胞[3]へと分化した。

ミューズ細胞はその単純さと効果から再生医療において大いに有用である。分化誘導や人による操作なしにミューズ細胞は末梢血中投与によって組織再生することができるため、臨床応用が期待されている[6]。各組織の再生に最適な条件については研究が必要である。

自己複製[編集]

ミューズ細胞はその増殖活性、多能性マーカー発現、および正常な核型を保ったまま自己複製することができる[3]

採集方法[編集]

ミューズ細胞はいくつかの異なる方法で得ることができる。

セルソーティング[編集]

SSEA-3陽性、ないしSSEA-3/CD105二重陽性を指標とすることにより、ミューズ細胞は組織ないし市販の培養細胞から単離することができる。組織から直接単離される場合はSSEA-3およびCD105を指標とする[10]が、培養間葉系細胞ではほぼすべての細胞がCD105を発現しているため、SSEA-3単独を指標とする。[要出典]

長時間トリプシン処理[編集]

移植実験のように大規模にミューズ細胞を使用する場合、細胞に極度のストレスを与えることによりミューズ細胞を富化することができる。この手法により得られた細胞群はミューズ富化細胞集団と呼ばれる[要出典]。ミューズ細胞の富化に最適な条件は、皮膚細胞には16時間、骨髄間葉系細胞には8時間のトリプシン処理である[要出典]

過酷細胞ストレス処理[編集]

ミューズ細胞は脂肪吸引により得られる組織を強いストレスにさらすことによって、ストレス耐性の高いミューズ細胞以外の細胞を死滅させることによっても得られる。得られる細胞群は高い比率でミューズ細胞を含んでおり、さらなるセルソーティングの必要がない。ストレス条件としては、コラゲナーゼでの長時間処理、低温、血清除去、および低酸素状態などがある。その後、分解組織を遠心分離し、沈降物をPBSに再分散後、赤血球溶血培地で培養する。この方法で得られたミューズ細胞は脂肪由来幹細胞と区別することができる[4]

その他の間葉系幹細胞との基本的な違い[編集]

ミューズ細胞と、その他の間葉系細胞の間には大きな違いがある。SSEA-3によりミューズ細胞とその他の細胞に分別すると、以下の違いが見られる。

  • ミューズ細胞は浮遊培養で単一細胞から集塊を形成できるが、他の細胞にはできない。
  • ミューズ細胞以外の細胞では多能性マーカーの発現が非常に低い[2]
  • ミューズ細胞以外の細胞は末梢血中投与で組織再生に寄与できない。

iPS細胞源としてのミューズ細胞[編集]

2009年、ヒト線維芽細胞のうちSSEA-3陽性細胞のみがiPS細胞を形成することが示された[11]。2011年には、iPS細胞作成時にミューズ細胞以外の細胞では山中4因子導入後もSox2およびNanog発現量の上昇が見られず、iPS細胞はミューズ細胞のみから作成できることが示唆されたとする研究データに基づいて、iPS細胞の多能性はミューズ細胞が元来持つ性質であり、山中因子は腫瘍形成性を付与しただけであるとの説も提起された[5]

出典[編集]

  1. ^ a b 生体に内在する新しいタイプの多能性幹細胞:Muse細胞”. 東北大学大学院医学系研究科. 2014年4月12日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j Kuroda Y, Kitada M, Wakao S, Nishikawa K, Tanimura Y, Makinoshima H, Goda M, Akashi H, Inutsuka A, Niwa A, Shigemoto T, Nabeshima Y, Nakahata T, Nabeshima Y, Fujiyoshi Y, Dezawa M (2010). “Unique multipotent cells in adult human mesenchymal cell populations”. Proc Natl Acad Sci U S A 107 (19): 8639–43. Bibcode 2010PNAS..107.8639K. doi:10.1073/pnas.0911647107. PMC 2889306. PMID 20421459. http://www.pnas.org/content/early/2010/04/23/0911647107. 
  3. ^ a b c d e f Wakao S, Kuroda Y, Ogura F, Shigemoto T, Dezawa M (2012). “Regenerative effects of mesenchymal stem cells: contribution of Muse cells, a novel pluripotent stem cell type that resides in mesenchymal cells”. Cells 1 (4): 1045–1060. doi:10.3390/cells1041045. http://www.mdpi.com/2073-4409/1/4/1045. 
  4. ^ a b c Heneidi S, Simerman AA, Keller E, Singh P, Li X, Dumesic DA, Chazenbalk G (2013). “Awakened by cellular stress: isolation and characterization of a novel population of pluripotent stem cells derived from human adipose tissue”. PLoS One 8 (6): e64752. doi:10.1371/journal.pone.0064752. PMC 3673968. PMID 23755141. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3673968. 
  5. ^ a b c d e f g h Wakao S, Kitada M, Kuroda Y, Shigemoto T, Matsuse D, Akashi H, Tanimura Y, Tsuchiyama K, Kikuchi T, Goda M, Nakahata T, Fujiyoshi Y, Dezawa M (2011). “Multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells are a primary source of induced pluripotent stem cells in human fibroblasts”. Proc Natl Acad Sci U S A 108 (24): 9875–80. Bibcode 2011PNAS..108.9875W. doi:10.1073/pnas.1100816108. PMC 3116385. PMID 21628574. http://www.pnas.org/content/108/24/9875.long. 
  6. ^ a b Kuroda Y, Wakao S, Kitada M, Murakami T, Nojima M, Dezawa M (2013). “Isolation, culture and evaluation of multilineage-differentiating stress-enduring (Muse) cells”. Nat Protoc 8 (7): 1391-415. PMID 23787896. http://www.nature.com/nprot/journal/v8/n7/full/nprot.2013.076.html. 
  7. ^ Thomson JA, Itskovitz-Eldor J, Shapiro SS, Waknitz MA, Swiergiel JJ, Marshall VS, Jones JM (1998). “Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts”. Science 282 (5391): 1145–7. Bibcode 1998Sci...282.1145T. doi:10.1126/science.282.5391.1145. PMID 9804556.  Template:Medrs
  8. ^ a b Tsuchiyama K, et al. (2013). “Functional melanocytes are readily reprogrammable from multilineage-differentiating stress-enduring (muse) cells, distinct stem cells in human fibroblasts”. J Invest Dermatol 133 (10): 2425–35. doi:10.1038/jid.2013.172. PMID 23563197. http://www.nature.com/jid/journal/v133/n10/full/jid2013172a.html. 
  9. ^ Kitada M, Wakao S, Dezawa M (2012). “Muse cells and induced pluripotent stem cell: implication of the elite model”. Cell Mol Life Sci 69 (22): 3739–50. doi:10.1007/s00018-012-0994-5. PMC 3478511. PMID 22527723. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3478511. 
  10. ^ Muse細胞及び分離方法に関する基本的な特許が成立”. 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (2013-03-33). 2013-03-33閲覧。
  11. ^ Byrne, J.A., H.N. Nguyen, and R.A. Reijo Pera (2009). “Enhanced generation of induced pluripotent stem cells from a subpopulation of human fibroblasts”. PLoS One 4 (9): e7118. doi:10.1371/journal.pone.0007118. 

参考文献[編集]

関連項目[編集]