スプーン

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テーブルスプーン

スプーンとは、食品や薬品をすくい取ったり、混ぜたり、量ったり、潰したりする道具のこと。主に、料理を食べるときの食器として使われる。(さじ)ともいう。

素材は、ステンレス真鍮ニッケルなどをめっきしたものなど金属製のものが多いが、製や陶器製のもの、角や骨を材料に使う地域もある。最近は、木で出来たものもある。また、弁当にはしばしばプラスチック製のものが添えられる。このほか可食性素材のスプーンもある[1]

形状はものを乗せる皿状の部分と手で持つための柄で構成される。柄の部分を別部材で構成した別柄型のものと全体を一体成型にしたものがある[1]

スプーンの用途と種類

スプーンはその用途に合わせて、さまざまな種類のものがある。

銀のキャディースプーン

飲食用

飲食用のスプーンは食事の際に食べ物をすくう、混ぜる、口に運ぶという用途で用いられる[1]タイカンボジアラオスでは「スプーンとフォーク」のセットを食器として用いるために、ナイフのように硬いものを切る用途にも用いられる。ベトナムでも唐辛子を刻む時などにナイフのように用いられる。フランス料理などのテーブルセッティングでは、スープスプーンが最も右側に配置される。スプーンは、ナイフやフォークなどとともにカトラリーを構成する。

  • テーブルスプーン : シチュースープなどの料理をすくう。料理を大皿から各個人の小皿に取り分ける。
  • スープスプーン : シチューやスープをすくう。先が丸い。
  • デザートスプーン : デザート果物をすくう。テーブルスプーンよりも小型。
  • アイスクリームスプーン : アイスクリームをすくいやすいように先が角張っている。他にもアイスクリームを熱伝導で溶かしながらすくうスプーンもある。
  • イチゴ用スプーン : 皿状の部分が、イチゴを押しつぶしやすい形状をしている。
  • 先割れスプーン : メロンスイカを食べやすいように小さく先が割れている物と、フォークを兼用する深く割れたもの(英語でSpork)がある。前者は日本の学校給食においても使用されているが、現在では減少傾向にあり、後者はプラスチック製の物がコンビニ弁当などで多用されている。
  • バー・スプーン
  • ティースプーン : 飲み物(主に紅茶)をかき混ぜる。
  • コーヒースプーン : コーヒーに入れるために砂糖を計量したり、かきまぜる。ティースプーンより小型。
  • キャディースプーン : 紅茶の茶葉を量り、ポットに入れる。
  • 散蓮華 : 中国料理で使われるスプーン。

また、紅茶やアブサンを飲む際に、茶漉し代わりに小さな穴が多く開いているスプーンを用いる事がある。

調理用

その他

スプーンの歴史

給食初期に使用された先割れスプーン。

ヨーロッパでは、新石器時代に使われた陶器製や骨を削ったスプーンが発掘されている。古代エジプトでは化粧品の調合用としてスプーンが使われていた。ギリシャ・ローマ時代には先端が二つに分かれたスプーンが使われた。尖ったほうで卵やエスカルゴの殻を破り、丸みのあるほうで中身をすくう。11世紀になってイタリアにスプーンが入り、一般には普及したのは、17世紀-18世紀になってからである。ナイフ・フォーク・スプーンのセットで食事する形式が確立されたのは、19世紀ごろといわれている。

イギリスでは、洗礼式にスプーンを贈られる習慣があり、身分や貧富の差によって材質が異なっていた。このことから、裕福な家で生まれたことを表す「born with a silver spoon in one's mouth(銀の匙をくわえて生まれてきた)」という言い回しができた。

日本でも紀元前3世紀ごろの出土品にスプーン(匙)が含まれているが、これについては儀式用と考えられている[3]。正倉院の収蔵品などにも見られ、遺跡からも箸とともに出土したり、絵画に描かれたりもしているが、時代を下るごとにスプーンは少なくなっていく[4]。食事用として、そもそも一般人にはまったく普及していなかったであろうし、上流社会でも8世紀末から9世紀初ごろには箸食に遷移したものと考えられている[5]。しかし完全に姿を消したわけではなく、上流社会の儀式や接待などでは引き続き使用されていた。たとえば禅寺では鎌倉時代から第二次世界大戦以前まで匙を使っていたし、1682年の徳川綱吉の襲職祝賀にも使用された記録がある[5]。また、1719年の朝鮮通信使であった申維翰による『海遊録』にも小田原城で受けた接待で金銀の箸や匙が使用されたとの記述が見られる[6]。医療用に使われるケースもあり[7]江戸時代に、将軍家や大名の侍医のことを匙を使って薬を量ることから「お匙」と呼んでいた。医者が患者を見放すことをさして「匙を投げる」という比喩表現もある[7]。ちなみに、西洋にも「to have a spoon in every man's dish(他人の皿にスプーンを突っ込む)」という諺があった。

明治末期に、現在の形のスプーンが手作りではじめられた。機械による大量生産は、ヨーロッパでスプーン生産が滞った第一次世界大戦後からである。ただ、日本の家庭では匙は洋食や中華料理に用いる傾向が強く、味噌汁など日本で古くから食されていた汁物などは、現在でも利き手に箸のみ、椀を持ち上げ、口を付けて食べるのが一般的である。和食を提供する飲食店でも、味噌汁に匙が食器として出されることは少ない。

なお、中国朝鮮半島など日本以外の東アジア地域では、お椀を直接口に運んで汁を飲む習慣がなく、ごはんと汁類に匙を使い、おかず類にを使って食事する[8]

備考

  • ユリ・ゲラーなど、手品の一つとしてスプーンを曲げる行為が見られる。
  • 生物の形態表現として先端部が楕円形などに幅広くなっているのをさじ状さじ型と表現する。幅がそれほど広がらないのはヘラ状等という。生物の和名ではサジラン、サジバモウセンゴケサジオモダカハマサジなどの例がある。
  • 鈴鹿サーキットには、食器のスプーンに似ていることから付いたコーナー「スプーンカーブ」があり、更にそのコーナーを由来としたパーツメーカーもある。
  • ヨーロッパでは幼児洗礼命名式)の際に行われるお食い初めにスプーンが使われており、昔はその子の家の身分や貧富によって材質が違っていたことから、「銀の匙」(en)は裕福な家の、木製の匙は貧困や最下位の象徴(en:Wooden spoon (award)を参照)である。現在は命名式には皆、周囲から贈られた銀の匙を使用することが多い。
  • 日本国内での初期の学校給食では、「突き刺して食べる」ことと「すくって食べる」という二通りに使えるという利便性を買われて1950年代頃より先端部が「M」字状になっている「先割れスプーン」が用いられた。この先割れスプーン、18世紀後期まで特許がとられなかったそうであり、ローマ時代に使用されたスプーンとほぼ同じ形である。ローマ帝国時代から18世紀後期になるまでなぜ特許を取られなかったかといえば、わざわざ先割れスプーンを使う機会がほとんどないからであった。中世時代では非常に人気がなく、後のヴィクトリア時代まで一般的に使われることはなかったという。学校給食の場では先割れスプーンが一頃盛んに用いられたが、今では「犬食い」を誘発しかねないことと「の使い方を知らない子供が増えたこと」の原因とされ廃止されつつある。
  • 1978年には名古屋のラーメンチェーン「スガキヤ」で麺とスープを一緒に食べられるようにスプーンとフォークを合体した「ラーメンフォーク」が開発された。2007年に女性デザイナーの高橋正実によってデザインがリニューアルされた。

脚注

  1. ^ a b c 意匠分類定義カード(C6) 特許庁
  2. ^ メキシコ人は“バッチリメイク””. TELE PLANNING INTERNATIONAL INC. 2013-2-17日閲覧。
  3. ^ 金泰虎『日韓の食事作法 : 作法の相違とその作法形成の原因を中心に』 11巻、甲南大学、2007年、104頁https://ci.nii.ac.jp/naid/110006246807/ 
  4. ^ 金 2007, pp. 104–105
  5. ^ a b 金 2007, pp. 107–108
  6. ^ 金 2007, p. 107
  7. ^ a b 金 2007, p. 108
  8. ^ 2020年4月12日中日新聞朝刊日曜版1面

参考文献

身近なモノ事始め辞典 三浦基弘著 p.60~62

世界たべもの起源  岡田哲編 p.181~182

先割れスプーン wikipedia