メトヘモグロビン
メトヘモグロビン(Methemoglobin)は、ヘモグロビンの一種であり、通常のヘモグロビンに配位されている二価(フェロ)の鉄イオンが三価(フェリ)のものである。メトヘモグロビンは、酸素を運ぶことができない。チョコレートの茶色に青みがかった色をしている。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NADH) 依存性のシトクロムb5還元酵素(ジアフォラーゼI)は、メトヘモグロビンをヘモグロビンに還元・修復する機能を担っている。
一般の人では、ヘモグロビンの1-2%がメトヘモグロビンである。これよりも数値が高い場合には、遺伝的要因か様々な化学物質への曝露が可能性として考えられ、高い数値の程度に応じてメトヘモグロビン血症として知られている健康問題の原因となる。メトヘモグロビンの数値が高い場合には、実際の酸素飽和濃度に関わらずパルスオキシメーターでは85%近くの数値が出る傾向にある[1]。
一般的な原因
[編集]- 細胞防衛メカニズムの欠損
- 様々な環境物質に曝露されている4ヶ月未満の乳児
- シトクロームb5還元酵素の欠損
- G6PD欠損症
- ヘモグロビンM症
- ピルビン酸キナーゼ欠損症
- 様々な医薬化合物
- 環境物質
- 猫・犬において
メトヘモグロビンの飽和度
[編集]メトヘモグロビンの飽和度は、メトヘモグロビンのヘモグロビンとのパーセンテージで表現される。以下で言うmetHbとはメトヘモグロビンのことをいう。
- 1-2%のmetHb - 通常
- 10% 以下のmetHb - 症状なし
- 10-20% のmetHb - 皮膚の変色のみ(鼻の粘膜で最も目立つ)
- 20-30% のmetHb - 不安、頭痛、作業時の呼吸困難
- 30-50% のmetHb - 疲労、精神錯乱、めまい、頻呼吸、動悸
- 50-70% のmetHb - 昏睡、発作、不整脈、アシドーシス
- 70% 以上のmetHb - 死亡
メトヘモグロビンの再還元
[編集]メトヘモグロビンは、次のメカニズムでヘモグロビンへ再還元される[3]。
- シトクロムb3による再還元、シトクロムb3はNADHにより再生される。
- アスコルビン酸による再還元、生成したデヒドロアスコルビン酸はグルタチオン、NADHによりアスコルビン酸に再生される。
- グルタチオンによる再還元、生成した酸化型グルタチオンはNADPHにより還元型グルタチオンに再生される。
シアン化合物中毒の際の治療上の使用
[編集]亜硝酸アミルは、シアン化合物中毒を治療するために処方される。これは、シアンが三価の鉄イオンと特異的な親和性を持つことを利用するもので、亜硝酸アミルによりヘモグロビンをメトヘモグロビンに変化させ、メトヘモグロビンにシアンを結合させてシアンメトヘモグロビンとすることで無毒化する。続いてチオ硫酸ナトリウムを静注し、シアンメトヘモグロビンから徐々に遊離するシアンと反応させてチオシアン酸とする。処方の際は、この薬品が気化しやすいことを利用して、15秒おきに15秒間かがせることを5回繰り返す[6]。この場合、副作用としてメトヘモグロビン血症が起きる場合があるので、血中メトヘモグロビン濃度が20~25%を超えないようコントロールする。
脚注
[編集]- ^ Denshaw-Burke, Mary (2006年11月7日). “Methemoglobinema”. 2008年3月31日閲覧。
- ^ Bakdash, A; Ganswindt, M; Herre, S; Nadulski, T; Pragst, F; others (2006). “Lethal poisoning with p-nitroaniline” (PDF). Toxichem Krimtech 73: 61 .
- ^ a b 石井邦彦「アカタラセミアマウスに一酸化窒素,二酸化窒素曝露時のメトヘモグロビン生成」『岡山医学会雑誌』第101巻第5-6号、岡山医学会、1989年、473-486頁、doi:10.4044/joma1947.101.5-6_473、ISSN 0030-1558、CRID 1390282679850840192。
石井邦彦『アカタラセミアマウスに一酸化窒素,二酸化窒素曝露時のメトヘモグロビン生成』 岡山大学〈医学博士 乙第2009号〉、1989年。doi:10.11501/11600314。NAID 500000057740 。 - ^ 野菜の硝酸イオン低減化マニュアル 平成18年3月 独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 野菜茶業研究所
- ^ McConkey SE, Grant DM, Cribb AE. (2009). “The role of para-aminophenol in acetaminophen-induced methemoglobinemia in dogs and cats”. J Vet Pharmacol Ther. 32 (6): 585-595. PMID 20444014.
- ^ Vale, J.A. (2001). “Cyanide Antidotes: from Amyl Nitrite to Hydroxocobalamin - Which Antidote is Best?”. en:Toxicology 168 (1): 37-38.