硝酸態窒素
硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ、nitrate nitrogen)とは、硝酸イオンのように酸化窒素の形で存在する窒素のことである。通常は の形の硝酸イオンに金属が結合した硝酸塩の形で存在しているが、このうち N の部分だけをとって硝酸態窒素という。また硝酸態窒素は通常、窒素化合物の酸化によって生じる最終生成物である。
土壌中の硝酸態窒素[編集]
通常、土壌中の無機窒素は、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素の3つの形で存在する。通常、有機物が分解されるとまずアンモニア態窒素が生成される。また、硫安、尿素などのアンモニア態窒素の肥料が施肥されることもある。これらのアンモニア態窒素は土壌中の硝酸菌の作用で亜硝酸態窒素を経て硝酸態窒素にまで変換されることがある。
なお、植物が利用している土壌中の無機態窒素の同化については、アンモニア態窒素は直接有機態窒素へと同化され、硝酸態窒素は酵素の働きによる還元過程を経て有機態窒素へと同化されることとなる[1]。
また、窒素肥料の中には硝酸アンモニウムや硝酸ナトリウムなど元から硝酸態窒素が大量に含まれているものもある。
なお、水域でも、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素は溶存無機態窒素(DIN)であり、水域の植物プランクトンや藻類等の窒素源として重要な栄養塩の1つである。
環境汚染[編集]
上記のような事情から硝酸態窒素に変化し得る肥料が大量に施肥された結果、ミネラルウォーターとして市販されている物も含む地下水が硝酸態窒素に汚染されたり、葉物野菜の中に大量の硝酸態窒素が残留するといった環境問題が起こっている[2]。人間を含む動物が硝酸態窒素を大量に摂取すると、体内で腸内細菌により亜硝酸態窒素に還元され、これが体内に吸収されて血液中のヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビンを生成してメトヘモグロビン血症などの酸素欠乏症を引き起こす可能性がある上、2級アミンと結合して発ガン性物質のニトロソアミンを生じる問題が指摘されている[3]。
牛の飼料中に0.2%以上の硝酸態窒素が含まれていると、食欲不振やふらつき、時には呼吸困難や突然死を引き起こすこともある硝酸塩中毒を起こす可能性があり、継続的に比較的高濃度の硝酸態窒素を含む飼料を牛が食べることによって流産や胎児の異常、乳量や成長への影響等の慢性中毒が引き起こされる可能性も指摘されている[2]。
グレビーシマウマが肺水腫による呼吸不全で死んだケース[4](富山市ファミリーパーク)では、血液検査により90ppmの硝酸態窒素が検出された[5]。
脚注[編集]
- ^ 小山里奈、「植物の窒素吸収と同化:硝酸態窒素に対する種の依存性と反応性」 環境科学会誌17(3):205-210(2004)
- ^ a b 「硝酸態窒素濃度が低いイタリアンライグラス品種の開発」
- ^ 寺沢なお子ほか、市販緑葉野菜の硝酸およびシュウ酸含有量、金沢大学学術情報リポジトリ (PDF)
- ^ “シマウマ赤ちゃん謎の急死、道産牧草に毒成分?”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2010年11月25日). オリジナルの2010年11月29日時点によるアーカイブ。
- ^ “シマウマ赤ちゃん急死、血液から高濃度の毒成分”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2010年11月23日). オリジナルの2010年11月25日時点によるアーカイブ。