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退学

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退学(たいがく)とは、児童生徒学生が、在学中に卒業修了を待たずに学校を途中でやめること、またはやめさせられること[1]。なお、英語圏のexpulsionは日本語では「退学」と訳されているが、アメリカ合衆国の教育制度におけるexpulsionは必ずしも学校を完全にやめさせる場合に限らない概念である(後述)[2]

日本

以下の種類がある。いずれの場合も、学生証の返納など、いくつかの手続きを必要とする(ただし自動退学の場合はこの手続きの必要のない場合もある)。

義務教育課程以降は、中退した場合、後日入り直さない限り最終学歴はその直前の学校卒となる。大学中退なら高校卒業(高卒)、高校中退なら中学卒業(中卒)である。短期大学卒業を経て大学に編入学し中退した場合は「短期大学卒業」、高等専門学校の卒業を経て大学に編入学し中退している場合は「高等専門学校卒業」が最終学歴になる。

就職をする際に、大学中退をした者が履歴書の最終学歴欄に「高卒」と記載した場合は、雇用者に対して大学中退した事実を隠していることになる。経歴詐称となるので「大学中退」と記入しなければならない。つまり「大学中退なら高卒」という前述の言説は通俗的なものであり、大学中退した者は最終学歴を問われた際に正直に「大学中退」と言わねばならない。

退学の種類

自主退学と懲戒退学の別は、法制度に裏付けのある分類である。

自主退学

自主退学(じしゅたいがく)は、幼児・児童・生徒・学生、および、その保護者の意思で退学することを指し、自発的にまたは病気貧困学費を支払えない)などやむを得ない理由で退学することを指す。一般的には中途退学(ちゅうとたいがく、略称「中退」)のことである(ただし、自主退学の場合であっても、大学院の博士後期課程などでは学則上、単位取得満期退学などの中途退学と異なる退学手続きが設けられていることが多い。この点は 『#中途退学と満期退学』を参照のこと)。

手続きとしては、幼児・児童・生徒・学生とその保護者(または保証人など)の連名により退学願が出され、学校内において審議した後に、校務をつかさどる校長から許可されることによって退学する。

懲戒退学

懲戒退学(ちょうかいたいがく)とは、犯罪非行・過度の原級留置(いわゆる「留年」)[注 1]など、「本人に非のある」理由で、学校側が強制的に退学させる懲戒処分の一種であり、退学処分(たいがくしょぶん)のこと。また、アウトローな言い方として、社会人勤務先を解雇あるいは免職されることに擬えて「クビ」と表現することもある。

懲戒退学は、校長大学にあっては、学長の委任を受けた学部長を含む)が行う[3]。一般に「学校をやめさせられる」とはこのことを指す。

懲戒退学は、学校教育法(昭和22年法律第26号)第11条[注 2]に基づいて行使される懲戒権に含まれ、懲戒退学を行うにあたっては各種の制約がある。

後述の放校と異なり、在校生であったという記録は削除されない。履歴書には「退学処分」と記入しなければならない。

学校教育法施行規則には、懲戒退学の理由として「学費を支払っていない者」(滞納している者)は列挙されていないが、学則に基づいて除籍となる。

放校

懲戒退学の中でも、放校・放学は退学処分よりも重いもので、「在校生であったという記録」が削除される。入学試験に出願した事実から無かったこととなり、その後の復学も認められない。理由としては主に故意の法令違反のうち、特に凶悪犯罪(殺人強盗性犯罪など)、悪質運転(飲酒運転無免許運転など(年齢が達していなくても))等で有罪(実刑を含む)ないし保護処分となった場合がある。その場合における最終学歴は在籍前の学校の卒業となる。

ただし「最終学歴は在籍前の学校の卒業となる」とは通俗的な表現についての説明であって、履歴書には正直に「放校処分」と記入しなければならない。最終学歴を「高卒」と記載した場合、学歴詐称となる。

自動的な退学

生徒の在籍している学校が統合や廃校・閉校(長期または無期限の休校を含む)によって通学できなくなった場合は、学校側が自動的に退学の対処をする場合がある。これを自動退学(じどうたいがく)と言う。

自動退学の場合は、原則として学校の統合日、閉校日、または休校開始日が退学日となる。ただし、高等学校や大学(特に公立学校)の場合は、学業を続ける意思のある生徒に対して、近隣の他の学校を斡旋したり(この場合は教育委員会や学校側の裁量により、編入試験を簡略化したり、免除させる場合もある)、他の学校への編入試験時に不利とならないように配慮させるなどの救済措置がとられる場合もある。また、統合の場合は、統合先の学校側が生徒の学籍を統合元の学校から引き継いで在籍扱いとし、統合先の学校に通学できるようにして、自動退学を回避する場合もある。

生徒が死亡した場合は、学校側が死亡届の確認後、自動的に退学の対処をするが、この場合は除籍扱いとなり、退学扱いとはならない。

死亡が卒業の直前だった場合、学校側の裁量で除籍せず、卒業式当日に遺族に卒業証書を授与する場合がある。

中途退学と満期退学

中途退学と満期退学の別は、法制度に裏付けがなく、細かい取り扱いは各学校および学校法人により異なっている。

中途退学(ちゅうとたいがく)とは、修業年限未満で退学することである。これに対し満期退学(まんきたいがく)とは、修業年限以上在学したものの卒業または修了に至らないまま退学することである(満期退学の例:大学院の博士後期課程に3年以上在学し、学則の要件は満たしたが後述のように学位を得られず退学する。つまり、学則にしたがって正規の手続きで満期退学したにもかかわらず、中途退学というのは誤用である)。

満期退学の語は、特に大学院の博士後期課程・後期3年博士課程、一貫制博士課程、4年制博士課程などを退学した際に用いられることがあり、「単位取得満期退学」などのように、修了に必要な単位を修得していることも付記することもある。1980年代以前は、提出した学位請求論文が“博士の学位を授与して然るべき”と評価されない[注 3]場合がそれなりにあり、学生は、課程の修了に必要な「博士論文の審査…に合格すること」[4]を経ず、修了に不可分な博士学位の授与を受けずに退学した。このような時、在学し、研究指導を受けていたことを表すために「満期退学」と表記されることがある。大学院の博士後期課程等の満期退学については、「単位取得退学」など各大学により呼称が異なり、これは標準修業年限内に所要単位は取得したものの博士論文を提出せずに退学する学生がそれなりにいることが影響している[5]。但し中央教育審議会大学分科会はこのように称することを認めていない[注 4]

大学院博士課程後期以外の場合、教育職員免許状を有する学部卒業者が、他大学に編入の上で、障害者教育実習を経て、免許状の授与申請の要件を満たして2年在籍の後に退学する場合も、満期退学(あるいは単位取得満期ないしは、単に単位取得[注 5])と看做されることがある。ただし、1年ないし1年半で必要条件を修了して退学した場合は、卒業の修業年限を満たしていないため、その場合は、単位修得状況に関わらず、当然に単に「中退」となる。これらは、履歴書上の学歴の書き方(ただし、記入が必要なケースに限る)についても、準用出来る。また、学部教育における中途退学・満期退学とも、「退学」と表現せずに「教育終了」と表現する場合もある(こちらについても、履歴書上の記入方法も同様で、修了」と書けない点に注意。『修了#終了と修了の差異』なども参照)。

退学をめぐる背景

教育段階と退学の状況

  • 公立学校併設型中学校を除く)において義務教育としての教育が行われている児童・生徒には、懲戒退学とすることはできない(学校教育法施行規則第26条第3項)。ただし、他の学校へ自主的に転学する場合(学校の統廃合により、止むを得ず転学する場合とは異なる)や、学齢(満15歳に達した日の属する学年の終わり)を超過し、かつ本人の希望がある場合などには退学扱いとなることがある。一方、私立学校については、懲戒退学処分を受けたとしても公立学校に転学することが可能であるため、学齢児童・生徒に対する懲戒退学処分も認められている。「転校勧奨」などの名称で、退学と同等の処分が行われる場合もある。外国人の場合は義務教育の対象者に当てはまらないため、退学届を提出すれば受理されることもある。
  • 高等学校(高校)以上の場合、学業不振やいじめ、各種の学校不適応などの問題から自主退学することも生じやすい。1970年代には卒業生が入学時の6割にまで減っている高校も存在していた[6]。1990年代以降は、退学後に学校で再度学ぶことなく就職もしない者(ニート)が増加している[7][8]。なお、就職の際に提出する履歴書には、(自主・懲戒問わず)退学(中退)も学歴として記載しなければならない。また、高校を退学した者が大学入試を受験する際には高等学校卒業程度認定試験(高認。旧「大検」=大学入学資格検定)に合格している必要がある。2006年度の文部科学省の調査では合格者の約半数が大学(短期大学を含む)、専門学校に進学した(2007年5月15日発表)。

中国

中国では、出産を理由とした退学処分が行われていた(学生の結婚、出産が2003年まで禁止されていたため)。政府は2007年8月に、既婚学生の出産を理由とした退学はしてはならないと規定し、併せて出産前後の休学を勧告した[9]

イギリス

イギリスでは退学措置(Permanent exclusion)は学校理事会(規律委員会)の承認を得て学校長が判断することとなっている[10]。懲戒の決定は学校長の責任事項に属し、実際には学校長の決定が学校理事会でもそのまま承認されることが多い[10]

学校長の退学措置に対しては審査委員会に不服を申し立てることができるが、学校長の退学措置処分が覆るケースは稀である[10]

アメリカ

義務教育

アメリカ合衆国では義務教育にも停学や退学の処分がある[2]。ただし、アメリカ合衆国の教育制度上のexpulsionが日本語では一般に「退学」と訳されているが、expulsionは必ずしも学校を完全にやめさせる場合でなくても用いられており、一定期間(10日程度)を超える停学に相当する措置と説明されている[2]

1990年代以降の米国の生徒指導では、段階的に決められたルールに従った指導を行い、重大な違反行為に対しては停学や退学を含む厳しい措置をとる「ゼロトレランス(zero tolerance, ZT) 」と、停学や退学になった際に受け皿となる「オルタナティブスクールの整備」という対照的な枠組みが用いられている[2]。ただ、2002年のブッシュ政権下でNCLB法(落ちこぼれ防止法。No Child Left Behind、どの子も置き去りにしない)が制定され、実証レベルで効果のある教育政策を用いることが原則となった。停学や退学の処分にはより慎重さが求められるようになり、公立学校における停学・退学の件数は2012年から 2014年にかけて20%減少した[2]

全州教育協議会(Education Commission of the States)は、各州に、停学あるいは退学となった児童や生徒に対するオルタナティブな教育機会の調査を行い、37州がオルタナティブなプログラムを提供するとし、他の13州も提供する場合があると回答している[2]。ミシシッピ州では、停学退学の理由が銃の所持であった場合を除いて、停学あるいは退学になった児童生徒に対してオルタナティブスクールを指定するとしている[2]

大学教育

アメリカ合衆国では登録科目の成績評価を点数化し、それを単位数で割った平均点をGPAという指標にしており、GPAの最低基準に満たなかった学生に学習生活指導を行っても学力不振が続く場合に退学勧告をとるシステムが一般的である[11]。GPA制度では授業ごとに成績評価を5段階(ABCDF)で評価し、それぞれに4・3・2・1・0のグレード・ポイントを付与し、この単位当たり平均(GPA、グレード・ポイント・アベレージ)を評価点とする[11]

  • ワシントン州立大学 - ワシントン州立大学では累積GPAか学期GPAのいずれかが2.0を下回ると仮及第(on academic probation)となり、累積GPAか学期GPAのいずれかが2学期連続で2.0を下回ると退学となる[12]
  • ポートランド州立大学 - ポートランド州立大学では累積GPAが2.0を下回ると警告(academic warning)を受け、警告期間中(on academic warning)に累積GPA2.0以上か学期GPA2.25以上のいずれかを満たさない場合には仮及第(on academic probation)となる[12]。仮及第期間中に累積GPA2.0以上か学期GPA2.25以上のいずれかを満たさない場合には退学(dismissed)となる[12]
  • スペリオル湖州立大学 - 累積GPAが2.0を下回ると仮及第(on academic probation)となり、2学期以上連続して仮及第となるか、GPAが1.6以下になると退学(academically dismissed)となる[12]
  • コロラド州立大学 - 累積GPAが2.0を下回ると、それに続く2学期は仮及第(on Probation)となり、仮及第期間中に累積GPAが2.0を上回らなければ退学(academically dismissed)となる[12]

関連項目

脚注

注釈

  1. ^ 原級留置を許容する度合いは学校によって差異があるが、高等学校の場合、在学中に1度だけ認める場合もあれば、1学年につき1度認める場合もある(この場合、各学年を1度ずつ繰り返して、最大で6年間在学出来る)。
  2. ^
    学校教育法 第11条
    校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
  3. ^ 博士の学位の授与が妥当とされると、学位請求論文は博士論文となる
  4. ^
    課程の修了に必要な単位は修得したが、標準修業年限内に博士論文を提出せずに退学したことを、いわゆる「満期退学」又は「単位取得後退学」と呼称し、制度的裏付けがあるかのような取扱いは、課程制大学院の本来の趣旨にかんがみると適切ではない。 — 3 課程制大学院の制度的定着の促進(1)課程制大学院の制度に沿った博士学位授与の確立 中央教育審議会大学分科会
  5. ^ ただし、大学院のケースを含め、卒業・修了要件の単位を充足を以って、「単位取得」として看做される場合もある。よって、卒業・修了要件の単位数(必修科目はすべて履修済みとして、これらの単位数に含まれているのが前提。例えば、学部であれば「卒業試験(卒業論文)」が必修の単位とされる場合は、当然なされている必要がある。なお、大学学部の一般的な課程については、修業年限以上の期間を在学した後に自主退学しても「満期退学」の表現はあまり使われず、「中途退学」(「中退」)あるいは、単に「退学」と表記される(多くは、可能年数上限(標準年数の2倍)まで在籍し続けても卒業所要単位取得の目処が立たないため。上皇明仁が公務との両立が出来ずに学習院大学を中退した例が典型)。中途退学は、自主退学・懲戒退学のいずれの場合でも用いられるが、満期退学は、通例、自主退学の場合のみ用いられる(在籍可能年数を超えた場合は、除籍となる)。この他、事例として、教育職員免許状の授与を受けている学部卒業者が、小学校教諭ないしは特別支援学校教諭免許状の授与を受けるために、(通信制を含む)大学に編入し、(障害者)教育実習は受けるものの、学部卒業に必要な単位を揃えることは、一般的にはゼミに包括される形を含めて卒業論文なども必修単位にカウントされるため通常は「単位取得(満期)退学」は不可能であるため、中途退学ないしは満期退学はあっても、単位取得退学としては対象外である。大学院であれば「修士論文博士論文」の合格のみを満たしていない状況を、通常は指す)を充足していない場合は、「満期退学」あるいは「満期」としか表現できないケースもある。

出典

  1. ^ 退学(たいがく)の意味”. goo国語辞書. 2020年11月21日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 宇田光「米国における学校安全への対応 (3) : ゼロトレランスと停学・「隔離」の抑制」『南山大学 教職センター紀要』第4号、南山大学教職センター、2019年3月、17-30頁、doi:10.15119/00002648ISSN 2433-4839NAID 1200066004252021年10月13日閲覧 
  3. ^ 学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第26条第2項
    懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
  4. ^ 大学院設置基準第17条第1項
  5. ^ 文部科学省 中央教育審議会 2005年平成17年)9月5日 答申 新時代の大学院教育 -国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて- 第2章-1-(1)-② 円滑な博士の学位授与の促進
  6. ^ 職業高校 ある決断 やる気のないものは去れ 三年間で百人退学『朝日新聞』1978年(昭和53年)1月29日朝刊、13版、23面
  7. ^ 小杉礼子 (2004年12月). “若者無業者増加の背景”. 日本労働研究雑誌. p. 4-5. 2021年9月14日閲覧。
  8. ^ 平成16年版労働経済白書. (2004) 
  9. ^ 『出産理由の退学処分を禁止=既婚学生の権利認める』2007年平成19年)8月4日付配信 時事通信
  10. ^ a b c 下条美智彦『ヨーロッパの教育現場から』2003年(平成15年)、86頁
  11. ^ a b 村上嘉津子「変革期の大学と学生、学生相談担当者の視点 : 退学勧告制度と関係性の醸成」『京都大学カウンセリングセンター紀要』第36号、京都大学カウンセリングセンター、2007年3月、17-27頁、doi:10.14989/156337NAID 120004184984 
  12. ^ a b c d e 成績不振者への対応(米国州立大学)のまとめ”. 信州大学. 2021年10月12日閲覧。

外部リンク