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青野藩

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

青野藩（あおのはん）は、美濃国不破郡青野（現在の岐阜県大垣市青野町[1]）を居所として、江戸時代前期にごく短期間存在した藩。1682年、当地の領主であった稲葉正休が若年寄に就任し、加増を受けて大名に列した。しかしその2年後の1684年、正休は大老堀田正俊殺害事件を起こし、自らも殺害されたために廃藩となった。

歴史

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青野藩の位置（岐阜県内）
青野
青野
深萱
深萱
大垣
大垣
岐阜
岐阜
関連地図（岐阜県）[注釈 1]

稲葉正休は、稲葉正成の孫にあたる人物で[2]、父は稲葉正吉（正成の十男）である[3]。「青野藩」は2年で消滅した短命の藩であるが、正吉の兄にあたる大身旗本・稲葉正次（正成の二男）に与えられた知行地（青野領）をもとに成立しており、青野村は青野藩の廃藩まで、稲葉家によって3代70年近くにわたり知行された。

前史

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青野領主稲葉家および堀田家関連系図
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
稲葉重通娘
 
 
 
 
 
 
稲葉正成
 
山内康豊娘
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
春日局
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
稲葉正次1堀田正吉妻
 
稲葉正勝
 
稲葉正吉2
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
稲葉正能堀田正盛
 
稲葉正則
 
稲葉正休3
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
堀田正俊
 
稲葉正則娘
 
 
 
 
 
 
 
  • 数字は青野領主の代数。3代目の正休が大名に列した。
  • 点線は婚姻関係を示す。
  • 稲葉正成は、稲葉重通娘→春日局→山内康豊娘の順に婚姻した。
  • 春日局は稲葉重通の姪で養女である。
  • 堀田正俊は春日局の養子である。

元和4年（1618年）、稲葉正次[注釈 2]が召し出されて徳川秀忠に仕えた際、「美濃国青野において」5000石を与えられた[5]。この5000石の領地は、美濃国西部に位置する不破郡青野周辺のほか、美濃国東部の加茂郡にも分散して所在していた（#領地節参照）。

寛永5年（1628年）5月、正次は38歳で死去した[4]。嗣子の正能は幼少（3歳）であったため[4]、正成の要望によって[3]、正次の異母弟[注釈 3]の稲葉正吉（11歳）が青野領5000石を継ぐこととなった[4][注釈 4]。正吉はのちに書院番頭となるが[3]、駿府在番中の明暦2年（1656年）7月に家臣らによって殺害されている[3][注釈 5]。

明暦2年（1656年）12月、稲葉正休が家を相続することが認められた[3]。正休は小姓組番頭・書院番頭を歴任して近習（側衆）に進み[3]、天和元年（1681年）7月に2000石を加増された[3]。

立藩から廃藩まで

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天和2年（1682年）3月、正休は若年寄に就任した[3]。同年8月、5000石を加増されて、合計1万2000石を領する大名となった[3]。これにより、青野藩が立藩されたと見なされる[9]。

貞享元年（1684年）8月28日、正休は江戸城内で大老堀田正俊[注釈 6]を刺殺し、居合わせた老中大久保忠朝らによって正休も殺害された[3][1]。これによって稲葉家は絶家[1][注釈 7]、青野藩は廃藩となった[9][1]。

青野藩の廃藩後、青野村は幕府領となり、明和7年（1770年）以後は大垣藩の預かり地となった[5]。


歴代藩主

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1万2000石。譜代。

  1. 稲葉正休

領地

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領地の分布

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『不破郡史』（1926年）が引く「元和年中一国帳」によれば、元和4年（1618年）に稲葉正次が初めて5000石を与えられた際の領地は、加茂郡6か村約1650石（深萱村[注釈 8]・下古井村（一部）[注釈 9]・水戸野村[注釈 10]・西田原村[注釈 11]・和泉村[注釈 12]・小原村（一部）[注釈 13]）、不破郡6か村約3350石（府中村[注釈 14]・新井村[注釈 15]・大谷村（青墓村）[注釈 16]・青野村・野上村[注釈 17]・笠毛村[注釈 18]）であった[21]。

『不破郡史』は、稲葉正休が加増された7000石の領地の所在は不明であるとしている[22]。

不破郡

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青野村には美濃国分寺が所在し[5]、村内を中山道が通過している（垂井宿 - 赤坂宿間）[5]。青野周辺は古代以来の要地で、美濃国府（現在の不破郡垂井町府中）や、東山道青墓宿（青野町の北隣に青墓町の地名が残る）[23][18]が置かれ、一帯は「青野原」と呼ばれた（南北朝時代の青野原の戦いの舞台として知られる）。

稲葉家の屋敷（陣屋）跡は、「本丸」という小字名とともに伝えられた[24]。大正末年の『不破郡史』編纂時点において、屋敷の周囲に巡らせていた堀が残っており[25]、「俗名稲葉石見守塔」などと記された石塔が立てられていた[26]（石塔は現存[24]）。1981年には青野町自治会によって「稲葉石見守正休公屋敷跡」の碑が建てられた[24]。

青墓の円興寺は「青野城主」稲葉氏の菩提寺であったという[27]。また、稲葉正吉の兄の増周という僧侶[注釈 19]が寛文3年（1663年）に青野に来住し[注釈 20]、解脱寺という寺（真言宗[5]）を創建した[28]。ただしその後、解脱寺は廃寺となっている[5]。青野の教覚寺（真宗大谷派）は稲葉正吉が再建に助力したという寺で[29]、領主であった稲葉氏の位牌が安置されているほか[5]、稲葉一族（正吉・正則・正休）が解脱寺の増周に送った書簡が伝えられており[28]、教覚寺門前には「稲葉石見守正休公碑」がある[30][31][29]。

稲葉正休は、領地の村々の農業に関心を寄せ、溜池などの水利施設を設けて、勧農に努めた領主であったと伝えられる[32]。昼飯池（大垣市昼飯（ひるい）町）は当時つくられた溜池の一つとされ、現代も農業水利施設として利用されている[32]。

堀田正俊殺害事件の「真相」は不明であるが[注釈 21]、世間の同情は正休に向けられたといい[34]、「正休は天下のため、自らの命と1万2000石を賭して、専横のふるまいを見せる正俊を討った」とする理解がある[25]。「稲葉石見守正休公屋敷跡」の碑文はその理解に基づいて遺徳を偲ぶものとなっている[24][35]、教覚寺門前の「稲葉石見守正休公碑」の碑文も、事件について同種の理解を記しているが、正休を善政を布いて領民にも慕われた名君として顕彰している[29]。

大垣市にある稲葉北・稲葉東・稲葉西という町名（稲葉団地が所在する）は、青野町・榎戸（よのきど）町・矢道町の各一部を編成して1975年（昭和50年）に設定されたものであるが[36]、町名は稲葉正休の屋敷が付近にあったことにちなんで名づけられたものである[36]。

加茂郡

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加茂郡深萱村（現在の岐阜県加茂郡坂祝町深萱（ふかがや））は、稲葉家の領地であった[37][10]。寛文3年（1663年）、正休は深萱村に凉樹院（臨済宗妙心寺派）を創建した[37]。父の正吉の菩提を弔うため、同寺に山林や新田を寺領とする寄進状が残されている（坂祝町指定文化財）[37]。また、深萱の十二社神社は延宝9年（1681年）に造営されたが、願主として稲葉正休が名を記した棟札がある[38]。青野藩の廃藩により深萱村も収公され、幕府領と旗本領に分割された[10]。

脚注

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[脚注の使い方]

注釈

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  1. ^ 赤丸は本文内で藩領として言及する土地。青丸はそれ以外。
  2. ^ 正成の先妻（稲葉重通の娘）の子[4]。稲葉正成の家の家督は、異母弟の稲葉正勝（生母は春日局）が継いだ[4]。
  3. ^ 生母は、春日局との離縁後に正成が娶った山内康豊の娘[6]。
  4. ^ 正次の遺児である正能と正定の兄弟は正吉の家で養われた[4][7]。寛永12年（1635年）、前年に没した伯父・正勝の生前の要望により、稲葉正則（正勝の子、小田原藩主）の領地であった下野国真岡領内において新田合計5000石が兄弟に分知された（正能に3000石、正定に2000石）[4][7]。
  5. ^ 正吉を殺害したのは家臣の安藤甚五左衛門と松永喜内という者で、「男色の事」が原因という[3]。安藤らは正吉を自殺に見せかけたが、将軍徳川家綱が調査を指示して犯行が露見し、安藤らは8月に処刑された[8]。
  6. ^ 稲葉正休と堀田正俊は親族である。正俊の父である堀田正盛と稲葉正休が従兄弟（正盛の母が稲葉正成の娘）であり、正休は正俊よりも6歳年下ながら正俊の叔従父（いとこおじ）という関係にあたる。正俊の正室は稲葉正則（稲葉正成と春日局の子である稲葉正勝の子。すなわち正休の従兄）の娘で、正俊は春日局の養子になっている。
  7. ^ 『寛政譜』によれば、正休は正室（土屋数直の娘）との間に男子1人を設けているが、この男子は早世している[3]。
  8. ^ 現在の坂祝町深萱[10]。
  9. ^ 現在の美濃加茂市古井町下古井か[11]。
  10. ^ 現在の白川町水戸野[12]。
  11. ^ 現在の関市西田原[13]。
  12. ^ 現在の白川町和泉[14]。
  13. ^ 現在の白川町河岐の小原地区[15]。
  14. ^ 現在の垂井町府中[16]
  15. ^ 現在の垂井町新井か。『角川日本地名大辞典』には稲葉氏が領主であったとは記されていない[17]。
  16. ^ 現在の大垣市青墓町付近[18]。
  17. ^ 現在の関ケ原町野上[19]
  18. ^ 現在の大垣市桧町の笠毛地区[20]。
  19. ^ 『寛政譜』には、増周に相当する人物の記載はない。山城国石清水八幡宮の岩本坊の僧になっていたという[26]。
  20. ^ 『不破郡史』には「寛文三年に正吉の知行所たる本郡青野に来り」とある[26]。ただし寛文3年（1663年）は正吉の死後で、正休の代になっている。
  21. ^ たとえば「コトバンク」所収の辞典類はさまざまな説を紹介している[33]。

出典

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  1. ^ a b c d 『藩と城下町の事典』, p. 310.
  2. ^ 『寛政重修諸家譜』巻第六百八「稲葉」、国民図書版『寛政重修諸家譜 第四輯』p.188。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 『寛政重修諸家譜』巻第六百十「稲葉」、国民図書版『寛政重修諸家譜 第四輯』p.206。
  4. ^ a b c d e f g 『寛政重修諸家譜』巻第六百十「稲葉」、国民図書版『寛政重修諸家譜 第四輯』p.202。
  5. ^ a b c d e f g “青野村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月6日閲覧。
  6. ^ 『寛政重修諸家譜』巻第六百八「稲葉」、国民図書版『寛政重修諸家譜 第四輯』p.189。
  7. ^ a b 『寛政重修諸家譜』巻第六百十「稲葉」、国民図書版『寛政重修諸家譜 第四輯』pp.204-205。
  8. ^ “安藤甚五左衛門”. デジタル版 日本人名大辞典+Plus. 2023年2月6日閲覧。
  9. ^ a b “青野藩(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月6日閲覧。
  10. ^ a b c “深萱村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月6日閲覧。
  11. ^ “下古井村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  12. ^ “水戸野村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  13. ^ “西田原村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  14. ^ “和泉村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  15. ^ “小原村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  16. ^ “府中村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  17. ^ “新井村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  18. ^ a b “青墓村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月6日閲覧。
  19. ^ “野上村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  20. ^ “笠毛村(近世)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  21. ^ 『不破郡史 上巻』, pp. 680–681.
  22. ^ 『不破郡史 上巻』, p. 681.
  23. ^ “青墓(古代)”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月6日閲覧。
  24. ^ a b c d “青野城跡(大垣市)”. 鬼丸のブログ (2016年1月12日). 2023年2月6日閲覧。石碑・石塔とその周辺状況の写真および碑文が掲載されている。
  25. ^ a b 『不破郡史 上巻』, p. 684.
  26. ^ a b c 『不破郡史 上巻』, p. 688.
  27. ^ “第三十二番札所　篠尾山　円興寺”. 西美濃三十三霊場. 西美濃三十三霊場. 2023年2月7日閲覧。
  28. ^ a b 『不破郡史 上巻』, pp. 688–689.
  29. ^ a b c “青野城主 　稲葉石見守正休公 　略歴”. Monunento. 2023年2月6日閲覧。。石碑の碑文の写真が掲載されている。
  30. ^ “国分寺跡（旧中山道を歩く　２６９）”. 中山道ひとり歩る記（旧中山道を歩く） (2011年9月24日). 2023年2月6日閲覧。碑の周辺状況についての写真が掲載されている。
  31. ^ “法雲山教覺寺(大垣市)”. 鬼丸のブログ (2016年1月14日). 2023年2月6日閲覧。。石碑およびその周辺状況の写真が掲載されている。
  32. ^ a b 岐阜県農地整備課 2013, 5/11.
  33. ^ “稲葉正休”. コトバンク. 2023年2月8日閲覧。
  34. ^ “稲葉正休”. ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典（コトバンク所収）. 2023年2月8日閲覧。
  35. ^ “美濃青野城”. 城郭放浪記. 2023年2月6日閲覧。石碑写真および碑文が掲載されている。
  36. ^ a b “稲葉北”. 角川日本地名大辞典. 2023年2月8日閲覧。
  37. ^ a b c “稲葉正休寄進状”. 坂祝町. 2023年2月7日閲覧。
  38. ^ “十二社神社”. 岐阜県神社検索. 岐阜県神社庁. 2023年2月7日閲覧。

参考文献

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