軍民転換

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軍民転換(ぐんみんてんかん)とは、軍需産業を自動車、家電といった民需産業に転換すること。

対応する英語"Swords to ploughshares"はイザヤ書に由来する[1]

米ソ両国の比較[編集]

1959年に国連に寄贈されたソ連の「剣を鋤に打ちかえる像」[2]

東西冷戦時代は、アメリカソ連とも軍事優位の獲得を血眼になって争い、戦車航空機、宇宙防衛などの軍需産業を中心に育成した。しかし、この冷戦構造の終焉とともに、両国では、大きな経済的課題となり、軍民転換が行われるようになった。

まずソ連の場合、軍民転換は「コンベルシア」(ロシア語: конверсия)と呼ばれ、アメリカに融和的で冷戦の終結を掲げたゴルバチョフ政権以来、市場経済改革を推進する中での最重要政策の1つに位置づけられ、既得権益を脅かすゴルバチョフに対してソ連における軍産複合体の代表であるドミトリー・ヤゾフ国防相オレグ・バクラーノフ国防会議第一副議長、アレクサンドル・チジャコフ国営企業・産業施設連合会会長らがソ連崩壊をきっかけとなるソ連8月クーデターを起こすきっかけとなった。

ソ連及びロシアの発表資料によれば、1995(平成7)年までに推進が決定している民需への転換は、600以上の軍産複合体で始まっており、カラーテレビ、ビデオ、カメラ、医療機器などの民生用消費財の生産が1.8倍に拡大する予定だという。また、西側先進国も、1991(平成3)年のロンドンサミット以来、経済支援の必要条件として軍民転換を挙げているため、ロシアとしても積極的に進めたいところである。しかし、依然隠然たる影響力を持つ軍部の抵抗は根強い。また、従来、戦車や弾頭をつくっていた生産ラインを、一朝一夕に乳母車やエアコンなどのラインに転換することには、技術面やコスト面で困難を伴う。日本からも、通商産業省(現在の経済産業省)が調査団を数回派遣しているが見通しは厳しい。

一方、アメリカにおける軍民転換は、巨額な貿易赤字を解消するための産業政策との絡みで論議されることが多い。1961(昭和36)年にドワイト・アイゼンハワー大統領は、軍事と大産業の相互依存、癒着構造(軍産複合体)を批判する退任演説を行い、この際も「剣を鋤に打ちかえる」の話が用いられた[3]

第二次世界大戦後のアメリカは結局、軍事的優位を保つための技術面への研究開発投資を国が全面的に支援し、それによって得られた研究的成果を、一部民生用に転換する形の経済構造になっていった。この構造は、50年代、60年代までは、民需部門にも好影響を与えていたが、70年代以後は、経済力をつけた日本や旧西ドイツが、これらの技術を民生用に特化した応用研究へと進めたために、家電、自動車など民需を代表する産業部門でアメリカの退潮が目立ち、日米貿易摩擦などを起こす膨大な貿易赤字の遠因にもなった。

1987年にソ連と軍拡競争を行う一方で米ソの緊張緩和も求めていた当時のロナルド・レーガン大統領は国連総会で「剣を鋤に打ちかえる」ことを呼びかけた[4]

軍事技術と民間技術[編集]

歴史的にはその時代の最先端技術を軍事技術がリードした分野も少なくない。古くから存在する暗号技術、19世紀の製鉄化学工業電信などの通信技術、20世紀の航空機ロケットトランジスタに起源をもつ半導体無線通信などは軍事技術と密接に関わっていた。身近なものでも当初、軍用として開発され、その後、民間でも利用されるようになったものが多く存在する。例えば、古いものでは缶詰、近年の代表的なものではインターネットがある。このように、軍事技術が最先端技術をリードし、時代が下った後に民間にも転用されるというサイクルが20世紀後半まで続いていた。また、21世紀に入ってもドローンなどが民生に転用され、軍事技術と民間技術の境界が曖昧なデュアルユース(軍民両用)の問題も起きており[5]、特にアメリカに次ぐ規模で軍事費を投じて軍備増強しつつドローンや家電、自動車など民需産業でも台頭してアメリカに莫大な貿易赤字をもたらした中華人民共和国は「軍民融合」を掲げて米中冷戦米中貿易戦争とも評されるアメリカとの対立を起こした[6][7][8]

脚注[編集]

  1. ^ Wikisource reference  イザヤ書第二章4節. - ウィキソース. "彼はもろもろの国のあいだにさばきを行い、多くの民のために仲裁に立たれる。こうして彼らはそのを打ちかえて、とし、そのを打ちかえて、とし、国は国にむかって、剣をあげず、彼らはもはや戦いのことを学ばない。" 
  2. ^ Swords Into Plowshares, United Nations Cyber School Bus, United Nations, UN.org, 2001, retrieved on: August 4, 2007
  3. ^ McAdams, John. “Eisenhower's Farewell Address to the Nation”. The Kennedy Assassination. 2019年5月28日閲覧。
  4. ^ Ronald Reagan Presidential Library Archives”. UTexas.edu (1987年9月21日). 2019年5月28日閲覧。
  5. ^ 安全保障貿易管理から見るデュアルユース問題”. ニューズウィーク (2017年2月16日). 2019年10月15日閲覧。
  6. ^ 中国、富国強兵へ秘策? 「軍民融合委員会」設立 目指すは米の軍産複合体 軍国主義化の懸念も”. 産経ニュース (2017年2月9日). 2019年10月15日閲覧。
  7. ^ 習近平主導「軍民融合」が示す軍事経済の始まり”. 日経ビジネス (2017年2月9日). 2019年10月15日閲覧。
  8. ^ 中国の「軍民融合」、米国が強める警戒感”. ウォール・ストリート・ジャーナル (2017年2月9日). 2019年10月15日閲覧。

関連項目[編集]