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「ルー (神)」の版間の差分

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'''ルー'''(Lugh, 古期アイルランド語では'''ルグ'''[Lug])は、[[ケルト神話]]の[[ダーナ族]]([[トゥアハ・デ・ダナーン]])の一人。[[太陽]](光)の神。[[知識]]・[[技能]]・[[医術]]・[[魔術]]・[[発明]]など全技能に秀、イルダーナ(Il-Dana)、ドルドナ(Dordona)の別名の所以となっている。
'''ルー'''(Lugh, 古期アイルランド語では'''ルグ'''[Lug])は、[[ケルト神話]]の太陽神(光の神)<ref >『よくわかる英雄と魔物』(PHP 研究所 p.22)など多数。</ref>。アイルランド伝承文学では[[トゥアハ・デ・ダナーン]][[ダーナ神族]])の一人
'''「長腕のルー」'''<ref>『トゥレンの子らの最期』O'Curry, 編訳 Atlantis IV, p.162/3: "Luġ Láṁḟada. loinnḃéimionnaċ "Lugh Lamh-fada [i.e. Lugh of the long arms and furious blows]"</ref>のあだ名で知られる。


工芸・武術・[[詩吟]]・古史・医術・[[魔術]]など全技能に秀で、「'''サウィルダーナハ'''」<ref name=henmi>表記・語釈はさまざまあるが、ここは辺見葉子の研究発表(参考リンク)による</ref>(<small>Samildánach</small><ref>Samildánach 『マグ・トゥレドの戦い』Gray 編訳 CMT §53 (p.38/39)(参考文献参照)</ref><small>「'''百芸に通じた'''」の意</small><ref name=henmi />)や、「'''イルダーナハ'''」<ref>イルダーナの表記は、Squire 著書にある 発音 Ildâna からか</ref>(<small>Ildánach</small>)<ref>O'Curry 編訳p.166/167.さらに脚注155で"The Ioldanach, that is, the Master of many (or all) Arts"と説明</ref>の別名の所以となっている。ドルドナ (<small>Dul-Dauna</small>)は、民話によるその訛り<ref>『よくわかる英雄と魔物』(PHP研究所 p.22)でドルドナを「全知全能の意」とするのは端折り。この Larminie 採集の口承民話(参考文献)について、Squire(参考文献), p.237 では、Dul-dauna は 「盲目頑固 "Blind-Stubborn"」の意味になるが、これは Ioldanach (発音 Ildâna)「全ての知恵の達人("Master of All Knowledge")」の訛りと説明。</ref>。
== 概要 ==
== 概要 ==
医術の神[[ディアン・ケヒト]]の孫であり、[[フォモール族]]の「邪眼の[[バロール]]」の孫。 また、英雄[[クー・フーリン]]の父る。
ルーは医術の神[[ディアン・ケヒト]]の孫であり、[[フォモール族]]の「'''邪眼の[[バロール]]'''」の孫。 父親は'''[[キアン]]'''([[:en:Cian]])で、母親は、エスリウ/[[エスニウ]]([[:en:Ethniu]])。ルーは、英雄[[クー・フーリン]]の父される。

海神[[マナナン・マクリル]]と鍛冶の神[[ゴヴニュ|ゴブニュ]]に育てられ、バロールに殺されそうになるも逃げる事に成功した。

戦いにおいては投槍や投石を巧みに使い、バロールを打ち倒したことで知られ、このことから長い腕を意味するラウファーダ(Lámhfhada)という二つ名を持つようになる。戦闘時には片方の目が頭の中に入り込み、もう片方の目は巨大化する。その巨大化した目で見つめた相手を麻痺させる力がある。


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(バロールには?)戦闘時には片方の目が頭の中に入り込み、もう片方の目は巨大化する)その巨大化した目で見つめた相手を麻痺させる力がある{{Citation needed|date=2012年1月}}

===神話サイクル===
ルーは'''『マグ・トゥレドの戦い』'''では、トゥアハ・デ・ダナーン神族の側に味方して戦い、投石器の石、祖父にあたる[[フォモール族]]の「邪眼の[[バロール]]」を討ち取った<ref>原典ではこの武器は投石器の石(槍ではない): "sling stone" cloch a tabaill (『来寇の書』), "sling stone" liic talma (『マグ・トゥレドの戦い』物語)</ref>。

父親のキアンは、'''トゥレンの子ら'''に殺され、ルーはその賠償として魔法の槍や犬などの数々の財宝を求めた<ref>『来寇の書』や18世紀以降の写本の『トゥレンの子らの最期』物語</ref>。賠償品の槍や治癒の豚皮などは、マグ・トゥレドの戦いでルーが必要とした品々だが<ref>『トゥレンの子らの最期』 O'Curry 訳 p.215 "..the Children of Tuireann had obtained all the things that were wanting to himself(Lugh) against the battle of Magh Tuireadh"(この時点でまだ集め残している焼串と叫びは必要品ではなかった。) </ref>、戦で使用した際の詳述はない。

<!--大工や鍛冶工、戦士や[[竪琴]]、としての才能があり、4頭の牛が引かなければ動かない大岩すらも動かす怪力を持っていた。-->
『マグ・トゥレドの戦い』<ref>参考文献</ref>の物語では、ルーは諸芸の達人'''サウィルダーナハ'''と呼ばれ、自分は大工、鍛冶、強者(つわもの)、竪琴弾き、戦士、詩人で史家([[語り部]])、魔術師、酌杯係、金工師(鋳掛師)のすべてのだと門番に言って、中に入れてもらうエピソードがある。このあと各芸の達者と業比べをするのだが、たとえば八十基の牛枷につないだ牛たちで動かすほどの敷石を[[オグマ]]が投げたのを見事投げかえしたばかりか、そのとき破損した館の破片も投げ返して元通りにした<ref>Gray英訳"Then Ogma threw the flagstone, which required fourscore yoke of oxen to move it,.."原文では"cethri xx"つまり4x20頭</ref>。

===出自===
古写本ではルーのことを'''ルー・マク・エスリン'''(<small>エスリウの子ルー</small>)<ref>『来寇の書』、『クアランゲの牛捕り』</ref>と称す場合が(<small>「長腕のルー」の呼称より</small>)多い。母親'''エスリウ/エスニウ'''については、あまり鮮明としない<ref>[[:en:Ethniu]]参照</ref>。ルーにつて、[[フィルボルグ]]族の王妃の'''[[タルトゥ (神)|タルトゥ]]'''([[:en:Tailtiu]])に養われたという記述がある<ref>『来寇の書』</ref>。</br>

<!--- 海神[[マナナン・マクリル]]と鍛冶の神[[ゴヴニュ|ゴブニュ]]に育てられ、バロールに殺されそうになるも逃げる事に成功した。--->
バロールが隠した育てた娘と、宝の牛の探求に来たキアンが恋愛し、そのときもうけた子である長腕のルーは、海神[[マナナン]]が育てた、あるいは鍛冶師[[ゴヴニュ|ゴブニュ]]の弟子となった、という設定の物語は、中世写本の神話には残っておらず、じつは十九世紀に集められた口承文学を根拠としている。

===バロールの娘とキアンの民話===
グレゴリー夫人版では、バロールのもとから'''[[グラス・ガヴナン]]'''(?)(Glas Gaibhnenn 発音: Glos gov-nan)<ref>Gregory(参考文献)</ref>を奪い返しに行ったキアンと、バロールの娘とのあいだにルーが生まれる。</br>
 この魔法牛グラスの項で詳述したように、グレゴリー女史の再話は、同類の民話の二つのバージョンをたくみに合成して首尾一貫した話を作り上げている。一方の民話(<small>"The Gloss Gavlen", Larminie 民話集(1893)所収</small>)<ref>参考文献</ref>では、'''キアン'''と名乗る一介の騎士?が、城主バラル(Balar Beimann)のもとで働き、ほどなくバラルの娘に生ませた子や宝の牛を奪って逃げる。子供は、海神'''[[マナナン・マクリル|マナナーン・マクリル]]'''に預けて育てられ、'''ドルドナ(Dul Dauna)'''と名づけられる(<small>これは綽名イルダーナハの転化で、長腕のルーをさす、と説明される</small><ref>Squire</ref>)。この子が、ある日浜辺から、艦隊で通り過ぎる祖父バロールにむかって、ポケットからとりだしたダート(投げ矢)を投げつけ、これが命中してバロールは死んだ。</br> 
 もう一篇の民話は、キアンのかわりに'''マク・キニーリー'''という人物が登場するが、やはり宝の牛'''グラス・ガヴレン'''(?)(Glas Gaivlen)にまつわる類似の民話(<small>O'Donovan が採集した口承</small>)<ref>Four Masters, I, p.18-21 参考文献</ref>である。マク・キニーリーは、守護霊の妖精女([[バンシー]])の助けを借り、邪眼の盗賊バロール(Balor)の牙城、トーリー島([[:en:Tory Island]])で、バロールの娘がかくまわれる獄塔に忍び入り、自分の子を孕ませる。マク・キニーリーはバロールに殺されるが、生まれてきた児(≒ルー)は亡き父の兄弟、鍛冶師ガヴィダ(?)(Gavida)に預けられ、その弟子として成熟する。このルーと思しき遺児は、ある日、鍛冶場に現れて槍の製作を注文したバロールから、自分の父親を殺した自慢話を聞かされ、赤熱した鉄棒でバロールの邪眼めがけて突き殺してしまう。

===アルスター伝説===
[[アルスター伝説]]『クアランゲの牛捕り』([[クーリーの牛争い]])では、ルーは英雄[[クーフーリン|クー・フリン]]の超自然的な父親として登場する。</br>
 アルスターの王[[コンホヴォル]]の妹・'''デヒテラ'''は、鳥達に導かれて[[妖精]]の丘に行き、ある夫婦の家で一晩過ごす。デヒテラは、その夫婦のあいだに誕生したばかりの男児と2頭の仔馬を預かり、我が子のように可愛がるが、その甲斐もなく、その子供は病気で死んでしまう。悲しみにくれるデヒテラは、コップの水に入った虫を誤って呑み込んでしまう。(<small>呑み込んだ虫から超自然手に子供が宿るというのは、『[[エーディン]]への求婚』にもみられる共通モチーフである</small>)同じ夜、彼女の夢の中にルーが現れ、妖精の丘に連れ出し一夜の宿を与えたのも、可愛がっていた子供の親も自分であると名乗った。さらに、その子はおまえの胎内に居るゆえ、生まれたらセタンタと名付けるべし、と告げた。ルーは、2頭の仔馬は、セタンタが成人したとき、その戦車を引かせる馬になるから、緒に育てるよと命じた。懐妊したデヒテラは、やがてセタンタ(後のクー・フリン)を産んだ。</br>

 また、クー・フリンが[[スカアハ]]の治める「影の国」へ向かう最中、「不幸の原」(<small>{{lang-ga|[Mag] ndobail}}</small>)の沼地に足を取られ、暗闇の中で苦しんでいた。そこにエオフ・バルヘ(?)(Eochu Bairche)という青年が現れてクー・フリンに車輪を渡し、車輪を転がしてその後を進むよう助言したが、一説によればこの青年はルーの仮の姿であった{{citation needed |date=2012年1月}}。クー・フリンがそのようにすると、車輪からは火花が飛び散り、周囲を明るく照らしながら熱で沼地を乾かしたので、クー・フリンは「不幸の原」を通りきった。<ref>前話『エウィルへの求婚』(とクー・フリンの修練) Meyer 英訳 "Wooing of Emer."</ref>
 クーリーの牛争いでは、孤軍奮闘でコナハト軍を相手に戦うクー・フリンは、[[ロフ]]との対決で[[モリガン]]の妨害で負傷する。このクー・フリンの前にルーが現れ、彼に眠る猶予を与えるため、そののち3日間クー・フリンの身代わりに[[メイヴ]]女王の軍と戦った。<ref>『クアランゲの牛捕り』本編。Kinsella 英訳 p.142-にルーが登場</ref>


== 所持品 ==
== 所持品 ==
ルーの槍は、[[トゥアハ・デ・ダナーン]]の四神器の一つとされるが、アイルランド伝統文学では、これとは異なる槍の由来も伝承される。ルーが賠償として求めた槍は、《来寇の書》ではゲイ・アッサルすなわち[[#アッサルの槍|アッサルの槍]]といい、これは呪文を唱えれば的中させたり召還ができる。だが近世物語では賠償品は[[#アラドヴァル|アラドヴァル]]と称すペルシア王ピサルの槍で、水をたたえた釜に漬けおかないと発火性を発揮する槍。ルーの槍は[[#森一番のイチイ|森一番のイチイ]]とも呼ばれるが、これをさらに[[ルーン (槍)|ルーン]]同一視する古文書のくだりも存在する。

ルーがマグ・トゥレドの戦い(モイトゥラの戦い)でバロールを斃した、あるいはその目を射抜いたのは投石器の石である。これを[[#タスラム|タスラム]]だとするのはわずかな文献に過ぎない。

『トゥレンの息子たちの最期』の物語では、ルーが賠償で求めた品々のほかに、マナナン・マク・リルより賜った、あるいは借り受けた[[フラガラッハ]]や、陸海を駆ける馬アンヴァル、魔法の船舶《静波号》などがある。

=== 槍 ===
'''ルーの槍'''は、日本では'''[[ブリューナク]]'''として知られ、以下のような説明がなされる。ケルトの神々が持つ四つの秘宝のひとつ<ref name=bukiwakaru>『伝説の「武器・防具」がよくわかる本』(PHP文庫2007年)</ref>で、北方のゴリアスの都にあり、ドルイド僧エスラスによって守られていた魔槍。あるいはフィンジアスの都にあったともされる。ダーナ神族([[トゥアハ・デ・ダナーン]])がフォモール族と戦ったモイトゥラの戦いの折、神々の王[[ヌァザ]]とエスラスによってルーに手渡された。投げると稲妻となって敵を死に至らしめる灼熱の槍であるという。またその稲妻を五条の光線状<ref name=bukiwakaru />のように記述する文献もある。

アイルランド文学の原典でみるとルーの槍については以下紹介するような描写がある。それらに神話的解釈を加えて練り直し集約し脚色したものが武器辞典等に掲載されるブリューナク像といえよう。

==== アイルランド文献での槍名(要約) ====
しかしアイルランド古来の文献では、[[#四秘宝のルーの槍|四秘宝のルーの槍]]や[[ヌアダ|ヌアダの剣]]にとくに固有名はない。

==== 四秘宝のルーの槍 ====
四秘宝のひとつに数えられるルーの槍(Ir:''sleg'')は、『トゥアハ・デ・ダナーンの四秘宝』([[:en:The four jewels of the Tuatha Dé Danann|Four Jewels of the Tuatha Dé Danann]])の本文では「ルーやその槍を手にした者に対し戦(の優位を)保ちつづけることこれかなわず」<ref>Vernam Hull 編訳 "The four jewels of the Tuatha Dé Danann," ''Zeitschrift für Celtische Philologie'' 18 (1930) 73-89. "No battle was maintained against the spear of Lug or against him who had it in his hand,"</ref>とされる、不敗の槍である。トゥアハ・デ・ダナーンがアイルランドに来寇した際、それ以前に暮らしていたロフラン([[:en:Lochlann]]≒北欧)の都市ゴリアスからルーの槍を持込んだと、《アイルランド来寇の書》([[:en:Lebor Gabála Érenn]])には記されている。<ref name="LGE">Macalister, R. A. S. 編訳''Lebor Gabála Érenn: The Book Of The Taking Of Ireland'', Part IV (1941) [http://www.archive.org/details/leborgablare04macauoft]。第1第2第3稿本(¶305, ¶315, ¶357)のいずれとも、ルーの槍は"Goirias"から持込まれたとする。</ref>ところが『四秘宝』の詩の部分では「ヌアザの槍は都市フィンジアスから」と持主と武器をあべこべに入れ代えて記すほか、キーティングのアイルランド史になると「ルーの剣はゴリアスから、..ルーの槍はフィンジアスから」などと両方ともルーが持主のように歌っている刊行版<ref>[[:en:Geoffrey Keating]], Comyn ed. tr. [http://books.google.co.jp/books?id=MjBKAAAAYAAJ&pg=PA203 History of Ireland] </ref>がある。

==== アッサルの槍 ====
アッサルの槍、ガエ・アッサル(Ir: Gae Assail)は、ルーが、自分の父親キアンを殺された賠償のひとつとして、トゥリル・ビックレオ(Tuirill Piccreo/Biccreo)から要求した槍。イヴァル([[イチイ|イチイの樹]]の意 Ibar)の呪文で命中し、「再イチイ」を意味する逆呪文アスィヴァル(Athibar)で召還できる。《アイルランド来寇の書》 (¶319および第LXV詩) <ref name="LGE" /> の原文にしたがえば、
<blockquote>
  峰ばった黄金のアッサルの槍、血をこぼしたらさいご誰も生かしてはおかず、イヴァルと唱えて投げればけっして逸れないこと疑うべくもなく、アスィヴァルと呼べばたちどころ戻ってくる<ref> Macalister 編訳、First Redaction (第1稿本) ¶319および Poem LXV "The spear of Assal .. he lives not whose blood it sheddeth: and no cast 'goeth amiss so long as one saith "Yew!" of it; but when one saith "Re-Yew! " it goeth backward forthwith."</ref></blockquote>
という必殺必中の槍である。

==== アーラーワル ====
ペルシアの王ピサルが所有する槍アラドヴァル(?)<small>〔古語発音〕</small>、アーラーワル(?) <small>〔現代発音〕</small><ref>アラドヴァル(?)は、古語発音にもとづくが、中アイルランド語の写本に例がないので、復元的といえる。現代発音は、Areadbhar をそのまま現代風に発音しても、おそらく/アラーワル/となるが、オカリー教授のヒントにもとづきこの槍名を語釈した場合、標準現代語だと ár-ábhar という綴りになる。ár は "slaughter (DIL)"の意、発音{{IPA|lang=ga|[ɑːɾˠ]|[əɾˠ]|[ə]}} [http://en.wiktionary.org/wiki/%C3%A1r#Irish ár](wiktionary)、[http://en.wiktionary.org/wiki/%C3%A1bhar : ábhar] は "matter, gear, equipment (DIL)"の意、 発音 {{IPA|lang=ga|[ˈaːwəɾˠ]}}である。これら単独の発音を合成すると発音/アーラーワル(?)/だが、連声効果で/アーラウル/などに変化することもありうる。</ref>(O'Curry 英訳: Ar-éadbair<ref>O'Curry, Eugene, 編訳 [A]oidhe Chloinne Tuireann (The Fate of the Chirdren of Tuireann), [http://books.google.co.jp/books?id=y5MEAAAAQAAJ&pg=RA1-PA159 ''The Atlantis'' IV, 157-240], London 1863</ref>, O'Duffy 英訳: '''Areadbhair'''<ref>O'Duffy, Richard J., 編訳 [http://www.archive.org/details/fateofchildrenof00sociiala ''Oidhe Chloinne Tuireann. The Fate of the Children of Tuireann'']. Society for the Preservation of the Irish Language, Dublin 1888</ref> 原文 ''Aɼéadḃaiɼ'') は、物語『トゥレンの息子たちの最期』(18世紀以降の写本)に登場する、ルーがトゥレンの息子たちから求める賠償のひとつである。その槍は、穂先を水をはった大釜に漬けこんでおかないと都市が焼けて(溶けて)しまうという。この槍名は「'''屠殺者'''」<ref>幻想武器博物館:[http://gensounobuki.fc2web.com/t2/areadbair.html 屠殺者]</ref>(Slaughterer)<ref>Joyce, P. W. (Patrick Weston), 1827-1914, tr. "The Fate of the Children of Turenn; or, The Quest for the Eric-Fine", ''Old Celtic Romances'' [http://www.archive.org/details/oldcelticromance00joyciala/ (3rd ed., 1907) (reprint 1920)] </ref> とも訳出されている。(<small>* この訳名は、語頭を ár "slaughter(DIL)"であり、語尾は古語 adbar "matter, gear (DIL)" 現代語 [http://en.wiktionary.org/wiki/%C3%A1bhar : ábhar]とした複合語から派生</small>)

==== 森一番のイチイの名木 ====
ルーの槍は、「森でこよなきすばらしき(イチイ)の樹」(en: A [yew] tree, the finest of the wood. Ir: eó bo háille d'ḟíoḋḃaiḃ) <ref>O'Curry, ''Atlantis'' IV, p.204/5</ref> と『トゥレンの息子たちの最期』で詩人に扮したブリアンに歌われる。これとほぼ同じ文言の美称「森の名だたるイチイの樹」(en: the famous yew of the wood. Ir: ibar alai fhidbaidha) が、やはりルーの槍の呼び名として、16世紀のある写本のあるくだり([[トリニティ・カレッジ (ダブリン大学)|TCD]]所蔵1336本(旧H 3. 17本)の723欄)に言及されるのだが、重要なのは、そのくだりではルーの槍が、アルスター戦士の時代の[[ルーン (槍)|ケルトハルのルーン]]と同一であり、別時代(西暦260年頃<ref>O'Curry, Manners II, [http://books.google.com/books?id=sXkBAAAAQAAJ&pg=PA325 325-6] "Ibar Alainn Fidh-bhaidhea",.. "Luin Cheltchair.. in the possesion of King Cormac, about the year 260, but then under the name of the Crimall, that is, the "Blood-spotted."</ref>)のコルマク・マク・アルトを失明させたクリヴァル(Crimall)だという同一と示していることだ<ref>このくだりは、 Hennessy, Edmund, 編訳''[[Mesca Ulad]]''の序文 p.xivで紹介されているいがいはきちんと編訳されていない。</ref>。

==== ルイン ====
アラドヴァルと称すルーの槍と、アルスター伝説の勇者ケルトハルやドゥフタハが用いる[[ルーン (槍)|ルイン、ルーン(Luin)]]と呼ばれる槍は共通した性質を持っている。また、[[#森一番のイチイの名木]]と名づくルーの槍とルインはそもそも同じ槍だったという伝承があることは上述した。

==== 5本に分かれた槍 ====
ルーは、疲れ果てたクーフーリンに代行して戦うために『クアランゲの牛捕り』 に現れるが、そのときに五尖槍を携えている。黄色い巻き毛のルーは、次のようないでたちだった:
<blockquote>
その者は緑のマントを身に纏い、マントには白銀のブローチが胸にし、その白肌じかに純金で赤刺繍した王風の膝まで届く絹チュニクを着ていた。白黄銅の硬い丸鋲突起がある黒盾を持ち、五尖槍と叉分かれの投槍<ref>foga fogablaigi = "foga. A small spear, a javelin, in heroic lit. distinguished from gae and sleg, and generally forming part of a warrior's equipment" + "fogablaigi. pronged" ([http://www.dil.ie eDIL])</ref>を手にしていた。
<br><small>He has a green mantle wrapped about him and a brooch of white silver in the mantle over his breast. Next to his white skin he wears a tunic of royal satin with red-gold insertion reaching to his knees. He carries a black shield with a hard boss of white-bronze. In his hand a five-pointed spear and next to it a forked javelin. </small><br><ref>Cecile O'Rahilly tr.,
''Táin Bó Cúalnge Recension 1'' (1976), line 2072-, LU, [http://www.ucc.ie/celt/published/T301012/index.html English] (p.183), Irish [http://www.ucc.ie/celt/published/G301012/index.html Irish] (p.64) Kinsella tr., Táin (1969)p.142 (第1稿本)</ref>
</blockquote>

この五尖槍(en: five-pointed spear; ir: Sleg cóicrind)は、特にルーだけでなく、伝説群の垣根をこえて何人もの英雄が普通の武器と所持している。尖端こそ5本に分かれているが、これはもっとも普通に槍をさす種類の武器である。

==== ルーの持物の自然神学論な解釈 =====
ルーの持つ投擲武器や弾を、「稲妻の武器」(lightning-weapon)として解釈し、神話解説を展開したのは [[:en:T. F. O'Rahilly]] <ref>T. F. O'Rahilly, Early Irish History and Mythology (1946), pp.60-5</ref>が著名な例である。

ルーは天の川を[[トルク (装身具)|トルク]]とし、虹を投石紐(あるいはスタッフスリング用のスタッフ)としたといわれている。
ルーは天の川を[[トルク (装身具)|トルク]]とし、虹を投石紐(あるいはスタッフスリング用のスタッフ)としたといわれている。
投石に使われた弾はタスラム(''Tathlum'')と呼ばれる。
彼の使う槍は[[トゥアハ・デ・ダナーン]]の四神器の一つとされている。


=== スリング石 ===
ほかに、マナナン・マク・リルより賜った、あるいは借り受けたいくつかの道具として、[[フラガラッハ]]、静波号などがある。
マグ・トゥレドの戦い(モイトゥラの戦い)([[:en:Cath Maige Tuired|Battle of Magh Tuired]])でルーが、[[投石器|投石器から放たれた石]](en: sling-stone. ir:cloich tabaill)によって、祖父[[バロール|バラル]]を斃したというのが、《アイルランド来寇の書》の略述<ref> ''op. cit.'' ¶312, ¶312, ¶364 </ref>に書かれる内容であるが、ここではルーの祖父は「強撃のバラル」(en: Balar the Strong-Smiter. Ir: Balar Balc-beimnig)という意味の綽名で呼ばれ、その目が武器だとも、その目を射抜かれたとも書かれてはいない。


後世の『マグ・トゥレドの戦い』の物語(唯一16世紀半ばの写本に現存)になると、ルーは投石器の石(ここでは liic talma<ref>liic(lía)「石」+ tailm「投石器」([http://www.dil.ie eDIL])</ref> § 133 という別の表現)を放って「刺すような目のバロール」(en: Balor of the Piercing Eye. Ir: Bolur Birugderc)<ref>Gray, Elizabeth A. 編訳 Cath Maige Tuired : the second battle of Mag Tuired ([Dublin] : Irish Texts Society [Series 52] 1982.), [http://www.ucc.ie/celt/published/T300010/index.html English] </ref>の邪眼(Evil Eye. Ir: Súil milldagach)を射抜くことになっている。
== 槍 ==
'''ルーの槍'''は、日本では[[ブリューナク]]として知られる。
他の呼び名としては、アラドヴァル(Areadbhar)、ゲイ・アッサル、ゲイ・アサイル(Gae Assal,Assail)がある。


==== タスラム ====
トゥアハ・デ・ダナンが[[アイルランド]]に来寇した際に北部四島のうち一島にある都市フィンジアスよりもたらしたとされる。
この武器(弾)は、これら原作では何の変哲もない石としか書かれていないが、ルーが放った弾がタスラム(tathlum 「セメント(でできた投石器の石弾)」)<ref>táthluib "(slingstone made of) cement" ([http://www.dil.ie eDIL])</ref>だとする一編の詩(オカリー講義集に、英訳のみが5詩節収録)<ref>O'Curry, Eugene Manners and Customs II, 252. この詩を収録した羊皮紙写本は行方が知れないが、元 Mr. W. Monck Mason 所有だったが当時競売されただったと書かれている。</ref>によれば:
<blockquote>
タスラム一個、重く、烈火のごとく、固く、<br>
トゥアハ・デ・ダナーンがたずさえしもの、<br>
これこそバロールの目を破壊せしもの、<br>
昔、大軍の戦の折に。<br><small>
A tathlum, heavy, fiery, firm, <br>
Which the Tuatha Dé Danann had with them, <br>
It was that broke the fierce Balor's eye, <br>
Of old, in the battle of the great armies. <br>
</small>
</blockquote>
に始まり、タスラム弾は、蝦蟇、熊、獅子、蝮、オスムン(Osmuinn)の体幹/長鼻から血を集め、清めたアルモリア海と紅海の砂を使ってベサルの息子ブリオン(Briun son of Bethar)が製造し、ルーに渡され、マグ・トゥレドの戦いで投じられた、と続く。ブリオンという名の神は、ルーがこの決戦で使用する魔法の品々を賠償品として献上せねばならなかったトゥレンの子らのひとりと同名であるが、その父名は《来寇の書》ではトゥリルともデルバエス(Delbaeth)とも伝わることを付記しておきたい。


=== フラガラッハ ===
また別の伝承によれば、トゥレンの息子たちがルーの父キアンを殺したエリック(賠償、贖罪)として、[[ペルシア]]よりルーの元にもたらされた。
ルーはまた、[[フラガラッハ]](フラガラック)という剣を、 [[マナナーン・マックリール|マナナーン・マク・リール]]から借り受けており、『トゥレンの子らの最期』でもトァハ・デ・ダナーン神族の集合においてこの剣を佩いている。
その穂先は高熱を帯びているので、水の入った乾くことのない大釜(樽)につけて冷まさなければならなかった。


=== ルーの馬と船 ===
この槍は、戦の時にイブル(''Ibur'')と叫んで投げれば常に標的に当たり、再びイブルと呼べば、投擲者の元へ帰る。
ルーは'''アンヴァル''' <ref>"絶対に落馬しない白馬アンヴァル"「伝説の武器・防具がよくわかる本」(PHP), p.144</ref>([[:en:Enbarr|Aenbharr]]) という名の海陸かまわず駆けることができる馬を持っていたが、その甲冑武器と同様、海神マナナーンから預かり受けたものだった。トゥレンの子らが、賠償品を探求する旅に出るため、この馬の借用を願い出たが、ルーは、借物を又借りさせることはまかりならぬ、と断った<ref>『トゥレンの子らの最期』O'Curry ed.</ref>。
<ref>Macalister, R. A. Stewart. Lebor Gabála Érenn. Part IV. Irish Texts Society, Dublin, 1941. § VII, First Redaction, ¶ 319.</ref>


しかしその方便は二度は使えず、ルーは、マナナーンの船の貸し出しを求められると拒むことができなかった。この船は狭いが、行き先を言葉で命じれば、そこまで自動的に航行してくれる魔法の船で、'''「静波号」<small>〔ウェイヴ・スウィーパー〕</small>'''<ref>井村君江 『ケルトの神話』 筑摩書房, 1990.3(1983.3)「トゥレン3兄弟の試練の旅」による表記</ref>とも表記される。これは英訳名"Wave-Sweeper"の音写である。
また別の伝承によれば、北方のゴリアスの都でエスラスによって守られていた魔槍。トゥアハ・デ・ダナーンがフォモール族と戦ったモイトゥラの戦いの折、神々の王[[ヌァザ]]とエスラスによってルーに手渡された。投げると稲妻となって敵を死に至らしめる灼熱の槍であるという。またその稲妻を五条の光線状のように記述する文献もある。


<small>[* 原典では船名は Sguaba Tuinne と表記し、編者オカリーの脚注によれば原義は「波の箒(ほうき)」<ref>O'Curry 編訳, p.193, 192n "Scuab-tuinné, that is, the Besom, or Sweeper of the Waves" 語義は辞典(eDIL)でも確認できる。</ref>を意味する。これは現代標準語だと scuab-toinne <ref>「波」の標準綴りは tonn (発音トン)だが所有格は toinne</ref>(発音:スクーブ・トゥイニエ<ref>scuab の発音は [http://www.irishcultureandcustoms.com/3focloir/Grooming.html skoob]と音写表記され、[http://talkirish.com/blogs/wordaday/archive/2011/08/04/irish-word-a-day-scuab-ghruaige-hairbrush.aspx 音声ページ]あり 。「波」を意味する語の所有格 toinne は、[http://uk.answers.yahoo.com/question/index?qid=20101031161157AAzWDw1 |tin-yeh]などと音写表記されるが、ある投稿記事では[http://www.irishgaelictranslator.com/translation/topic62785.html "Deep peace of the running wave to you" で始まる讃歌]のアイルランド訳の発音を求め、その朗読がアイルランド語紹介サイトの[http://talkirish.com/blogs/wordaday/archive/2011/08/04/irish-word-a-day-scuab-ghruaige-hairbrush.aspx 音声ページ] に掲載された。</ref>)になるが、オカリー脚注のように"a"を落として現代語標準語で表記すべきか、原典を反映して「スクーブァ~」あるいは「スクーヴァ~」と表記すべきかは今後の課題である。]</small>
=== ルイン ===

他のアイルランド神話に登場する勇者ケルトハル、およびドゥフタハが用いるルイン、ルーン(Luin)と呼ばれる槍もこの槍とよく似た性質を持っている。
また、《アイルランド来寇の書》によれば、ルーが賠償に求めた二頭の馬は、ガーネ<ref>古音表記だが定訳ではない。近代発音だとGaine ガイネまたは Gainne ガーニア(人名[[グラーニア]]と韻)。</ref>とレー(Gainne & Rea)といい、[[ティレニア海]] のシチリア島の王の持ち物であった。怪我、波、落雷に害されず、エルンワス(女神)[[:en:Ernmas]]の死とも無縁と歌われる<ref>Macalister ed., ¶319 既出)</ref> 。
ルインという名は槍を意味する''Lùin''と言う単語から来ている。


== 資料 ==
== 資料 ==
===脚注===
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<references/>
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===事典など===
* Mackillop, James, ''Dictionary of Celtic Mytholgy'' (1998)

===一次資料===
* 『アイルランド来寇の書』Lebor gabála Érenn, R.A.S. Macalister ed., tr., Book 4, "Part VII: Invasion of the Tuatha De Danann" ¶304-¶377.
* 『マグ・トゥレドの戦い』 Cath Maige Tuired (CMT), Elisabeth Gray ed., tr., (Irish Texts Society 52)
(CELT Corpus [http://www.ucc.ie/celt/published/G300010/ 原文] [http://www.ucc.ie/celt/published/T300010/ 英訳]
* 『トゥレンの子らの最期』[A]oidhe Chloinne Tuireann, Eugene O'Curry 編訳 Atlantis IV に掲載。
* 宝の牛の民話 "Glas Gaivlen" (oral) (仮題), Shane O'Dugan, Tory Island, 1835 より採集された口承民話。John O'Donovan, [http://books.google.com/books?id=8LHSAAAAMAA Four Masters Vol. 1, (1856)] pp. 18-21 (脚注)
* 宝の牛の民話 "The Gloss Gavlen"(oral) John McGinty, Achill Island より採集された口承民話。William Larminie, [http://www.archive.org/details/westirishfolktal00larmuoft West Irish folk-tales and romances (1893)] p.1-9

===二次資料===
* 井村君江 『ケルトの神話』 筑摩書房, 1990.3(1983.3)所収「トゥレン3兄弟の試練の旅」など
* グレゴリー夫人 Lady Gregory, Gods and fighting men: the story of Tuatha de Danann and of the Fianna of Ireland, (London, John Murray 1903)[http://books.google.co.jp/books?id=3uDxKXNg8iUC (1905年版)]
* スクワイヤー Charles Squire, Celtic Myth and Legend: Poetry & Romance (1904), [http://books.google.co.jp/books?id=t3WjqN6yfewC&pg=PA237 p.233-7], etc.


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2012年1月17日 (火) 01:26時点における版

ルー(Lugh, 古期アイルランド語ではルグ[Lug])は、ケルト神話の太陽神(光の神)[1]。アイルランド伝承文学ではトゥアハ・デ・ダナーンダーナ神族)の一人で 「長腕のルー」[2]のあだ名で知られる。

工芸・武術・詩吟・古史・医術・魔術など全技能に秀で、「サウィルダーナハ[3](Samildánach[4]百芸に通じた」の意[3])や、「イルダーナハ[5]Ildánach[6]の別名の所以となっている。ドルドナ (Dul-Dauna)は、民話によるその訛り[7]

概要

ルーは医術の神ディアン・ケヒトの孫であり、フォモール族の「邪眼のバロール」の孫。 父親はキアンen:Cian)で、母親は、エスリウ/エスニウ(en:Ethniu)。ルーは、英雄クー・フーリンの父ともされる。

 
 
 
ディアン・ケヒト
 
 
 
バロール
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
キアン
 
 
 
エスリン(エスリウ/エスニウ)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ルー
 
 
 
 
デヒテラ(Deichtire/en:Deichtine
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
クー・フーリン
 
 
 
 

(バロールには?)戦闘時には片方の目が頭の中に入り込み、もう片方の目は巨大化する)その巨大化した目で見つめた相手を麻痺させる力がある[要出典]

神話サイクル

ルーは『マグ・トゥレドの戦い』では、トゥアハ・デ・ダナーン神族の側に味方して戦い、投石器の石、祖父にあたるフォモール族の「邪眼のバロール」を討ち取った[8]

父親のキアンは、トゥレンの子らに殺され、ルーはその賠償として魔法の槍や犬などの数々の財宝を求めた[9]。賠償品の槍や治癒の豚皮などは、マグ・トゥレドの戦いでルーが必要とした品々だが[10]、戦で使用した際の詳述はない。

『マグ・トゥレドの戦い』[11]の物語では、ルーは諸芸の達人サウィルダーナハと呼ばれ、自分は大工、鍛冶、強者(つわもの)、竪琴弾き、戦士、詩人で史家(語り部)、魔術師、酌杯係、金工師(鋳掛師)のすべてのだと門番に言って、中に入れてもらうエピソードがある。このあと各芸の達者と業比べをするのだが、たとえば八十基の牛枷につないだ牛たちで動かすほどの敷石をオグマが投げたのを見事投げかえしたばかりか、そのとき破損した館の破片も投げ返して元通りにした[12]

出自

古写本ではルーのことをルー・マク・エスリンエスリウの子ルー[13]と称す場合が(「長腕のルー」の呼称より)多い。母親エスリウ/エスニウについては、あまり鮮明としない[14]。ルーにつて、フィルボルグ族の王妃のタルトゥen:Tailtiu)に養われたという記述がある[15]

バロールが隠した育てた娘と、宝の牛の探求に来たキアンが恋愛し、そのときもうけた子である長腕のルーは、海神マナナンが育てた、あるいは鍛冶師ゴブニュの弟子となった、という設定の物語は、中世写本の神話には残っておらず、じつは十九世紀に集められた口承文学を根拠としている。

バロールの娘とキアンの民話

グレゴリー夫人版では、バロールのもとからグラス・ガヴナン(?)(Glas Gaibhnenn 発音: Glos gov-nan)[16]を奪い返しに行ったキアンと、バロールの娘とのあいだにルーが生まれる。
 この魔法牛グラスの項で詳述したように、グレゴリー女史の再話は、同類の民話の二つのバージョンをたくみに合成して首尾一貫した話を作り上げている。一方の民話("The Gloss Gavlen", Larminie 民話集(1893)所収)[17]では、キアンと名乗る一介の騎士?が、城主バラル(Balar Beimann)のもとで働き、ほどなくバラルの娘に生ませた子や宝の牛を奪って逃げる。子供は、海神マナナーン・マクリルに預けて育てられ、ドルドナ(Dul Dauna)と名づけられる(これは綽名イルダーナハの転化で、長腕のルーをさす、と説明される[18])。この子が、ある日浜辺から、艦隊で通り過ぎる祖父バロールにむかって、ポケットからとりだしたダート(投げ矢)を投げつけ、これが命中してバロールは死んだ。
   もう一篇の民話は、キアンのかわりにマク・キニーリーという人物が登場するが、やはり宝の牛グラス・ガヴレン(?)(Glas Gaivlen)にまつわる類似の民話(O'Donovan が採集した口承)[19]である。マク・キニーリーは、守護霊の妖精女(バンシー)の助けを借り、邪眼の盗賊バロール(Balor)の牙城、トーリー島(en:Tory Island)で、バロールの娘がかくまわれる獄塔に忍び入り、自分の子を孕ませる。マク・キニーリーはバロールに殺されるが、生まれてきた児(≒ルー)は亡き父の兄弟、鍛冶師ガヴィダ(?)(Gavida)に預けられ、その弟子として成熟する。このルーと思しき遺児は、ある日、鍛冶場に現れて槍の製作を注文したバロールから、自分の父親を殺した自慢話を聞かされ、赤熱した鉄棒でバロールの邪眼めがけて突き殺してしまう。

アルスター伝説

アルスター伝説『クアランゲの牛捕り』(クーリーの牛争い)では、ルーは英雄クー・フリンの超自然的な父親として登場する。
 アルスターの王コンホヴォルの妹・デヒテラは、鳥達に導かれて妖精の丘に行き、ある夫婦の家で一晩過ごす。デヒテラは、その夫婦のあいだに誕生したばかりの男児と2頭の仔馬を預かり、我が子のように可愛がるが、その甲斐もなく、その子供は病気で死んでしまう。悲しみにくれるデヒテラは、コップの水に入った虫を誤って呑み込んでしまう。(呑み込んだ虫から超自然手に子供が宿るというのは、『エーディンへの求婚』にもみられる共通モチーフである)同じ夜、彼女の夢の中にルーが現れ、妖精の丘に連れ出し一夜の宿を与えたのも、可愛がっていた子供の親も自分であると名乗った。さらに、その子はおまえの胎内に居るゆえ、生まれたらセタンタと名付けるべし、と告げた。ルーは、2頭の仔馬は、セタンタが成人したとき、その戦車を引かせる馬になるから、緒に育てるよと命じた。懐妊したデヒテラは、やがてセタンタ(後のクー・フリン)を産んだ。

 また、クー・フリンがスカアハの治める「影の国」へ向かう最中、「不幸の原」(アイルランド語: [Mag] ndobail)の沼地に足を取られ、暗闇の中で苦しんでいた。そこにエオフ・バルヘ(?)(Eochu Bairche)という青年が現れてクー・フリンに車輪を渡し、車輪を転がしてその後を進むよう助言したが、一説によればこの青年はルーの仮の姿であった[要出典]。クー・フリンがそのようにすると、車輪からは火花が飛び散り、周囲を明るく照らしながら熱で沼地を乾かしたので、クー・フリンは「不幸の原」を通りきった。[20]  クーリーの牛争いでは、孤軍奮闘でコナハト軍を相手に戦うクー・フリンは、ロフとの対決でモリガンの妨害で負傷する。このクー・フリンの前にルーが現れ、彼に眠る猶予を与えるため、そののち3日間クー・フリンの身代わりにメイヴ女王の軍と戦った。[21]

所持品

ルーの槍は、トゥアハ・デ・ダナーンの四神器の一つとされるが、アイルランド伝統文学では、これとは異なる槍の由来も伝承される。ルーが賠償として求めた槍は、《来寇の書》ではゲイ・アッサルすなわちアッサルの槍といい、これは呪文を唱えれば的中させたり召還ができる。だが近世物語では賠償品はアラドヴァルと称すペルシア王ピサルの槍で、水をたたえた釜に漬けおかないと発火性を発揮する槍。ルーの槍は森一番のイチイとも呼ばれるが、これをさらにルーン同一視する古文書のくだりも存在する。

ルーがマグ・トゥレドの戦い(モイトゥラの戦い)でバロールを斃した、あるいはその目を射抜いたのは投石器の石である。これをタスラムだとするのはわずかな文献に過ぎない。

『トゥレンの息子たちの最期』の物語では、ルーが賠償で求めた品々のほかに、マナナン・マク・リルより賜った、あるいは借り受けたフラガラッハや、陸海を駆ける馬アンヴァル、魔法の船舶《静波号》などがある。

ルーの槍は、日本ではブリューナクとして知られ、以下のような説明がなされる。ケルトの神々が持つ四つの秘宝のひとつ[22]で、北方のゴリアスの都にあり、ドルイド僧エスラスによって守られていた魔槍。あるいはフィンジアスの都にあったともされる。ダーナ神族(トゥアハ・デ・ダナーン)がフォモール族と戦ったモイトゥラの戦いの折、神々の王ヌァザとエスラスによってルーに手渡された。投げると稲妻となって敵を死に至らしめる灼熱の槍であるという。またその稲妻を五条の光線状[22]のように記述する文献もある。

アイルランド文学の原典でみるとルーの槍については以下紹介するような描写がある。それらに神話的解釈を加えて練り直し集約し脚色したものが武器辞典等に掲載されるブリューナク像といえよう。

アイルランド文献での槍名(要約)

しかしアイルランド古来の文献では、四秘宝のルーの槍ヌアダの剣にとくに固有名はない。

四秘宝のルーの槍

四秘宝のひとつに数えられるルーの槍(Ir:sleg)は、『トゥアハ・デ・ダナーンの四秘宝』(Four Jewels of the Tuatha Dé Danann)の本文では「ルーやその槍を手にした者に対し戦(の優位を)保ちつづけることこれかなわず」[23]とされる、不敗の槍である。トゥアハ・デ・ダナーンがアイルランドに来寇した際、それ以前に暮らしていたロフラン(en:Lochlann≒北欧)の都市ゴリアスからルーの槍を持込んだと、《アイルランド来寇の書》(en:Lebor Gabála Érenn)には記されている。[24]ところが『四秘宝』の詩の部分では「ヌアザの槍は都市フィンジアスから」と持主と武器をあべこべに入れ代えて記すほか、キーティングのアイルランド史になると「ルーの剣はゴリアスから、..ルーの槍はフィンジアスから」などと両方ともルーが持主のように歌っている刊行版[25]がある。

アッサルの槍

アッサルの槍、ガエ・アッサル(Ir: Gae Assail)は、ルーが、自分の父親キアンを殺された賠償のひとつとして、トゥリル・ビックレオ(Tuirill Piccreo/Biccreo)から要求した槍。イヴァル(イチイの樹の意 Ibar)の呪文で命中し、「再イチイ」を意味する逆呪文アスィヴァル(Athibar)で召還できる。《アイルランド来寇の書》 (¶319および第LXV詩) [24] の原文にしたがえば、

  峰ばった黄金のアッサルの槍、血をこぼしたらさいご誰も生かしてはおかず、イヴァルと唱えて投げればけっして逸れないこと疑うべくもなく、アスィヴァルと呼べばたちどころ戻ってくる[26]

という必殺必中の槍である。

アーラーワル

ペルシアの王ピサルが所有する槍アラドヴァル(?)〔古語発音〕、アーラーワル(?) 〔現代発音〕[27](O'Curry 英訳: Ar-éadbair[28], O'Duffy 英訳: Areadbhair[29] 原文 Aɼéadḃaiɼ) は、物語『トゥレンの息子たちの最期』(18世紀以降の写本)に登場する、ルーがトゥレンの息子たちから求める賠償のひとつである。その槍は、穂先を水をはった大釜に漬けこんでおかないと都市が焼けて(溶けて)しまうという。この槍名は「屠殺者[30](Slaughterer)[31] とも訳出されている。(* この訳名は、語頭を ár "slaughter(DIL)"であり、語尾は古語 adbar "matter, gear (DIL)" 現代語 : ábharとした複合語から派生)

森一番のイチイの名木

ルーの槍は、「森でこよなきすばらしき(イチイ)の樹」(en: A [yew] tree, the finest of the wood. Ir: eó bo háille d'ḟíoḋḃaiḃ) [32] と『トゥレンの息子たちの最期』で詩人に扮したブリアンに歌われる。これとほぼ同じ文言の美称「森の名だたるイチイの樹」(en: the famous yew of the wood. Ir: ibar alai fhidbaidha) が、やはりルーの槍の呼び名として、16世紀のある写本のあるくだり(TCD所蔵1336本(旧H 3. 17本)の723欄)に言及されるのだが、重要なのは、そのくだりではルーの槍が、アルスター戦士の時代のケルトハルのルーンと同一であり、別時代(西暦260年頃[33])のコルマク・マク・アルトを失明させたクリヴァル(Crimall)だという同一と示していることだ[34]

ルイン

アラドヴァルと称すルーの槍と、アルスター伝説の勇者ケルトハルやドゥフタハが用いるルイン、ルーン(Luin)と呼ばれる槍は共通した性質を持っている。また、#森一番のイチイの名木と名づくルーの槍とルインはそもそも同じ槍だったという伝承があることは上述した。

5本に分かれた槍

ルーは、疲れ果てたクーフーリンに代行して戦うために『クアランゲの牛捕り』 に現れるが、そのときに五尖槍を携えている。黄色い巻き毛のルーは、次のようないでたちだった:

その者は緑のマントを身に纏い、マントには白銀のブローチが胸にし、その白肌じかに純金で赤刺繍した王風の膝まで届く絹チュニクを着ていた。白黄銅の硬い丸鋲突起がある黒盾を持ち、五尖槍と叉分かれの投槍[35]を手にしていた。
He has a green mantle wrapped about him and a brooch of white silver in the mantle over his breast. Next to his white skin he wears a tunic of royal satin with red-gold insertion reaching to his knees. He carries a black shield with a hard boss of white-bronze. In his hand a five-pointed spear and next to it a forked javelin.
[36]

この五尖槍(en: five-pointed spear; ir: Sleg cóicrind)は、特にルーだけでなく、伝説群の垣根をこえて何人もの英雄が普通の武器と所持している。尖端こそ5本に分かれているが、これはもっとも普通に槍をさす種類の武器である。

ルーの持物の自然神学論な解釈 =

ルーの持つ投擲武器や弾を、「稲妻の武器」(lightning-weapon)として解釈し、神話解説を展開したのは en:T. F. O'Rahilly [37]が著名な例である。

ルーは天の川をトルクとし、虹を投石紐(あるいはスタッフスリング用のスタッフ)としたといわれている。

スリング石

マグ・トゥレドの戦い(モイトゥラの戦い)(Battle of Magh Tuired)でルーが、投石器から放たれた石(en: sling-stone. ir:cloich tabaill)によって、祖父バラルを斃したというのが、《アイルランド来寇の書》の略述[38]に書かれる内容であるが、ここではルーの祖父は「強撃のバラル」(en: Balar the Strong-Smiter. Ir: Balar Balc-beimnig)という意味の綽名で呼ばれ、その目が武器だとも、その目を射抜かれたとも書かれてはいない。

後世の『マグ・トゥレドの戦い』の物語(唯一16世紀半ばの写本に現存)になると、ルーは投石器の石(ここでは liic talma[39] § 133 という別の表現)を放って「刺すような目のバロール」(en: Balor of the Piercing Eye. Ir: Bolur Birugderc)[40]の邪眼(Evil Eye. Ir: Súil milldagach)を射抜くことになっている。

タスラム

この武器(弾)は、これら原作では何の変哲もない石としか書かれていないが、ルーが放った弾がタスラム(tathlum 「セメント(でできた投石器の石弾)」)[41]だとする一編の詩(オカリー講義集に、英訳のみが5詩節収録)[42]によれば:

タスラム一個、重く、烈火のごとく、固く、
トゥアハ・デ・ダナーンがたずさえしもの、
これこそバロールの目を破壊せしもの、
昔、大軍の戦の折に。
A tathlum, heavy, fiery, firm,
Which the Tuatha Dé Danann had with them,
It was that broke the fierce Balor's eye,
Of old, in the battle of the great armies.

に始まり、タスラム弾は、蝦蟇、熊、獅子、蝮、オスムン(Osmuinn)の体幹/長鼻から血を集め、清めたアルモリア海と紅海の砂を使ってベサルの息子ブリオン(Briun son of Bethar)が製造し、ルーに渡され、マグ・トゥレドの戦いで投じられた、と続く。ブリオンという名の神は、ルーがこの決戦で使用する魔法の品々を賠償品として献上せねばならなかったトゥレンの子らのひとりと同名であるが、その父名は《来寇の書》ではトゥリルともデルバエス(Delbaeth)とも伝わることを付記しておきたい。

フラガラッハ

ルーはまた、フラガラッハ(フラガラック)という剣を、 マナナーン・マク・リールから借り受けており、『トゥレンの子らの最期』でもトァハ・デ・ダナーン神族の集合においてこの剣を佩いている。

ルーの馬と船

ルーはアンヴァル [43](Aenbharr) という名の海陸かまわず駆けることができる馬を持っていたが、その甲冑武器と同様、海神マナナーンから預かり受けたものだった。トゥレンの子らが、賠償品を探求する旅に出るため、この馬の借用を願い出たが、ルーは、借物を又借りさせることはまかりならぬ、と断った[44]

しかしその方便は二度は使えず、ルーは、マナナーンの船の貸し出しを求められると拒むことができなかった。この船は狭いが、行き先を言葉で命じれば、そこまで自動的に航行してくれる魔法の船で、「静波号」〔ウェイヴ・スウィーパー〕[45]とも表記される。これは英訳名"Wave-Sweeper"の音写である。

[* 原典では船名は Sguaba Tuinne と表記し、編者オカリーの脚注によれば原義は「波の箒(ほうき)」[46]を意味する。これは現代標準語だと scuab-toinne [47](発音:スクーブ・トゥイニエ[48])になるが、オカリー脚注のように"a"を落として現代語標準語で表記すべきか、原典を反映して「スクーブァ~」あるいは「スクーヴァ~」と表記すべきかは今後の課題である。]

また、《アイルランド来寇の書》によれば、ルーが賠償に求めた二頭の馬は、ガーネ[49]とレー(Gainne & Rea)といい、ティレニア海 のシチリア島の王の持ち物であった。怪我、波、落雷に害されず、エルンワス(女神)en:Ernmasの死とも無縁と歌われる[50]

資料

脚注

  1. ^ 『よくわかる英雄と魔物』(PHP 研究所 p.22)など多数。
  2. ^ 『トゥレンの子らの最期』O'Curry, 編訳 Atlantis IV, p.162/3: "Luġ Láṁḟada. loinnḃéimionnaċ "Lugh Lamh-fada [i.e. Lugh of the long arms and furious blows]"
  3. ^ a b 表記・語釈はさまざまあるが、ここは辺見葉子の研究発表(参考リンク)による
  4. ^ Samildánach 『マグ・トゥレドの戦い』Gray 編訳 CMT §53 (p.38/39)(参考文献参照)
  5. ^ イルダーナの表記は、Squire 著書にある 発音 Ildâna からか
  6. ^ O'Curry 編訳p.166/167.さらに脚注155で"The Ioldanach, that is, the Master of many (or all) Arts"と説明
  7. ^ 『よくわかる英雄と魔物』(PHP研究所 p.22)でドルドナを「全知全能の意」とするのは端折り。この Larminie 採集の口承民話(参考文献)について、Squire(参考文献), p.237 では、Dul-dauna は 「盲目頑固 "Blind-Stubborn"」の意味になるが、これは Ioldanach (発音 Ildâna)「全ての知恵の達人("Master of All Knowledge")」の訛りと説明。
  8. ^ 原典ではこの武器は投石器の石(槍ではない): "sling stone" cloch a tabaill (『来寇の書』), "sling stone" liic talma (『マグ・トゥレドの戦い』物語)
  9. ^ 『来寇の書』や18世紀以降の写本の『トゥレンの子らの最期』物語
  10. ^ 『トゥレンの子らの最期』 O'Curry 訳 p.215 "..the Children of Tuireann had obtained all the things that were wanting to himself(Lugh) against the battle of Magh Tuireadh"(この時点でまだ集め残している焼串と叫びは必要品ではなかった。) 
  11. ^ 参考文献
  12. ^ Gray英訳"Then Ogma threw the flagstone, which required fourscore yoke of oxen to move it,.."原文では"cethri xx"つまり4x20頭
  13. ^ 『来寇の書』、『クアランゲの牛捕り』
  14. ^ en:Ethniu参照
  15. ^ 『来寇の書』
  16. ^ Gregory(参考文献)
  17. ^ 参考文献
  18. ^ Squire
  19. ^ Four Masters, I, p.18-21 参考文献
  20. ^ 前話『エウィルへの求婚』(とクー・フリンの修練) Meyer 英訳 "Wooing of Emer."
  21. ^ 『クアランゲの牛捕り』本編。Kinsella 英訳 p.142-にルーが登場
  22. ^ a b 『伝説の「武器・防具」がよくわかる本』(PHP文庫2007年)
  23. ^ Vernam Hull 編訳 "The four jewels of the Tuatha Dé Danann," Zeitschrift für Celtische Philologie 18 (1930) 73-89. "No battle was maintained against the spear of Lug or against him who had it in his hand,"
  24. ^ a b Macalister, R. A. S. 編訳Lebor Gabála Érenn: The Book Of The Taking Of Ireland, Part IV (1941) [1]。第1第2第3稿本(¶305, ¶315, ¶357)のいずれとも、ルーの槍は"Goirias"から持込まれたとする。
  25. ^ en:Geoffrey Keating, Comyn ed. tr. History of Ireland
  26. ^ Macalister 編訳、First Redaction (第1稿本) ¶319および Poem LXV "The spear of Assal .. he lives not whose blood it sheddeth: and no cast 'goeth amiss so long as one saith "Yew!" of it; but when one saith "Re-Yew! " it goeth backward forthwith."
  27. ^ アラドヴァル(?)は、古語発音にもとづくが、中アイルランド語の写本に例がないので、復元的といえる。現代発音は、Areadbhar をそのまま現代風に発音しても、おそらく/アラーワル/となるが、オカリー教授のヒントにもとづきこの槍名を語釈した場合、標準現代語だと ár-ábhar という綴りになる。ár は "slaughter (DIL)"の意、発音[ɑːɾˠ] ár(wiktionary)、: ábhar は "matter, gear, equipment (DIL)"の意、 発音 [ˈaːwəɾˠ]である。これら単独の発音を合成すると発音/アーラーワル(?)/だが、連声効果で/アーラウル/などに変化することもありうる。
  28. ^ O'Curry, Eugene, 編訳 [A]oidhe Chloinne Tuireann (The Fate of the Chirdren of Tuireann), The Atlantis IV, 157-240, London 1863
  29. ^ O'Duffy, Richard J., 編訳 Oidhe Chloinne Tuireann. The Fate of the Children of Tuireann. Society for the Preservation of the Irish Language, Dublin 1888
  30. ^ 幻想武器博物館:屠殺者
  31. ^ Joyce, P. W. (Patrick Weston), 1827-1914, tr. "The Fate of the Children of Turenn; or, The Quest for the Eric-Fine", Old Celtic Romances (3rd ed., 1907) (reprint 1920)
  32. ^ O'Curry, Atlantis IV, p.204/5
  33. ^ O'Curry, Manners II, 325-6 "Ibar Alainn Fidh-bhaidhea",.. "Luin Cheltchair.. in the possesion of King Cormac, about the year 260, but then under the name of the Crimall, that is, the "Blood-spotted."
  34. ^ このくだりは、 Hennessy, Edmund, 編訳Mesca Uladの序文 p.xivで紹介されているいがいはきちんと編訳されていない。
  35. ^ foga fogablaigi = "foga. A small spear, a javelin, in heroic lit. distinguished from gae and sleg, and generally forming part of a warrior's equipment" + "fogablaigi. pronged" (eDIL)
  36. ^ Cecile O'Rahilly tr., Táin Bó Cúalnge Recension 1 (1976), line 2072-, LU, English (p.183), Irish Irish (p.64) Kinsella tr., Táin (1969)p.142 (第1稿本)
  37. ^ T. F. O'Rahilly, Early Irish History and Mythology (1946), pp.60-5
  38. ^ op. cit. ¶312, ¶312, ¶364
  39. ^ liic(lía)「石」+ tailm「投石器」(eDIL)
  40. ^ Gray, Elizabeth A. 編訳 Cath Maige Tuired : the second battle of Mag Tuired ([Dublin] : Irish Texts Society [Series 52] 1982.), English
  41. ^ táthluib "(slingstone made of) cement" (eDIL)
  42. ^ O'Curry, Eugene Manners and Customs II, 252. この詩を収録した羊皮紙写本は行方が知れないが、元 Mr. W. Monck Mason 所有だったが当時競売されただったと書かれている。
  43. ^ "絶対に落馬しない白馬アンヴァル"「伝説の武器・防具がよくわかる本」(PHP), p.144
  44. ^ 『トゥレンの子らの最期』O'Curry ed.
  45. ^ 井村君江 『ケルトの神話』 筑摩書房, 1990.3(1983.3)「トゥレン3兄弟の試練の旅」による表記
  46. ^ O'Curry 編訳, p.193, 192n "Scuab-tuinné, that is, the Besom, or Sweeper of the Waves" 語義は辞典(eDIL)でも確認できる。
  47. ^ 「波」の標準綴りは tonn (発音トン)だが所有格は toinne
  48. ^ scuab の発音は skoobと音写表記され、音声ページあり 。「波」を意味する語の所有格 toinne は、|tin-yehなどと音写表記されるが、ある投稿記事では"Deep peace of the running wave to you" で始まる讃歌のアイルランド訳の発音を求め、その朗読がアイルランド語紹介サイトの音声ページ に掲載された。
  49. ^ 古音表記だが定訳ではない。近代発音だとGaine ガイネまたは Gainne ガーニア(人名グラーニアと韻)。
  50. ^ Macalister ed., ¶319 既出)

事典など

  • Mackillop, James, Dictionary of Celtic Mytholgy (1998)

一次資料

  • 『アイルランド来寇の書』Lebor gabála Érenn, R.A.S. Macalister ed., tr., Book 4, "Part VII: Invasion of the Tuatha De Danann" ¶304-¶377.
  • 『マグ・トゥレドの戦い』 Cath Maige Tuired (CMT), Elisabeth Gray ed., tr., (Irish Texts Society 52)

(CELT Corpus 原文 英訳

  • 『トゥレンの子らの最期』[A]oidhe Chloinne Tuireann, Eugene O'Curry 編訳 Atlantis IV に掲載。
  • 宝の牛の民話 "Glas Gaivlen" (oral) (仮題), Shane O'Dugan, Tory Island, 1835 より採集された口承民話。John O'Donovan, Four Masters Vol. 1, (1856) pp. 18-21 (脚注)
  • 宝の牛の民話 "The Gloss Gavlen"(oral) John McGinty, Achill Island より採集された口承民話。William Larminie, West Irish folk-tales and romances (1893) p.1-9

二次資料

  • 井村君江 『ケルトの神話』 筑摩書房, 1990.3(1983.3)所収「トゥレン3兄弟の試練の旅」など
  • グレゴリー夫人 Lady Gregory, Gods and fighting men: the story of Tuatha de Danann and of the Fianna of Ireland, (London, John Murray 1903)(1905年版)
  • スクワイヤー Charles Squire, Celtic Myth and Legend: Poetry & Romance (1904), p.233-7, etc.