波束

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分散を伴わない波束
分散を伴う波束

波束(はそく、: wave packet, wave train)は、複数のが一体となって同時に運動するときの波動の短い"塊"である。

概要[編集]

波束は、位相および振幅を持った異なる波数正弦波成分の無限の集合へと分解でき、逆にその成分から合成もできる。これらの波束は、空間の小さな領域に局在した場合には干渉を起こし、空間中に拡散した場合には干渉を打ち消す[1]。その波動方程式の発展に依存して、伝播している間の波束の包絡は一定のままである(分散しない)か、変化する(分散する)かに別れる。量子力学では、波束が特別な意義を持つ。それは、ある特定の状態の一つまたは複数の粒子がある与えられた位置と運動量で測定される確率を記述する"確率波"として解釈される。このように、波束は波動関数と類似している。

量子力学のシュレーディンガー方程式を適用することによって、系の時間発展を演繹することができる。これは、古典力学におけるハミルトニアンによる形式的手法と類似のプロセスである。このとき、その波束はシュレーディンガー方程式の数学的解である[2]。波束解の二乗の下にある領域は、ある領域に粒子を発見できる確率密度関数の値として解釈される。シュレーディンガー方程式の解の分散的な特性は、シュレーディンガーの元来の解釈を破棄しボルンの規則 (Born ruleを受け入れるのに重要な役割を果たす。

波の座標表現(直交座標系など)において、波の位置は波束の位置によって与えられる。さらに、波束が空間的により狭く局在して、それゆえ波束の位置の範囲をより確定的になると、波の運動量の広がりは大きくなる。この位置と運動量の広がりの間のトレードオフはハイゼンベルク不確定性原理の一例である。

波束の基本動作[編集]

非分散型[編集]

実空間でのガウシアンによる確率密度は周期的にトンネル効果によってポテンシャル障壁の中心に存在する。

分散を伴わない伝播の例として、古典力学での波動方程式

の解が挙げられる。ここで c は波の伝播速度である。

この波動方程式は平面波 eiωt を用いて

という解を持つ。ここで角周波数 ω は平面波が波動方程式の解となるように

と定義した波数 k を用いて

と表され、この ωk の関係を分散関係と呼ぶ。

簡便化のために一次元での波の伝播を考えると、一般解は ω = kc を取るように

となる。右辺の第一項は xct の時刻において波が正の方向にのみ伝播する状態を表し、第二項は x + ct の時刻において波が負の方向にのみ伝播する状態を表す。

波束は波が局所的に撹乱された結果、多くの異なる波形重ね合わせによってできるものである。波束が極端に局在化された場合、干渉により強め合う部分と弱め合う部分ができるため、より多くの周波数が必要となる。一次元での基本解より、一般的な波束は

と表される。

平面波の場合、u(x, t) = F(xct) の間 ω(k) = kc となるように右方向へ移動し、u(x, t) = F(x + ct) の間 ω(k) = −kc となるように右方向へ移動する。

係数 1/2フーリエ変換に由来する。振幅 A(k) には平面波の解の非線型な重ね合わせによる係数が含まれており、これらの係数は t = 0 の時の関数 u(x, t) を逆フーリエ変換することによって導かれ

と表される。

例えば

を取れば

と言う関数が得られ、最終的には

となる。虚部は余弦波に対して垂直な方向に偏在化された正弦波を表す。最初に示したアニメーションは複素数表示での分散を伴わない波束の伝播である。

分散型[編集]

実空間でのガウシアンによる確率密度の一次元の移動は不確かだが、一定の運動量を持っている。

分散を伴った伝播の例としては、シュレーディンガー方程式

の解が挙げられ、分散関係は

となる。

ここでも簡便化のために一次元での波の伝播を考えると、シュレーディンガー方程式の解は原点に局在した波束を表す初期条件 u(x, 0) = exp(−x2 + ik0x) を満たすように

となる。

分散を伴う波束の伝播による影響は確率密度によって得られ

となる。波が非局在化された速度である一定の群速度 k0 で伝播する場合、波束が分散を伴って伝播することは明白である。なぜなら時刻 1 + 4t2 → 2t に伴ってガウス関数で表される波の広がりが増大し、最終的には無制限に拡散されてしまうためである。

量子力学におけるガウス波束[編集]

量子論では不確定性原理 Δx⋅Δpħ/2 のため、位置 x運動量 p の両方が確定した状態、すなわち Δx = Δp = 0 は実現しない。しかしプランク定数は非常に小さい値なので ΔxΔp がどちらもかなり小さいような状態は可能であり、そのようなときの波動関数は波束で表される。この波束状態に対して位置 x と運動量 p の測定をしたとき、測定精度が Δx, Δp より粗い場合は、ΔxΔp は測定誤差に埋もれてしまい、粒子は古典的な粒子との違いが目立たなくなる。逆に古典的な粒子のように振る舞う状態は、波束状態だと考えることができる[3]

上述の分散型ガウス波束は、正規化されておらず、原点を中心としている。t = 0 とすると、3次元で書き表すことができる[4][5]

ここで a は正の実数で、波束の幅の2乗である。

t = 0 でのフーリエ変換も、波数ベクトル k についてのガウス関数となっている。

このガウス波束の幅は、a の逆数であり、

よって不確定性関係において等号が成立している。

それぞれの波はそろって相回転するので、t = t でのフーリエ変換は次のようになる。

この逆フーリエ変換はガウス関数のままだが、パラメータ a は複素数となり、全体の規格化因子も含めて次のように書ける[6]

Ψ の全空間にわたる積分は不変である。なぜなら無限大の波長を持つ波であるゼロエネルギー状態の Ψ の内積であり、空間についての定数関数であるからである。

いかなる固有状態 η(x) においても、内積

は、η の状態によって決められる周波数での相回転という簡単な時間変化をする。固有状態 η がゼロエネルギーのときは、無限大の波長をもつ波のように、まったく変化しない。

よって積分 ∫|Ψ|2d3r も不変である。これは確率の保存を表している。

ここで at = 0 における P(r) の幅、r は原点からの距離である。粒子の速度はゼロであり、時間の原点は任意に選べる。

確率密度 |Ψ|2 をガウス関数と考えると、その幅

は時間に比例して増加し、ħt/ma の速さで波束が広がっていくことを意味する。

たとえば、電子の波束が最初はオングストロームの領域、すなわち 10−10 m に局在していた場合、波束の幅はおよそ 10−16 s で倍になる。明らかに、粒子の波束は自由空間を非常に早く広がっていく[7]。たとえば 1 ms 後では、幅は 1 km 程度に増加する。

この線形的な増加は、運動量の不確定性を反映している。波束が Δx = a/2 ほどの狭い範囲に制限されていると、運動量は ħ/2a ほどの不確定性を持つ。波束は ħ/m2a の速度で広がり、時間 tħt/m2a ほど進む。不確定性関係は等号から大きく外れ、最初の不確定性 Δx⋅Δp = ħ/2 は、t が大きくなると ħt/ma 倍に増加する。

脚注[編集]

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  1. ^ Manners (2000, pp. 53–56)
  2. ^ Toda (2005, p. 123)
  3. ^ 清水明 『量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために―』 サイエンス社〈新物理学ライブラリ〉、2004年4月、新版。全国書誌番号:20594163ISBN 4-7819-1062-9NCID BA66765545OCLC 673532806ASIN 4781910629
  4. ^ Pauli (2000)
  5. ^ Abers & Pearson (2003)
  6. ^ Schiff (1968)
  7. ^ Richard Fitzpatrick, Oscillations and Waves, http://farside.ph.utexas.edu/teaching/315/Waves/node75.html 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]