波束

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
分散を伴わない波束
分散を伴う波束

波束(はそく、: wave packet, wave train)は、複数のが一体となって同時に運動するときの波動の短い"塊"である。

概要[編集]

波束は異なる波数を持つ数多くの正弦波から構成することができ、逆に分解もできる。これらの正弦波は、干渉した結果として空間の小さな領域にだけ波が存在し、それ以外の部分では波が存在しないような位相と振幅を持つ[1]。構成要素であるそれぞれの波動関数や、それらが合成してできた波束は、波動方程式の解である。その波動方程式によって、伝播している間の波束の形状は、一定のままである(分散しない)か、変化する(分散する)かに分けることができる。

量子論[編集]

量子力学では波束が特別な意義を持つ。量子力学での波動関数は確率振幅として解釈される。波動関数が波束で表される場合、その絶対値の二乗は、粒子の位置と運動量の測定値がある特定の値をもつ確率密度を表す。この場合の波動方程式はシュレーディンガー方程式である。シュレーディンガー方程式を解くことで、系の時間発展を推測することができる。これは古典力学におけるハミルトニアン形式と同様である。このとき、その波束はシュレーディンガー方程式の数学的解である[2]。波束解の二乗の下にある領域は、ある領域に粒子を発見できる確率密度関数の値として解釈される。シュレーディンガー方程式の解の分散的な特性は、シュレーディンガーの元来の解釈を破棄しボルンの規則 (Born ruleを受け入れるのに重要な役割を果たす。

波の座標表現(直交座標系など)において、波の位置は波束の位置によって与えられる。さらに、波束が空間的により狭くなり、それゆえ波束の位置の範囲をより局在的になると、波の運動量の広がりは大きくなる。この位置と運動量の広がりの間のトレードオフはハイゼンベルク不確定性原理の一例である。

波束の伝播[編集]

分散のない場合[編集]

実空間でのガウシアンによる確率密度は、中心に存在するポテンシャル障壁をトンネル効果によって周期的に通過する。

分散を伴わない伝播の例として、古典力学での波動方程式

の解が挙げられる。ここで c は波の伝播速度である。この波動方程式は、次のような平面波解を持つ。

ただし、

この角周波数 ω波数 k の関係を分散関係と呼ぶ。またこの場合のように角周波数が波数に比例するとき「分散がない」と言う。

簡単のために一次元での波の伝播を考えると、一般解は次のように表される。

ここで ω = kc である。右辺の第一項は xct についての関数であり、x についての関数を ct だけ正の方向に移動させたものである。よって波が正の x 方向に速さ c で伝播する状態を表すことがわかる。第二項は x + ct の関数であるため、波が負の x 方向に伝播する状態を表す。

波束は、多くの異なる波形重ね合わせによってできる局所的な撹乱である。極端に局在化された波束を作るには、多くの周波数の波を重ね合わせる必要がある。上述した一次元での基本解を用いると、波束は一般的に次のように表される。

平面波の場合のように、波束も ω(k) = kc のときは u(x, t) = F(xct) であるため右方向へ移動し、ω(k) = −kc のときは u(x, t) = F(x + ct) であるため左方向へ移動する。

係数 1/2フーリエ変換に由来する。振幅 A(k) は平面波解の重ね合わせ係数である。この重ね合わせ係数は t = 0 での u(x, t) を逆フーリエ変換することによって表すことができる。

例えば

の場合の重ね合わせ係数は

と得られ、最終的に次のような波束が得られる。

この虚部は余弦波に垂直偏光する正弦波を表す。最初に示したアニメーションは、この分散を伴わない伝播をする波束の、実部と虚部を表したものである。

分散のある場合[編集]

実空間でのガウシアンによる確率密度の一次元の移動は不確かだが、一定の運動量を持っている。

分散を伴った伝播の例としては、自由粒子のシュレーディンガー方程式 (m = ħ = 1) の解が挙げられる。

この解は、次のような分散関係をもつ。

このように角周波数が波束に比例しないときを「分散がある」という。ここでも簡単のために一次元での波の伝播を考える。シュレーディンガー方程式の解を重ね合わせて波束を作り、原点に局在した波束を表す初期条件 u(x, 0) = exp(−x2 + ik0x) を課すと、波束の運動は次のように表される。

この波束の分散的ふるまいは、次の確率密度から見てとれる。

この分散のある波束では、ある一定の群速度 k0 で進むうちに非局在化していくことは明らかである。なぜなら時間が増加していくと波束の幅 1 + 4t2 ∼ 2t も増加し、最終的には空間を無制限に広がるためである。

量子力学におけるガウス波束[編集]

量子論では不確定性原理 Δx⋅Δpħ/2 のため、位置 x運動量 p の両方が確定した状態、すなわち Δx = Δp = 0 は実現しない。しかしプランク定数は非常に小さい値なので ΔxΔp がどちらもかなり小さいような状態は可能であり、そのようなときの波動関数は波束で表される。この波束状態に対して位置 x と運動量 p の測定をしたとき、測定精度が Δx, Δp より粗い場合は、ΔxΔp は測定誤差に埋もれてしまい、粒子は古典的な粒子との違いが目立たなくなる。逆に古典的な粒子のように振る舞う状態は、波束状態だと考えることができる[3]

上述の分散型ガウス波束は、正規化されておらず、原点を中心としている。t = 0 とすると、3次元で書き表すことができる[4][5]

ここで a は正の実数で、波束の幅の2乗である。

t = 0 でのフーリエ変換も、波数ベクトル k についてのガウス関数となっている。

このガウス波束の幅は、a の逆数であり、

よって不確定性関係において等号が成立している。

それぞれの波はそろって相回転するので、t = t でのフーリエ変換は次のようになる。

この逆フーリエ変換はガウス関数のままだが、パラメータ a は複素数となり、全体の規格化因子も含めて次のように書ける[6]

Ψ の全空間にわたる積分は不変である。なぜなら無限大の波長を持つ波であるゼロエネルギー状態の Ψ の内積であり、空間についての定数関数であるからである。

いかなる固有状態 η(x) においても、内積

は、η の状態によって決められる周波数での相回転という簡単な時間変化をする。固有状態 η がゼロエネルギーのときは、無限大の波長をもつ波のように、まったく変化しない。

よって積分 ∫|Ψ|2d3r も不変である。これは確率の保存を表している。

ここで at = 0 における P(r) の幅、r は原点からの距離である。粒子の速度はゼロであり、時間の原点は任意に選べる。

確率密度 |Ψ|2 をガウス関数と考えると、その幅

は時間に比例して増加し、ħt/ma の速さで波束が広がっていくことを意味する。

たとえば、電子の波束が最初はオングストロームの領域、すなわち 10−10 m に局在していた場合、波束の幅はおよそ 10−16 s で倍になる。明らかに、粒子の波束は自由空間を非常に早く広がっていく[7]。たとえば 1 ms 後では、幅は 1 km 程度に増加する。

この線形的な増加は、運動量の不確定性を反映している。波束が Δx = a/2 ほどの狭い範囲に制限されていると、運動量は ħ/2a ほどの不確定性を持つ。波束は ħ/m2a の速度で広がり、時間 tħt/m2a ほど進む。不確定性関係は等号から大きく外れ、最初の不確定性 Δx⋅Δp = ħ/2 は、t が大きくなると ħt/ma 倍に増加する。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Manners (2000, pp. 53–56)
  2. ^ Toda (2005, p. 123)
  3. ^ 清水明 『量子論の基礎―その本質のやさしい理解のために―』 サイエンス社〈新物理学ライブラリ〉、2004年4月、新版。全国書誌番号:20594163ISBN 4-7819-1062-9NCID BA66765545OCLC 673532806ASIN 4781910629
  4. ^ Pauli (2000)
  5. ^ Abers & Pearson (2003)
  6. ^ Schiff (1968)
  7. ^ Richard Fitzpatrick, Oscillations and Waves, http://farside.ph.utexas.edu/teaching/315/Waves/node75.html 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]