宮古語
宮古方言(みやこほうげん)は、琉球語(琉球方言)の内、宮古列島で話される方言の総称で、約5万人の話者がいる。宮古島と伊良部島、多良間島の3つの方言に分けることができる。各島間の著しい方言差のために、この地域の標準語である宮古島の平良方言でさえ、伊良部島や多良間島ではほとんど通じにくい[1]。
音韻
i、ï、u、e、o、aの6母音体系を持つ。日本語本土方言のoとuがuになり、eがiになり、iがïになっている。
音節の終わりに子音が来るという点で日本語(日本語族)の中では独特である[2]。逆に「んみゃーち(ようこそ、の意)」など「ん」が単語の先頭に来る例が多いことも特徴的である。また古いワ行がバ行に変化したと見られる例などがある。
文法
動詞
宮古方言内でも島ごと、集落ごとに違いがあるが、ここでは宮古島の下地町与那覇方言と、水納島方言での「書く」と「起きる」の活用を示す[3]。iと区別するために、ïは赤色で表示する。
志向形 | 未然形 | 条件形1 | 命令形 | 連用形 | 終止形1 | 終止形2 | 連体形 | 禁止形 | 条件形2 | 接続形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
書く | kaka | kaka | kaki | kaki | kakï | kakï | kakïm | kakï | kakï | kakï | kaki |
起きる | uku※ | uku※ | uki | ukiru | uki | ukiï | ukim | ukiï | ukiï | ukiï | uki |
主な接辞 | di(ね) | N(ない) djaaN(ない) sï(せる) riï(れる) ba(条件) |
ba(条件) | busïïnu(~したい) gatsïnaː(~しながら) du(ぞ) taï(過去) |
na(禁止) | tsïkaa (条件を表す) |
tti(て) ttiなしでも用いる。 |
※「起きる」の志向形・未然形にはukiもある。
志向形 | 未然形 | 命令形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 禁止形 | 条件形 | 接続形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
書く | kaka | kaka | kaki | kaki | kaki | kaki | kaki | kaki | kakiː |
起きる | uki | uki | ukiru | ukiː | ukiː | ukiː | ukiː | ukiː | ukiː |
主な接辞 | n(ない) man(ない) sï(せる) riː(れる) ba(条件) |
padzïmi(~し始める) buʃʃaal(~したい) du(ぞ) tai(過去) |
na(禁止) | ba(条件) takaː(~したら) |
ttiː(て) ttiːなしでも用いる。 |
形容詞
琉球語の形容詞は古い語幹に「さあり」が付いた系統と、「くあり」が付いた系統に分かれる。宮古方言は大部分が「くあり」系統で、多良間島・水納島は「さあり」系統である。例えば、与那覇方言の終止形1「takakaï」は「高くあり」に由来し、水納島方言の終止形「takaʃaːi」は「高さあり」に由来する。[4]
宮古島の下地町与那覇方言の「高い」と「珍しい」の活用を示す[5]。
連用形 | 条件形1 | 条件形2 | 終止形1 | 終止形2 | 連体形 | 接続形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
高い | takafu | takakari | takaka | takakaï | takakam | takakaï | takakari |
珍しい | midzïrafu | midzïrasïkari | midzïrasïka | midzïrasïkaï | midzïrasïkam | midzïrasïkaï | midzïrasïkari |
主な接辞 | ba | tsïkaː |
与那覇方言では、言い切りには、終止形1・終止形2よりもむしろtakaːnu(高い)という形がよく使われる。また、基本語幹にmunuをつけた形(takamunu)が終止形として用いられることもある。このほか、過去を表す形として、takakataï(高かった)のような形がある。
水納島方言の「高い」の活用を示す[5]。
未然形 | 連用形 | 条件形1 | 条件形2 | 終止形 | 連体形 | 接続形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
高い | takaʃaːra | takaʃaː | takaʃaːi | takaʃaːi | takaʃaːi | takaʃaːi | takaʃaː |
主な接辞 | ba | tai(過去) | ba | takaː |
文例
内間直仁『琉球方言文法の研究』466-476頁、604-606頁より、宮古島与那覇方言での文例。
- dzïː kaka(字を書こう)
- atsaː pjaːʃi uki di(明日早く起きよう)
- nnja kaka djaːn(もう書かない)
- pjaːpjaːti kaki ba du dzoːkataï(早く書けばよかった)
- naː ju kakï(名前を書く)
- unu mtsï ikï tsïkaː imbata ŋkai du idi raiï(この道を行くと海岸に出られる)
- banuː saːri iki fiːru(私をつれていってくれ)
- takafu naʃi miːï(高くしてみる)
- kunu jamaː takakaï/takakam/takaːnu/takamunu(この山は高い)
他の方言群
- 北琉球方言
- 奄美方言(en)(奄美徳之島諸方言)
- 国頭方言(沖永良部与論沖縄北部諸方言)
- 沖縄方言(en:Okinawan language)(沖縄中南部諸方言。この内、首里方言が共通語となる)
- 南琉球方言(先島方言群)
脚注
- ^ 大野晋、柴田武編『岩波講座 日本語11方言』岩波書店、1977年、213頁。
- ^ このような方言は宮古列島のほか、奄美群島、屋久島、鹿児島県本土全域と宮崎県諸県地方、鹿児島県甑列島、佐賀県本土全域と福岡県筑後地方、長崎県五島列島などに見られる。
- ^ 内間(1984)「動詞活用の記述的研究」
- ^ 内間(1984)「形容詞活用の通時的考察」
- ^ a b 内間(1984)「形容詞活用の記述的研究」
参考文献
- 内間直仁(1984)『琉球方言文法の研究』笠間書院
関連項目
外部リンク
- 沖縄言語研究センター 宮古方言音声データベース
- 多良間村(「観光案内」→「多良間村について」のなかに多良間村の方言を紹介するページがある)
- Shimoji Isamu: Miyako language - YouTube(下地勇が宮古方言について宮古方言で語る動画)