国王陛下に捧げる感謝の詩

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国王陛下に捧げる感謝の詩』(仏語原題: Remerciement au Roi )は、モリエールによる1663年制作。国王ルイ14世から年金1000リーヴルを頂戴したことに対する感謝を示している。

内容[編集]

フランス語原文[1] 日本語訳[2]
Votre paresse enfin me scandalise, ああ、あなたのだらしなさには呆れました、
Ma Muse ; obéissez-moi : ミューズよ;私に従いなさい:
Il faut ce matin, sans remise, もはや猶予はありません、今朝さっそく、
Aller au lever du Roi. お目覚めになった国王陛下のもとへ伺うのです。
Vous savez bien pourquoi あなたもその理由はよくわかっているでしょう?
Et ce vous est une honte あのような、もったいないほどの恩恵を受けながら
De n'avoir pas été plus prompte 御礼の言葉をお伝えするのが遅れてしまうだなんて、
A le remercier de ces fameux bienfaits ; 恥ずべきことです。
Mais il vaut mieux tard que jamais. 遅くなってもやらないよりは良いとも言います。
Faites donc votre compte 国王陛下へ御礼を述べるために、
D'aller au Louvre accomplir mes souhaits. ルーヴル宮殿へ馳せ参じる支度をするのです。
Gardez-vous bien d'être en Muse bâtie : ですが、ミューズの姿のまま行ってはなりません。
Un air de Muse est choquant dans ces lieux ; 宮廷では、見ていて面白いものが喜ばれるのですから、
On y veut des objets à réjouir les yeux ; その姿のまま行っては恥をかくだけです;
Vous en devez être avertie ; よく覚えておきなさい;
Et vous ferez votre cour beaucoup mieux, 宮廷で大いに気に入られるためには、
Lorsqu'en marquis vous serez travestie. 侯爵のふりをして参上すればよいのですよ。
Vous savez ce qu'il faut pour paraître marquis ; 侯爵になりきる秘訣はわかっているでしょうね?
N'oubliez rien de l'air ni des habits ; 身なりには気を付けなければなりませんよ;
Arborez un chapeau chargé de trente plumes 30もの羽根飾りがついた帽子を、
Sur une perruque de prix ; 高価なかつらの上に被って見せびらかすのです;
Que le rabat soit des plus grands volumes, 襟の折り返しはたっぷり幅広く、
Et le pourpoint des plus petits ; プールポワンは、より小さいものを;
Mais surtout je vous recommande 何よりも、これだけは覚えておいて下さい
Le manteau, d'un ruban sur le dos retroussé : マントをリボンで背中にめくりあげておけば、
La galanterie en est grande ; とっても優雅に見えるのですよ;
Et parmi les marquis de la plus haute bande これであなたも宮廷にいるような、
C'est pour être placé. 上流紳士の仲間入り。
Avec vos brillantes hardes 華やかに飾り立てて
Et votre ajustement, 御洒落をしたその格好で、
Faites tout le trajet de la salle des gardes ; 守衛兵の詰め所を歩き回ったり、
Et vous peignant galamment, 紳士のように櫛で髪をとかし、
Portez de tous côtés vos regards brusquement ; すばやく部屋中を一瞥する;
Et ceux que vous pourrez connaître, お知り合いを見かけたなら、
Ne manquez pas, d'un haut ton, 大きく、響き渡る声で、
De les saluer par leur nom, 相手の身分を考えることもなく、
De quelque rang qu'ils puissent être. 名前を呼んであいさつをする。
Cette familiarité こんな風に馴れ馴れしいのが、
Donne à quiconque en use un air de qualité. 高貴な人々のようにふるまう秘訣。
Grattez du peigne à la porte 国王陛下の寝室のドアは、
De la chambre du Roi. 櫛で引っかくこと[3]
Ou si, comme je prévois, もし、私の考え通りに、
La presse s'y trouve forte, 守衛兵の待機室が人でにぎわっていたなら、
Montrez de loin votre chapeau, 遠くからあなたの帽子を振りなさい
Ou montez sur quelque chose あなたのお顔を見せるために、
Pour faire voir votre museau, 何かの上に乗るのも良いでしょう。
Et criez sans aucune pause, そして間を置かずに、
D'un ton rien moins que naturel : 自然な作り声でこう叫びなさい
"Monsieur l'huissier, pour le marquis un tel." 「守衛兵殿、侯爵が到着しましたぞ!」
jetez-vous dans la foule, et tranchez du notable ; 人ごみに紛れて、気品溢れる貴族のようにふるまいながら、
Coudoyez un chacun, point du tout de quartier, 周りの人間に肘鉄をお見舞いしつつ、
Pressez, poussez, faites le diable 押せや、進めやと、悪魔のように猛進し、
Pour vous mettre le premier ; 列の先頭にたどり着くことです;
Et quand même l'huissier, でも、もし守衛兵が
A vos désirs inexorable, あなたの願いを冷酷にも
Vous trouverait en face un marquis repoussable, 聞き入れずに、追い返したとしても
Ne démordez point pour cela, 引き下がったりせずに、
Tenez toujours ferme là : 意地を張らなければなりません。
A déboucher la porte il irait trop du vôtre ; 扉の向こうへ足を踏み入れなければ、あなたの名誉に傷がつきます;
Faites qu'aucun n'y puisse pénétrer, 扉の前に立って、誰も入れないように邪魔をするのも良いですね
Et qu'on soit obligé de vous laisser entrer, そうすれば、他の誰かが陛下に謁見を許可され、部屋に入るとき、
Pour faire entrer quelque autre. あなたもついでに入れてくれることでしょう。
Quand vous serez entré, ne vous relâchez pas : 入れてもらっても、気を緩めてはいけません:
Pour assiéger la chaise, il faut d'autres combats ; 陛下の椅子に近づくために、まだ戦わねばならないのですから;
Tâchez d'en être des plus proches, 陛下に一番近い場所を勝ち取るために、
En y gagnant le terrain pas à pas ; 一歩一歩着実に歩みを進めていく;
Et si des assiégeants le prévenant amas もし、人混みが邪魔で
En bouche toutes les approches, 近づけないときには、
Prenez le parti doucement 静かに大人しく、
D'attendre le Prince au passage 国王陛下がお通りになるのを待っていなさい
Il connaîtra votre visage 陛下はあなたの顔を御存知でしょうから、
Malgré votre déguisement ; 変装を見破ってすぐにあなただとお気づきになるでしょう;
Et lors, sans tarder davantage, そうなったらすぐに、
Faites-lui votre compliment. 国王陛下に御挨拶を申し上げるのです。
Vous pourriez aisément l'étendre, 自分にはふさわしくない、思いがけない恩恵を、
Et parler des transports qu'en vous font éclater 御寛大にも与えてくださったことで、
Les surprenants bienfaits que, sans les mériter, 陛下に申し上げることは、
Sa libérale main sur vous daigne répandre, いくらでもあるでしょう。
Et des nouveaux efforts où s'en va vous porter 私にはふさわしくないほどの著しい栄誉のために、
L'excès de cet honneur où vous n'osiez prétendre, 新たな努力を重ねていくつもりです;とか、
Lui dire comme vos désirs これ以上ないほどの御親切を与えていただきましたからには、
Sont, après ses bontés qui n'ont point de pareilles, 陛下の栄光と御喜びのために、
D'employer à sa gloire, ainsi qu'à ses plaisirs, 持てる技芸を出し尽くし、素晴らしい成果を
Tout votre art et toutes vos veilles, 約束することこそ私の喜びです、と
Et là-dessus lui promettre merveilles : このように申し上げるのもよいでしょう:
Sur ce chapitre on n'est jamais à sec ; 感謝の言葉は止めどなく溢れてくるはずです;
Les Muses sont de grandes prometteuses ! 何より、ミューズたちは口達者なのですからね!
Et comme vos soeurs les causeuses, あなたもそのうちの一人なのだから、
Vous ne manquerez pas, sans doute, par le bec. 例にもれずに弁が立つでしょう。
Mais les grands princes n'aiment guère ですが、偉大な国王陛下は
Que les compliments qui sont courts ; 簡潔なあいさつがお好きなのです;
Et le nôtre surtout a bien d'autres affaires. その上我々の国王陛下は公務でお忙しいので、
Que d'écouter tous vos discours. あなたの挨拶を聞いている暇などないのです。
La louange et l'encens n'est pas ce qui le touche ; 褒め言葉やお世辞では、国王陛下のこころを動かすことはできません;
Dès que vous ouvrirez la bouche あなたが口を開いて、
Pour lui parler de grâce et de bienfait, 恩寵や恵みについてしゃべろうとすればたちまち、
Il comprendra d'abord ce que vous voudrez dire, 国王陛下はあなたが何を言いたいのか、すぐに御察しになり、
Et se mettant doucement à sourire 我々のこころをとらえて離さないほど素敵な微笑みを
D'un air qui sur les coeurs fait un charmant effet, 優しく浮かべられ、そしてまるで投槍のように
Il passera comme un trait, 素早くどこかへ行ってしまうでしょう
Et cela vous doit suffire : でも、それで事足りるのです:
Voilà votre compliment fait. あなたの願いもそれで果たされるのですよ。

成立過程[編集]

1662年12月26日、『女房学校』の初演が行われた。この作品の成績は滑り出しから絶好調で、その好調を維持したまま翌年の復活祭までに31回連続で上演が行われるなど、モリエールが生涯獲得した成功の中でも、もっとも輝かしいものであった。数年前に南フランス巡業を終えたばかりで、それまでの作品でも成功を収めていたモリエールであったが、この作品の華々しい大成功によって、「すぐれた劇詩人」なる名目で国王陛下から年金1000リーヴルを獲得し、優れた劇作家であることを公式に認められたのである[4][5]

このような『女房学校』の大成功は、同業者たち、モリエールの敵対者たちの嫉妬心を激しく煽った。国王から年金を下賜された時にはすでに彼らの攻撃は始まっていたが、こうして国王自らがモリエールの後ろ盾である旨を公式に示したのであった。この詩は、モリエールの生前に出版されたほとんどの作品の巻頭に付されている[5]

日本語訳[編集]

  • 『国王陛下に捧げる感謝の詩』秋山伸子訳、(モリエール全集 1 所収)、臨川書店、2000年

参考文献[編集]

  • 鈴木力衛, 辰野隆訳 (1965), 世界古典文学全集47 モリエール, 筑摩書房 
  • ギシュメール3, 廣田昌義、秋山伸子編訳 (2000), モリエール全集3, 臨川書店 

脚注[編集]

  1. ^ パブリック・ドメイン
  2. ^ 本項初版投稿者による訳
  3. ^ 当時のフランス、とくに高貴な人々の間ではノックはマナー違反であった。軽く引っかくようにするのが正しいと考えられていたため、このような表現となっている。護衛兵が常にドアの近くにはいたため、櫛で引っかいても聞こえるのであった
  4. ^ 鈴木力衛 1965, §468.
  5. ^ a b ギシュメール3 2000, §244.