原子力発電の事故隠し・データ改ざん一覧

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原子力発電の事故隠し・データ改ざん一覧[要校閲](げんしりょくはつでんのじこかくし・データかいざんいちらん)では、世界各国での原子力発電についての、事故隠し(トラブル隠しを含む)及びデータ改竄(かいざん)・データ捏造を、発生年や内容、それに対する公的機関の対応などの説明付きで一覧にする。

日本[編集]

事故隠し(トラブル隠しを含む)[編集]

美浜原発1号機事故隠し[編集]

1976年12月、関西電力美浜原子力発電所1号機で、1973年3月に燃料棒折損事故が発生していたことが発覚した[1]。発覚のきっかけは、田原総一朗著『原子力戦争』[2]に付された報告「美浜一号炉燃料棒折損事故の疑惑」だった[3]。関西電力は、この事故を4年近くも隠していた[1]。これに対し原子力委員会は、同年12月7日、関西電力を厳重注意とした[1]

敦賀原発事故隠し[編集]

1981年4月1日以降、日本原子力発電敦賀原子力発電所(当時は1号機のみ)で、同年1月10日と1月24日に、冷却水漏れ事故があり、秘密裏に発電を続けながらの修理が行われていたことが発覚した[4][5]。また同年4月18日以降、3月8日に放射性廃液の大量流出事故があり一部が一般排水路から海へ排出されたことが発覚した[5]

これに対し福井県原子力安全課は、修理は運転を停止して行うのが当然で、聞いたことがないやり方だとコメントした[4]。また、当時の通産省(現在の経済産業省)は、日本原子力発電に対し、敦賀原発を6ヶ月運転停止とする処分を行った[6][5]。通産省は電気事業法違反での告発を検討したが、結局告発は見送られた[7]

志賀原発臨界事故[編集]

1999年6月18日、北陸電力志賀原子力発電所1号機の定期検査中に制御棒1本の緊急挿入試験を行なっていたが、操作手順を誤った事から3本の制御棒が炉から引き抜かれた状態となり、炉は15分間臨界となった。しかし北陸電力はこれを直ちに国に報告せず、検査記録を改竄するなどして隠蔽を計り、2007年3月15日になってこの事故の存在が明るみに出た。[8]

データ改竄(データ捏造を含む)[編集]

志賀原発基礎工事鉄筋データ改竄[編集]

1989年11月9日北陸電力は、当時建設中だった志賀原子力発電所の基礎工事において、大谷製鉄が納入した鉄筋の中に、JIS規格違反のものが含まれていたと公表した[9]。同日、中部通産局はJIS規格違反の鉄筋の一部が大谷製鉄から商社を通じて志賀原発に納入されたと発表した[10]。大谷製鉄は、製品の試験データを改竄して鋼材検査証明書を作成していた[10][11]。違反鉄筋は、原子炉建屋タービン建屋・事務本館など4つの建物で約24トン使用された[12][9]。発覚の経緯は、メーカー側からの内部告発とされる[13]。また、北陸電力は同年10月25日頃に情報を入手し、大谷製鉄が認めたことから、10月末に大谷製鉄の鉄筋を使用停止にしていた[10]

当時の通産省(現在の経済産業省)は、事実を知ってから2週間の間、公表しなかった[14]。発覚後、石川県庁が立ち入り調査を行ったが、原子炉建屋等の基礎工事はやり直されなかった[12][15][16]。もっとも、事務本館だけは基礎工事がやり直された[15][16]

使用済み核燃料輸送容器データ改竄[編集]

1998年に、福島第二原発から六ヶ所再処理工場へ使用済み核燃料が運ばれたが、その際に使われた原燃輸送保有のNFT型輸送容器の中性子遮断材の分析データが捏造・改竄されていることが発覚した[17]。改竄は、発注側である原電工事がデータを分析した日本油脂に対して書き換えを指示して行われた[18]

科学技術庁は使用済燃料輸送容器調査検討委員会を設置して検討し、同年12月3日に報告書が発表された[19][20]。報告書は改竄を「許容し難い行為」「あってはならないこと」としたが、一方で「輸送容器全体としては、厳しめにみても遮断性能が安全の基準を満たすことが確認されている」とした[20]

日立製作所一次冷却配管溶接焼鈍記録改竄[編集]

1997年9月、日立製作所が建設した沸騰水型原発の溶接焼鈍記録(の温度)が改竄されていることが発覚した[21][22]。焼鈍とは、溶接の際に、金属組織を均一化して強度を確保するための措置である[22]。改竄は日立の孫請け会社伸光が、日立エンジニアリングサービスの担当者の指示により、10年以上前から続けてきた[23]。伸光が焼鈍を担当したのは原発18基[24]資源エネルギー庁は、このうち248箇所にデータ捏造の疑いがあるとした[24]

通産省(現在の経済産業省)は溶接部健全性評価検討会を設置、公開で4回開催され、調査方法と調査結果が議論された[25]

MOX燃料製造データ改竄[編集]

1999年9月14日関西電力高浜原子力発電所三号炉に使用予定だった、イギリス原子燃料公社(BFNL)製造のMOX燃料ペレットの寸法データが改竄されていることが、明らかになった[26][27]。データの偽造は、22ロット分[28][29]。関西電力は独自の抜き取り調査を行っているが、偽造を見抜けなかった[30][29]。発覚当時、高浜四号炉用のMOX燃料が日本へ向けて輸送中であった[30][31]。国と関西電力は同年9月24日、現地調査に基づく中間報告を発表した[31][32]。この報告書は、高浜三号炉用のデータ改竄を認めたが、高浜四号炉用のMOX燃料については不正はないとしている[31][33]。その後、四号炉用の燃料でもデータのねつ造が判明した。そして関西電力は翌2000年1月に、1999年10月の段階で四号炉用燃料でのデータ改竄の疑惑について情報を得ていたが、BFNLからの不正はないとの連絡を受けて、12月まで通産省や福井県に報告していなかったことを発表した[34]

審査資料断層データ改竄[編集]

2020年2月7日、敦賀原発2号機(福井県)の新規制基準に基づく審査で、原電が、原子炉建屋直下に活断層があるかどうかの判断に必要な調査資料の記述を少なくとも十数カ所、改竄していることが発覚。規制委は「削って書き直すのは非常に問題がある。この資料をもとに審査はできない」と厳しく指摘した[35][36]

中国[編集]

2010年11月、中華人民共和国広東省深圳市大亜湾原子力発電所で同年10月に放射性物質が漏れる事故が発生していたことが明らかとなった[37]。この事故は国際原子力事象評価尺度レベル1の事故で公表義務はないものの、立法会では特区政府への通知も事故発生から10日後だったことに批判が上がった[37]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 朝日新聞1976年12月8日付朝刊
  2. ^ 田原総一朗『原子力戦争』講談社〈講談社文庫〉、1981年11月。ISBN 978-4-06-131728-4  [要ページ番号]
  3. ^ 原発をすすめる危険なウソ』 p. 68
  4. ^ a b 朝日新聞1981年4月3日朝刊23面
  5. ^ a b c 原発をすすめる危険なウソ』 p. 118
  6. ^ 朝日新聞1981年5月19日付朝刊1面
  7. ^ 朝日新聞1981年4月7日付朝刊10面、朝日新聞1981年5月19日付朝刊1面
  8. ^ 志賀原子力発電所1号機の臨界事故についての報告書の提出について”. 北陸電力. 2024年2月3日閲覧。
  9. ^ a b 原発をすすめる危険なウソ』 p. 60
  10. ^ a b c 朝日新聞1989年11月9日付夕刊2面
  11. ^ 原発をすすめる危険なウソ』 p. 61
  12. ^ a b 朝日新聞1989年11月24日付夕刊2面
  13. ^ 原発をすすめる危険なウソ』 p. 61-62
  14. ^ 原発をすすめる危険なウソ』 p. 62
  15. ^ a b 朝日新聞1989年12月7日朝刊3面
  16. ^ a b 原発をすすめる危険なウソ』 p. 63
  17. ^ 朝日新聞1998年10月10日付朝刊2面、『原発をすすめる危険なウソ』 p. 152
  18. ^ 朝日新聞1998年10月10日付朝刊2面
  19. ^ 朝日新聞1998年12月4日付朝刊2面
  20. ^ a b 原発をすすめる危険なウソ』 p. 153-155
  21. ^ 朝日新聞1997年9月17日付朝刊1面
  22. ^ a b 原発をすすめる危険なウソ』 p. 162
  23. ^ 朝日新聞1997年9月17日付朝刊1面、朝日新聞1997年9月26日付夕刊2面、『原発をすすめる危険なウソ』 p. 163
  24. ^ a b 原発をすすめる危険なウソ』 p. 164
  25. ^ 原発をすすめる危険なウソ』 p. 164-165
  26. ^ “データ不正記入 高浜原発で使用予定のMOX燃料【大阪】”. 朝日新聞 大阪夕刊: p. 1 1総. (1999年9月14日). "...英国原子燃料会社...が、製造中のMOX燃料のペレットの大きさなどの製造時の品質管理データの一部について、検査を怠ったままデータを記入していたことが十四日、明らかになった。" 
  27. ^ 原発事故隠しの本質』 pp. 42-43、『原発をすすめる危険なウソ』 p. 236
  28. ^ “MOXデータ、偽造は倍に 関電、英社を調査”. 朝日新聞 東京夕刊: p. 2 2総. (1999年9月21日). "...MOX燃料(ペレット)百九十三セットのうち二十二セットについて、...過去のデータを流用して写していたことが確認されたという。" 
  29. ^ a b 原発をすすめる危険なウソ』 p. 237
  30. ^ a b “英BNFL、高浜3号機用MOX燃料製造データねつ造の疑い - 関西電力が発表”. 日刊工業新聞: p. 8. (1999年9月15日). "BNFL側は、海上輸送中で27日入港予定の同4号機用MOX燃料は調査の結果問題ないとしている。...関電の検査...でもデータねつ造をチェックできなかった。" 
  31. ^ a b c 原発事故隠しの本質』 p. 43
  32. ^ “検査データ「ねつ造ない」 高浜4号機用「MOX」で関西電力”. 朝日新聞 東京夕刊: p. 22 2社. (1999年9月24日). "...関西電力は二十四日、高浜原発4号機用のMOX燃料について「データ流用などの不正はない」と、資源エネルギー庁と福井県に中間報告した。" 
  33. ^ “関電、改めて安全宣言 高浜原発用MOX燃料データねつ造/福井”. 朝日新聞 大阪地方版/福井: p. 29 福井. (1999年9月25日). "...調査結果として、データがねつ造された燃料は、3号機用...と説明。検査した作業員三人のうち、...一人はねつ造を認め、...二人は否定しているが、証言は疑わしいという。この三人は4号機用の検査にもかかわって...しかし...「データ流用はなく、燃料そのものも、ちゃんとできていることを確認した」と説明。" 
  34. ^ “関電、発覚前に承知 MOX燃料のデータねつ造疑惑”. 朝日新聞 東京夕刊: p. 19 1社. (2000年1月12日). "...関西電力は...4号機用燃料でデータねつ造が発覚する前の段階で疑わしい燃料があると知りながら、通産省や県に報告していなかった...。...BNFLから昨年十月、関電に...報告があった。その後、BNFLから「不正はない」との連絡を受けたため、関電は十一月に通産省や原子力安全委員会、県などに提出した最終報告書に疑惑があることを書かなかった。通産省や県へは、4号機用のねつ造が判明し...た後の十二月十九日に口頭で報告..." 
  35. ^ 敦賀原発の断層「生データ」無断で書き換え 日本原電:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2020年2月7日閲覧。
  36. ^ 日本放送協会. “敦賀原発2号機 資料不備で審議見送り 原子力規制委”. NHKニュース. 2020年2月7日閲覧。
  37. ^ a b “深圳大亜湾原発、10月にも事故”. 香港ポスト. (2010年11月17日). http://www.hkpost.com.hk/history/index2.php?id=357 2018年7月30日閲覧。 

参考文献[編集]

  • 西尾漠編 編『原発をすすめる危険なウソ - 事故隠し・虚偽報告・データ改ざん…』創史社、1999年11月。ISBN 978-4-915970-12-2 
  • 反原発運動全国連絡会編 編『原発事故隠しの本質』七つ森書館、2002年10月。ISBN 978-4-8228-0260-8 
  • 朝日新聞(日付等は各脚注に記載)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]