出産手当金

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出産手当金(しゅっさんてあてきん)とは、健康保険の被保険者が出産のため会社(勤務先)を休んだために事業主から報酬(給料)が受けられない場合に支給される手当金である。健康保険以外の公的医療制度(共済組合船員保険国民健康保険等)においてもほぼ同様である。なお、「出産育児一時金(しゅっさんいくじいちじきん)」とは別のものである。以下では特に断らない限り、健康保険における出産手当金について記す。

概要[編集]

労働基準法では産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間を産前産後休業として定め、その期間の女子の使用を原則禁じているが(労働基準法第65条)、労働基準法上、この期間内の賃金保障は義務付けられていない。そのため、出産前後の期間における所得の喪失・減少を補い、被保険者や家族の生活を保障し、安心して出産前後の休養ができるようにするために設けられたものである。なお、健康保険法において「出産」とは妊娠4月(85日)以上の分娩をいい、それが正常分娩であると死産、早産、流産、人工妊娠中絶であるとを問わない(昭和27年6月16日保文発2427号)。

健康保険、船員保険においては出産手当金は絶対的必要給付(要件を満たしたときは保険者は必ず支給しなければならない)であるが、国民健康保険では任意給付(条例または規約の定めるところにより行うことができる)となっている。

給付要件・支給期間[編集]

被保険者(任意継続被保険者を除く)が出産したときは、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産の予定日)以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から、出産の日の翌日以後56日目までの範囲内で労務に服さなかった期間支給される(第102条)。

  • 出産日は「産前」に含まれるので、実際の出産が予定日後のときはその遅れた日数分についても支給される。
  • 支給を受けるにあたって、「労務不能」である必要はない。事業所で労務に服さない限り、家庭で家事その他の労務に服することがあっても支給される。また期間中に事業所の公休日があっても、労務に服していなければその日数分も支給される。
  • 出産手当金の支給要件に該当する者が介護休業期間中であっても、出産手当金は支給される。ただし休業期間中に介護休業手当等の名目で報酬と認められるものが支給された場合は、出産手当金の支給額について調整が行われる。
  • 出産手当金と傷病手当金を同時に受けることが出来る場合、出産手当金が優先して支給され、傷病手当金はその期間支給されず、出産手当金の額が傷病手当金の額より少ないとき[1]は差額支給となる。出産手当金を支給すべき場合において傷病手当金が支払われたときは、その支払われた傷病手当金は、出産手当金の内払とみなす(第103条)。
    • もっとも、出産手当金も傷病手当金も、支給額の計算方法は同じである。
  • 船員保険の場合は、「出産の日以前42日目」は「出産の日以前において船員法第87条の規定により職務に服さなかった期間」となる。船員法第87条は妊娠中の女子の使用を禁じているので、実際には妊娠が判明した初日から給付が行われる(船員保険法第74条)。

支給額[編集]

平成28年4月1日支給分より、1日につき、「出産手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する額」(1円未満の端数を四捨五入)とされる。ただし標準報酬月額が定められている月が12月に満たない場合は次のいずれか少ない額の3分の2に相当する額とされる(第102条)。

  • 出産手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額
  • 出産手当金の支給を始める日の属する年度の前年度の9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の30分の1に相当する額

標準報酬月額は、被保険者が現に属する保険者等によって定められたものに限り、転職等で保険者が変わっている場合は従前の保険者等による標準報酬月額は算定の対象とならない。一度出産手当金の額が決定すれば、その金額で固定され、その後定時決定等で標準報酬月額が変更されても、出産手当金の金額は変更されない。なお、出産手当金自体は、健康保険法でいう「報酬」には該当しないため[2]、出産手当金から保険料を控除することは認められない。

  • 出産した場合において、出産手当金の額より多い報酬が支給される場合は、出産手当金は支給されない。また支給される報酬の額が出産手当金の額より少ないときは、その差額が出産手当金として支給される。

健康保険組合の場合、付加給付として(第53条)、規約で定めるところにより、支給額の上乗せ等がなされる場合がある。

出産育児一時金の支給を受けることができる日雇特例被保険者(その出産の日の属する月の前4月間に通算して26日分以上の保険料が納付されているとき)の場合は、1日につき、出産の日の属する月の前4月間の保険料が納付された日に係る当該日雇特例被保険者の標準賃金日額の各月ごとの合算額のうち最大のものの45分の1に相当する金額とする(第138条)。

保険者は、偽りその他不正の行為により保険給付を受け、又は受けようとした者に対して、6月以内の期間を定め、その者に支給すべき出産手当金の全部または一部を支給しない旨の決定をすることができる(第120条)。ただし偽りその他不正の行為があった日から1年を経過したときは当該給付制限を行うことは出来ない。

資格喪失後の継続給付[編集]

以下の要件を満たす被保険者(特例退職被保険者を除く)は、被保険者の資格を喪失した場合でも、被保険者として受けることが出来るはずであった期間、継続して同一の保険者から出産手当金の支給を受けることが出来る(第104条)。受給手続きは在職時の場合と同様であるが、事業主の証明は不要である。

前記の給付要件に準じるほか、次の要件がある。

  1.  退職日(資格喪失日の前日)まで引き続き1年以上被保険者の資格を有していること(任意継続中の期間は含まれない)。
    •  任意継続被保険者となる場合の要件と異なり、この場合は任意適用事業所の取消による資格喪失も含まれる。
    •  船員保険の場合は、資格喪失日前1年間に3ヵ月以上、または3年間に1年以上強制被保険者だった場合、となる。
  2.  退職日に出勤の事実がないこと。
  3.  資格喪失時に出産手当金の支給を受けている、又は受け得る状態にある者(報酬との調整のために支給が停止されている場合を含む)。
    •  産前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)よりも前に退職した場合は出産手当金を受け得る状態にないため、支給されない。
    •  船員保険の場合は、資格喪失日より6ヶ月以内に出産すれば継続給付の対象となる(船員保険法第74条2項)

出産手当金は原則として任意継続被保険者には支給されないが、上記の要件を満たす者が任意継続被保険者となった場合には支給される。なお、同一の健康保険組合の任意継続被保険者でないと給付しないとする健保組合も一部に存在する。退職後の給付には付加給付が付かないか、または任意継続被保険者であることを要件とする組合もある。また、特例退職被保険者は上記の要件を満たしても出産手当金は支給されない。

健康保険の被保険者であった者が船員保険の被保険者となったときは、船員保険から給付が行われるので健康保険からは出産手当金の継続給付は受けることはできず、また選択の余地もない(第107条)。

時効[編集]

健康保険法上の他の給付と同様、出産手当金を受ける権利は、2年を経過したときは時効により消滅する(第193条)。時効の起算日は、「労務に服さなかった日ごとにその翌日」である。

脚注[編集]

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  1. ^ 「支給を始める日の属する月以前直近12カ月」の平均で計算するので、出産手当金と傷病手当金とで支給開始月が違う場合、その間に定時決定等があると単価が異なる可能性がある。
  2. ^ 労働協約により事業主が報酬と出産手当金との差額を見舞金として支給する場合、その差額は「報酬」に含まれる。

関連項目[編集]