ラウリル硫酸ナトリウム

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ラウリル硫酸ナトリウム
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識別情報
CAS登録番号 151-21-3
E番号 E487 (増粘剤、安定剤、乳化剤)
特性
化学式 NaC12H25SO4
モル質量 288.38 g/mol
外観 白色固体
密度 1.01 g/cm³
融点

206 °C

危険性
安全データシート(外部リンク) ICSC 0502
EU分類 強い可燃性 F有害 X
Rフレーズ R11 R21/22 R36/37/38
Sフレーズ S26 S36/37
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ラウリル硫酸ナトリウム(ラウリルりゅうさんナトリウム、sodium lauryl sulfate, SLS)は陰イオン性界面活性剤の1つ。ドデシル硫酸ナトリウム(ドデシルりゅうさんナトリウム、sodium dodecyl sulfate, SDS, NaDS)とも呼ばれる。硫酸のモノ長鎖アルキルエステルナトリウム塩である。

乳化剤発泡剤洗浄剤として、日用品では歯磨き粉シャンプーシェービングクリーム泡風呂リキッドファンデーションなど、医薬品では薬・サプリメントのカプセルなど、工業用としてはガレージのフロア用洗剤、エンジンの油落とし洗剤、洗車用洗剤など多くの用途に使用されている合成化学物質である。12個の炭素原子鎖が硫酸塩に結合した構造を持ち、洗剤に不可欠な両親媒性特性を有する。

特性[編集]

製法[編集]

1-ドデカノール(ラウリルアルコール、)を硫酸との脱水縮合によりエステル化した後、炭酸ナトリウムにより中和して合成する。

安定性[編集]

水溶液中では加水分解がおこり、1-ドデカノールと硫酸水素ナトリウムを生じる。ドデカノールは水に溶けにくいため、加水分解が進行すると析出物を生じやすくなる。この反応は温度依存的であるが、おおよそpH3以下ではさらに加水分解が促進される。加水分解が進行するにつれて1-ドデカノールの増加やpHの低下がおこり、これにより加水分解がさらに促進される[3]

人体への影響[編集]

炎症[編集]

清掃用洗剤に含まれる他、歯磨き粉やシャンプー、ボディーソープにも使用される。他のすべての界面活性剤と同じく、皮膚などに炎症を起こす可能性がある[4][5][6]。特に、眼に入った後は大量の水で洗い流す必要がある。皮膚炎は正式には接触皮膚炎と呼ばれ、アレルギー性皮膚炎と刺激性皮膚炎の2種類がある。ラウリル硫酸ナトリウムが引き起こす皮膚炎は刺激性である。ステロイドが刺激性皮膚炎に対して効果がないことを証明した医学論文において刺激性皮膚炎を引き起こすためのパッチテストに使われたものがラウリル硫酸ナトリウムである[7]

発癌可能性の論争[編集]

1970年代に発癌性が指摘され厚生労働省によって精密な追試が行われたが発癌性は確認されていない。旧東京都立衛生研究所 (現・東京都健康安全研究センター) の調査でも毒性は無いとの結論に達している[8]。また、米国化粧品工業会も化粧品原料評価を行い発癌性を否定しており、インターネットやE-mailで流布される発癌性懸念の噂は虚偽であるとのカナダ健康省や米国癌学会(en:American Cancer Society)の見解を紹介している[9]。さらに、2007年現在までIARCNTPの発癌性リストに載ったことは無い。


用途[編集]

実験室では、ラウリル硫酸ナトリウムはポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用にタンパク質を処理するために使用される。ラウリル硫酸ナトリウムはタンパク質の非共有結合を分離させ、分子の高次構造を失わせる(これは変性と呼ばれる)。さらに、ラウリル硫酸ナトリウムの陰イオンは、1つのラウリル硫酸ナトリウム陰イオンに対し2つのアミノ酸残基の比率で主ペプチド鎖に結び付く。これにより、そのタンパク質の質量に比例した負電荷を効果的に分配する(およそ1.4グラムのラウリル硫酸ナトリウムに対し1グラムのタンパク質)。ラウリル硫酸ナトリウムの結合により生成される静電気反発作用は、タンパク質の折りたたみ構造を棒状構造へと変化させることにより、ゲル中泳動時におけるタンパク質形状の差による影響を取り去る。

出典[編集]

  1. ^ P. Mukerjee and K. J. Mysels, "Critical Micelle Concentration of Aqueous Surfactant Systems", NSRDS-NBS 36, U.S. Government Printing Office, Washington, D.C., 1971.
  2. ^ N. J. Turro. A. Yekta, J. Am. Chem. Soc., 1978, 100, 5951.
  3. ^ Nakagaki & Yokoyama (1985). “Acid-catalyzed hydrolysis of sodium dodecyl sulfate”. J. Pharm. Sci. 74 (10): 1047-1052. doi:10.1002/jps.2600741005. 
  4. ^ Agner T (1991). “Susceptibility of atopic dermatitis patients to irritant dermatitis caused by sodium lauryl sulphate”. Acta Derm Venereol 71 (4): 296-300. PMID 1681644. 
  5. ^ A. Nassif; S. C. Chan (November 1994). “Abstract: Abnormal skin irritancy in atopic dermatitis and in atopy without dermatitis”. Arch Dermatol 130 (11): 1402. doi:10.1001/archderm.1994.01690110068008.  epub: 2006 May 4
  6. ^ Marrakchi S.; Maibach HI. (2006). “Sodium lauryl sulfate-induced irritation in the human face: regional and age-related differences”. Skin Pharmacol Physiol 19 (3): 177-80. PMID 16679819. 
  7. ^ Anveden, Ingegärd; Lindberg, Magnus; Bruze, M; Isaksson, M; Liden, C; Sommerlund, Wahlberg JE; Wilkinson, JD; Willis, CM (2004-05). Carolyn M Willis (編). “Oral prednisone suppresses allergic but not irritant patch test reactions in individuals hypersensitive to nickel”. Contact dermatitis 50 (5): 298-303. PMID 15209811. 
  8. ^ 高橋昭夫、安藤 弘、久保喜一、平賀輿吾「妊娠マウスに皮膚塗布されたドデシル硫酸ナトリウム (SDS) の胎仔に及ぼす影響」『東京都立衛生研究所年報』第7巻、1976年、113-118頁。 
  9. ^ "CTFA Response Statement: Bogus Internet Report on Sodium Lauryl Sulfate (SLS) (米国化粧品工業会 回答文書:SLSに関するインターネット上の偽報告について)" (Document). Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Association (CTFA). 13 October 2000. {{cite document}}: 不明な引数|archivedate=は無視されます。 (説明); 不明な引数|archiveurl=は無視されます。 (説明); 不明な引数|url=は無視されます。 (説明) RSPT 00-3

関連文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]