サシハリアリ

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サシハリアリ
Paraponera clavata.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: ハチ目(膜翅目) Hymenoptera
: アリ科 Formicidae
亜科 : サシハリアリ亜科 Paraponerinae
: サシハリアリ属 Paraponera
F. Smith, 1858
: サシハリアリ P. clavata
学名
Paraponera clavata
(Fabricius, 1775)
和名
サシハリアリ
英名
Bullet ant

サシハリアリ (Paraponera clavata) はアリの一種である。ニカラグアからパラグアイまでの、湿潤な低地多雨林に生息する。刺された時に24時間痛みが続くことから、現地では“Hormiga Veinticuatro”(24時間のアリ)という名を持つ[1]。また、英語では“lesser giant hunting ant”と呼ばれる[2]

形態・生態[編集]

白線は2 cm。
Paraponera clavata - museum specimen

働きアリは18–30 mm[3]、赤黒く頑強である。肉食性であり、他の原始的なアリと同じくカーストによる多型を示さない。女王アリは働きアリと比べそれほど大きくない。[4]

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巣は樹の根元に作られ、数百から千匹程度のアリが属する。働きアリはその樹に登り、小型節足動物や甘露などを摂食する。甘露は主要な餌であり、大顎の間に挟んで運ぶ。樹冠にまで登ることもあるが、地上では活動しない。パナマバロ・コロラド島 (BCI) とコスタリカで行われた2つの研究では、1 haあたり4つの巣が確認された。BCIでは、巣は70種の木本・6種の低木・2種のつる性木本・1種のヤシの下で見られた。最も巣の数が多かったのはアカネ科Faramea occidentalisセンダン科Trichilia tuberculata の下だったが、これはBCIの森に最も多い樹種である。巣の出現頻度が高かった樹種は、アカネ科Alseis blackianaサンユウカ属Tabernaemontana arboreaニクズク科Virola sebiferaセンダン科Guaria guidoniaヤシ科Oenocarpus mapora などであった。樹への選択性はそれほど強くないと考えられるが、BCIでの調査では、板根や花外蜜腺を持つ樹が好まれるようである[5]

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本種に刺された時の痛みはあらゆるハチ・アリの中で最大であるとされ、Schmidt Sting Pain Indexではオオベッコウバチの上である“4+”とされている[1]ペプチド神経毒ポネラトキシンが単離されており、電位依存性のNaイオンチャネルに作用して神経伝達を阻害する。この毒を医療に応用する研究も進められている[6][7]

通過儀礼[編集]

ブラジルの先住民族Satere-Maweは、戦士となるための通過儀礼に本種を用いる[8]。まず植物抽出物を用いてアリに麻酔をかけ、ヤシの葉に縫い込む。次に、針が内側を向くような手袋の形に整える。アリの麻酔が解けたあとで手袋に手を挿入し、10分程度耐える。この時針からの保護として、手に炭を塗ることが認められる。儀式のあと数日は手に痺れが残るという。この儀式を20回、数か月から数年かけて行うことで、通過儀礼が完了する[9][10]

寄生虫[編集]

本種は攻撃的であり、隣接する巣の間での戦いがよく起こるため、負傷した働きアリが多く発生する。Apocephalus paraponerae はこのような負傷した働きアリに寄生する、1.5–2 mmのノミバエ科のハエである。健常なアリはハエを追い払うことができるため寄生されないが、人工的に寄生させることは可能である。このハエは傷ついたアリの匂いに誘引され、そこで摂食・交尾・産卵が行われる。潰したアリには2-3分の内に、10匹近くのハエが群がる。アリ1匹当たり20匹の幼虫が寄生する[3][11]

脚注[編集]

  1. ^ a b “The Word:Sting pain index”. New Scientist No 2617,. (2007年8月18日). p. 44. http://www.newscientist.com/article/mg19526171.800-the-word-sting-pain-index.html 2010年9月26日閲覧。 
  2. ^ Charles Leonard Hogue (1993). Latin American insects and entomology. University of California Press. p. 439. ISBN 0-520-07849-7. http://books.google.co.uk/books?id=3CTf8bnlndwC&lpg=PA440&dq=paraponera&pg=PA439#v=onepage&q=paraponera&f=false 2010年11月3日閲覧。. 
  3. ^ a b Brown, B. V.; Feener, D. H. (1991). “Behavior and Host Location Cues of Apocephalus paraponerae (Diptera: Phoridae), a Parasitoid of the Giant Tropical Ant, Paraponera clavata (Hymenoptera: Formicidae)”. Biotropica 23 (2): 182–187. doi:10.2307/2388304. 
  4. ^ The Natural History of Bullet Ants
  5. ^ Belk, M. C.; Black, H. L.; Jorgensen, C. D.; Hubbell, S. P.; Foster, R. B. (1989). “Nest Tree Selectivity by the Tropical Ant, Paraponera clavata”. Biotropica 21 (2): 173–177. doi:10.2307/2388707. 
  6. ^ Eur. J. Biochem. 271, 2127–2136 (2004) Poneratoxin, a neurotoxin from ant venom. Structure and expression in insect cells and construction of a bio-insecticide (pdf)
  7. ^ Baillie Gerritsen, Vivienne. "Princess Bala's sting". Protein Spotlight. Issue 14 September 2001.
  8. ^ Backshall, Steve (2008年1月6日). “Bitten by the Amazon”. The Times (London). http://travel.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/travel/destinations/latin_america/article3131030.ece 2010年5月21日閲覧。 
  9. ^ Aaron T. Dossey (2010). “Insects and their chemical weaponry: New potential for drug discovery”. Nat. Prod. Rep. 27: 1737-1757. doi:10.1039/C005319H. 
  10. ^ "Incredible Ritual With Hundreds of Poisonous Bullet Ants". YouTube. January 26, 2007. Retrieved June 13, 2012.
  11. ^ Shellee Morehead, Jon Seger, Don Feener and Brian Brown. “A cryptic species complex in the ant parasitoid Apocephalus paraponerae (Diptera: Phoridae)”. 2010年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年11月21日閲覧。

参考文献[編集]

  • Bequaert, J.C. (1926). Medical Report of the Hamilton Rice 7th. Expedition to the Amazon. Harvard University Press. pp. 250–253. 
  • Weber, N. A. (1939). The sting of the ant, Paraponera clavata. Science, 89, 127–128.
  • Lattke, JE (2003) - Subfamilia Ponerinae in Introducción a las Hormigas de la Région Neotropical - Von Humboldt Institute, Bogota, Colombia.
  • M. D. Breed, B. Bennett (1985). “Mass recruitment to nectar sources in Paraponera clavata: A field study”. Insectes Sociaux 32 (2): 198-208. doi:10.1007/BF02224233. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]