バナッハ=アラオグルの定理

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函数解析学および関連する数学の分野において、バナッハ=アラオグルの定理(バナッハ=アラオグルのていり、: Banach–Alaoglu theorem)あるいはアラオグルの定理として知られる定理は、ノルム線型空間双対空間の中の単位球弱*位相においてコンパクトであることを述べたものである[1]。その有名な一つの証明では、弱*位相を備える単位球を、積位相を備えるコンパクト集合のデカルト積の閉部分集合と同一視するものである。チコノフの定理の帰結として、この積とその内部の単位球はコンパクトとなる。

可分なノルム線型空間に対するこの定理の証明は、1932年にステファン・バナフによって発表された。また一般の場合に対する最初の証明は1940年に数学者レオニダス・アラオグル英語版によって発表された。

バナッハ=アラオグルの定理はチコノフの定理を介して証明されるため、特に選択公理のような ZFC公理英語版の枠組みに依るものである。多くの函数解析学の主流もまた ZFC に依っている。しかしこの定理は、可分の場合には選択公理には依らない(後述)。この場合は実際、構成的な証明を行うことが出来る。

この定理は、観測可能量の代数の状態の集合を表現するときに物理学的に応用されるものである。すなわち、任意の状態はいわゆる純粋状態の凸線型結合として表現される。

定理[編集]

X をノルム空間とする。するとその双対 X* もまた(作用素ノルムを備える)ノルム空間である。

X* の閉単位球は弱 * 位相に関してコンパクトである(たとえば記事「線型位相空間」の節「双対空間」を参照)。

これは同一の空間上に異なる位相を考える動機となる。なぜならば、対照的に、ノルム位相について単位球がコンパクトであるための必要十分条件は、その空間が有限次元であることだからである(リースの補題を参照)。

点列バナッハ=アラオグルの定理[編集]

バナッハ=アラオグルの定理の一つの特別な場合として、可分ノルム線型空間の双対空間の閉単位球は弱 * 位相において点列コンパクトであると主張する、点列バナッハ=アラオグルの定理が存在する。実際、可分空間の双対の閉単位球上の弱 * 位相は距離化可能であり、したがってコンパクト性と点列コンパクト性は同値となる。

具体的に、X を可分なノルム空間とし、BX 内の閉単位球とする。X は可分なので、{xn} をその可算な稠密部分集合とするとき、xy ∈ B' に対して次式は距離を定義する:

ここで XX の双対ペアである。この距離における B の点列コンパクト性は、アスコリ=アルツェラの定理の証明で用いられるものと同様の対角線論法によって証明できる。

その証明の自然な帰結として(選択公理に基づく一般の場合とは対照的に)、点列バナッハ=アラオグルの定理はしばしば偏微分方程式の研究分野において、その解や変分法の解を構成する際に用いられる。例えば、可分なノルム線型空間 X の双対上のある汎函数 を最小化したい場合、第一の有名な方法では、点列バナッハ=アラオグルの定理を用いることで極限 x に弱 * 位相において収束する部分列を選び出し、F の下限に近づく最小化列 を構成し、xF の最小点であることを示す。この手順の最後の部分ではしばしば、弱 * 位相における F の(点列)下半連続性が要求される。

X が実数直線上の有限ラドン測度の空間(したがってリースの表現定理より、 は無限大で消失する連続函数の空間となる)の場合、点列バナッハ=アラオグルの定理はヘリーの選択定理と同値となる。

一般化:ブルバキ=アラオグルの定理[編集]

ブルバキ=アラオグルの定理(Bourbaki-Alaoglu theorem)は、ニコラ・ブルバキによる局所凸位相ベクトル空間上の双対位相へのバナッハ=アラオグルの定理の一般化である[2][3]

連続双対 X ' を持つ分離された局所凸空間 X が与えられたとき、X 内の任意の近傍 U U0 は、X ' 上の弱位相 σ(X ',X) においてコンパクトである。

ノルム線型空間の場合、近傍の極はその双対空間において閉かつノルム有界である。例えば、単位球の極はその双対において閉単位球である。したがって、ノルム位相空間(したがってバナッハ空間)に対して、ブルバキ=アラオグルの定理はバナッハ=アラオグルの定理と同値である。

証明[編集]

X 内の任意の x に対し、

を定める。各 Dx は複素平面内のコンパクト部分集合であるため、チコノフの定理より積位相において D もまたコンパクトである。

X* 内の閉単位球 B1(X*) は、自然な方法で D の部分集合と見なすことが出来る。すなわち

である。この写像は単射かつ連続で、B1(X*) は弱 * 位相を持ち、D は積位相である。この値域上で定義される逆写像もまた連続である。

この写像の値域が閉であることが示されれば、定理は証明される。しかしそれは明らかである。D 内の次のネット

を考えると、次で定義される汎函数

B1(X*) に属する。

帰結[編集]

  • ヒルベルト空間において、すべての有界かつ閉集合は弱相対コンパクトであり、したがってすべての有界列は弱収束する部分列を持つ(ヒルベルト空間は回帰的である)。
  • ノルムについて閉じている凸集合は弱閉である(ハーン=バナッハの定理)ため、ヒルベルト空間あるいは回帰的バナッハ空間における有界凸集合のノルム閉包は、弱コンパクトである。
  • B(H) における閉かつ有界集合は、弱作用素位相に関してプレコンパクトである(弱作用素位相は、トレースクラス作用素の集合 B(H) の前双対に関する弱 * 位相である超弱位相英語版よりも弱い)。したがって、作用素の有界列は弱集積点を持つ。

したがって B(H) は、弱作用素あるいは超弱位相が備えられたとき、ハイネ=ボレルの性質を持つ。

  • X回帰的バナッハ空間であるなら、X 内のすべての有界列は弱収束する部分列を持つ(これはバナッハ=アラオグルの定理を X の弱距離化可能な部分空間に対して適用するか、あるいはより簡潔にエバーライン=シムリアンの定理を適用することで示される)。例えば、X=Lp(μ), 1<p<∞ とする。このとき、ある部分列 fnkfX が存在して、すべての gLq(μ) = X*(但し 1/p+1/q=1)に対して
が成り立つ。但し L1(μ) は回帰的でないので、p=1 では成り立たない。

バナッハ=アラオグルの定理は見かけによらず、弱 * 位相が局所コンパクトであるとを意味しないということに注意しなければならない。これは、閉単位球は強位相においてのみ原点の近傍であり、弱 * 位相では通常そうではないということに起因する。実際、空間が有限次元でない限り、弱 * 位相において閉単位球の内部は空となるからである。これはヴェイユの、すべての局所コンパクトハウスドルフ位相ベクトル空間は有限次元になるという一結果である。

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ Rudin 1991, section 3.15.
  2. ^ Köthe 1969, Theorem (4) in §20.9.
  3. ^ Meise & Vogt 1997, Theorem 23.5.

参考文献[編集]

  • Rudin, W. (1991). Functional Analysis (2nd ed.). Boston, MA: McGraw-Hill. ISBN 0-07-054236-8  See section 3.15, p. 68.
  • Meise, Reinhold; Vogt, Dietmar (1997). Introduction to Functional Analysis. Oxford: Clarendon Press. ISBN 0-19-851485-9.  See Theorem 23.5, p. 264.
  • Köthe, Gottfried (1969). Topological Vector Spaces I. New York: Springer-Verlag.  See §20.9.

関連図書[編集]