ネオジム磁石

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ネオジム磁石
HDDのヘッド駆動に使用されているネオジム磁石

ネオジム磁石(ネオジムじしゃく、英語: Neodymium magnet)とは、ネオジムホウ素(ボロン)を主成分とする希土類磁石(レアアース磁石)の一つである。以前から存在していたサマリウム-コバルト合金を超えて、永久磁石のうちで最も強力であり、更に素材が安価で大量製造可能であるので、個人用コンピューター(パソコン)時代の幕開けにも決定的な役割を果たし、風力発電機電気自動車など、エコエネルギー技術を実現する中核的な材料として使われている[1]1984年日本の住友特殊金属(現、日立金属)の佐川眞人によって発明された(ほぼ同時期にアメリカのゼネラル・モーターズでも開発されていたが、粉末焼結製法を併せて開発したのは佐川が世界で最初であることが認められている[1][2][3]。主相はNd2Fe14B。しばしば誤って「ネオジウム磁石」と表記されることがある。

歴史[編集]

これ以前に存在していた最も強力な永久磁石は、サマリウム-コバルト合金であったが、その合金に含まれる二つの物質はどちらも高価であるため普及には困難があった。そこで1983年に住友金属に在職していた佐川は、アメリカ合衆国で開催された国際学会において世界で初めて、レアアースの中で3番目に資源量の多いネオジムを鉄に加えた新しい永久磁石の焼結工程を発表した。最終的にボロンを加えることにより磁性が維持できる限界温度を高めて、自動車のエンジンのように高温で作動する環境でも利用できるようになった[1]。同時期にアメリカ合衆国の科学者もネオジム永久磁石を開発したが、佐川は製造工程も含めて開発をしたため、単独受賞者に決まったことを工学賞財団は明らかにした。 佐川博士は住友金属を退職した後に、インターメタリックスという会社を自ら設立してネオジム磁石の改良を続けた。1990年代には高温でネオジム-鉄-ボロン永久磁石の性能が急減する問題をジスプロシウムを加えることで解決した、2012年にNDFEB株式会社を設立して、ジスプロシウムなしでネオジム-鉄-ボロン永久磁石の性能を維持する方法の研究をしている[1]。安価な永久磁石の開発により、携帯電話やコンピューター、自動車、風力タービンなど現代文明のさまざまなところで情報と動力が利用できるようになった。2022年に佐川は「ネオジム-鉄-ボロン(Nd-Fe-B)永久磁石の粉末焼結製法を開発した功労」によりエリザベス女王工学賞を。製造工程を含めて開発したことにより単独受賞した[1]。エリザベス工学賞財団は、全世界850万台以上の電気自動車、ハイブリッド自動車にネオジム永久磁石が入っていると発表し、工学賞財団は、ネオジム磁石の市場が2026年までに193億ドルに達する見通しであることを明らかにしている[1]

特徴[編集]

磁束密度が高く、非常に強い磁力を持っている。磁気の強さにはN24からN54まで(理論上はN64まで)の等級付けがされる。Nの後の数字は磁気の強さを表している。

2021年(令和3年)、物質・材料研究機構人工知能の学習を利用して、従来の1.5倍の磁力を持つネオジム磁石を製造する事に成功した[4]

利用[編集]

利用される製品の範囲は小型から大型まで幅広い。大型の製品の例としては、電車電気自動車ハイブリッドカーエレベーター駆動用の永久磁石同期電動機界磁などがある。

小型の製品の例としては、ハードディスクドライブCDプレーヤー携帯電話などが挙げられる。ハードディスクドライブでは、ヘッドと呼ばれる記録を読み書きする部品を素早く移動させるためのアクチュエータに用いられる。

音響機器においては、より固いダンパーを採用可能であることから締まった低音が出るとされ、近年のヘッドフォンドライバーの多くに用いられている。サイズを小さくしても強い磁界が得られることから特に小型のインナーイヤー型・カナル型ヘッドフォンには欠かせないものとなっている。

欠点と対策[編集]

機械的に壊れやすいほか、加熱すると熱減磁を生じやすい(キュリー温度は約315℃)という欠点がある。対策として、ジスプロシウムを添加し保磁力を向上させる手法が存在する。1%のジスプロシウムの添加により熱減磁が15℃改善するといわれている。ジスプロシウムは希少な資源であるため、最近ではジスプロシウムを使わずに、ネオジム磁石の結晶粒径を小さくすることにより、熱減磁を改善する研究が行われている[5]

しかし、ネオジムは酸素との反応性が強く、磁石の結晶粒を小さくすると、空気と触れる表面積が増えるため、自然発火することがある。このため、酸素を除外した環境で製造する必要がある。また、非常に錆びやすいので、製品に用いる際は表面をニッケルによりめっきすることが多い。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f 하드디스크 속 영구 자석 개발 日 과학자, 공학계 노벨상 수상” (朝鮮語). n.news.naver.com. 2022年2月5日閲覧。
  2. ^ M. Sagawa; et al. (1984). “Permanent Magnet Materials based on the Rare Earth-Iron-Boron Tetragonal Compounds (Invited)”. IEEE Transactions on Magneticsw MAG-20 (5): 1584-1589. NAID 80002298568. 
  3. ^ 佐川眞人・浜野正昭・平林眞編 『永久磁石 : 材料科学と応用』アグネ技術センター、2007年。ISBN 978-4-901496-38-4 
  4. ^ 「ネオジム磁石」AIで約1.5倍の強化に成功 物質・材料研究機構
  5. ^ “TDKがネオジム含有量を半減した高性能磁石開発”. 日本経済新聞. (2014年10月4日). http://www.nikkei.com/article/DGXMZO77909700T01C14A0000000/ 2015年10月20日閲覧。 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 佐川眞人 (公益財団法人 国際科学技術財団)