スペルカード

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スペルカードとは、同人サークル上海アリス幻樂団制作の、シューティングゲームを中心とした作品群「東方Project」で使用される用語、およびゲームシステムである。

個々の弾幕のパターンに名前をつけることは従来の弾幕ゲームになかった特徴であり、名前があることによりプレイヤーがそれを話題にしやすくなった[1][2]

本記事では、必要に応じて東方Projectの各作品名を略称で記す。詳細は、東方Project#凡例を参照。

ゲームシステム[編集]

スペルカードは、東方ProjectのWindows版ゲーム作品に搭載されているゲームシステムであり、一言で言えば「必殺技」である[1]。相手の攻撃に外見などから連想できる名前がつけられたもので、敵が使用するスペルカードは弾幕として表現され、自機の使用するスペルカードはボムとして発動する。

純狐の”純粋な弾幕地獄”などの一部の例外を除き、スペルカードの名前は“符名「カード名」”という形式になっており、符名にはカード名などをイメージした単語(博麗霊夢の「霊符」「夢符」や霧雨魔理沙の「恋符」「魔符」など。必ずしも「○符」という形式ではなく、フランドール・スカーレットの「禁弾」「QED」など様々な単語が入る)が入り、カード名にはそのスペルカードの攻撃をイメージした様々な名称(霊夢の「夢想封印」「封魔陣」や魔理沙の「マスタースパーク」「イリュージョンレーザー」、フランドールの「カタディオプトリック」「495年の波紋」など)が付けられている。

敵が使用するスペルカード[編集]

スペルカードは各ステージのボスキャラクター(ボス)と、一部の中ボスが使用する。ボスの持つスペルカードを残り0枚にすることで、ボスを倒したという扱いになる。

回数提示
画面上部に、ボスのスペルカードの残り回数が表示される。通常、ボスは数枚から多い者では10枚以上のスペルカードを持っている。
カード宣言
発動時には人物のカットインと共にスペルカード名が表示され、背景がボスキャラクターごとに用意された専用のものに切り替わる。
『妖々夢』以降の作品では、取得時のボーナス点(後述)とスペルカード取得率がスペル名と一緒に表示される。
カードの取得
各スペルカードの発動中、1度もミスをせず、かつボムを使用せずに敵のライフを規定まで削ると、ボーナス点(スペルカードボーナス)が入る。これをスペルカードを「取得する」という。敵のライフを規定まで削っても、スペルカード中に被弾したりボムを使用した場合は、そのスペルカードは取得できない扱いとなる。スペルカードを取得できなくても、ゲームの進行上の大きな問題はなく、ボーナス点が得られないことによってエクステンドが起こり辛くなる程度である。
また、各スペルカードにはそれぞれ制限時間が定められており、敵のライフゲージの右側に残り時間が表示される。スペルカードボーナスは時間の経過で徐々に減っていく。時間切れとなった場合は敵のライフが残っていても次の攻撃に移行するが、この場合は取得した事にはならない。
フランドール・スカーレットの”秘弾「そして誰もいなくなるか?」”など、一般的に「耐久スペル」と呼ばれる一部のスペルカードは、時間切れまで被弾せずボムを使用しないことで取得となる。このようなスペルカードは、敵に当たり判定が無かったり敵自体が画面内に居ないなど、敵を倒せない状態になっていることが多い。
先述したカード宣言時の表示や、ゲームスタート画面から選択できるスコア確認画面などで、今までのプレイで何回スペルカードを取得したか確認できるようになっている。取得したスペルカードはスコア確認画面で文字色が変わるなど、スペルカードの取得はゲームのクリア以外のやり込み要素にもなっている。
難易度による変化
難易度によって同系列のスペルカードでも名前が大きく変わるものがある。Easy・NormalとHard・Lunaticの2段階で変化するものが多い。その内容の変化は大半は難易度相応の弾幕の強化・弱化に留まるが、中にはほとんど別の弾幕に変わってしまうスペルカードも存在する。

自機が使用するスペルカード[編集]

自機のスペルカードは「ボム」として搭載されている。使用すると人物のカットインと共にスペルカード名が表示され、一定時間完全無敵となる特殊攻撃が発動する。この特殊攻撃には敵弾を消去する効果があるものが多い。自機の種類によって、威力、弾消し性能、無敵時間などが異なっている。作品によっては通常時と低速移動時で攻撃が変わる。「低速ボム」「集中ボム」と呼ばれることが多い。妖々夢の霊夢の霊符「夢想封印 散」と霊符「夢想封印 集」のように同じ弾幕攻撃が違う動きをする変化もあれば、妖々夢の魔理沙の恋符「ノンディレクショナルレーザー」と恋符「マスタースパーク」のようにスペルカード名から攻撃まで別物になる変化もある。

その他[編集]

PC-98版ゲーム作品では、「スペルカード」という名称は無く、単にシューティングゲームとしての自機のボムや特徴的な敵弾があるだけであった。

対戦型シューティングゲームである『花映塚』や、弾幕アクションゲームである『萃夢想』『緋想天』などではゲームシステムが異なるため、スペルカードの表現方法も異なっている。

永夜抄』には、「ラストスペル」という特徴的なシステムが存在する。

作中での設定[編集]

本項目では、東方Projectの作中設定としてのスペルカードについて、主に東方Project関連書籍である『東方求聞史紀 〜 Perfect Memento in Strict Sense.』の記述をもとに解説する。

スペルカードルール[編集]

スペルカードルールは、幻想郷内での揉め事や紛争を解決するための手段とされており、人間と妖怪が対等に戦う場合や、強い妖怪同士が戦う場合に必要以上に力を出さないようにするための決闘ルールである。作中では「弾幕ごっこ」と呼ばれることもある[3]

基本的に、あらかじめ技の名前と命名しておいた名前の意味を体現した技をいくつか考えておき、それぞれの技名を契約書形式で記した契約書を任意の枚数所持しておくことになる。この契約書を「スペルカード」と呼び、名前の通りカードが使われることが多い。

対決の際には、決闘開始前に決闘内での使用回数を提示して、技を使う際には「カード宣言」をする。

体力が尽きるかすべての技が相手に攻略された場合は負けとなる。たとえ余力が残っていても提示した全枚数を攻略されたら、負けを認めなくてはならない。技の美しさにもウェイトが置かれていて、美しさを競うという面もある。

このルールにより、異変解決者は異変を起こした妖怪に破れても何度でも挑戦でき、妖怪は一度でも敗れれば負けを認め後腐れなく異変解決となるようになっている。

導入の経緯[編集]

スペルカードルールが導入されるきっかけとなったのが「吸血鬼異変」である。これは、様々な理由から幻想郷の妖怪が著しく弱体化していたところに突如として強大な吸血鬼が現れ、瞬く間に妖怪たちを征服していった事件である。

異変の解決後、妖怪たちは博麗の巫女である博麗霊夢に相談し、「スペルカードルール」と呼ばれる一連のルールを持つ決闘法を制定、導入することを決定した。これにより、「スポーツ感覚に近い決闘」と表現されるような闘いを気軽に行うことが可能となった。大規模な異変を引き起こしても、一度敗れたら素直に引き下がって禍根を残さないので、妖怪は異変を起こしやすくなり、人間も異変を解決しやすくなった(ただし当たり所が悪ければ死ぬこともある[4])。これにより、幻想郷を幻想郷として維持するのに不可欠とされる「妖怪が人間を襲い、人間は妖怪を退治する」という関係が、疑似的な決闘という形で保たれるようになった。

この「スペルカードルール」を用いて初めて起こされた異変が、『紅魔郷』のメインストーリーとなっている「紅霧異変」である。

スペルカードルール以外にも様々な決闘法が作られたが、スペルカードルールによる弾幕の美しさと多様さが大ウケしたため、他の決闘法はあまり使われていない。

霧雨魔理沙によるスペルカード考察[編集]

霧雨魔理沙が書いた本」という体裁をとる、東方Projectの原作者であるZUNの書籍『The Grimoire of Marisa』では、魔理沙は『紅魔郷』(紅霧異変)から『地霊殿』までの間に自身が見たスペルカードの一部を纏めている。魔理沙は同書の中で「ルールの無い世界では弾幕はナンセンスである」と語り、八雲紫のスペルカード「弾幕結界」や藤原妹紅のスペルカード「インペリシャブルシューティング」のような「攻撃するよりも人に見せる事」に重きを置いたスペルカードは純粋な殺し合いをする場合ではナンセンスであると語っており、スペルカードとは「殺し合い」を「遊び」に変えるルールであるとしている[5]

また魔理沙は『儚月抄』でも、スペルカードを知らない綿月依姫にルールを説明する際、「この世でもっとも無駄なゲーム」であると教えている。『儚月抄』は、2012年現在、ゲーム作品以外で明確にスペルカードルールに則った戦いが描かれた唯一の作品である。

出典[編集]

  1. ^ a b 4gamer.net - 「東方」制作者インタビュー「シューティングの方法論」 第1回 ZONE Z”. 2008年7月8日閲覧。
  2. ^ さやわか「僕たちのゲーム史」「第七章 楽しみはゲームの外にある」「シューティングゲームは生き残った」
  3. ^ 『紅魔郷』霊夢ルートのExtraステージ、フランドール・スカーレットの発言。
  4. ^ 2004年に明治大学で行われた講演会「東方の夜明け(アフターレポート4ページ目)」。
  5. ^ 『The Grimoire of Marisa』pp.164-166「あとがき」。