コンテンツにスキップ

カラカサタケ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カラカサタケ
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
亜門 : ハラタケ亜門 Agaricomycotina
: ハラタケ綱 Agaricomycetes
亜綱 : ハラタケ亜綱 Agaricomycetidae
: ハラタケ目 Agaricales
: ハラタケ科 Agaricaceae
: カラカサタケ属 Macrolepiota
: カラカサタケ M. procera
学名
Macrolepiota procera (Scop.) Singer (1948)[1]
シノニム

ほか

英名
Parasol mushroom

カラカサタケ(唐傘茸[3]学名: Macrolepiota procera)は、ハラタケ科カラカサタケ属の特大型のキノコ。ヨーロッパ、北米をはじめ分布は世界中に広がる。ヨーロッパの英語圏ではパラソルマッシュルームと呼んで親しまれている[4]。夏から秋にかけて、雑木林や公園の草むらなどに生える。加熱して食用されるが、生食すると中毒を起こす。

名称

[編集]

和名の由来は、傘が開いたときに唐傘が開いたように見えるからとされる[5][6]。成長すると弾力があり、幼菌を手で握っても離すとふわりと元に戻るのでニギリタケ(握茸)の別名もある[7][8]。地方によっては、オシコンボ(香川県)、カラカサモダシ、キジタケ、ツルタケ[注 1]、ニンギリコの地方名で呼ばれることもある[9][10]

日本よりも欧米で人気があるキノコで、英名も parasol mushroom(パラソルマッシュルーム)で親しまれ、「傘キノコ」の意である[7][8]

学名の属名Macrolepiota は、Macro(大きい)+lepiota(鱗で覆われた耳)を合わせたもので、種小名 procera は「背の高い」という意味である[11]。大きな鱗片に被われた傘を持ち、高さがキノコとしては背が高くなることから名付けられている[11]

生態

[編集]

腐生菌[3](腐生性[6])。夏から秋にかけて、竹林や雑木林の林床、草地、公園の植え込み、道端などの光が差し込む場所に単生または散生する[5][3][9]。一列に並ぶ菌輪をつくることもある[5]。ときにモミなどの針葉樹林に発生することもある[12]。森の中や林道わきなどにもよく生える[8]

形態

[編集]

子実体からなる。常に高さは30センチメートル (cm) を超え、大きなものでは40 - 50 cmほどになるものもある[3][5]。傘は径8 - 20 cmで中には30 cmに達するものもあり、はじめ卵形で丸い袋状で、成長すると丸山形になり、さらに一定の高さまで成長すると展開して中高で平らに開く[5][3][8]。表皮は淡褐色から淡灰褐色で、傘の成長に従い亀裂ができ、それが褐色の鱗片となる[5][3]

傘の裏はヒダが密で白色、柄に対して隔生している[5][3]

は全体に細く長さ15 - 40 cmにもなり[5]、基部が太く中空で、表皮は生長するとひび割れて褐色の鱗片を帯びてだんだら模様となる[3][9]。柄の上部には、リング状で厚いツバをもち[3][12]、このツバは柄に付着しておらず、上下に動かすことができ、時にずれ下がっている[9]

は白色で無味無臭[3]。傷による変色は見られない[3]。成長するとやわらかくなり、弾力性のある海面状になる[3][8]。傘に弾力があり、傘を握っても離すと元の形に戻ることから、「ニギリタケ」の名称が生まれた[3][9][10]。柄は繊維質[3]

利用

[編集]

無味・無臭で従来から食用とされるが生食は禁物で[3]、必ず湯がくなど火を通す下処理をしてから料理に利用する[5][10]。大型のキノコのため傘と柄に分けて、天ぷらフライすき焼き炒め物きのこ汁など加熱したうえで利用される[5]。傘はふわふわして大きさの割にボリュームがなく、汁物にするとかさが減るが、フライにすると大きさが楽しめる[10]。柄は歯切れがよく、ソテー唐揚げに合う[8]

毒性

[編集]

生で食べると消化器系の中毒症状が現れ、蕁麻疹下痢ぜんそく、ショックなどのアレルギーに至ることもある[9]。毒成分についてはわかっていない[9]

なお、外観が類似する猛毒種がいくつか存在する。オオシロカラカサタケドクキツネノカラカサドクカラカサタケの幼菌をカラカサタケと間違って食べ、中毒を起こした例も存在する。

文化

[編集]

植物学者の牧野富太郎は、傘を握っても元に戻る性状の古名ニギリタケとよばれる本種から、「ニギリタケ握り甲斐なき細さかな」の俳句を残している[3][7]

類似するキノコ

[編集]

平地ではマントカラカサタケ (Macrolepiota detersa) のほうが多く生え、つばが膜状でマントのように見える点で違いが見られる[10]。 誤食に注意を要する毒キノコにドクカラカサタケ (Chlorophyllum neomastoideum) やオオシロカラカサタケ (Chlorophyllum molybdites) など、カラカサタケに似ているキノコがある[10][4]

オオシロカラカサタケは、成熟するとヒダの色がオリーブ色になる点で区別できる[8]。元来、熱帯から亜熱帯性のキノコであるが、近年の地球温暖化の影響で分布域を広げ、日本でもふつうに見られるようになっている[4]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 標準和名で、ツルタケ(テングタケ科、学名: Amanita vaginata)というキノコも存在する。

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f g Macrolepiota procera”. MYCOBANK Database. 国際菌学協会 (IMA) とウェスターダイク菌類生物多様性研究所. 2025年3月2日閲覧。
  2. ^ サミュエル・フレデリック・グレイ (1766 – 1828) or ジョン・エドワード・グレイ (1800-1875)
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 吹春俊光 2010, p. 40.
  4. ^ a b c 大作晃一 2015, p. 46.
  5. ^ a b c d e f g h i j 瀬畑雄三 監修 2006, p. 38.
  6. ^ a b 大作晃一 2015, p. 43.
  7. ^ a b c 白水貴 監修 2014, p. 42.
  8. ^ a b c d e f g HS 2024, p. 227.
  9. ^ a b c d e f g 長沢栄史 監修 2009, p. 117.
  10. ^ a b c d e f 大作晃一 2005, p. 80.
  11. ^ a b 大作晃一 2005, p. 96.
  12. ^ a b 牛島秀爾 2021, p. 50.

参考文献

[編集]
  • 牛島秀爾『道端から奥山まで採って食べて楽しむ菌活 きのこ図鑑』つり人社、2021年11月1日。ISBN 978-4-86447-382-8 
  • 大作晃一『山菜&きのこ採り入門 : 見分け方とおいしく食べるコツを解説』山と渓谷社〈Outdoor Books 5〉、2005年9月20日。ISBN 4-635-00755-3 
  • 大作晃一『きのこの呼び名事典』世界文化社、2015年9月10日。ISBN 978-4-418-15413-5 
  • 白水貴 監修、ネイチャー&サイエンス 編『毒きのこ : 世にもかわいい危険な生きもの』新井文彦 写真、幻冬舎、2014年9月20日。ISBN 978-4-344-02640-7 
  • 瀬畑雄三 監修 家の光協会編『名人が教える きのこの採り方・食べ方』家の光協会、2006年9月1日。ISBN 4-259-56162-6 
  • 茸本朗、HS『野草・山菜きのこ図鑑 : 一年中使えるフィールドガイド決定版!』日本文芸社、2024年9月1日。ISBN 978-4-537-22234-0 
  • 長沢栄史 監修、Gakken 編『日本の毒きのこ』学習研究社〈増補改訂フィールドベスト図鑑 13〉、2009年9月28日。ISBN 978-4-05-404263-6 
  • 吹春俊光『おいしいきのこ 毒きのこ』大作晃一(写真)、主婦の友社、2010年9月30日。ISBN 978-4-07-273560-2 
  • 長沢栄史 監修、安藤洋子ほか 著『日本の毒きのこ』学習研究社、2003年 ISBN 4054018823
  • 本郷次雄 監修、幼菌の会 編『カラー版 きのこ図鑑』家の光協会、2001年 ISBN 4259539671
  • 大舘一夫・長谷川明 監修、都会のキノコ図鑑刊行委員会 著『都会のキノコ図鑑』八坂書房、2007年 ISBN 4896948912
  • 前川二太郎 監修、トマス・レソェ 著『世界きのこ図鑑』新樹社、2005年 ISBN 4787585401
  • 小宮山勝司『きのこ大図鑑』永岡書店、2008年 ISBN 9784522423981
  • 今関六也ほか 編『日本のきのこ』山と渓谷社、1988年 ISBN 4635090205
  • 佐久間大輔 監修、大舘一夫ほか 著『考えるキノコ 摩訶不思議ワールド』INAX出版、2008年 ISBN 9784872758467

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]