エレナ・フェッランテ

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エレナ・フェッランテ
Elena Ferrante
誕生 1943年????
イタリアの旗 イタリア ナポリ
職業 小説家
言語 イタリア語
国籍 イタリアの旗 イタリア
活動期間 1992年 - 現在
ジャンル 小説
代表作 ナポリの物語英語版(ナポリ四部作)
公式サイト elenaferrante.com
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エレナ・フェッランテイタリア語: Elena Ferranteイタリア語発音: [ˌɛːlena ferˈrante]1943年[1] - )は、イタリア人作家ペンネームである。フェッランテがイタリア語で書いた作品は各国語に翻訳されているが、中でも「ナポリの物語英語版」シリーズが1番の代表作となっている[2]

2016年には、『タイム』誌の世界で最も影響力のある100人に選出された[3]

執筆活動[編集]

フェッランテは今までに6作品を上梓しているが、その中で最も知られているのは[4]ナポリ出身の少女2人の人生を描いた4部作「ナポリの物語英語版」シリーズである[5]。4部作は2011年に刊行された『リラとわたし』(伊: L'amica geniale)に始まり[1]、2012年刊行の "Storia del nuovo cognome"、2013年刊行の "Storia di chi fugge e di chi resta"、2014年刊行の "Storia della bambina perduta" と続くもので、最終作はストレーガ賞ブッカー賞にもノミネートされた[6][7][8]。またこの本は、2015年の『ニューヨーク・タイムズ』紙が選ぶ10冊に選出された[9]。日本では早川書房から『リラとわたし』のタイトルで第1作が刊行され、その後シリーズ全4作が出版される予定である[10][11]

フェッランテは、「本というものは、ひとたび書かれたら、作者の必要など無いのです」と発言している[12]。彼女は、自身の匿名性が最初からの条件であること[13]、また名前を明かさないことが執筆の鍵であることを繰り返し主張している[14]

「ひとたび完成した本が自分の手を離れて旅立ったら、作品の脇に実在の、生身の自分が一切現れないとひとたび知ったなら—まるで本が子犬で自分が飼い主であるように—書く上で新しい世界を見ることができた。まるで、世界に自分の中から言葉を放ち出したように感じた」 — エレナ・フェッランテ、『パリ・レビュー英語版』212号・2015年春[注釈 1]

初めて英語に翻訳された作品は "Delia's Elevator" と題された短編で、アドリア・フリッチが翻訳を担当し、2004年のアンソロジー "After the War" に収録された[16]。作品はタイトルロール・デリアの母親が埋葬される日を描いたもので、彼女が育ったアパートの古いエレベーターを訪れるシーンがある。

匿名性[編集]

世界的に名を知られる作家でありながら[17]、フェッランテは処女作を刊行した1992年以来、自身の匿名性を貫いている[15]。彼女は2015年のストレーガ賞ノミネートの際も匿名を貫いた[7]。2003年に刊行されたノンフィクション作品 "La Frantumaglia" は、フェッランテ自身が作家としての経験について語り、彼女と編集者との文通が書籍化されたが、作品は彼女の正体にわずかな光を当てた(作品は2016年に英訳されたきりである)[18]。この一方で、2013年の『ザ・ニューヨーカー』の記事において、批評家のジェームズ・ウッド英語版は、収集した手紙から彼女について広く受け入れられている認識をまとめた。

「数多くの彼女の手紙が収集され、出版されてきた。それらから、彼女がナポリで育ち、数年をイタリア国外で過ごしたことが伺える。彼女は古典の学位を持っている、そして母親になったことに言及している。彼女の著作やインタビューから、現在は結婚していないということも分かるかもしれない。それに、『わたしは学び、翻訳業に携わり、教えた』とも書いている」 — ジェームズ・ウッド英語版、『ザ・ニューヨーカー』2013年1月21日号[12]

2016年3月、イタリアの小説家・言語学者で、ペトラルカダンテ学者かつピサ大学教授のマルコ・サンタガタ(伊: Marco Santagata)は[19]、フェッランテの正体について自説を公表した。彼の論文ではフェッランテの著作が言語学的に分析され、小説内でピサの街並みが詳述されていること、作者が現代イタリア政治に精通していることが指摘された。これらの情報から、サンタガタは作者にピサ在住経験があり1966年にこの街を離れたと結論付け、1964年から1966年までピサで学んでいたナポリの教授、マルチェッラ・マルモ(伊: Marcella Marmo)こそフェッランテだと特定した。一方、マーモも出版社も、彼の説を明確に否定している[4]

2016年10月、調査報道記者のクラウディオ・ガッティ (Claudio Gattiが記事を発表し、不動産決済や印税支払などの金融記録から、ローマに拠点を置く翻訳家のアニータ・ラジャ(伊: Anita Raja)こそフェッランテだと報じた[20]。ガッティの記事には、出版界から、プライバシーの侵害だとの批判が数多く寄せられた[13][21][22][23]。イギリスの作家であるマット・ヘイグは、「『本当の』エレナ・フェッランテを暴こうとするのは恥ずかしくて意味も無いと考えてくれ。作家が実際にどんな人物かは、本人が書いた本が教えてくれる」とツイートした[21]。一方で、フェッランテの来歴に関する情報には価値があると評価する者もいた[24][25]。2016年10月には、イタリアの虚報記者[26]であるトンマーゾ・デベネデッティ (Tommaso Debenedettiが、スペインの日刊紙『エル・ムンド』のウェブサイトにラジャが自身がフェッランテだと認めた旨を公表したが、フェッランテ自身の出版社によってすぐに否定されている[27]

翻案・映像化[編集]

フェッランテの著作のうち2作品が映画化されている。"L'amore molesto"(英題:"Troubling Love")はマリオ・マルトーネによって『愛に戸惑って英語版』(1995年)として長編映画化され、また "I giorni dell'abbandono"(英題:The Days of Abandonment")は同名映画 (enとしてロベルト・ファエンツァ監督で映画化された[28]

32話からなる「ナポリの物語英語版」シリーズ映像化は、イタリア放送協会 (RAI)・HBO共同企画、イタリアの制作会社ワイルドサイド・ファンダンゴイタリア語版の共同制作で、2018年3月からナポリで撮影が開始された[29][1]

作品[編集]

  • 1992年 - L'amore molesto
    • 英訳 - Troubling Love. アン・ゴールドスタイン英語版(訳). New York: Europa Editions. (2006). pp. 139. ISBN 9781933372167. OCLC 946579359. [30]
  • 2002年 - I giorni dell'abbandono (en
    • 英訳 - The Days of Abandonment. アン・ゴールドスタイン(訳). New York: Europa Editions. (2005). pp. 188. ISBN 1933372001. OCLC 955582082. [30]
  • 2003年 - La frantumaglia
    • 英訳 - Frantumaglia - A writer's journey. アン・ゴールドスタイン(訳). New York: Europa Editions. (2016). ISBN 1609452925. OCLC 1000112254. 
  • 2006年 - La figlia oscura
  • 2007年 - La spiaggia di notte(英訳 - The Beach at Night、刊行予定)
  • 2011年 - L'amica geniale(『ナポリの物語』第1巻)
  • 2012年 - Storia del nuovo cognome, L'amica geniale volume 2(『ナポリの物語』第2巻)
  • 2013年 - Storia di chi fugge e di chi resta, L'amica geniale volume 3(『ナポリの物語』第3巻)
    • 英訳 - Those Who Leave and Those Who Stay. アン・ゴールドスタイン(訳). New York: Europa Editions. (2014). pp. 418. ISBN 9781609452339. OCLC 870919836. [30]
  • 2014年 - Storia della bambina perduta, L'amica geniale volume 4(『ナポリの物語』第4巻)
    • 英訳 - The Story of the Lost Child. アン・ゴールドスタイン(訳). Melbourne, Vic.: The Text Publishing Company. (2015). ISBN 9781925240511. OCLC 910239891. 

受賞歴[編集]

脚注[編集]

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注釈[編集]

  1. ^ 原文:Once I knew that the completed book would make its way in the world without me, once I knew that nothing of the concrete, physical me would ever appear beside the volume—as if the book were a little dog and I were its master—it made me see something new about writing. I felt as though I had released the words from myself.[15]

出典[編集]

  1. ^ a b c 早川書房 (2017年7月7日). “「いつかの自分をみているよう」世界中の女性の共感をよぶナポリ発人気作『リラとわたし ナポリの物語1』とは?訳者あとがきを公開。”. note.mu. 2017年8月11日閲覧。
  2. ^ "End of author's anonymity". Toronto Star, November 1, 2016. Page E1. Jonathan Forani.
  3. ^ a b Groff, Lauren (2016年4月21日). “TIME 100 Artists, Elena Ferrante”. Time. 2016年4月28日閲覧。
  4. ^ a b Donadio, Rahel (2016年3月13日). “Who Is Elena Ferrante? An Educated Guess Causes a Stir”. New York Times. https://www.nytimes.com/2016/03/14/books/who-is-elena-ferrante-an-educated-guess-causes-a-stir.html?_r=0 2016年3月14日閲覧。 
  5. ^ Turner, Jenny (2014年10月). “The Secret Sharer. Elena Ferrante's existential fiction”. Harper's Magazine英語版. p. 2. 2017年8月11日閲覧。
  6. ^ Wise, Louis (2015年3月21日). “Elena Ferrante: mystery creator of her Neapolitan Novels”. オーストラリアン. 2017年1月26日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2017年8月11日閲覧。
  7. ^ a b Kirchgaessner, Stephanie (2015年6月21日). “Italian author Elena Ferrante stays in shadows despite prize nomination”. 2017年8月11日閲覧。
  8. ^ Elena Ferrante: Journalist defends unmasking 'anonymous' author”. BBCニュース. BBC (2016年10月3日). 2017年8月11日閲覧。
  9. ^ The 10 Best Books of 2015”. The New York Times (2015年12月3日). 2017年8月11日閲覧。
  10. ^ イタリア・ナポリ発の人気作『わたしの賢いお友だち(仮題)』試し読み&感想募集!”. 早川書房 (2017年5月1日). 2017年8月11日閲覧。
  11. ^ 早川書房 (2017年8月2日). “日経新聞、朝日新聞にて紹介! ひりひりする嫉妬まじりの憧れと友情。世界中の女性が夢中になっている『リラとわたし ナポリの物語1』公開vol.1”. note.mu. 2017年8月11日閲覧。
  12. ^ a b Wood, James (2013年1月21日). “Women on the Verge: The Fiction of Elena Ferrante”. ザ・ニューヨーカー. Newyorker.com. 2013年1月29日閲覧。 “...a number of her letters have been collected and published. From them, we learn that she grew up in Naples, and has lived for periods outside Italy. She has a classics degree; she has referred to being a mother. One could also infer from her fiction and from her interviews that she is not now married...In addition to writing, “I study, I translate, I teach.”[中略] I believe that books, once they are written, have no need of their authors.”
  13. ^ a b Shephard, Alex. “The NYRB’s argument for doxing Elena Ferrante is not very good”. ニュー・リパブリック英語版. 2017年8月11日閲覧。
  14. ^ Domonoske, Camila (2016年10月3日). “For Literary World, Unmasking Elena Ferrante's Not A Scoop. It's A Disgrace”. ナショナル・パブリック・ラジオ. 2017年8月11日閲覧。
  15. ^ a b Ferri, Sandro; Ferri, Sandra (Spring 2015). “Interview: Elena Ferrante, Art of Fiction No. 228”. The Paris Review英語版. http://www.theparisreview.org/interviews/6370/art-of-fiction-no-228-elena-ferrante 2015年6月13日閲覧。 
  16. ^ King, Martha Frizzi, Adria訳 (2004). After the War: A Collection of Short Fiction by Postwar Italian Women. New York: Italica Press. ISBN 978-0-934977-55-5. https://books.google.com/books?id=BPNm1NxhvxkC. 
  17. ^ Waldman, Adelle (2016年1月15日). “The Ideal Marriage, According to Novels”. ザ・ニューヨーカー. 2017年8月11日閲覧。
  18. ^ Elena Ferrante 'Unveiled' as Jewish German Translator”. forward.com (2016年10月3日). 2017年8月11日閲覧。
  19. ^ Università di Pisa UniMap Marco Santagata”. 2017年8月11日閲覧。
  20. ^ Gatti, Claudio (2016年10月10日). “Elena Ferrante: An Answer?”. ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス英語版. 2017年8月11日閲覧。
  21. ^ a b Sky News (2016年10月3日). “Backlash for Reporter Who 'Outs' ID of Anonymous Writer Behind Elena Ferrante”. Yahoo!. https://www.yahoo.com/style/backlash-reporter-outs-id-anonymous-writer-behind-elena-111500055.html 2017年8月11日閲覧. "Matt Haig, a British novelist and journalist, tweeted: “Think the pursuit to discover the ‘real’ Elena Ferrante is a disgrace and also pointless. A writer’s truest self is the books they write.”" 
  22. ^ Alexander, Lucy (2016年10月5日). “Why is the exposure of Elena Ferrante causing such outrage?”. BBC News Online. 2016年10月6日閲覧。
  23. ^ Kirchgaessner, Stephanie (2016年10月3日). “'Stop the siege of Elena Ferrante,' says publisher amid unmasking row”. ガーディアン. https://www.theguardian.com/world/2016/oct/03/elena-ferrante-anita-raja-unmasking-publisher-outing-my-brilliant-friend 2017年8月11日閲覧。 
  24. ^ Emre, Merve (2016年10月6日). “The Elenic Question”. 2017年8月11日閲覧。
  25. ^ Bennett, Catherine (2016年10月8日). “Why the prissy reaction to Ferrante being unmasked?”. ガーディアン. https://www.theguardian.com/commentisfree/2016/oct/08/prissy-response-to-elena-ferrante-being-unmasked 2017年8月11日閲覧。 
  26. ^ Dewey, Caitlin (2016年6月30日). “Meet the internet's 'greatest liar' Tommaso Debenedetti, whose hoaxes have fooled millions”. シドニー・モーニング・ヘラルド. http://www.smh.com.au/technology/web-culture/meet-the-internets-greatest-liar-tommaso-debenedetti-whose-hoaxes-have-fooled-millions-20160629-gpuzzs.html 2017年8月11日閲覧。 
  27. ^ Anita Raja conferma su Twitter: “sono io Elena Ferrante. Ma ora lasciatemi vivere (e scrivere) in pace”. Ma dalla casa editrice smentiscono: “tutto falso, è un fake””. lanotiziagiornale.it (2016年10月5日). 2017年8月11日閲覧。
  28. ^ 第62回ヴェネチア国際映画祭 - コンペティション部門出品作品”. シネマトゥデイ. 2017年8月11日閲覧。
  29. ^ Moylan, Brian (2016年2月9日). “Elena Ferrante’s Neapolitan novels set for TV adaptation”. The Guardian. https://www.theguardian.com/tv-and-radio/tvandradioblog/2016/feb/09/neopolitan-novels-elena-ferrante-tv-adaptation 2017年8月11日閲覧。 
  30. ^ a b c d e f Donadio, Rachel (2014年12月18日). “Italy’s Great, Mysterious Storyteller”. The New York Review of Books. http://www.nybooks.com/articles/archives/2014/dec/18/italys-great-mysterious-storyteller/ 2015年6月13日閲覧。 
  31. ^ 'Anonymous' author on international Man Booker longlist”. BBC (2016年3月10日). 2017年8月11日閲覧。
  32. ^ ロイター通信 (2016年4月15日). “Elena Ferrante could be the first-ever anonymous Booker winner - Times of India”. ザ・タイムズ・オブ・インディア. 2017年8月11日閲覧。
  33. ^ 2016 Independent Publisher Book Awards Results”. Independent Publisher. 2016年5月10日閲覧。
  34. ^ Chad W. Post (2014年4月14日). “2014 Best Translated Book Awards: Fiction Finalists”. Three Percent. 2014年4月18日閲覧。

参考文献[編集]

  • "Anita Raja a Tommaso Debenedetti: Yo Soy Elena Ferrante" on El Mundo, Madrid 10-12-2016

発展資料[編集]

  • Buonanno, Elda. La Frantumaglia: Elena Ferrante's "fragmented self" Ph.D. thesis, City University of New York, 2011.
  • Milkova, Stiliana. "Mothers, Daughters, Dolls: On Disgust in Elena Ferrante's La figlia oscura". Italian Culture 31:2 (September 2013).

外部リンク[編集]