コンテンツにスキップ

アヴェンジャー級掃海艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アヴェンジャー級掃海艦
基本情報
艦種 掃海艦(MCM)
運用者  アメリカ海軍
就役期間 1987年 - 現在
前級 アグレッシブ級(MSO)
次級 フリーダム級(LCS)
要目
満載排水量 1,379トン
全長 68.4メートル (224 ft)
最大幅 11.9メートル (39 ft)
吃水 4.6メートル (15 ft)
機関方式 CODAD方式
主機 ディーゼルエンジン×4基
推進器 スクリュープロペラ×2軸
バウスラスター
出力 2,600馬力
速力 13.5ノット (25.0 km/h)
乗員 士官8名+兵員76名
兵装 12.7mm機銃×2挺
レーダー AN/SPS-55 対水上捜索用
LN66 / AN/SPS-66 航海用
ソナー AN/SQQ-32(V)3 可変深度式×1基
特殊装備 AN/SLQ-38係維掃海具
AN/SLQ-37感応掃海具
AN/SLQ-48機雷処分具
テンプレートを表示

アヴェンジャー級掃海艦(アヴェンジャーきゅうそうかいかん、英語: Avenger-class mine countermeasures ship)は、アメリカ海軍掃海艦の艦級。アメリカ海軍では対機雷戦艦艇 (mine countermeasures ship) と呼称している[1][2]ネームシップの建造費は9,970万ドル(約249億円)であった[3]

来歴

[編集]

1970年代初期、優勢なアメリカ海軍原子力潜水艦に対抗して、ソビエト連邦軍は機雷の高性能化・深深度化を進めており、アンテナ機雷や短係止上昇式機雷のなかには水深2,000メートルまで敷設可能なものも出現してきた。このような深深度に敷設された機雷には、従来の掃海艇では対処困難であり、海中を航行する潜水艦にとって大きな脅威となった[4][5]

当時のアメリカ海軍はヘリコプターによる航空対機雷戦に注力していたが、これは深深度掃海には不向きであった。また1973年のベトナム掃海作戦などの戦訓もあって、アグレッシブ級などの大型掃海艇(MSO)の後継として、外洋型掃海・機雷掃討艦艇の開発を進めていた。これによって建造されたのが本級である[6]

設計

[編集]
横須賀港横須賀市)における「アヴェンジャー」

磁気機雷への触雷を防ぐため、船体は非磁性化する必要があり、アグレッシブ級と同様の木造構造となっている。一方、深深度掃海のための各種装備を収容する必要から大型化しているため、所定の強度を確保するための配慮がなされている。長船首楼船型を採用し、全長の4分の3程度を占める船首楼甲板を強度甲板とすることで、縦強度の保持および部材寸法の上昇を抑えている[7]。なお安定性の問題から、就役後に主船体を1.8メートル延長する改修が行われた[1]

外板は、内側2層は30度の両矢羽張り、3層目は厚板を前後方向に、そして最外層は薄板を片矢羽に張っている。合計厚さは114ミリメートル、すべて接着である。フレーム部材は254×457ミリメートル、1.07メートルおきに配されている[1]。なお外板と甲板はガラス繊維強化プラスチックでオーバーレイアップされている[7]

主機関としては、ディーゼルエンジン4基で2軸の可変ピッチ・プロペラを駆動するCODAD方式を採用している。このディーゼルエンジンは、初期建造艦ではウォキショーL-1616(単機出力570馬力)が搭載されていたが、3番艦以降ではイソッタ・フラスキーニID36 SS6V-AM(単機出力650馬力)に強化された。一方、静音性が要求される掃討時には、低速電動機(単機出力200馬力)2基による電気推進を行う。また精密な操艦のため、全周旋回式のバウスラスターも備えている[1]。なお、ID36 SS6V-AMには信頼性の問題が指摘されている[2]

電源としては、主機関と同型のディーゼルエンジンを原動機とする発電機を3セット搭載して、1,125キロワットの出力を確保している[1]。さらに掃海発電機として、出力1,750キロワットのシーメンス-アリス-ソラー社製ガスタービン発電機も搭載される[2]

装備

[編集]

C4ISTAR

[編集]

本型の対機雷戦システムの大きな特徴が、情報処理装置を中核としたシステム構築がなされている点である。その機種としては、当初はAN/SSN-2(V)精密統合航法システム(precision-integrated navigation system, PINS)およびAN/SYQ-13航法・指揮統制システムが用いられていた。その後、1994年より、イギリスのGEC-マルコーニ社のNAUTIS-Mのアメリカ版であるAN/SYQ-15に更新された[2]

機雷探知機としては、新開発のAN/SQQ-32が予定されていたが、開発が間に合わず、前期建造艦ではMSOで搭載されていたAN/SQQ-14を改良したAN/SQQ-30が搭載されており[3]、6番艦よりAN/SQQ-32を装備化した[1]。これは、可変深度ソナーとハル・ソナーを兼用するという点ではAN/SQQ-14/30と同様であるが、ヨーロッパのトムソン・シントラ社も開発に加わっており、NAUTIS-M掃海艇情報処理装置などと統合されてシステム化されている[8]

機雷掃討

[編集]

上記の経緯より、本級では深深度掃海能力が付与されており、その最重要の装備となるのがMk.116 mod.0機雷処分システム(mine neutralization system, MNS)である。MNSの中核となるのがハネウェル社製のROVであるAN/SLQ-48機雷処分具で、これは重量1,136キログラム、出力15馬力の圧力モーター2基によって6ノットの速力を発揮できる[1]。母艇給電式であり、ケーブル長は1,524メートル、運用深度は500メートルと推定されている[5]

その後、2012年より、使い捨て式のシーフォックス自走式機雷処分用弾薬(EMD)による更新が始まっている[2]

機雷掃海

[編集]

本型は機雷掃海にも対応しており、下記のような掃海具が搭載されている。

AN/SLQ-38係維掃海具
いわゆるオロペサ型係維掃海具であり、タイプ0・サイズ1に相当する[2]
AN/SLQ-37感応掃海具
磁気機雷に対してはM-Mk.5、M-Mk.6、また音響機雷に対してはA-Mk.2、A-Mk.4(V)、A-Mk.6[B]が搭載された[2]

同型艦

[編集]
# 艦名 起工 進水 就役 退役
MCM-1 アヴェンジャー
USS Avenger
1983年
6月3日
1985年
6月15日
1987年
9月12日
2014年
9月30日
MCM-2 ディフェンダー
USS Defender
1983年
12月1日
1987年
4月4日
1989年
9月30日
2014年
10月1日
MCM-3 セントリー
USS Sentry
1984年
10月8日
1986年
9月20日
1989年
9月2日
MCM-4 チャンピオン
USS Champion
1984年
6月28日
1989年
4月15日
1991年
2月8日
2020年
8月25日
MCM-5 ガーディアン
USS Guardian
1985年
5月8日
1987年
6月20日
1989年
12月16日
2013年
2月15日
MCM-6 デヴァステイター
USS Devastator
1987年
2月9日
1988年
6月11日
1990年
10月6日
MCM-7 パトリオット
USS Patriot
1987年
3月31日
1990年
5月15日
1991年
12月13日
MCM-8 スカウト
USS Scout
1987年
6月8日
1989年
5月20日
1990年
12月15日
2020年
8月26日
MCM-9 パイオニア
USS Pioneer
1989年
6月5日
1990年
8月25日
1992年
12月7日
MCM-10 ウォーリア
USS Warrior
1989年
9月15日
1990年
12月8日
1993年
4月7日
MCM-11 グラディエイター
USS Gladiator
1990年
5月7日
1991年
6月29日
1993年
9月18日
MCM-12 アーデント
USS Ardent
1990年
10月22日
1991年
11月16日
1994年
2月18日
2020年
8月27日
MCM-13 デクストラス
USS Dextrous
1991年
3月11日
1992年
6月20日
1994年
7月9日
MCM-14 チーフ
USS Chief
1991年
8月19日
1993年
6月12日
1994年
11月5日

参考文献

[編集]
  1. ^ a b c d e f g Bernard Prezelin (1990). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 1990-1991. Naval Institute Press. pp. 813-814. ISBN 978-0870212505 
  2. ^ a b c d e f g Eric Wertheim (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. pp. 861-862. ISBN 978-1591149545 
  3. ^ a b 「各国新型掃海艇のプロフィール (新しい掃海艇)」『世界の艦船』第351号、海人社、1985年6月、76-83頁。 
  4. ^ 井川宏「掃海艦艇の特質と種類 (掃海艦艇のメカニズム)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、69-73頁。 
  5. ^ a b 大平忠「機雷処分具 (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、96-99頁。 
  6. ^ 赤尾利雄「新しい掃海艇を考える (新しい掃海艇)」『世界の艦船』第351号、海人社、1985年6月、69-75頁。 
  7. ^ a b 「船体 (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、76-79頁。 
  8. ^ 黒川武彦「センサー (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、88-91頁。 

外部リンク

[編集]