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== 概要 ==
:<math> \omega =\omega(k) \, </math>
[[フーリエ変換]]により、波動は特定の[[波数]] ''k'' のみをもつ、[[単色光|単色波]] e<sup>i(''kx'' -&omega; ''t'' )</sup> の集まりに分解することができる。このとき、波数 ''k'' と角周波数 &omega; 系の性質に応じて満たす関係

: <math> \omega =\omega(k) \, </math>
を'''分散関係'''、または'''分散式'''という。波数と角周波数の対応関係が複数存在する場合もあり、それぞれの関係を波のモードと呼ぶことがある。
'''分散関係'''、または'''分散式'''という。波数と角周波数の対応関係が複数存在する場合もあり、それぞれの関係を波のモードと呼ぶことがある。


特に、波数と角周波数が比例関係
特に、波数と角周波数が比例関係
: <math>\omega =vk \, </math>

:<math>\omega =vk \, </math>

で表されるときに、'''分散がない'''という。また、波数と角周波数が比例関係にない場合、系は'''分散的'''もしくは'''分散系'''であるという。分散がない波においては、
で表されるときに、'''分散がない'''という。また、波数と角周波数が比例関係にない場合、系は'''分散的'''もしくは'''分散系'''であるという。分散がない波においては、
: <math>e^{i(kx-\omega t)}=e^{ik(x- vt)} \,</math>
となり、各単色波の成分は波数に依らず、一定速度 ''v'' で進むため、波形が崩れず、そのまま伝播する。


分散関係が与えられると、波動の性質を示すいくつかの重要な指標を導くことができる。波の位相部分が一定 ''kx'' - &omega; ''t'' =&phi;<sub>o</sub> で伝わる速度 ''v''<sub>p</sub> は、これを時間で微分して、
:<math>e^{i(kx-\omega t)}=e^{ik(x- vt)} \,</math>
: <math> v_p = \frac{dx}{dt} = \frac{\omega}{k} </math>

で与えられる。これを'''[[位相速度]]'''という。また、一方で様々な波数を持つ波の集まりである波束において、その'''[[群速度]]'''は
となり、各単色波の成分は波数に依らず、一定速度''v'' で進むため、波形が崩れず、そのまま伝播する。
: <math> v_g=\frac{d \omega(k)}{dk} </math>

分散関係が与えられると、波動の性質を示すいくつかの重要な指標を導くことができる。波の位相部分が一定''kx'' - &omega; ''t'' =&phi;<sub>o</sub>で伝わる速度''v''<sub>p</sub>は、これを時間で微分して、

:<math> v_p = \frac{dx}{dt} = \frac{\omega}{k} </math>

で与えられる。これを'''[[位相速度]]'''という。また、一方で様々な波数を持つ波の集まりである波束において、その'''[[群速度]]'''は

:<math> v_g=\frac{d \omega(k)}{dk} </math>

で与えられる。
で与えられる。


分散がない場合には、
分散がない場合には、
: <math>v_p=v, \quad v_g=v \,</math>

であるから、分散がないという条件は位相速度と群速度が一致することと等価である。
:<math>v_p=v, \quad v_g=v \,</math>

であるから、分散がないという条件は位相速度と群速度が一致することと等価である。


通常の[[波動方程式]]
通常の[[波動方程式]]
: <math>\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}</math>

:<math>
\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2 u}{\partial t^2}=\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}
</math>

に従う波動現象においては、 e<sup>i(''kx'' -&omega; ''t'' )</sup>を考えると、
に従う波動現象においては、 e<sup>i(''kx'' -&omega; ''t'' )</sup>を考えると、
: <math>\omega =c k \,</math>

:<math>\omega =c k \,</math>

の関係が満たされており、分散がない波となる。
の関係が満たされており、分散がない波となる。


;光学における分散
=== 光学における分散 ===
自然光などの白色光を[[プリズム]]に通すと、透過した光は虹のように各色ごとに分光される。この現象は光学においては'''[[分散 (光学)|分散]]'''と呼ばれる。これは、白色光が角振動数の異なる電磁場から構成されており、媒質となるプリズム中においてそれぞれの[[屈折率]]''n'' が角振動数&omega;によって異なることに起因する。このとき、媒質中を伝播する電磁波の位相速度は屈折率 ''n'' (&omega;)と真空中の光速度''c'' を用いて、
自然光などの白色光を[[プリズム]]に通すと、透過した光は虹のように各色ごとに分光される。この現象は光学においては'''[[分散 (光学)|分散]]'''と呼ばれる。これは、白色光が角振動数の異なる電磁場から構成されており、媒質となるプリズム中においてそれぞれの[[屈折率]]''n'' が角振動数&omega;によって異なることに起因する。このとき、媒質中を伝播する電磁波の位相速度は屈折率 ''n'' (&omega;)と真空中の光速度''c'' を用いて、
: <math> c(\omega)= \frac{c}{n(\omega)} \,</math>

:<math> c(\omega)= \frac{c}{n(\omega)} \,</math>

と表される。このとき、対応する分散関係は
と表される。このとき、対応する分散関係は
: <math> \omega= c(\omega)k \,</math>

:<math> \omega= c(\omega)k \,</math>
となる。分散関係という語は、光学におけるこの分散現象に由来する。
となる。分散関係という語は、光学におけるこの分散現象に由来する。


==例==
== ==
;水面波
=== 水面波 ===
深さが''h'' である水の層において、[[重力]]と[[表面張力]]を考慮した[[水面波]]の分散関係は以下を満たす。
深さが''h'' である水の層において、[[重力]]と[[表面張力]]を考慮した[[水面波]]の分散関係は以下を満たす。
: <math>\omega=|k| \sqrt{ \biggl ( \frac{g}{k}+ \frac{\sigma k}{\rho} \biggr) \tanh{kh} }</math>
:<math>
\omega=|k| \sqrt{ \biggl ( \frac{g}{k}+ \frac{\sigma k}{\rho} \biggr) \tanh{kh} }
</math>
ここで、''g'' は重力加速度、&sigma;は表面張力、&rho;は水の密度である。
ここで、''g'' は重力加速度、&sigma;は表面張力、&rho;は水の密度である。


;フォノン
=== フォノン ===
固体における[[フォノン]]のモデルとして、2種類の原子から構成される一次元の格子の振動を考える。このとき、この格子系の周期を2''a'' とし、2つの原子の質量を''m''<sub>1</sub>、''m''<sub>2</sub>、結合の定数を''f'' とすると、分散関係は
固体における[[フォノン]]のモデルとして、2種類の原子から構成される一次元の格子の振動を考える。このとき、この格子系の周期を2''a'' とし、2つの原子の質量を''m''<sub>1</sub>、''m''<sub>2</sub>、結合の定数を''f'' とすると、分散関係は
: <math>

:<math>
\omega^2= \frac{f}{m_\mu} \left ( 1 \pm \sqrt{1-\frac{4m_\mu^{\, 2}}{m_1m_2} \sin^2{ka} } \right ),
\omega^2= \frac{f}{m_\mu} \left ( 1 \pm \sqrt{1-\frac{4m_\mu^{\, 2}}{m_1m_2} \sin^2{ka} } \right ),
\quad \frac{1}{m_\mu}=\frac{1}{m_1} + \frac{1}{m_2}
\quad \frac{1}{m_\mu}=\frac{1}{m_1} + \frac{1}{m_2}
</math>
</math>
となる。符号が - の場合が音響モードに対応し、+ の場合が光学モードに相当する。特に|''q'' |→0としたときの長波長極限では、音響モードでは、

: <math> \omega = \sqrt{ \frac{2f}{m_1+m_2}} a|k| </math>
となる。符号が - の場合が音響モードに対応し、+ の場合が光学モードに相当する。
特に|''q'' |→0としたときの長波長極限では、音響モードでは

:<math> \omega = \sqrt{ \frac{2f}{m_1+m_2}} a|k| </math>


光学モードでは
光学モードでは
: <math> \omega = \sqrt{ \frac{2f}{m_\mu}} = \sqrt{ \frac{2(m_1+m_2)f}{m_1m_2} } </math>

:<math> \omega = \sqrt{ \frac{2f}{m_\mu}} = \sqrt{ \frac{2(m_1+m_2)f}{m_1m_2} } </math>

となる。
となる。


;相対論的な電子
=== 相対論的な電子 ===
[[相対性理論|相対論]]な[[場の量子論]]において、電子は[[ディラック方程式]]で記述される。このとき、電子は以下の分散関係を満たす。
[[相対性理論|相対論]]な[[場の量子論]]において、電子は[[ディラック方程式]]で記述される。このとき、電子は以下の分散関係を満たす。
: <math> \omega= \sqrt{(ck)^2+\biggl ( \frac{mc^2}{\hbar} \biggr)^2} </math>
ここで、''m'' は電子の質量、''c'' は光速度である。


== 脚注 ==
:<math> \omega= \sqrt{(ck)^2+\biggl ( \frac{mc^2}{\hbar} \biggr)^2} </math>
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{{Reflist}}
ここで、''m'' は電子の質量、''c'' は光速度である。
<!-- == 参考文献 == {{Cite book}}、{{Cite journal}} -->


==関連項目==
== 関連項目 ==
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*[[波動]] - [[位相速度]], [[群速度]], [[分散 (光学)|分散]]
* [[波動]] - [[位相速度]][[群速度]][[分散 (光学)|分散]]


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[[Category:光学]]
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2012年4月12日 (木) 13:53時点における版

分散関係(ぶんさんかんけい、: dispersion relation[1])は、において、角周波数(角振動数)と波数の間の関係。特に角周波数 ω を波数 k関数で表したのことを言う。

概要

フーリエ変換により、波動は特定の波数 k のみをもつ、単色波 ei(kxt ) の集まりに分解することができる。このとき、波数 k と角周波数 ω が、系の性質に応じて満たす関係

を、分散関係、または分散式という。波数と角周波数の対応関係が複数存在する場合もあり、それぞれの関係を波のモードと呼ぶことがある。

特に、波数と角周波数が比例関係

で表されるときに、分散がないという。また、波数と角周波数が比例関係にない場合、系は分散的もしくは分散系であるという。分散がない波においては、

となり、各単色波の成分は波数に依らず、一定速度 v で進むため、波形が崩れず、そのまま伝播する。

分散関係が与えられると、波動の性質を示すいくつかの重要な指標を導くことができる。波の位相部分が一定 kx - ω to で伝わる速度 vp は、これを時間で微分して、

で与えられる。これを位相速度という。また、一方で様々な波数を持つ波の集まりである波束において、その群速度は、

で与えられる。

分散がない場合には、

であるから、「分散がない」という条件は「位相速度と群速度が一致する」ことと等価である。

通常の波動方程式

に従う波動現象においては、 ei(kxt )を考えると、

の関係が満たされており、分散がない波となる。

光学における分散

自然光などの白色光をプリズムに通すと、透過した光は虹のように各色ごとに分光される。この現象は光学においては分散と呼ばれる。これは、白色光が角振動数の異なる電磁場から構成されており、媒質となるプリズム中においてそれぞれの屈折率n が角振動数ωによって異なることに起因する。このとき、媒質中を伝播する電磁波の位相速度は屈折率 n (ω)と真空中の光速度c を用いて、

と表される。このとき、対応する分散関係は

となる。分散関係という語は、光学におけるこの分散現象に由来する。

水面波

深さがh である水の層において、重力表面張力を考慮した水面波の分散関係は以下を満たす。

ここで、g は重力加速度、σは表面張力、ρは水の密度である。

フォノン

固体におけるフォノンのモデルとして、2種類の原子から構成される一次元の格子の振動を考える。このとき、この格子系の周期を2a とし、2つの原子の質量をm1m2、結合の定数をf とすると、分散関係は

となる。符号が - の場合が音響モードに対応し、+ の場合が光学モードに相当する。特に|q |→0としたときの長波長極限では、音響モードでは、

光学モードでは

となる。

相対論的な電子

相対論場の量子論において、電子はディラック方程式で記述される。このとき、電子は以下の分散関係を満たす。

ここで、m は電子の質量、c は光速度である。

脚注

  1. ^ 文部省日本物理学会編『学術用語集 物理学編』培風館、1990年。ISBN 4-563-02195-4http://sciterm.nii.ac.jp/cgi-bin/reference.cgi 

関連項目