車軸藻類

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車軸藻類
車軸藻類の1種 Chara fragilis
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae もしくは
アーケプラスチダ Archaeplastida
亜界 : 緑色植物亜界 Viridiplantae
: ストレプト植物門 Streptophyta
: 車軸藻綱 Charophyceae
: シャジクモ目 Charales
: シャジクモ科 Characeae

車軸藻類(しゃじくそうるい)は、種子植物のような姿の藻類である。シャジクモ、フラスコモなどが含まれる。より上位の分類に関する話題は車軸藻綱を参照のこと。

特徴

Nitella mucronata の拡大写真
細長い茎や葉に見える部分の節の間が、それぞれ一つの巨大な細胞(節間細胞)で構成されている

車軸藻類は、その姿が種子植物の水草に似た、淡水に生育する藻類の一群である。

藻類としては複雑な形をしており、具体的に言えば、根があって、底質から立ち上がる主軸があり、主軸には多数の節があり、節ごとに輪生状に枝か葉のようなものが並ぶ、というものである。大きいものは高さ数十cmに達し、一見は沈水性の水草であるマツモやスギナモに似た姿、あるいはシダ植物のトクサ類に似た姿である。しかし、その構造は全く異なる。多細胞ではあるが、維管束のような組織的な構造は発達せず、はるかに簡単な作りをしている。

主軸は節から節までは非常に細長い細胞からできている。これを節間細胞(せっかんさいぼう)という。節の部分には節部細胞(せつぶさいぼう)という小さな細胞が円周状に配列する。節から輪生状に生じる枝か葉のような部分も、主軸と同様にいくつかの節に分かれ、節の間は節間細胞で、節の部分には節部細胞があり、ここに生殖器がつく。

節間細胞は、長さが数cmにも達する細胞で、多くの核を含む多核体である。その中央を液胞が占め、周辺部には葉緑体が並ぶ。周辺の原形質には、原形質流動が見られる。ここに見られる原形質流動は、その流れが早いことで有名である。地下部からは仮根が出て、植物体を固定する。

生殖器は雄性生殖器と雌性生殖器の区別があり、往々にして両者が並んで生じる。雄性生殖器は球形で、中に精子を形成するので造精器とも言う。雌性生殖器は壷型で、周囲の壁は5個の細胞が互いに並んだもので形成される。これらの細胞は螺旋状にねじれ、それぞれの先端に生じた突起の並んだ中央に入り口がある。内部には一個の卵胞子がはいっている。

生活環

生殖器官(上が造卵器、下の丸いのが造精器

植物体は単相である。卵細胞は造卵器の中で成熟する。精子は造精器の内部にある造精糸の中に形成され、外に泳ぎ出る。精子は細長く、先端近くから2本の鞭毛を後ろになびかせる。その形はコケ植物のそれに似ている。

精子は造卵器の先端から侵入し、卵細胞を受精させる。受精した卵胞子は発芽する前に減数分裂を行う。

多くのものでは、夏以後に卵胞子が形成され、これが冬を越して、春に発芽する。多年生のものもある。

生育環境

シャジクモは、その一部は水田や浅い用水路にも生育するので、ごく普通に見ることができる。ただし、他の水田雑草と同様に減少の激しい地域もある。見かけ上は種子植物の水草のようにも見えるが、ある程度以上に生育すれば、輪生枝の節ごとに生殖器がつく。これが赤みを帯びて目立つので、区別は簡単である。

比較的きれいな流水中に生育するものもある。しかし、多くの種は湖沼に生育し、透明度の低くないところでは、種子植物の水草が生育する深さより深い部分に、車軸藻類の密生する区域がある場合が多く、これを車軸藻帯という。ただし、近年、各地の湖沼において富栄養化など、人為的撹乱による影響が大きく、それによって損なわれた部分が大きいという。ホシツリモ(Nitellopsis obtusa)など数種については、野生では絶滅したと考えられている。野尻湖では、幸いにホシツリモの培養株があったことから、これを自然に戻す試みが行われている。

車軸藻類の多くが環境省レッドデータブック絶滅危惧種に指定されている[1]。日本に自生していたイケダシャジクモ、チュウゼンジフラスコモなど4種はすでに絶滅しており、栽培株なども現存していない。

系統と分類

シャジクモが繁茂する沼

光合成色素はクロロフィルaとbであるから、ごく広い意味では緑藻に含める。しかし、車藻類はその形態が藻類中でも独特である。生殖器が複数の細胞からなる壁から構成されている点など、藻類には他に例がない。したがって単独で一つの門を構成させる分類体系を取られることが多い。

他方、その姿が陸上植物に似ており、造卵器の構造はむしろコケ植物などに似ている。ただし、この構造がコケ植物のそれと相同であるとは見なされていない。しかし、その他、さまざまな特徴から、この類が最も陸上植物に近いものと考えられている。また、緑藻類のうちでも系統が近いと考えられるホシミドロ目(接合藻類)などいくつかの群も広義の車軸藻類に含める場合もある。

狭義の車軸藻類にはシャジクモ目のみを置く。代表的なのはシャジクモ属 Charaフラスコモ属 Nitella の2属である。シャジクモ属は輪生枝が枝を出さないのに対して、フラスコモ属のものは、輪生枝が2又分枝をするのが特徴である。身近によく見られるのはシャジクモのほうが多いが、日本国内ではフラスコモのほうが種数ははるかに多い。

車軸藻目 Charales

利用など

食用や飼料などの有効利用はされておらず、人との関わり合いが少ない。

巨大な細胞が原形質流動の観察に適しているため、実験材料に使われる。

アクアリウム市場で車軸藻の仲間が「ニテラ」の商品名で稀に流通している。ビーシュリンプや稚魚の隠れ場所として淡水の水槽に使用される。繁殖力が旺盛で他の水草に絡まるため、水槽のレイアウトを保つのが難しい。

脚注

参考文献

  • 上野益三, 『日本淡水生物学』, (1973), 図鑑の北隆館